はじめに
本日は断熱についてのマニアックな考察であり一条工務店の家作りとはあまり関係のない内容であることから興味のない方はスルーしてください。
一条ハウスは高額なウレタンやEPS断熱材を利用したボード気密工法ですから、壁内結露などの難しいことは考えなくて大丈夫ですが、ローコストに家の断熱性能を上げるには頭を使います。
そして、平成11年省エネ基準における断熱性能の指標であるQ値を用いて家作りを取り組んできた私にとっては、平成25年省エネ基準から採用された換気の熱損失が含まれないUa値は到底納得ができる指標ではありません。
Ua値は欧米の省エネ基準に合わせたものですが、日本の場合はUa値の計算で止まってしまうケースが大半であり、換気や給湯などを含めた欧米の省エネ計算とかけ離れたものになっています。
Ua値は総熱損失を外皮量で割ってしまうため外壁量の多い凸凹した家でもUa値に変化があまり出ませんが、Q値は床面積で総熱損失を割るため家の形が凸凹したり、総二階ではなく平屋の場合は熱損失の増加に合わせて数値がしっかり悪化します。
また、断熱性能の他に壁内結露の考慮が別途必要ですが、断熱性能の指標がQ値より簡略化されたUa値になったことに伴って、壁内結露の考慮もレベルが下がってしまわないかと懸念しています。
空調の燃費計算に利用できない中途半端なUa値では家作りで考慮すべきことが抜けていってしまうと思いますから、一刻も早くUa値の利用は止めるべきであると思います。
省エネ基準を義務化するに当たって計算の難しいQ値から計算の簡単なUa値に変えたことは理解できますが、簡略化された指標を使い続ければ家作りで考慮すべきことをこれから家を建てる人が分からなくなってしまうと思います。
気密測定をせずにコンセントボックス周りの気密処理すらしない鉄骨造や軸組工法の大手ハウスメーカーの家には何も期待するものはありませんが、高性能な家作りを目指しているローコスト系の住宅にも問題があるケースがあります。
本日はUa値だけを追いかけた家作りがいかに危険であるかという話でございます。
室内側に防湿フィルムを設置すれば良いのか?
(出典:マグイゾベール)
断熱材を選択するにおいて壁や天井において結露をしないかという考慮が重要で、室内の水蒸気が壁や天井に侵入しないように室内側に防湿フィルムを設置することが有効な対策です。
ただ、新住協がオープン工法として公開しているグラスウールによる低価格で高性能な家作りは温暖地では普及せずに施工が簡単な現場発泡ウレタンを採用した高気密高断熱住宅が増えています。
最近はダブル断熱と称して柱の中の充填断熱の外側に板状の発泡断熱材を付加しているケースが普及してきていますが、透湿抵抗を考慮していない場合は壁内結露が心配です。
高断熱化には気密性能と共に壁内結露の検討が必要ですが、フラット35の利用や長期優良住宅を申請しない方は透湿抵抗を検討する義務がないことから、壁内結露が懸念される構成になっているケースが見受けられます。
私はローコスト系の住宅を建てる人が銀行の変動金利の住宅ローンを借りることについては建物の性能評価を求められないことからリスクがあると思っています。
室外側に防湿フィルムさえ設置すれば壁内結露しないという考えには私は違和感があり、壁内結露のない安全な家作りを目指すのであれば防湿フィルムが必要のない断熱材を選択したいところです。
もちろん防湿フィルムを丁寧に施工をすれば壁内結露を防止できることは分かっていますが、壁内結露がない家を量産するには防湿フィルムの施工精度を問わない工法が望ましいと思います。
このあたりの検討は私が付加断熱を採用した高気密高断熱住宅を初めて建てた2010年ごろには出そろっていましたが、現状において進歩があまり見られません。
心配な構成
ローコスト系の住宅において採用されることの多い現場発泡ウレタン断熱材ですが、水蒸気を通しやすいA種3から水蒸気を通しにくいA種1への改良が見られます。
アイシネンはA種3に分類されていますが実態としては独立気泡ですからA種1と同様に壁内結露に強いと思いますが、それでも付加断熱を採用される場合は壁内結露の懸念があります。
結露計算のツールについては私のブログで無償提供しておりますので、興味のある方はご利用ください。
以下は水蒸気を通しにくいA種1Hを利用した場合における結露計算ですが、外気がマイナス5℃まで下がった場合、外張りにフェノールフォームを利用していると壁内結露してしまいます。
上記の場合、石膏ボートの室外側(青い部分)に水蒸気を通さない防湿フィルムを設置すれば計算上は安全であるということになります。
ロックウールの付加断熱が良いと思います
上記は外張り断熱に水蒸気を良く通すグラスウールを設置した状態であり、室内側に防湿フィルムを設置せずに外気温がマイナス10℃になっても壁内結露しません。
耐力面材にノボパンなどを利用することは危険側に向かうため、耐力面材には水蒸気を良く通すダイライト、モイス、ハイベスト、タイガーEXボード、スターウッドなどを利用すべきでしょう。
コストバランスを重視して付加断熱をしない場合は2×6や4寸柱など柱を太くして充填断熱をするとことになりますが充填断熱は熱橋が多いため断熱に拘る方は外張り断熱が欲しくなるでしょう。
付加断熱をする場合は充填断熱は透湿抵抗が高く付加断熱の透湿抵抗は低い構成の方が水蒸気が抜けやすく安全です。また、夏型逆転結露は実際は発生しないため考慮は不要だと思います。
以下の動画はグラスウールの付加断熱ですが、耐火性を考えるとロックウールの方が融点が高いためロックウールの付加断熱がより好ましいと思います。
ロックウールとグラスウールは価格と断熱性能は同じ程度ですが、ロックウールは重量があるためグラスウールほどコンパクトに圧縮できませんから保管場所や搬送の問題があります。
そして、空気が通り抜けてしまうロックウールやグラスウールを通気層に接して付加断熱する場合は撥水加工をしている製品の採用と気流止めとして透湿防水シートの確実な施工が必要です。
上記の動画のように断熱材を壁にはめ込むには横桟の代わりにKMブラケットなどを利用することで熱橋を減らす工夫が必要ですが、これも10年以上前から言われていることです。
ただ、グラスウールやロックウールはフェノールフォームほど断熱性能が高くないため、省エネ性能を高めようとすれば外張り断熱が分厚くなってしまうため土地が狭い場合は難しいですね。
断熱に関しては「外に向かって水蒸気を開放する」というセオリーの通り、充填断熱に透湿抵抗の低い断熱を利用して外張りに透湿抵抗の高い断熱材を採用することは好ましくありません。
充填断熱に現場発泡ウレタン+外張り断熱に板状発泡系断熱材という構成が多数見受けられますが、A種1Hの現場発泡ウレタンを利用したとしても壁内結露の懸念があります。
室内側に防湿フィルムを設置すれば計算上はどんな壁構成でも壁内結露は安全だということになりますが、技術力と施工力がない工務店にも利用できる安全な工法が好ましいと思います。
最後に
家ごとの断熱性能を正しく比較するにはUa値は論外ですが、Q値における総熱損失を床面積で割るという計算方法よりも、総熱損失を気積(空気の量:m3)で割ることが正しいと思います。
総熱損失を気積で割ることの意味は基礎断熱や屋根断熱を利用した場合、実質の冷暖房空間が広がるためこれを正しく評価するには気積(冷暖房空間)を利用することが妥当であろうと思います。
次の省エネ基準ではUa値を廃止して、換気の熱損失を含めた家の熱損失を気積で割る指標が採用されることを願っています。
家を設計するにおいて定常計算では結露すると判定されても、時間ごとに外気の温湿度は変化することから時間ごとの変化を加味した非定常計算では結露しないと判定される場合もあります。
非定常計算を利用するには例えばドイツのパッシブハウスの計算に利用される非定常熱湿気同時移動解析プログラム(WUFI:ヴーフィ)を購入するには気象データを含めて価格が40万円程度するようですから施主が個人で購入するにはしんどいですね。
私が家作りにおいてQ値やUa値など断熱性能の計算や壁内結露の定常計算まではやりましたが、やり残した後悔としては非定常計算まで出来なかった事です。
従来の日本の家作りは窓をあけて換気をすることで家の耐久性を維持してきましたが、省エネ住宅を目指すのであれば窓を閉めた高断熱化と壁内結露を防止しなければ家の耐久性に問題が出ます。
日本は冬季に寒冷乾燥で夏季に高温多湿な気候であり世界でも家作りにおいて過酷な環境だと思いますので、温度と水蒸気の動きを時間ごとに計算をしないと本当の正解は分からないです。
そして、地面付近と小屋裏付近では絶対湿度が違います。これは色々測定して分かったことですが、小屋裏換気を採用した屋根の結露計算は地表付近の絶対湿度で計算してはいけないのです。
ネットや本で調べられる知識では非定常計算の世界まではたどり着けないため、今後はヴーフィなどの非定常計算のセミナーに行ってスキルアップしたいと思います。
一条工務店は全国に高気密高断熱住宅を販売するに当たって、断熱材が高価格であっても壁内結露の心配のない量産化に適した施工が簡単な工法を選択したのでしょう。これは非常に賢い選択だと思います。
しかし、一条工務店で家を建てると価格が高いだけあって壁内結露の懸念の無いゴージャスな構成であるため難しいことを施主が考える必要がなくなります。果たしてそれが良いことなのか悪いことなのか微妙なところですね。
本日は以上でございます。