F式全館冷暖房を検討される方へ
エアコン1~2台で全館冷暖房を行うなんて話をすると「聞いたことがない」「無理だ」と大抵の人は言うと思いますが、これは家作りの情報のアップデートができていないからでしょう。
F式全館冷房とはエアコン1~2台を使って家全体を除湿する方法です。除湿がメインで涼しさはオマケですが、除湿によりダニやカビの発生が抑えられ洗濯物が部屋干しで乾く家になります。
高気密高断熱住宅の特徴を生かして、間取りを作る段階からエアコンの設置場所を考えた場合は小型のエアコン1台で家中が涼しく除湿されますが、エアコン1台に無理に拘る必要はありません。
また、冬においては日射の当たらない家の北側や断熱の弱い窓や玄関から発生するコールドドラフト対策をすることで高気密高断熱住宅の性能を発揮した体感温度の高い家になります。
F式全館冷暖房は安価な壁掛けエアコンを使って誰もが夏と冬に快適に過ごせる方法であり、私の理念はハウスメーカーと地域工務店の区別なく誰もが快適に過ごして欲しいということです。
その為には住宅会社が発信する差別化戦略に惑わされず高気密高断熱住宅の過去の経緯や計算に基づいた中立的な情報を参考にしましょう。まずは高気密高断熱住宅の歴史を押さえて下さい。
ハウスメーカー推しや地域工務店推しといった情報は偏った内容が多いと感じます。実際に家を何軒か建てないと色々な住宅会社のメリット・デメリットなんて分かるわけもありません。
また、家作りにおいては断熱材は何が良いのかといった無限ループの話がありますが、各断熱材メーカーによる情報操作が住宅会社および消費者をミスリードしていると感じます。
Youtubeなどの住宅情報は地球温暖化や他社批評などの話の99%は根拠が怪しいセールストークだと思って良いでしょう。他社を馬鹿にして差別化戦略という名の誹謗中傷をしているだけです。
住宅営業マン、地域工務店の実務者、エアコン業者と言われる人が空調のプロであることは稀です。顕熱(温度)と潜熱(湿度)の空調負荷を手計算できる実力があるか確認してみて下さい。
高気密高断熱住宅は非常に奥が深く、使いこなせばとても省エネで快適になりますが、高気密高断熱住宅にパッシブ設計を取り入れた程度では快適にはなりません。ポイントは空調と換気です。
断熱性能はHEAT20のG3+気密性能はC値0.3以下であっても冬に寒い家があります。断熱や気密性能が良ければ室温が均一になるといった説明は間違っています。
多くの人は高気密高断熱住宅を使いこなす方法を知りません。何年も住み続けて春夏秋冬毎に最適な空調セッティングを工夫しながら温湿度と消費電力を測定して初めて住み方がわかります。
空調と換気は間取り作りと同じくらい最重要な項目です。安価な壁掛けエアコンを使って夏の除湿と冬のコールドドラフト対策までを間取りの中に組み込むのは至難の業です
G3やC値0.1の高気密高断熱住宅にすれば家の中の温度差やコールドドラフトは発生しないなんて説明をしているレベルの住宅会社については空調や換気の経験値を疑った方が良いと思います。
F式は間取りを作る段階からエアコン配置の考慮が必要であることから、難しいことを考えたくない人は全館空調システムや温水式床暖房などを採用されても良いと思います。
しばしば、高気密高断熱化すれば床暖房は不要といった情報がありますが、換気と壁掛けエアコンの設置方法を極めた住宅会社を探すことができれば床暖房は不要だと思います。
エアコン設置や換気の工夫がないまま断熱気密を極めれば床暖房は不要などと言っているレベルの住宅会社で家を建てるとスペックは良いけれどイマイチ暖かくない家になってしまうでしょう。
上記を踏まえると全てを任せられる住宅会社は皆無に等しいと思います。そして全てが対応可能な住宅会社はありますが建物価格が高くなり依頼できる施主は予算がある人に限られます。
特にコロナ禍の後は建物価格が高騰しており、過去の価格は参考になりません。コストを抑えて凝った家作りをしたい場合はメリハリをさらにつける必要があると思います。
中古住宅の高気密高断熱リノベは対応できる住宅会社が少なくハードルが高いため、ローコストな規格型住宅と性能が担保されやすいツーバイフォー住宅を視野に入れると良いと思います。
予算が少ない施主ほど自分で勉強して自己責任で空調に挑み、自分と相性の良い住宅会社と信頼関係を築いて二人三脚で家作りをしていく必要があります。
また、施主は消費者であり金を払っている客なんだという態度で家作りに臨めば特にローコストで住宅を建築することは難しく、住宅会社との間でトラブルが起きてしまうと思います。
そして、住宅会社の社員の休日や休憩には配慮してブラックな施主にならないことを期待します。ただし、本当に問題がある時はすぐに連絡して打ち手を早く考えた方がリカバリーが楽です。
先輩施主の情報を参考にしましょう
私のブログおよびInstagramに過去事例が載ってますので、それらを参考にご自分で検討して下さい。質問は受け付けておりません。
F式全館冷房は自己責任です。しっかり勉強すると共にサブエアコンと各部屋にエアコンの予備穴を設置しましょう。よろしければ、私のブログと共に電子書籍をお読みください。
人がいない場所に設置するエアコンはコスパ最強の除湿機です。各部屋にエアコンがあっても構いません。各部屋エアコンとF式は共存が可能です。
各部屋にエアコン設置もしくは予備穴を設ける場合、高断熱住宅では6畳用のエアコンでも部屋が冷え過ぎるためなるべくエアコンはドアの正面に設置して冷気を室外に出せる様にして下さい。
F式が他の壁掛けエアコンを使った全館冷房と異なる点は「吹き抜けとダクトやファンを利用しなくても実現できる」ことです。これは家の中の温度差で空気を動かしているからです。
ただし、F式は私の二軒目の家の小屋裏エアコンを元に考案されていますから、エアコンの設置位置は二階の階段ホールだけでなく小屋裏でも平屋の場合はリビング等でも構いません。
F式は人がいない開放的な空間にエアコンを設置します。省エネにしっかり除湿をするには設定温度を下げて風量を絞る運転になりエアコン回りは冷えることから結露計算が必要です。
エアコン室内機をしっかり冷やさない運転では除湿量が少なくなります。その場合、部屋は暑くなりますが室温を高くして空気を膨張させて相対湿度を下げるという考え方があります。
冬については都市部に多くみられる準防火地域ではAPW330の様な安価な樹脂窓はそのまま使えないことから、G1の住宅はG2を目指して窓を小さくか空調でカバーするかよく検討してください。
F式全館冷房のポイント
・メインエアコンは除湿がメインで涼しさはオマケ。間取りによってはエアコン1台で収まる。
・無理にエアコン1台に拘る必要はない。サブエアコンや除湿機を併用しても良い。
・エアコンの冷気が人に当たらない場所にエアコンを設置する(階段ホール等)。
・各部屋のエアコンはドアの正面に設置して冷気を部屋から出せるようにする。
・平屋の場合は各部屋への通路に当たる場所にエアコンを向ける。
・F式は温度差で空気を動かすため天井シーリングファンの風が邪魔になる場合がある。
・隠蔽配管を避けたい人は間取り作りの最初から外壁側にエアコン設置場所を設ける。
・エアコン吹き出し口から火災報知器が1.5m離せない場合は建設地の消防署に相談する。
・左右が壁の1マス(910mm)の場所にはエアコンは狭くて入らない。
・カーテンレールを設置する際はエアコンと干渉しないか確認する。
・サーモオフを避けるためにエアコンの前は最低2マス(180cm程度)を開ける。
・メインエアコンとリビングが遠い場合、猛暑日はリビングのサブエアコンを併用する。
・BOX階段の場合は階段登り口の1マス目から上昇する暖気をエアコンの冷気とぶつけない。
・エアコンの正面は室温が低く相対湿度が高いため洗濯物は乾きにくい。物干し場には向かない。
・窓の日射遮蔽に注意する。南側の窓は最大に屋根の軒を伸ばす。南以外の窓は最小化する。
・景色が良い窓は南側以外でも大きくして構わない。ただしシェード等で日除けをする。
・夏のメインエアコンは念のため再熱除湿機能付きエアコンを採用する。
・エアコンの設定は冷房23℃、風量最弱、風向き下を基本とするが、各家に応じて調整する。
・夏型結露に注意して、断熱構成を検討するに当たり結露計算を行う。
・全館冷房に向いていない間取りや断熱構成の場合はカライエや除湿機の併用を検討する。
F式全館暖房のポイント
・土地に対して冬季に窓から日射熱が入りながらプライバシーを考慮した建物配置を行う。
・UA値が良くても家の外壁が凸凹していたり平屋の場合は外皮面積が増えて熱損失が増える。
・エアコンの設定は暖房20~22℃、風量は多めで熱交換器を熱くしない運転が省エネ。
・家の中心にエアコンを設置できない場合は6畳用のエアコンを分散配置する。
・床上エアコンを検討する場合、上部に棚などを設置すればスペースが無駄にならない。
・二階から降りてくる冷気や日当たりの悪い方向から発生するコールドドラフト対策が必要。
・キッチン換気扇の差圧式給気口は換気扇の近くに設置しないとキッチンが寒くなる。
・一条施主では玄関付近に床暖房のヘッダーボックスを設置すると冷気が殺せる。
・大きな窓と玄関は断熱の弱点になるためエアコンの暖気を当てて対策をする。
・一階リビングだけ暖房したい場合、一階リビングとの境にエアコンでエアカーテンを作る。
・気密の悪い引違窓と掃出窓はなるべく最小限の採用に留める。
・冬季に日射が入る南側の窓であれば、窓の面積を最大化して日射熱を取り入れる。
・日当たりが悪い場合は窓を小さ目にして熱損失を減らす。
・窓は小さくても高く設置すれば採光としては明るくなる。
・隣家に日射が遮られないか日射シミュレーションを行う。
換気と室内循環ファン
一条工務店のように高断熱+一種全熱交換換気扇+床暖房のようなパワープレイで快適にすることは間違いない方法ですが、安価な汎用品を組み合わせて快適にする方法はあります。
換気用のファンが部屋の中にあると音がします。風量が大きいほど音が大きくなります。音を気にされる場合はファンを居室の人が常駐するベッドや机の近くから離して設置してください。
三種換気の給気口は冬に冷気が入って来ます。従来の各部屋給気口+浴室排気ではなく、エアコンの付近で集中給気+各部屋天井(高い位置)排気が温度差換気として理にかなっています。
F式全館冷房とは第4種換気であるパッシブ換気と同じように温度差で室内の空気を動かす方法であるため、換気についても温度差を利用するとさらに室内の空気が動いて効果的になります。
湿度交換の無い三種換気と一種顕熱交換では夏の除湿の難易度が高くなりますが、給気口をエアコンの付近に設けて各部屋の天井から排気すると各部屋の湿度は下がりやすくなります。
全熱交換換気扇を採用する場合、各部屋設置でダクトレスのヴェントサン・せせらぎ・ロスナイ等では音が気になるという方がいますので、音が気になる方はダクト式の方が良いと思います。
F式全館冷房とダクト式換気システムにおいては集中給気+各部屋排気を実現するために、三種ではルフロ400(各部屋排気にする)、一種全熱交換では澄家を採用される方が多い印象です。
高額な換気システムを使わなくても、安い汎用品のパイプファンやシロッコファンに必要最低限のダクトを使って似たような仕組みは作れますが、省令準耐火へ対応する場合は注意して下さい。
さて、簡易なF式全館冷房ではエアコンを居室以外に設置して居室のドアを少し開けて各部屋に冷気を取り込みますが、ドアを閉めたい場合は2つ方法があります。
1つはあらかじめ各居室にエアコンの予備穴を設けておいてエアコンを設置する方法でありF式は各部屋エアコンと併用が可能です。2つ目の方法は室内循環ファン(CF)を設置する方法です。
私の施工事例を真似て三菱のエアパスファンの設置を希望する方がいますが、エアパスファンに拘らないでください。設置スペースがある場合はより風圧の強いシロッコファンがお薦めです。
各部屋のドアを閉めたい場合、エアパスファンはドア上に設置すると有効ですが、隙間が多い引き戸の場合は引き戸からなるべく離れた場所の壁などにエアパスファン設置してください。
エアパスファンの風向きは室内から排気することで代わりにドアのアンダーカットや引き戸の隙間から廊下の床を流れる冷気を部屋に引き込めます。
天井断熱の一条施主以外の場合、エアパスファンに拘らずシロッコファンを天井に設置した方がさらにたくさんの空気を部屋に引き込めると思います。
室内循環ファン(CF)はエアパス等のプロペラファンは風圧が弱いため高い位置に設置して温度差換気の要素を加えると良いでしょう。設置スペースがあればシロッコファンの設置がお薦めです。
また、室内循環ファンに限らず、トイレなどにおいても隙間の多い引き戸を採用した場合、排気ファンは引き戸からなるべく離れた場所に設置しないとショートサーキットを起こします。
風量の大きいキッチンのレンジフードについてはレンジフードから離れた場所に給気口を設置するとレンジフードと給気口の間のキッチンで調理をする人が冬場は寒い思いをします。
また、高額な給排同時のレンジフードを採用する場合、実際は排気量に対して給気量が全然足りないと思いますので、差圧式給気口か給気ファンを追加で設置すると良いと思います。
このように世間の常識的な設置方法のままでは換気と室内循環ファンの効果が半減してしまうため、設置方法が理にかなっていない場合、換気がしっかりされない状態になってしまいます。
エアコン容量
以下に6地域の東京における床面積120.08m2(36.3坪)で天井高さ2.4mの省エネ基準計算用の標準モデルの間取りを使ったエアコンサイズを例示します。
住宅性能 | 換気熱交換率(顕熱/潜熱) | |||||
基準 | UA値 | ηA値 | C値 | 三種換気 | 70%/40% | 85%/80% |
断熱等級4 | 0.87W | 2.8 | 3.0 | 9.4kW | 7.9kW | 6.7kW |
1.0 | 7.7kW | 6.7kW | 5.8kW | |||
0.5 | 7.3kW | 6.3kW | 5.5kW | |||
ZEH≒G1 | 0.56W | 1.8 | 3.0 | 7.9kW | 6.4kW | 5.2kW |
1.0 | 6.2kW | 5.2kW | 4.3kW | |||
0.5 | 5.8kW | 4.8kW | 4.0kW | |||
G2 | 0.46W | 1.5 | 3.0 | 7.4kW | 6.0kW | 4.8kW |
1.0 | 5.8kW | 4.7kW | 3.8kW | |||
0.5 | 5.4kW | 4.4kW | 3.6kW | |||
G3 | 0.26W | 1.0 | 3.0 | 6.6kW | 5.1kW | 3.9kW |
1.0 | 4.9kW | 3.9kW | 3.0kW | |||
0.5 | 4.5kW | 3.5kW | 2.7kW |
上記の赤字の部分が家全体で必要なエアコンの定格能力となり、上記は最大負荷であり安全率を見込んで計算しているためこれ以上サイズの大きいエアコンを設置する必要はありません。
例示は120m2の床面積で計算していますから、一条工務店のi-smartⅡやグランスマートの場合、100m2(30坪)の床面積であれば6畳用のエアコン1台で全館冷房は可能です。
ただし、人が集まり室温が上がるリビングとメインエアコンが離れていて猛暑日にリビングの室温が27℃を超える場合は、リビングのサブエアコンを軽く運転する必要があります。
エアコン販売業者や住宅会社に小さなエアコンで全館冷房したいと言うと無理だと反対される可能性があるため、階段ホールのエアコンは除湿機と説明すると良いでしょう。
注文住宅であれば自己責任で構わないから好きにさせて下さいと言って押し切っても良いと思います。ただし、各部屋にエアコン予備穴を設ける等、保険をしっかりかけてください。
エアコンの畳数表示は無断熱住宅を基準に60年以上前に制定された基準に基づいていますが、儲かる大型で高機能なエアコンを売りたいメーカーや販売会社はこのことに触れようとしません。
6畳用のエアコンは2.2~2.5kWの能力であり、14畳用は4.0kW程度の能力となります。各家の地域と性能に応じた個別の計算は以下の計算ツールにて可能です。