ビニールクロスの夏型逆転結露に対する影響

考察

はじめに

以前に防湿シートは時限爆弾という記事を書きましたが、では多くの家で利用されているビニールクロスは夏型逆転結露にどう影響するのかということを本日は計算します。

防湿シートは時限爆弾?
はじめに 本日は夏型逆転結露というマニアックな話題です。文章の中に防湿シート(結露防止のために室内側に設置するビニールシート)や透湿抵抗(水蒸気の通しにくさ)という言葉が出てきます。 今回の記事の内容には日本の住宅の大半で使われてい...

ビニールクロスの透湿抵抗(水蒸気の通し難さ)については、あまり詳しい情報はなく、岐阜の凰(おおとり)建設の森さんは合板並みの12(m2・h・mmHg/g)程度と計算されています。

クロスは湿気を通すのか?通さないのか? | 岐阜の注文住宅工務店 凰建設

一方、住まいの水先案内人のサイトでは、コンクリート100mm厚と同等の60~80(m2・h・mmHg/g)程度と記載されていますので、間をとって70としたいと思います。

クロスという防湿堤防
Sponsored Linkビニールクロス  本来は、壁の外壁側には合

通常の結露計算ではリフォームで交換することのある壁紙は算入しませんが、恐らくこの理由は冬型結露の防止に交換するものは算入しないという意味だと思います。

壁の防湿層として調湿機能のない一般的な防湿シートを利用した場合、外気の絶対湿度が25g/m3を超えてくると内部結露計算において多くの家で結露判定が出ることがわかってきています。

温暖地の東京などでは25g/m3を超える日が稀に発生するようになっていることから、25g/m3を基準にビニールクロスによる影響を確認してみたいと思います。

外気の条件は36℃ 60%(つまり絶対湿度25g/m3)とします。結露計算では外気は露点温度より絶対湿度が強く影響し、室内は湿度はあまり関係なく室温が影響します。

ビニールクロスの透湿抵抗の整理

ビニールクロスの透湿抵抗(m2・h・mmHg/g)について、12なのか70なのかどちらがより厳しい条件なのかを計算をしてみます。防湿シートの透湿抵抗は170とします。

A種3の現場発泡ウレタンを採用したケースで耐力面材にダイライトと構造用合板を採用した場合の断熱材の室内側の露点温度を計算してみます(グラスウールでも同様の結果でした)。

 

防湿シートがない若しくは可変調湿シートを採用した場合、室内側の仕上げ材の透湿抵抗が高いと露点温度はかなり高くなることが計算からもわかります。

ダイライト 構造用合板
防湿シートなし+ビニールクロスなし 14.8℃ 14.3℃
防湿シートなし+ビニールクロスA 12 21.5℃ 19.0℃
防湿シートなし+ビニールクロスB 70 25.1℃ 23.8℃

 

防湿シートを設置した場合の断熱材室内側の露点温度は以下でした。断熱材の室内側に防湿シートがある場合はビニールクロスがあってもなくて露点温度はあまり変わらないようです。

ダイライト 構造用合板
防湿シートあり+ビニールクロスなし 25.8℃ 25.2℃
防湿シートあり+ビニールクロスA 12 25.9℃ 25.2℃
防湿シートあり+ビニールクロスB 70 26.0℃ 25.5℃

これらの結果から夏型結露については、ビニールクロスBの70m2・h・mmHg/gがより露点温度が高くなるため、今回の計算ではより厳しい70で計算することとします。

ただ、結露計算した結果を見ると70も透湿抵抗があるのかなと違和感を感じますので、私の結露計算シートには森さんの12を採用したいと思います(今回は70で計算します)。

結露計算に興味がある方は自己責任となりますが私のブログの計算シートをご利用ください。

計算ツール
F式(私ことフエッピー式)の各計算ツールは無償でドドーンとご提供します。その代わりサポートはございませんので自己責任でご利用ください。また、告知なく修正しますので、ご利用の際は最新版をダウンロードしてご利用ください。 ダウンロードを行...

計算結果

結露計算において外気の条件を35℃ 90%(絶対湿度35.6g/m3)みたいな設定をする方がいますが、気温が上昇すれば相対湿度は下がるためそんな条件はありえないです。

一条工務店

一条工務店など防湿シートを設置していない工法の場合は夏型逆転結露は起きません。夏と冬の内部結露を断熱材自体の透湿抵抗で抑制する設計思想なのでしょう。

 

ウレタンの付加断熱があるi-smartなどの2×6工法では室温を3℃にまで下げてようやく結露判定がでました。防湿シートがないことと断熱材自体が透湿抵抗が高いからです。

 

軸組工法のグランセゾンなどはEPSの充填断熱ですが、18℃まで室温を下げて結露判定がでました。これはウレタンよりEPSの透湿抵抗が低いことと断熱材の厚みの違いによるものでしょう。

断熱材の透湿抵抗が高いため防湿シートが不要な一条工務店の家ではビニールクロスを採用しても、通常の生活においてどんなに室温を下げても夏型結露は全く起きないという計算結果でした。

現場発泡ウレタンA種3

100倍発泡のアクアフォームなどのA種3はグラスウール程ではありませんが水蒸気を比較的通しやすい断熱材です。防湿シートとビニールクロスを設置した場合、室温25℃で結露判定がでます。

 

防湿シートを設置せずビニールクロスを採用した場合は室温24℃で結露判定がでました。防湿シートがないことで水蒸気の抜けが若干よくなったようです。

現場発泡ウレタンA種1H

30倍発泡で透湿抵抗の高いA種1では防湿シートは設置せずとも冬の結露は最寒冷地以外は防止できますが、ビニールクロスを採用した場合の夏型結露では室温22℃で結露判定が出ました。

やはり、防湿シートを用いずに一番簡単に夏も冬も内部結露させない方法はA種1の採用だと私は思います。温暖地における普及版の高気密高断熱住宅はA種1が増えていくと想定します。

グラスウール

水蒸気をよく通すグラスウールは防湿シート(可変調湿シートを含む)を設置しないことはあり得ないと思いますが、防湿シートがある場合は室温25℃で結露判定が出ました。

 

また、防湿シートを設置しない(可変調質シート含む)場合、ビニールクロスを設置すると室温25℃で結露判定がでますからグラスウールとビニールクロスは相性が悪いということでしょう。

グラスウールの場合、可変調湿シートを使っても使わなくても室内の仕上げは紙クロス(透湿抵抗値が明確なもの)や漆喰など透湿抵抗の低いものが良いようです。

ただ、「暮らしエネルギー研究所」が提供している結露計算ツールではグラスウールに可変調湿しない防湿シートを設置した場合は紙クロスでも室温25℃で結露していると見受けられます。

http://www.kuraene.jp › file › pre_keturohantei

これは袋入りグラスウールを採用する多くの住宅にも当てはまるため、絶対湿度が25g/m3という酷暑な状態では内装仕上げは何であれ室温は25℃より上にした方が良いということでしょう。

付加断熱をした場合

グラスウールにおいて、ビニールクロス+防湿シートなし(可変調湿シート含む)+ネオマフォームを付加断熱した場合、室温を20℃まで下げると結露判定がでました。

 

グラスウールにおいて、ビニールクロス+防湿シートあり+ネオマフォームを付加断熱した場合、室温を24℃で結露判定がでますから、クロスが何であっても可変調湿シートが有効だと思います。

 

現場発泡ウレタンA種3において、ビニールクロス+防湿シートなし(可変調湿シート含む)+ネオマフォームを付加断熱した場合、室温を18℃まで下げると結露判定がでました。

 

現場発泡ウレタンA種3において、ビニールクロス+防湿シートあり+ネオマフォームを付加断熱した場合、室温を23℃まで下げると結露判定がでました。

透湿抵抗の低いグラスウールと現場発泡ウレタンA種3は結露計算においてはほぼ同じ動きをしますが、より水蒸気をよく通すグラスウールのほうがよりシビアな検討が必要でしょう。

付加断熱をする際はネオマフォームなどの透湿抵抗の高い石油発泡系の板状断熱材を利用すると夏型結露に有効と計算されますが、グラスウールを外張りした場合は夏型結露には効果が出ません。

最後に

今回は厳しい条件で計算してみましたので参考までにご覧ください。結露計算は断熱材が外気に直に接しているか等の条件により変わるため同じ断熱材でも天井屋根と壁では結果が異なります。

本日の計算結果をまとめると一条工務店のように防湿シートを設置せず断熱材の透湿抵抗だけで冬と夏の内部結露を防止している場合は冷房時の室温は気にしなくて良いと思います。

同様に透湿抵抗の高い現場発泡ウレタンのA種1については防湿シートを設けずに22℃まで夏型結露しないと計算され、冬も夏も余程の環境でない限り結露しないと計算されます。

現場発泡ウレタンA種3とグラスウールの場合は冷房時の室温を25℃より上にするか、可変調湿シートと共に室内の仕上げを紙クロスなどにするか、又は通常の防湿シートにネオマフォームなどの板状の石油発泡断熱材を付加断熱すると23~24℃まで結露しないと計算されます。

私は2010年に温暖地で建てた家において、可変調湿シートであるザバーンBF(現在のタイベックスマート)と紙クロスや調湿石膏ボード、ネオマフォームの付加断熱を採用しています。

夏型逆転結露については当時から話題でしたからネオマフォームを付加断熱に使えば可変調湿シートはほぼ不要と計算から分かっていても、環境変化を見据えてより安全側に家作りをしました。

その後、一条工務店の施主になりましたが、なぜ一条工務店を選択したかというと、結露計算や耐震性、防火、防蟻などを含めて構造に関しては難しいことを考えなくて済むからです。

また、各地域には優秀な住宅会社がありますから、結露計算ができて断熱材ごとの特性をよく理解している住宅会社に家作りをお願いすることも良いと思います。

お金があれば充填断熱なしでネオマフォームの外張りのみ100mmにすれば各種の難しいことを考えなくて良くなるなんて思いますが、コストの問題もあるので、なかなか難しいですよね。

そして、予算が厳しい施主が選択する住宅会社は夏型結露の計算まで踏まえていないケースが多いと思いますから、施主が自分で勉強する必要が出てくると思います。

今回は外気と室内の温湿度を固定した定常計算ですが、時間の経過を考慮した非定常計算では結露しない可能性があります。ただ、私には非定常計算が出来ないため正確なことは分からないです。

定常計算で結露しないなら確実に非定常計算でも結露しないため、まずは定常計算で結露計算をしてみてはと思います。

今回は東京などの温暖地で稀に起きる酷暑での計算ですが、各地に応じた外気の温湿度をアメダスで確認して夏型結露の問題と家族にとって夏に快適な室温を検討してみてはいかがでしょうか。

いま計算上、夏型結露をしなくても温暖化が進む程に外気の気温や絶対湿度は増えていきますから、夏型結露対策をしないと室温28℃などで生活せざるを得ない時代が来るくるかも知れません。

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