エアコン1台全館冷房は慣れれば簡単
上記の画像は真夏に6畳用のエアコン1台で全館冷房がしっかり行われている一条ハウスの一階リビングの状況です。外気は34℃ですが、室内は26℃台で湿度が50%前後と快適な状態です。
カビやダニの発生を抑えるためには相対湿度を基本的には60%以下に長時間保つ必要がありますから、室温よりも湿度のコントロールが全館冷房の重要ポイントだと言えます。
私は試行錯誤の末、既に三軒の高気密高断熱住宅でエアコン1台による全館冷房を実施しているため、現在ではエアコン1台で全館冷房が可能な間取りは簡単に作ることができます。
間取りや断熱方法によってやり方が異なりますが理論は一緒です。ただ、この普遍的な理論が見えるようになる迄には失敗の連続でしたし、特に空気の動き方が最初は全く分かりませんした。
空気は怠け者
(出典:日本経済新聞 前先生コラムより)
高気密高断熱住宅の空調の説明では上記の画像のようなイメージを頻繁に見ますが、実際はこのように空気は移動しないと東大の前先生は述べています。
前先生の著書の「エコハウスのウソ」には、空気は怠け者という記述がされていて言い得て妙だなと思います。
家の中で思ったように空気が動いてくれなくて、一階は涼しいが二階が暑いなんて経験は誰でもあると思います。
前先生の著書の分析内容は正しいと感じるものの、前先生は学者であり実務家ではないため、どう解決すべきかは書いていないということと、個々の記述内容は最初は矛盾してるように感じます。
そこで、本日は空気の動かし方について私の経験をもとに矛盾のない形で説明します。
暖かい空気は軽いため上昇しますが、冷たい空気は重たいため下降します。この誰でも知っている温度差による空気の自然対流の法則はプロでも本当に理解している人は少ないのかも知れません。
私は二軒目のローコスト系の高気密高断熱住宅においてエアコンによる全館冷暖房に挑戦したのですが、ローコスト系の工務店は高気密が得意な場合でも空調の実績は乏しいと思います。
空調までシステム化している工務店は坪単価が高額な部類に入りますから、ローコスト系の高気密高断熱住宅の空調は施主の手弁当というか自己責任になる場合が多いでしょう。
私も最初は全館冷房がうまく行きませんでしたが、予備のコンセントを各所に用意していたため、電気工事士の資格を取って小屋裏や床下に自分で空気循環用のファンを設置するなどしました。
ダクトや換気部材を沢山買い込み家中に穴をあけてシロッコファンやパイプファンなど色々設置しましたが、最終的には階段ホール経由での自然対流が最も効果的というオチでした。
つまり、空気の動きは非常にシンプルなのに縦方向と横方向で空気の動かし方が違うことを理解しないまま、結果的にはムダなことばかりしていたのです。
空気の動かし方
「エコハウスのウソ」の中では、空気は怠け物なので、温度差による自然対流よりもファンによる強制対流が効果的と記述がありますが、これは吹抜けや階段ホールの場所次第だと思います。
また、空気には粘り気があると表現していて、開放空間では静圧の弱いパイプファンなどではファンが空回りして空気が動かないことを述べています。
空気が運べる熱量は水の千分の一であり、二階から一階などの縦に遠く空気を使って熱を運ぶためには、強い静圧で大きな風量のファンとダクトなどの密閉空間が必要だと思います。
また、空気は温度差がない方が熱が伝わるということも仰っていますが、温度差があり過ぎる空気は移動してしまうことから空調された空気は室温と差があり過ぎても扱い難いということでしょう。
上記の内容に加えて、暖かい空気は上昇し冷たい空気は下降するという自然対流の原則を総合して理解し、実践することは非常に難しいですが、私はこのように経験から理解しています。
強制対流(ファン) | 自然対流(温度差) | |
密閉空間+大風量 | ○ | × |
大きな開口部(階段ホール等) | × | ○ |
縦方向(二階と一階) | △ | ○ |
横方向(同じフロア) | ○ | △ |
上記は壁掛けエアコンを利用した全館冷暖房についての考察であり、計画換気装置に冷暖房が組み込まれている場合は関係ありません。
ファンを使った強制対流については静圧のかかる密閉状態においてのみ空気は押し出されて動きますが、開放空間でファンを使えば周りの空気を攪拌して温度差を失い自然対流しなくなります。
ファンによる強制対流はダクトや床下エアコンを実施する場合の剛床のような空気の漏れない気密状態において大風量でなければ遠くまで空気で熱は運べないでしょう。
ダクトを利用する場合においてはシロッコファンのような静圧が強いファンでなければならず、パイプファンをダクトにつなぐと自然対流との併用でなければ空気を押し出せずに空回りします。
サーキュレーターの利用における空気の移動は空間同士の空気の温度差が少なくなることから縦方向の自然対流は出来なくなりますが、同じフロアの横方向の室温調整には向いています。
私は天井に設置するシーリングファンの効果には疑問を持っていて、縦方向の自然対流のアシスト的な意味が強く、単体で縦方向に熱を運べるものだとは思っていません。
そして、私はファンによる強制対流よりも温度差による自然対流の方が空気は大量に動くと感じていて、冬季のコールドドラフトはまさに典型的に強烈な自然対流です。
自然対流を行うには、エアコンから下の階につながる階段ホールのような大きな開口部がないと、冷気が下に落ちようとしても入れ代わりとなる暖気が入ってこれません。
エアコンの設置場所に対して暖気を入れて冷気を出すのか、冷気を出して暖気を入れるのかは考え方によりますが、エアコンのサーモオフを考えると暖気を入れる方が先でしょう。
空気は温度差があると自然対流が起きますが、逆に言えば温度差を保たなければ空気は動かないため、縦に動かしたい場合は空気を攪拌しない方が良いと考えています。
例えば二階のエアコンから一階のリビングまで距離がある場合は、攪拌すれば温度差を失い自然対流ができなくなりますから、かき混ぜずに静かに床や壁に冷気を流す方法が良いと思います。
つまり、密閉されていない空間で空気を縦に動かしたい場合は、ファンで攪拌せずに大きな開口部を設けて冷気を静かにコールドドラフトとして自然落下させると空気が沢山動きます。
温度差での自然対流を確認するには、冷気が通過する部分の床や壁に温湿度計を置いたり放射温度計で測定するなど、通過する冷気が温度差を失ってないか確かめると良いでしょう。
ファンを使って開放された空間の空気を動かす場合は横方向に動かす場合は良いですが、縦方向の場合はそもそも自然対流が起きている場所のアシストとしてのみファンは有効だと思います。
簡単にいうとコストをあまり掛けずに空気を動かすには、縦方向は温度差をつけた自然対流、横方向はファンで動かす強制対流が理に適っていると思います。
ただ、現実では二階のエアコンから階段が遠い場合など、空気を横に動かしてから縦に落とすといったバリエーションが発生します。
二階が暑くなる理由
一条施主においても二階が暑いと感想を述べられる方が多いと感じます。
この理由として高気密高断熱住宅は「冬暖かく夏涼しい」と思い込んでしまい、エアコンを一階にしか設置しなかったという方が多いからではないでしょうか。
二階建ての家においては階段を登ると一階と二階の間にクッキリと空気の温度差を感じるという体感をされたことがあると思いますが一条ハウスにおいても設計次第で同様な現象が起きます。
高性能な家の夏はエアコン1台で涼しくなるというのは本当ですが、エアコンの位置が一階の場合は冷気は上昇しないことから二階までは涼しくなりません。
一階のエアコンで二階まで冷えないということはエアコンの性能不足ということではなく、我が家のように二階にエアコンを設置すれば冷気が一階に落ちて一階まで涼しくすることが可能です。
そして、開放感を求めて大きな窓を沢山設置した場合に窓の日射制御が不足していると、窓から侵入する日射熱で高気密高断熱住宅は春から二階が熱帯夜になってしまうのです。
夏に二階のエアコンを24時間運転していない場合は、日中に窓から侵入した熱が二階に上昇して、天井付近の石膏ボードに熱が蓄熱されてしまうと簡単には天井付近の温度は下がりません。
天井付近に蓄熱されている高気密高断熱住宅ではエアコンを運転するとすぐに涼しくなるけど、エアコンを切るとすぐに暑くなるため高気密高断熱住宅ではエアコンは切らない方が良いでしょう。
さらぽか空調を採用している施主においても同様で、窓から侵入する熱が多い家と少ない家では差があり、窓から侵入する熱が多い家は二階が暑くなります。
涼しい一階からサーキュレーターで二階に向かって空気を送っても、二階が涼しくならない理由は、中途半端な冷気を一階から送っても、蓄熱している二階は涼しくならないからです。
夏用のエアコンは家の高い位置に設置する
温度差による自然対流によって暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降するのであれば、おのずとエアコンの位置は家の中で高い場所になり、エアコンの設定温度は低くなります。
二階のエアコンの設定温度が室温に近い27℃等では空気に温度差が生まれないため一階に冷気は下降しません。この場合は一階は一階のエアコンを稼働させないと涼しくならないでしょう。
エアコンの設置場所としては一条工務店のような天井断熱の家では二階の階段ホールや吹き抜けが適切ですし、屋根断熱の場合は小屋裏が良いでしょう。
そして、エアコンで発生した冷気をファンにより強制対流か温度差による自然対流によって家中に送り届ける必要がありますが、横方向は強制対流、縦方向は自然対流が簡単でしょう。
一番簡単なエアコン全館冷房の方法は、二階の階段ホールのすぐ下にリビングがある間取りであり、その理由として冷気の横方向の動きをあまり意識しなくてよいからです。
温度センサーという落とし穴
私はエアコンを設置する場所は解放された家の中の高い位置と申し上げています。
エアコンには温度センサーが付いていて設定温度よりもエアコン周囲の空気の温度が高くないとエアコンがサーモオフを起こすため家が涼しくなりません。
これは空気の循環以前の問題であり、家の高い位置にエアコンを設置するだけではエアコンの周りが冷えるだけでエアコンがサーモオフするためエアコン1台での全館冷房はうまくいかないです。
エアコン吹き出し口にデータロガーを設置して観察すると絶対湿度が12グラム以上の状態が長時間続くようであればエアコンがサーモオフをしているか、エアコンの除湿能力不足です。
個人的な感想ですが、最近のダイキンエアコンは省エネ性が増した反面、除湿能力が減ったと思います。やはり再熱除湿機能のある日立などのエアコンが全館冷房向きで除湿量が多いと思います。
私は二軒目の家で若干閉鎖的な空間にエアコンを設置してしまい最初はエアコン周辺の空間だけが冷えるが居室は暑いままという状態に悩みましたが、この改善策は2つあります。
1つはエアコンの風量を最小に絞って風向きを下にして冷気を静かに床表面に垂れ流して暖気と入れ替える方法であり、もう1つはエアコンの温度センサーに何か熱を当てて誤解させる方法です。
最初からエアコンを設置する場所の室温が下がることが分かっていれば、温度センサーが分離できるエアコンの機種もあることからそれを検討するもの良いでしょう。
最後に
エアコン1台全館冷房は家の構造によっては難しくなります。良くわからないという人は一条工務店のさらぽか空調などのシステムを検討されると良いでしょう。
ただ、一条ハウスのような天井断熱の家で全館冷房を行う場合は二階の階段ホールか吹抜けにエアコンを設置せざるを得ないことから、逆にエアコン1台での全館冷房の成功確率は高まります。
そして、再熱除湿の付いたエアコンをお勧めする理由は梅雨時期の室温低下とサーモオフの回避ですが、それ以外にも理由があります。
これは確実なデータはありませんが、再熱除湿の設定のないメーカーのエアコンは温度を省エネに下げようとするための制御が掛かってて、除湿が得意ではないと感じています。
最近はエアコン1台で全館冷房していますという情報をネットで良く見ますが、測定誤差の大きい湿度計を利用しているにも関わらず相対湿度が60%を超えているケースが散見されています。
高気密が得意な設計事務所や工務店が公開しているエアコン全館冷房の情報においても相対湿度が高いのに家中が涼しいですと温度だけをアピールしているショッキングな情報が結構あります。
エアコン1台全館冷房においてはプロでも何がゴールであるかを理解していないケースが多く、エアコンの運転方法と空気の動きがイメージできていないと感じる場合があります。
繰り返しになりますが全館冷房のゴールは、精度の高い湿度計を用いて相対湿度が60%以下を長時間キープすることで、熱中症とカビやダニの発生しない健康住宅を作ることでしょう。
エアコンによる全館冷房の成功への第一歩はエアコンの吹き出し口にみはりん坊Wを設置してエアコンがサーモオフせずに絶対湿度12g/m3以下をキープできているかを観察することでしょう。
とはいえ、私も偉そうなことは言えなくて、二軒目の家ではムダなファンを沢山設置したり、エアコンを交換したり(これは必要なかった)と試行錯誤の上にいまがあるのです。
皆さんにはぜひ私の失敗を参考に一軒目からハイレベルな高気密高断熱住宅を建てられることを願っています。
本日は以上でございます。