一条工務店のi-seriesⅡ(i-smartⅡ/i-cubeⅡ)はQ値0.51Wという量産住宅にしては圧倒的な断熱性能を誇っていますが、実際に計算して内容を確認してみました。
当然ながらこのQ値計算は一条工務店による正式なものでもなければ公的機関による計算でもないため内容については自己責任でご判断ください。
私はQ値の計算方法を知っているため各ハウスメーカーが広告しているQ値についてはウソではないけれども、MAXの条件の時に達成できる超レアなものだと理解しています。
まずはカタログスペックの確認
(出典:一条工務店)
上記の画像の説明ではQ値が0.51Wと記載されている上段の部分と下段の年間冷暖房費比較は同じ建物だとは明確に書いておらず、同じ建物かもしれませんし、違う建物かもしれません。
そして、年間冷暖房費比較では、延床面積45.31坪の家のQ値を0.51Wと仮定してSMASHという有名な計算ソフトでのシュミレーションを机上の計算にて行っています。
Q値が0.51Wの家か不明確にも関わらず、Q値を0.51Wと仮定して床面積と建設地を設定し机上でシュミレーションしているため、話がすり替わっているという印象を受けます。
ただ、他のハウスメーカーにおいても参考Q値と書いてありながら標準仕様でなかったりとカタログスペックのQ値はどのハウスメーカーにおいても都合の良いように利用しています。
そして、i-seriesⅡのH25年省エネ基準の断熱性能の指標であるUa値は0.25Wとのことですが、Ua値は換気の熱損失が除かれますから、後述するi-seriesⅡの窓を除く各部位のU値は0.20W以下であるため、よほど窓が大きい家でなければUa値は0.25Wよりも低くなるはずなので不思議です。
Q値とUa値のどちらが断熱性能の指標として優れているかは議論のあるところですが、Q値には換気による熱損失が含まれることと、家の形の変化による熱損失量の増加がQ値を変化させます。
一方、Ua値は換気の熱損失が含まれず、家の形が変わって熱損失量が増えた場合は外皮量も増えてしまいUa値が変わらないため熱損失量の増加が数値に現れないという特徴があります。
簡単にいうとQ値は家ごとに計算しないとあまり意味がないものであり、Ua値は家ごとの変動要素を除いたカタログ値としては理解しやすいものです。
よって、カタログ値として公表されるQ値は非常にハウスメーカーに有利な条件で計算されているということを理解して参考にされると良いでしょう。
Q値0.51Wの家は50坪以上でした
私が市販のQ値計算ソフトを参考に作成したF式Q値Ua値μ値計算シートによると、i-seriesⅡの構成でQ値0.51Wを達成するには総二階の66坪の床面積の住宅になると計算されました。
計算方法は床が正方形の総二階の家において採光が必要な居室を床面積の8割と仮定して、その床面積に対する建築基準法の最低限の窓面積である1/7を想定した場合に66坪になります。
採光が必要な居室面積を7割とした場合でも建物全体で50坪以上の床面積は必要と計算されますから、いずれにしても50坪以上の床面積で窓が相当小さな家でないとQ値0.51Wにはなりません。
Q値0.51Wは実現可能ではあるけれど二世帯住宅でもなければ50坪以上の家というのは少なく、66坪もある広い一条ハウスは全国的にも珍しい存在だと思います。
たしか50坪を超えるi-seriesの坪単価は50万円位まで下がると思いますので建物本体が66坪であれば3300万円ということになるので広い土地をお持ちの方なら手が出ない金額ではないでしょう。
さて、このQ値の計算方法は、IBECの住宅の省エネルギー基準の解説(以下、解説書)に基づいたフェアな計算方法ではありますが、その中で最大限一条工務店に有利な計算をしています。
トリプルサッシと言えども、壁に比較すれば5倍は熱が逃げますから、窓を小さくしないとQ値は良くならないため、窓は建築基準法における最低面積にする必要があります。
ただ、窓の設置義務のない居室以外の玄関や収納、廊下そして浴室などの面積をカタログ値のQ値計算においてどこまで増やして良いかの判断は難しいところです。
一方で換気量については、本来換気経路に入らない廊下等まで含めて全館冷暖房を想定して換気量に参入しています。
つまり、高気密高断熱住宅のマニアの方が一条ハウスで0.51Wの家を建てたい時に、実際に建てることが可能で全館冷暖房を実施して住むことを前提に計算しています。
Q値の計算に当たって
天井、壁、床、開口部、換気、そして今回は説明を割愛しますが床下の熱損失を個別に計算し、それを合計した総熱損失を床面積で割るとQ値となります。
Q値の意味はその家の室温を1℃上昇させるのに必要なエネルギーということで、Q値が1.0Wで床面積が100m2であれば、100Wのエネルギーで家全体の室温が1℃上昇します。
計算の中に熱橋比率という言葉が出てきますが、柱など断熱材が設置できない熱橋部と断熱材が設置されている断熱部の比率を勘案して壁等の各部位の断熱性能を計算しています。
そして、Q値を良くするには窓を小さくする必要がありますが、一方で冬季の暖房エネルギーを低減させるために南側の窓は大きく取っています。
天井 U値0.129W
一条工務店では、i-seriesは天井の充填断熱で、軸組工法は桁上断熱になっています。
天井のウレタン断熱は235mmであり、U値(単体の断熱性能)は解説書の通り枠組工法として13%の熱橋比率として計算しています。
壁 U値0.135W
i-seriesⅡの壁はウレタン断熱材を用いた2×6の140mm充填断熱に50mmの外張り断熱です。
一条工務店のホームページでは外壁のU値は現在では0.20Wと記載されていますが、解説書の計算による熱貫流率は0.135Wになりますので今回はこちらを採用します。
ウレタン断熱材の経年劣化を19%加味して熱伝導率を0.025Wに補正した場合、家全体のQ値は0.56W、Ua値は0.19Wにしか悪化しないため、壁のU値0.20Wの意味が良くわかりません。
過去には一条工務店の壁の熱貫流率は0.131Wとホームページに記載されていましたが、これはU値0.135Wの壁構成の熱橋比率を23%から20%にすると丁度数値が合います。
ただ、私はまぐさまで含めての熱橋比率である23%が枠組工法では一般的だと考えていますので、ここでは解説書の通り23%の熱橋比率で計算しています。
床 U値0.207W(実質0.145W)
過去には89mmであった床のウレタン断熱材は、i-seriesⅡから140mmに変わっています。熱橋比率は15%として計算しています。
正確には大引きの高さは2×4材のまま断熱材が2×6の厚さであるため、2インチ分の断熱材が床下にはみ出ていて、大引きの下にも2インチ分の断熱材が設置されています。
ただ、計算において床下の木部の2インチの違いは影響があまりないため今回は無視しています。
床に関しては単純なU値は0.207Wですが、Ua値を求めるときは外気に通じる床下であっても熱損失は外壁等より減るため温度差係数である0.7掛けた0.145Wが実質のU値になります。
換気
換気の熱損失は、三種換気であれば空気の熱容量である0.35に気積と換気回数を掛ければ計算できますが、一条ハウスはロスガードという一種全熱交換換気扇ですから別の計算が必要です。
私の計算シートでは熱交換換気で必要となる「みかけの換気回数」を計算できます。熱交換効率と消費電力を加味して実質的な換気回数を計算して換気で失われる熱損失を計算しています。
その他
窓はハニカムシェードまでを参入したトリプルサッシを0.6Wとして計算していますが、一条施主にはハニカムシェードの結露防止のたためにニカムシェードを少し開けている方がいます。
ハニカムシェードを開けた場合のトリプルサッシは0.8Wで計算すべきですが、絶対湿度を理解して室内の湿度を管理すればハニカムシェードを閉めても結露しませんから0.6Wで計算します。
また、一条ハウスのユニットバス下と玄関土間には断熱欠損がありますが、解説書においてこの部分の断熱は省略できるとされているため今回はこの部分は特に考慮しません。
このように、一条工務店は面積が小さいなどの全体影響の少ない部分の問題は無視して、むしろ面積の大きな部分の断熱性能を強化することで全体のQ値を下げています。
通常であれば断熱欠損からコールドドラフトが発生すると考えますが、ユニットバス下にも床暖房をいれてコールドドラフトを殺すなど一条工務店は力技で対応する傾向にあります。
ただ、玄関土間は寒冷地を除いて床暖房が入らないため、ここが一条ハウスの現状のウィークポイントであり、床暖房の温水パイプが玄関ホールに集中するように設計すると良いでしょう。
玄関ドアについては今回のQ値計算ではK1.5(1.74W)の三協アルミのプロセレーネという玄関ドアで計算しましたが、現在ではモデルチェンジをしており後継のプロノーバでは最もU値の優れる1.20Wの玄関ドアが標準で選択できるようになっています。
現実感のある一条ハウスのQ値は?
やはり、カタログ値の0.51Wを得るために50坪以上の家を建てるというのは資金的に難しいため、一般的な床面積で一条ハウスの最良のQ値はどの程度になるか計算してみました。
このQ値を達成するにはやはり窓の面積を最小限にする必要があり、冬季に日射が入る南側以外の窓は限られた窓から効果的な採光をするために、窓は少なく小さく高く設置する必要があります。
40坪の場合 Q値0.62W
真四角に家を建てて、南側以外の窓を小さくすれば、0.62Wの家を建てることが可能です。
このレベルの断熱性能になると温暖地では春からオーバーヒートが多発すると思いますから、窓の日射制御はさらに重要になってきます。
32坪の場合 Q値0.69W
32坪という現実的な床面積で計算すると0.69Wまでの性能が実現可能ということになります。
現場発泡ウレタンを使ったローコスト系の家でQ値は2.0W前後、充填断熱で窓をトリプルサッシにするなど頑張るとQ値は1.4W前後になりますから、一条の0.7Wはかなりの性能です。
Ua値に関してはここまで窓面積が小さいと一条のカタログスペックの0.25Wを大きく下回わる0.17Wと計算されますが、一条工務店のQ値とUa値の計算モデルが別々なのか不明です。
実際の一条施主のQ値は?
一条施主の沢山の方の図面を拝見しましたが、実際は建物が30坪程度で家の形が正方形になるケースは稀ですし、窓が大きくなりますから、Q値が最も良い人で0.75Wでした。
i-seriesⅡの二階建てにおける多くの方のQ値は0.8W前後であり建物が横に広がって外皮面積が増えてしまう平屋では0.9Wを超えることがあります。
ご理解いただきたいのは、カタログの0.51Wとかなり違うではないか?ということではなくて、30坪の建物坪単価が65万円でQ値0.8W前後の家が全国どこでも手に入るという驚愕の事実です。
他の住宅会社でQ値0.8Wの家を建てようと見積りを取ればこれ以上の価格になると思うため、一条ハウスの性能がカタログ値と違ってもコストパフォーマンスは最高に良いことはお忘れなく。
性能にまつわる誇大広告
私は一条工務店のQ値計算だけをおかしいという気はなくて、どのハウスメーカーも少し誇大広告な宣伝文句を使っていますのでご紹介します。
当社は最高の断熱等級を取得しています
一条工務店が圧倒的に低いQ値やUa値を公表するものですから、他のハウスメーカーは「当社は最高の断熱等級を取得しています」と言って断熱性能の低さを誤魔化しています。
現在の断熱等級は最高が4であり、それはQ値が2.7Wの家という低い性能です。さらに実際に建つ家は真四角から変形しますから、Q値は3.5W前後まで悪化するでしょう。
「当社は最高の断熱等級を取得しています」と言われると、家作り初心者の方は冬に暖かい家なのだろうと錯覚してしまうと思いますので、ウソではないけれど誤解を与える広告でしょう。
また、断熱等級が最高であっても、冬に寒くなる典型例な家がありまして、気密測定をしない+床断熱+グラスウール断熱材+在来工法のハウスメーカーの家です。
床下から冷たい空気が家中の壁の中を通ってしまいいくら断熱してあっても寒い家になるのです。
それなら、基礎断熱工法で現場発泡ウレタンを採用しているローコスト系の住宅の方が、壁の気流が止まって暖かい家になるため、坪単価と家の暖かさは関係がないとも言えます。
一条工務店より光熱費が安い家
一条工務店の坪単価が上昇していることから、しばしば一条ハウスはローコスト系の高気密高断熱住宅からコストパフォーマンスの比較対象とされます。
一条工務店より何百万円も少なく建設して光熱費が同等若しくは少なくなりますよといった宣伝内容は非常に面白い話で、私もローコスト系の高気密高断熱住宅は大好きです。
Q値は一条工務店より良くなくても設計力でカバーするという話は全くのウソではないですが、一条ハウスで同じような設計をされてしまうと超断熱の一条ハウスの方が光熱費は安くなります。
私もいまでこそ一条施主ですが、二代目の家はローコスト系のQ値が1.0Wの家で打倒パッシブハウスを目標として光熱費削減に燃えてましたので一条ハウスと比較したい気持ちは良くわかります。
一条工務店の床暖房は建物自体を温めますから、空気を温めて輻射暖房化するエアコン全館暖房と比較すると暖房面積が増えてしまうことが床暖房はエアコン暖房より暖房効率が悪いです。
エアコン全館暖房は快適ではあっても、床の温度が高い一条の床暖房と比較すると快適性さでは1段さがることは否めません。これは一条ハウスでエアコン暖房をしている私の体感です。
多くの一条施主は快適性重視で光熱費の節約は程々で良いと考えている気がしますから、そういった施主と比較するとローコスト系の高気密高断熱住宅の方が光熱費が安くなる事もあるでしょう。
Q値で勝てなくても施主がしっかり勉強してローコスト系高気密高断熱住宅の完成度を上げてエアコン暖房を行えば一般的な一条施主より安い光熱費にすることは十分に可能だと思います。
ただ、私のような一条施主でありながら窓の日射制御やエアコン冷暖房を実施する施主と比較するとローコスト系の高気密高断熱住宅では私のような一条施主の光熱費には届きません。
つまり、設計の技量差や暖房方式の効率によるアドバンテージがなければ建物のQ値の差がそのまま空調費用の差として出てきますから超断熱の一条ハウスが有利になって当然です。
私はさらに一条ハウスの性能を生かして基本料金のない電力プランを採用することで、異次元の電気代を実現していますから、コストパフォーマンスはさらに良くなっています。
そして、高気密高断熱住宅には床暖房は不要としばしばいわれますが、快適性ではやはり一条の床暖房に軍配があがるため、光熱費を比較する際には快適性の比較も併せて記載すべきでしょう。
これは夏季のさらぽか空調とエアコン全館冷房の比較でも言える話で、さらぽかの相対湿度を40%台にする強烈な除湿能力はエアコン全館冷房の快適さよりも1段上です。
最後に
家作りにおいては、誇大広告や迷信などが沢山あり、ほとんどが情報をそのまま受け取ると間違った判断をしてしまうかもしれませんから、これから家を建てる方は注意してください。
特に自然素材の採用や窓開け換気をするとシックハウスが予防できるなどという話は悪質で、窓を開ける生活は夏は湿度が高くなりダニアレルギーというシックハウス症候群を招きます。
今回取り上げたQ値については一条工務店だけが異常な誇大広告をしている訳ではありませんが、Q値やUa値をホームページに載せるのであれば計算内容を出してほしいと思います。
そして、家作りにおいて数値の比較でハウスメーカーを検討する人もいますが、Q値やUa値をハウスメーカーごとに比較しても実際の家の暖かさとは異なることを施主も知るべきでしょう。
Q値が良ければきっと暖かい家なのだろうとか断熱最高等級だから一条工務店より断熱性能が劣っていても大丈夫だろうなんて思わない方が良いでしょう。
ハウスメーカーごとにQ値を比較した場合、Q値が半分であれば冷暖房費も半分だと錯覚すると思いますが、気密性能が伴っていないとQ値は絵に描いた餅になってしまいます。
先に記載したように壁の気流止めを含めた気密性能なくして、Q値やUa値を比較しても冬に暖かい家にはならないからです。
Q値は計算方法によっても結果は違ってきます。やはりここはフェアな条件で現実的な床面積や窓比率の中で掲載して欲しいものですが、そういった意味ではUa値の方がフェアと言えます。
自分でQ値が計算できればハウスメーカーの説明や広告に振り回されることもないでしょうから、興味がある方は私の計算シートを使ってQ値を計算してみてください。
この計算シートは一条工務店以外の家でもマスタの設定変更をすればご利用いただけますから、どの程度の家の性能とご予算にするかを含めてご自身にあった依頼先を検討されると良いでしょう。
本日は以上でございます。