高気密高断熱住宅、その先の世界を考えます
一条工務店、引いては日本中の家の省エネと住み心地向上をローコストに実現するにはどうしたら良いか考えたいと思います。全館冷暖房は一条工務店の以外の高気密高断熱住宅でも色々な取り組みがなされていますがコストの高い方式が多くて普及していない現状です。
高気密高断熱住宅の現状
大手ハウスメーカーでは高気密を謳いながら気密測定を実施するハウスメーカーはほぼありません。恐らく2×4の場合はC値が2cm2/m2程度、在来工法だと3~4cm2/m2程度の本来は高気密とは言えないハウスメーカーがほとんどです。
気密測定をしてC値が1.0cm2/m2以下の水準が出せる高気密高断熱住宅は窓を開けずに換気がしっかりと出来ると共に、冬場の全館暖房がヒートポンプ暖房機器等と組み合わせればローコストに出来る事が分っています。
しかし、現状の高気密高断熱住宅は、冬以外の季節に関しては窓に網戸を付けて窓の開閉による温度調整をしている家が大半であり、通年に渡って高気密を利用するという段階までは到っていないケースがほとんどで、冬の暖かさに重点が置かれています。
窓の日射制御をせずに窓を全方向大きく開放的に設計する人が多いため、春から家に熱が籠って窓を開けざるを得ないという現状です。暑いときは窓を開ければ良いと考え、窓に軒の出や庇やスダレといった日除けをしていない家が大半です。
日射は窓の外にスダレ等を設置して遮蔽すべきですが、設計時にこれに気が付く人が少ないようで、多くの家では、窓の日射制御を窓の室内側のカーテン等で実施しています。この場合は日射熱が室内に多く侵入してしまいます。
この事により、春から家の中に熱が籠ってオーバーヒートする事が当然になってしまい、高気密高断熱住宅は春から暑くなるため網戸が必須という誤解を受けています。網戸が必要かどうかは高気密高断熱住宅の設計方法次第です。
そして、窓を開けないと春から暑くて生活できない高気密高断熱住宅は住み心地が良くないと共に花粉症をお持ちの方にとっては非常につらい生活になってしまいます。
また、外気の絶対湿度が低い時期は空気が綺麗な地域では窓を開けても良いと思いますが、外気の絶対湿度が低い時期は1年の中で1月半程度しかないため、窓を開けて通風する設計を重視した家はあまり快適にならない事が分かって来ました。
冬以外は窓を開ける事を前提とした家は湿度のコントロールが出来なくなります。ロスガードに除湿機能はないため、本州では梅雨入りから10月初旬まで外気の絶対湿度が高く、窓を閉めてエアコンで常時除湿しないと室内の相対湿度は60%を超えてしまいます。
冬以外はカビの発生防止のために窓を開けて通風したり布団を天日干ししたりする低気密な住宅と変わらない高気密高断熱住宅の生活スタイルが一般的であり、現状では夏は窓を閉めるとエアコンの効きが良い家というぐらいの使われ方が大半でしょう。
要するに現状では冬の暖かさだけを追及して日射制御と湿度コントロールが不十分な冬季以外は低気密住宅と似たような生活スタイルをしている高気密高断熱住宅が多いという段階です。
次のステージは窓の日射制御が考慮されている全館冷暖房の家
既にこのステージの家を普通に提供しているビルダーはあります。小さなビルダーであれば窓の日除けの設定はやろうと思えば直ぐにできる事ですし、全館空調も家庭用壁掛エアコンなどの安価な機器を組み合わせて実現しています。
一方、これが大手ハウスメーカーとなると難しくなります。デザイン的に窓の日除けを取り入れないハウスメーカーが多く、空調設備に到っては重装備な高額なものしかないため採用する施主は少ないでしょう。一条工務店では2016年に比較的廉価なさらぽか空調が発売されています。
高気密高断熱住宅と全館冷暖房はセットだと思いますが、まだまだ普及には到っておりません。主要なアレルゲンであるダニの発生を抑制できる通年の湿度が60%以下に保てる家が望まれます。
大手ハウスメーカーが用意している全館空調システムは初期費用が200万円程度、温暖地のランニング費用が空調だけで年間10万円程度と、かなり高額な出費となってしまうため、導入できる人は少ないでしょう。
ダイキンのデシカホームエアは換気システムにヒートポンプのエアコンを組み合わせた非常に魅力的な商品ですが、ランニングコストは安くても、やはり初期投資が200万程度掛かるため普及する事は困難だと思います。
やはり現状では小型エアコンによる全館空調しか普及できるシステムはないと思います。なぜならエアコン2台という数十万円の初期投資で全館空調が可能だからです。
日射制御に関しては高気密高断熱住宅は窓からの日射が室温に大きく影響するため、南以外の窓は小さくして南側には軒や庇のある家が普及するべきでしょう。
そして、窓の日射制御を考慮した上で窓ガラスに関しては温暖地においても南側は遮熱ガラスではなく断熱ガラスを採用すべきでしょう。そうしないと冬季の日射熱の取得が少なくなってしまいます。
全館空調普及への道筋は?
一条工務店のi-シリーズで契約した場合は標準の床暖房にオプションでさらぽか空調という全館冷暖房システムがリーズナブルな価格で搭載できます。しかし、それ以外の住宅はコスト面から家庭用の壁掛けエアコンによる簡易な全館冷暖房システムが現実的だと思います。
- 一条工務店のさらぽか空調・・・販売棟数が多いためコストダウンが進めば普及すると思います。
- 小型エアコン全館冷暖房・・・家庭用の壁掛エアコンであるため価格が圧倒的に安い。
奇しくも、我がi-cubeには両方の冷暖房システムが搭載されていますから、今後両方のシステムによる温湿度や体感の違いをレポートします。
最近の一条工務店の坪単価上昇は心配です。もしデシカを採算度外視で搭載してC値を保証してくるハウスメーカーがでた場合、一条離れが進む可能性が懸念されます。
先進的な中小のビルダーによる24時間エアコン全館冷暖房ではエアコンの設置場所は床下や床上、小屋裏や二階の階段ホールなど、もはや常識的なエアコン設置方法や運転方法は見られなくなっています。
小型エアコンを使った全館空調は高気密高断熱住宅と組み合わせれば、通常はエアコン2台で済むため一般的な各部屋にエアコンを設置する方法よりトータルコストが下がる事が既に実証されています。
さらにその次のステージは太陽熱利用と地中熱利用の家
さて、窓の日射制御と家中の湿度がコントロールできる段階を過ぎたら、高気密高断熱住宅はどこへ向かうのでしょうか。
太陽光発電は買取価格の下がりつつあり、今後搭載する家が減る事が想定されます。そうなると、さらにその次のステージは特別な補助金が付かない場合は、ヒートポンプと太陽光パネル以外のコストの安いローテクな方法になると思います。
窓を開けて通風することによって夏の冷房エネルギーを削減しようというパッシブデザインが流行っていますが、このような家は夏の室内の快適性が低い事と、湿度コントロールによるダニ退治ができないため、この設計思想で家を建てると将来後悔する事になる私は思います。
一次エネルギーの削減という観点からは、電気は発電所から送電されている間に3分の2が放電により失われます。太陽光パネルも太陽エネルギーの2割以下しか電気に変換できません。もっと簡単に高効率で取り出せるエネルギーが必要です。
一条工務店では小型エアコンにCOPで劣る床暖房からの脱却してロスガードに高効率エアコンを接続するという手段もあると思いますが、床暖房は一条工務店の看板商品ですから、床暖房を活かす方向で検討する必要があると思います。
住み心地に優れる床暖房の燃費向上の方法は熱源である室外機を小型化する以外には太陽熱でお湯を沸かして補助的に利用する方式が考えられます。すでにそれに近いスタイリッシュな商品が長府製作所からも発売されています。
太陽熱温水器は太陽熱の4割~6割を取得できると言われてますが、昔は屋根の上に銀色の大きなタンクがあって個別にお風呂の給湯に使っていましたが、天気が悪い日は給湯が足りなくなるなど使い勝手が良くなかったようです。
しかし、現在の太陽熱温水器はエコキュート等と連携しているため、そのような事はなくなりました。住宅の一次エネルギーを減らすためには、太陽熱給湯器の搭載が有効と考えます。そして一条工務店の売りである床暖房とも親和します。
本州などの温暖地はQ値は1.5W程度で良いと思います。防火トリプルサッシの開発とヒートポンプの活用により充分に省エネが図れますから、もっと壁厚を薄くした狭い土地に建てる事ができる工場生産でコストダウンした2×4の家が望まれます。
積雪が多い地域では冬季の太陽熱取得が難しいため、地中熱ヒートポンプ温水床暖房システムに向かうか、床暖房に加えてCOPの優れる寒冷地用のエアコンを補助暖房として搭載するのでしょうか。
地面に深い穴を掘っての地中熱取得はコスト増ですから、地中熱利用ロスガードと同じように建物下にダクトを通して冷暖房のヒートポンプの室外機に当てるだけの簡単な方法が良いと思います。いずれにしろ温暖地も含め地中熱の利用が進む可能性があります。
打ち抜き井戸を掘って井戸水を太陽熱温水器に利用すれば、地中熱と太陽熱の両方を利用できます。温水ルームヒーターを室内に設置して、井戸水を太陽熱で沸かした温水を利用して、電気代の高い日中に暖房として利用すると良さそうです。
他にも、井戸水をヒートポンプの室外機の熱交換器に掛けて熱回収する方法や家の生活排水から熱回収する方法も考えられますが、立地や設置スペースの問題があるため、どの家でも可能という方式にはならないと思います。
温暖地で有望なのは屋根材として経年劣化による塗り替えやメンテナンスが少ない屋根一体型太陽熱給湯パネルを開発して、限りなく給湯の消費エネルギーがゼロになる、床暖房が遠慮なく使える家が望まれます。
ただし、その次のステージに足を踏み入れるべきかどうかはコスト次第だと思います。北海道のような寒冷地では地中熱利用で暖房の消費電力が半減できる可能性がありますが、本州などでは家庭用のエアコンの活用に留めるべきではないかと思います。
併せて、防蟻システムの向上が必要
ほとんどの家の玄関はシロアリが侵入しやすい作りになっています。高気密高断熱住宅は室内が暖かいため冬季においてもシロアリが活動できてしまうようです。
シロアリ被害に遭った家はその被害の大小に関わらず、家を売却する事が難しくなりますから、ハウスメーカーの標準防蟻以上の防蟻対策をしたいものです。
耐震等級3を取得しても大きなシロアリ被害にあってしまっては、耐震性能を発揮できないため、シロアリ対策もさらに進んだステージで検討する必要があると思います。
現在は土壌性のヤマトシロアリやイエシロアリの対策がシロアリ対策だと思われていますが、今後はそれに加えてアメリカカンザイシロアリやキクイムシ類などの飛来する害虫への対策が必要になってくるでしょう。