はじめに
国の省エネ基準の向上が進まない中、民間団体として高断熱化技術開発委員会(HEAT20)が海外レベルの高い省エネ基準を制定しています。
家作りには多様な価値観があって良いですが、これ以上ヒートショックや熱中症による死者を出さないために、日本の家の性能は改善する必要があると私は思います。
現在はコロナウィルスの影響も心配ですが、ヒートショックや熱中症の死亡者はそれを大幅に上回るものですから、流行性の問題だけでなく恒久的な問題も真剣に考える必要があると思います。
さて、HEAT20委員会の委員長は大権威である東京大学名誉教授の坂本雄三先生ですし、民間団体とはいっても事務局は建築環境・省エネルギー機構(IBEC)内にあります。
つまり、住宅業者の抵抗により法的な省エネ基準の強化が進まないため国土交通省の外郭団体であるIBECの中に民間団体という形でHEAT20という実質の省エネ基準を設立したのだと思います。
住宅業界ではタブーな話なのだと思いますが、気密性能や省エネ基準の義務化を見送った代わりに、HEAT20のようなハイレベルな家作りの基準が制定できたのかも知れません。
HEAT20の基準値は?
HEAT20はG1~G3まで制定されています。最近制定されたG3についてはずいぶんと踏み込んだなと思うレベルまで到達しています。地域区分で言えば東京などは6地域に属します。
グレード | 地域区分別のUa値(W) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
省エネ基準 | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | ー |
ZEH | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.60 | 0.60 | 0.60 |
HEAT20 G1 | 0.34 | 0.34 | 0.38 | 0.46 | 0.48 | 0.56 | 0.56 |
HEAT20 G2 | 0.28 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.34 | 0.46 | 0.46 |
HEAT20 G3 | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.23 | 0.26 | 0.26 |
上記の数値が小さいほど暖房費用が減り、例えば6地域では省エネ基準の0.87Wの家とHEAT20 G3の0.26Wの家では3.34倍も暖房費用が異なるという意味になります。
大手ハウスメーカーの家はQ値1.9W・Ua値0.54W程度であり、高価格帯の割にはあまり性能がよくありません。また、全棟気密測定をしないハウスメーカーが大半という現状です。
昔から温暖地ではG3程度のQ値1.0W(Ua値0.29W)が目標とされてきましたが、C値が1.0以下であれば、断熱性能は家の日当たりと施主の予算次第で判断すれば良いと私は思います。
また、G3ほどの超断熱はコスパが悪いと言われる人もいますが、何年その建物に住むのかによってコスパは異なるため、私は60年以上に渡って家族が住む気ならG3はありだと思っています。
HEAT20では、気密性能については基準が制定されていませんが、ここまでの高断熱住宅であれば気密測定をしない業者はいないと思います。
一条工務店のUa値はどの程度か?
一条工務店が公表している断熱性能ではi-seriesⅡがQ値は0.51W、Ua値は0.25Wです。グランセゾンなどの軸組工法の商品はQ値0.98WでUa値はどうやら公開されていないようです。
そして、私が標準モデルの間取りで計算したQ値とUa値は以下の表の数値であり、省エネ基準通りに計算するとi-seriesⅡはHEAT20 G3の最寒冷地の基準であるUa値0.20Wに到達しています。
商品 | Q値 | Ua値 | 備考 |
i-seriesⅡ(i-smartⅡ/i-cubeⅡ) | 0.75W | 0.20W | ウレタン断熱材 |
i-seriesⅡ(防火トリプルサッシ仕様) | 0.89W | 0.25W | 窓のU値を1.25Wと仮定 |
i-series(i-cubeⅠ) | 0.88W | 0.25W | EPS断熱材 |
軸組工法(グランセゾン・ブリアール等) | 1.18W | 0.36W | |
i-smile(規格型2×4住宅) | 0.95W | 0.27W |
一条工務店の公表Ua値0.25Wは、現在販売されている商品では、防火トリプルサッシ仕様のi-seriesⅡ若しくはEPS断熱材のi-cubeⅠが私が計算した数値において該当しています。
なぜ、一条工務店のカタログのUa値が0.25Wとなっているのか私には分かりませんが、全国で同じ断熱性能だと表現していることから、EPSや防火仕様までを含めたUa値なのかも知れません。
なお、一条工務店の防火トリプルサッシは断熱性能を表すU値が不明であるため、YKKAP社が新発売した防火トリプルサッシであるAPW430のU値1.25Wを使って計算しています。
詳細な計算内容を知りたい方は以下をご覧ください。
さらにUa値を改善するには
一条工務店のi-seriesⅡはもはやこれ以上、壁や天井の断熱材を厚くすると地価の高い都市部では土地代の増加や建築の法規制の強いため建築に支障をきたすと思います。
ウレタン断熱材以上の性能の断熱材は現状では真空断熱材を採用するしかありませんが、まだまだ一般的とは言えないため、当面は窓と玄関ドアといった開口部の強化になるでしょう。
一条の防犯トリプルサッシは防犯合わせガラスが追加されていて通常のトリプルサッシより1枚ガラスが多いため防犯合わせがラスとの間に空気層(断熱層)を設ける案があると思います。
しかし、外気に接する窓の構成を変更すると防火試験などがやり直しになると思います。
家の外側の窓を変更しない場合、トリプルサッシ+ハニカムシェードの室内側にペアサッシを内窓として設置すれば一条工務店は簡単に五重サッシを制作することができるでしょう。
以前に五重サッシのU値(断熱性能)を計算したことがありますが、五重サッシのU値は省エネ基準では0.54W、単純計算では0.37Wでした。
二重窓のU値の計算式は省エネ基準解説書では以下ように示されています。
0.4*外窓のU値+0.6*1/(1/外窓のU値+1/内窓のU値)
この式の意味は外窓の性能の40%+外窓と内窓の性能を合計したものを60%として二重窓の性能を評価していることになります。
省エネ基準における二重窓の断熱性能の評価は、トリプルサッシやハニカムシェードおよびペアサッシの熱伝導抵抗を単純に合計する計算方法ではありません。
ただ、実際に試験場で窓のU値を計測すると単純計算に近い数値になるようですから、両方のU値を使って、家全体の断熱性能を計算すると一条ハウスの性能は以下になります。
なお、今回はノーマルのi-seriesⅡ以外の玄関ドアは業界トップクラスの性能を誇るYKKAP社のイノベストD70(U値0.9W)で計算しています。
タイプ | 窓のU値 | Q値 | Ua値 |
ノーマル i-seriesⅡ(トリプル+ハニカム) | 0.66W | 0.75W | 0.20W |
〃 5重サッシ省エネ計算 | 0.54W | 0.71W | 0.19W |
〃 5重サッシ単純計算 | 0.37W | 0.67W | 0.17W |
現状のトリプルサッシ+ハニカムシェードのU値が既に0.66Wであるため、窓を5重化しても大幅に家全体のUa値は下がらない計算結果となりました。
Q値やUa値はある程度まで下げるのは簡単ですが、ここまでの超断熱な家になると、壁や天井の厚みを変えない限りはなかなか数値が下がりません。
ただ、一条工務店は性能が圧倒的でないと気が済まない企業体質だと思いますから販売戦略としてインパクトのある5重サッシを投入してくる可能性はあるかも知れません。
また、HEAT20については断熱性能はもはや限界だと思いますからG3以上のグレートは制定されないと思いますが、ようやく日本にも欧米を上回る住宅の性能基準が制定されたわけです。
最後に
一条工務店が公表しているUa値は温暖地のHEAT20のG3には到達しています。ただ、寒冷地のHEAT20のG3には及ばないため、一条工務店はさらに高性能化を狙ってくると思います。
ただ、断熱や気密に拘っただけでは良い家は作れません。家作りにはデザインやインテリアなども大切な要素です。しかし、気密や断熱性能を知らないで良い家が建つこともないでしょう。
そして、夏季に猛暑日が連発するなど異常気象が当たり前のようになってきた現代では、夏季に窓を開けて通風を利用した省エネを計画するという時代でもありません。
省エネ基準には断熱性能を表すUa値と共に、nA値(イータエー)という冷房期の日射熱取得率という指標もありますから、夏季の省エネのことも考えないといけません。
日本の家は冬に寒いので、まずはUa値や暖房性能などが注目されますが、高気密高断熱住宅で家を建てるなら、冬だけでなく四季すべてに高気密高断熱な性能の活用を考えると良いと思います。
本日は以上でございます。