超気密ブーム?

その他

超気密は万能ではない

最近は地場工務店を中心に超気密ブームというか、C値が0.2cm2/m2前後の家が施工されていて、一条工務店においてもC値が0.2cm2/m2まで低く出ている家がありました。

恐らく一部の地場工務店は一条工務店にUA値で対抗することは難しいため、C値で勝負しようと考えているのだと思いますし、気密性能の向上自体は良いことだと思います。

ただ、UA値と違って気密性能のC値が極端に良くなっても、驚くほど家が暖かくなったり、計画換気がしっかりできるとしても家の中の温度差が勝手に解消するなんてことはないでしょう。

考えてみれば単純なことで、計画換気の弱い風量では暖かい空気は下降せず重たい冷気は上昇しません。これはどんなに気密性能が良い住宅においても同じです。

空気は怠け者で継続して大量の空気を動かさないと家の中の熱は移動しないことから、大風量のファンを使った強制対流か、大きな開口部を利用して温度差で空気を動かす自然対流が必要です。

空気は怠け者
エアコン1台全館冷房は慣れれば簡単 上記の画像は真夏に6畳用のエアコン1台で全館冷房がしっかり行われている一条ハウスの一階リビングの状況です。外気は34℃ですが、室内は26℃台で湿度が50%前後と快適な状態です。 カビやダニ...

超気密という話はスペック重視のお客さん受けが良いと思います。気密性能がどこまでも良くなることは悪いことではありませんし、コストが急増する話でもありません。

しかし、現在の超気密ブームはひと昔前の外張り断熱ブーム同様に特定の工法が全ての問題を解決するかのような間違った知識が蔓延してしまうのではないかと危惧しています。

C値はどこまで下げるべきか

しばしば、家の模型などを使ってC値の違いによる換気効率が実験されていますが、それはあくまで機械換気だけの実験であって、実際の家では対流による温度差換気が起きています。

また、機械換気の風量は小さく、特に三種換気においては静圧の弱いパイプファンを前提としている場合と静圧の強いシロッコファンを利用したケースでは話が違うでしょう。

つまり、模型を使った換気実験は実際の家とは全く異なる環境で実験されているケースが多く、一見すると正しい実験の様に見えて実は参考にならないケースがあります。

C値については色々な実験や学説があって、これは家の隙間からの漏気を含めて換気量としてとらえるべきかということと、一種換気か三種換気かによっても考え方が変わっています。

計画換気は夏季については一時間に0.5回となっていて、通常の換気による熱損失の計算はこれを用いますが、漏気を含めて0.5回と考えるべきなのかどうかという観点もあります。

三種換気については強風によって給気口から吹き込む過給気を懸念する意見がありますが、強風地域の三種換気では外壁まで貫通させずに通気層から給気をする方法があります。

一種換気では有名な話として千葉工大の小峰教授によるC値が0.7cm2/m2以下であれば一種換気は強風に影響されないという研究があります。

一種換気は0.3~0.7cm2/m2程度が妥当という意見が多いです。何が正しいのか分からない状態ではありますが家全体の熱損失に気密性能がどれだけ影響するのかは知りたいところです。

私の作成したUA値計算シートは新住協と同様でC値×0.1=漏気回数を採用していおり、住宅省エネ計算シートでは、一種換気はC値×0.3回、三種換気はC値×0.2回を漏気回数としています。

気密性能がどれだけ熱損失に影響を与えるかを計算されたい方は以下からツールをダウンロードしてご利用ください。

計算ツール
F式(私ことフエッピー式)の各計算ツールは無償でドドーンとご提供します。その代わりサポートはございませんので自己責任でご利用ください。また、告知なく修正しますので、ご利用の際は最新版をダウンロードしてご利用ください。 ダウンロードを行...

住宅省エネ計算シートは二軒目の家を計画しているときに作成したものなので、なぜそうしたのか理由を忘れてしましましたが、北海道住宅新聞の記事が元ネタだったような気がします。。

ただ、漏気回数がC値×0.1回~0.3回という説が正しいとすれば、C値が限りなくゼロに近いような超気密の家を作っても家全体の熱損失は大きく減らないことになります。

よって、私はC値は強風になっても隙間風が侵入しなくなると言われる0.7cm2/m2で十分であり、経年劣化を考えると0.5cm2/m2を目指して家作りを考えれば良いと思っています。

大切なのは気流止め

C値が2.0cm2/m2程度であっても、壁の上下の隙間がしっかり塞がっていればそこそこ暖かい家になると私は考えていて、新住協が言うように気流止め>C値だと思います。

ツーバイフォーでは床勝ちであるため自動的に床と天井の合板によるファイヤーストップと気流止めになされますが、軸組工法は柱勝ちなので意図的に気流止めを設置する必要があります。

グラスウールなどの繊維系断熱材の場合、気流止めをせずにシート気密やボード気密工法を実施すると、C値は良くても断熱材の中で空気が移流して性能を発揮しない現象が起きます。

最近はローコスト系の気密測定をしていない家でも冬に暖かい家が生まれています。このタイプの家は基礎断熱+現場発泡ウレタンを採用していて結果的に気流止めがされているからでしょう。

外壁の中に断熱材を沢山つめた高断熱住宅において冬に寒い家は、床と壁との気流が止まっていなくて外壁若しくは内壁の中に冷たい空気が通り抜けているのだと思います。

そして、C値が良い家と気流が止めっているということはイコールではありません。室内の防湿シートで気密性能を確保している場合は、床の気流止めが効いてなくてもC値が良く計測されます。

2×4の家は床を張ってから壁が建つため床下からの気流が止まりますが、在来工法の家はシロアリに注意しながらですが基礎断熱にしてしまった方が暖かい家になると思います。

壁の気流止めは壁の内外で必要であり、気流止めが不十分であっても、C値が低く計測されることは可能ですから、気流止めが間違いなく行える工法を選択されると良いでしょう。

予算が苦しくてローコスト系の注文住宅を選ばれる際には、在来工法においては基礎断熱+現場発泡ウレタンの家を選択されると暖かい家になる可能性は高まると思います。

ただ、結露計算において屋根断熱や壁に繊維系断熱材を利用する場合、しっかりと冬型・夏型の結露計算をして断熱構成を考える必要があります。

ちなみに一条工務店の工法では気流止めがしっかりなされていることと、断熱材には水蒸気を通しにくいEPSやウレタンを利用していますので冬型・夏型の結露計算の心配は不要です。

グラスウールが黒いのはカビではない

上記は建て替える前の私の実家の解体現場の画像です。30年以上前に増築した部分の壁の袋入りグラスウールは紙の袋の反対側が遮熱シートになっていたことには驚きました。

壁の中は良く乾燥していてカビもなく木材はしっかりしていましたが、グラスウールはずり落ちていてこれでは冬は寒いわけだと思いました。また、袋の中のグラスウールは真っ黒でした。

C値が良い住宅においても、防湿シートの中のグラスウールが黒くなっている映像を見たことがありますが、これはカビではなくて壁内を空気が上昇して大気中の排気ガス等が付着したものです。

かなり前から真実は発信されていて、未だにグラスウールが黒いと壁内結露によるカビだと誤解されていますが、温暖地においては壁に合板のない古い家はそもそも壁内結露はしないと思います。

やはり、この黒ずんだグラスウールは床下から壁の中に外気が通り抜けている証拠で、気流止めがない状態でグラスウールを壁の中にいくら設置しても、冬に寒い家になってしまうわけです。

夏は室温を均一化させてはいけない?

部屋間の温度は2℃以上の差があると明らかに動き出します。しかし、空気の移動は冬季と夏季ではその快適さが異なりますから、室温の高い夏は空気が移動しても不快ではありません。

気密の良い家は空気が自然に対流して家の中の温度差がなくなるなんてことを信じている人がいると思いますが冷たい空気は重たいため上昇しません。

また、真夏においては窓を開けても市街地では熱くて高湿度な熱風しか入ってこないため、窓を開けた換気は実施しない方が良いでしょう。

家には窓があり東西南北ごとに日当たりが違いうため、いくら建物の断熱性能を向上させても、家の中には温度差は発生しますし、家には人が住んでいます。

人の集まるリビングを基準に考えると分かりやすいですが、人や家電が集まる場所は室温が上昇します。一人が居れば室温が1℃上昇するとすれば4人いる部屋では4℃上昇します。

ということは、リビングは他の部屋よりも4℃下がるように空調を設計しないと、結果的に室温は均一化しないことになります。

リビングの室温を下げるには大量に涼しい空気と入れ替えるか、エアコンからの冷たい温度差のある空気を直接自然対流でリビングに落下させる必要があります。

つまり、空調の設計は人が常時居る場所とそうでない場所で強弱をつけないと室温は均一化しないということになり、ここがエアコン全館冷房の難しいところです。

私がエアコン1台での全館冷房をご紹介している時に2階のエアコンがリビングから離れすぎないようにと言っているのはこのことなのです。

気密性能と空調設計は別物

上記は一条工務店のさらぽか空調を利用している際のSA(給気口)の状況です。

湿度について、さらぽか空調を体感して驚いたことは、除湿は細い65φのダクトで計画管理の風量でも実現できるということでした。部屋の相対湿度が40%台に簡単に落とせます。

室内の給気口から給気される空気を測ったところ、温度は23.1℃、容積絶対湿度で10.7グラム程度で、全館除湿にはデシカのような150φのダクトや大風量は必要がない事が分かりました。

一方、温度の移動には大風量か大きな面積が必要です。夏に気密性能の良い住宅で一階のエアコンを稼働させると二階まで涼しくなるかと言うと、冷気は上昇しないため、二階は暑くなります。

一条工務店のさらぽか空調が賢いなと感じたのは室温低下は床冷房という空気に乗せない形で行っている部分であり、除湿と冷房を分離したという考えは床暖房装置があるからこその発想です。

空気に乗せて室温調整をする場合、暖かい空気は軽いため上昇し、冷たい空気は重いため下降するという誰でも知っている法則は熱の移動に大風量か大開口が必要だという事を教えてくれません。

C値が良ければ計画換気がしっかりできることは事実だと思いますが、換気は熱の移動を意識しない空気の入替であり、空調は熱の移動を意識する大きな空気の移動になります。

高気密住宅の換気は空調と同義だと勘違いして家作りを考えてしまう方がいると思いますが、換気がよりしっかりできる超気密住宅は益々空調と換気の混同が広がっていくと思います。

最後に

本日は超気密は良いことではあるけれども、自動的に家の中の温湿度が平均化するような空調のような働きをするものではなく、誤解をしている住宅会社は多いと思います。

同じような事例として外張り断熱ブームや遮熱機能のあるタイベックシルバーが断熱効果があるとご誤解されている事例があります。遮熱シートは断熱材の外に設置した場合は効果はありません。

これから気密性能が重視されてくると思いますが、気密性能さえ良ければすべてが解決するような話は危険だと思っていて、冷暖房機器の性能や窓の日射制御など考えるべきことは沢山あります。

また、気密性能に拘る以上に気流止めに拘るべきであり、気密測定をしていない住宅においても気流止めがされている場合は暖かくなることが判明してきています。

気密性能が高いと換気性能が向上して室内の温湿度が均一化するといった説明が高気密が得意な工務店の間で広まっている気がしますが、換気と温度の移動では必要な風量が全く違います。

気流止めは重要ですが、逆に高気密住宅や気密測定が不要だと考えるのは間違えで、C値は低いほどに良いです。また、C値が良い工務店は建物の管理が出来ていて施工精度が良いと思います。

ただし、C値が良い住宅依頼先が空調に詳しい住宅依頼先ということではなくて、空調は別の専門性だと認識して家作りに当たった方が良いでしょう。

冬においてはHEAT20のG3のような超高断熱住宅でC値0.2以下の家をを建てたのに換気と空調計画に失敗して、足元にコールドドラフトが動いている寒い家になるケースが散見されます。

そして、冷暖房は別物であり、冬に暖かい家だからといって夏に涼しい家だとは限らないいということを良く認識して全館冷房にチャレンジしてみてください(慣れると難しくはありません)。

 

本日は以上でございます。

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