木造二階建ては耐震性が確認されていない?
今年は台風によって自然の猛威を思い知らされたわけですが、本日は忘れた頃に襲ってくる地震についてです。そして、家作りにおいては耐震性という何よりも優先すべき重要な要素がありますが、現状の建築基準法には重大な欠陥があるのです。
一般的な木造二階建てについては建築基準法第6条1項四号に該当するため「四号建築物」と言われます。そして、建築基準法第20条四号においては耐震性の確保について以下のように「イ(仕様規定への適合)」と「ロ(構造計算)」の二種類の選択肢が示されています。
- 四 前三号に掲げる建築物以外の建築物 次に掲げる基準のいずれかに適合するものであること。
- イ 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。(壁量計算などの仕様規定)
- ロ 前三号に定める基準のいずれかに適合すること。(許容応力度計算といった構造計算)
上記によると「イ」の仕様規定という壁量計算などの一定のルールに基づいて設計士の有資格者が家を設計すれば、構造計算までしなくて良いという特例措置が「四号特例」ということになりますが、これは建築確認申請の審査をスピーディーに行うための行政の措置です。
ただし、建築確認申請において、より簡易な「イ」の壁量計算等の仕様規定すら役所は確認しないルールになっていることを知っている方は少ないと思います。ここが大問題なのです。
つまり、建築確認申請において設計士の有資格者が設計した建物については耐震性の審査が免除されているため、建築確認申請を通ったからといって、耐震性が確保されている建物ではないということになり、これが大地震での被害を拡大させているのです。
実際に構造計算をしてみると四号特例の建物は最低の耐震等級1に対してすら壁量が3割前後足りないと言われていますし、建築中の役所のチェックや第三者検査は図面通りになっているかだけの確認であり、その図面自体が構造的に妥当なものか審査されていません。
国土交通省が2009年に四号特例の廃止案を発表していることはご存じの方も多いと思いますが、現実には仕様規定すら理解していない設計士が存在することと、建築確認申請のスピードが遅くなることを嫌って建築業界が構造計算の義務化には猛反対しているようです。
現在もまだ四号建築物に対する特例は廃止されず存続していますが、四号特例の問題点については度重なる地震被害を憂いて日弁連までもが意見書を提出していますから、四号特例はすぐに廃止すべきだと思います。
なお、一条工務店で家を建てる場合、平屋であっても耐震等級3が必ず確保されますから、逆に言えば自由な間取りを制限している住宅依頼先こそが施主のことを本当に考えていると言えます。
日本経済の構造的欠陥は中小企業政策
中小企業は「モノづくり」の基盤を形成し、日本経済や社会を土台で支えていますから、中小企業基本法のような保護政策があるわけですが、技術水準が高い中小企業とそうでない中小企業が一括りに護送船団方式によって保護されていることが問題だと思います。
家作りで言えば構造計算をしない意識の低い中小の建築業者の経営を守るために日本人の安全が脅かされていることは問題であり、法律を最低限守れば良いと考え、家の開放感やデザインを優先する建築業者は消費者が排除すべきだと私は思います。
私は大手ハウスメーカーと地場工務店のどちらで家を建てるかは問題視しておらず、意識が高い建築業者で建てれば良いと考えており、それを簡単に見抜くには構造計算(壁量計算ではなく許容応力度計算)と気密測定の実施をしているかが目安と言えるでしょう。
構造計算や気密測定の対応には手間と費用がかかるから施主の費用負担を考えると実施しないと述べる建築業者は多いと思いますが、施主のことを思うのであれば、有料で施主に負担してもらうか、それに見合ったコストカットの実施を本気で考えるべきです。
家が売れれば良いと考えるような建築会社は施主の費用負担を心配しているようで、実は性能向上の費用転嫁による価格上昇が目先の売上減少になるという心配や構造計算や気密測定という仕事の手間が増えることを嫌っているだけではないかと思います。
そして、このような家作りがまかり通っている諸悪の根源は木造住宅の構造計算を免除している四号特例にあると思います。間違った中小企業保護政策により、地震に弱い家が作られているのは人災だと言えます。
前々から私のブログで申し上げていますが、施主の予算や価値観によって家作りの優先順位やバランスは人それぞれです。ただ、人の命を守るための構造計算より優先される価値観を言葉巧みに提案する建築業者がいるとすればそれは問題だと思います。
日本の家作りは地震のない平和な時間が続くと開放感を求めて耐震性を疎かにするという魔が差す事象の繰り返しですから、SE構法のようなラーメン構造の門型フレームなどによる確固たる構造計算に基づいた開放感ではない場合は、本物の開放感ではないのです。
これから家を建てる方は依頼先に耐震等級3を取得したいと言ってみてください。そこでコストがかかるとか過剰性能だといって逃げ腰になるようであれば、その依頼先の家作りのスタンスがわかると思います。
耐震等級3相当と耐震等級3は全然違う
ツーバイ工法か軸組工法のどちらが良いかではなく構造計算(許容応力度計算)をしているかどうかで耐震性を判断した方が良いと思いますが、一般的にはツーバイ工法の方が構造の制約が多いため耐震性では有利になると思います。
軸組工法の工務店などでは、耐震等級3相当であるとして頑丈な家をアピールしているケースがありますが、耐震等級3相当とは壁量が最低の耐震等級1に比較して1.5倍設置されているだけの建物であり構造計算された耐震等級3の建物とは全く別物です。
その理由として耐震等級3相当の家は壁の量が多いだけで基礎や天井などが強化されているか不明ですし壁がバランス良く設置されているかは素人には分かりません。そして家は六面体ですから家の強度が天井と床の除いた四面の壁だけでは耐震性は決まりません。
壁は家の四面でしかないことから壁に制振ダンパー付きの家であるから頑丈であるということでないことはわかると思います。頑丈な家かどうかは、許容応力度計算による構造計算を行い耐震等級3が取れるかで判断されると良いでしょう。
建物の基礎を見ると構造計算をしている家かどうか大体わかります。ちなみに布基礎よりベタ基礎が頑丈というわけではなくて一般には布基礎よりベタ基礎の方がコンクリートの打設回数が減るためコストが安くなるからです(一条工務店の場合は安くなりません)。
丈夫な基礎であるかは建物に置き換えると分かりやすくて、建物の一階は部屋毎に壁が構造区画になっていて天井には二階を支える梁がありますが、これを逆さまにして基礎を考えると、手抜きされた基礎は天井の梁がない建物と同じで構造的に成り立っていないのです。
基礎は田の字になっていないといけないという言葉がありますが、これは建物の一階の壁の下には必ず建物の過重を支える梁として基礎の立ち上がりが必要だという意味で、通常の基礎では点検用の人通口は補強筋を入れた上で必要最低限にする必要があります。
ただ、手抜きされた基礎では人通口という概念すらないほどに一階の壁の下に基礎の立ち上がりがない(=梁が切れている)ため、基礎の底盤を建物の天井に置き換えて考えてみると手抜きされた基礎は天井に梁がない建物と同じだということは素人でも理解できると思います。
耐震等級3相当とアピールしても建物は六面体ですから壁の耐力壁が多いといっても壁は建物の四面でしかなく、残りの二面である基礎と天井がガッチリしていなければ耐震性の高い建物であるとは言えないのです。
最後に
大手ハウスメーカーは構造の型式認定を取得しているためハウスメーカーの設計ルールを守れば耐震等級3が取れるケースが多いですが、施主の希望によっては開放感を優先して長期優良住宅の申請に必要な耐震等級2まで許容する大手ハウスメーカーもあると思います。
残念ながら設計の自由度が高いとアピールしている軸組工法の地場工務店やローコスト系ハウスメーカーでは耐震等級は最低の1が普通であり、さらに木造二階建ての場合は建築確認申請において耐震性の審査すらされないため耐震等級1を満たしているかも怪しいです。
一方、大手ハウスメーカーは建物の規格が元々高いため耐震等級2以上が必要な長期優良住宅に標準対応ができますが、長期優良住宅には気密性能の基準が設けられていないため、長期優良住宅は冬に暖かくて夏に涼しい家ということではありません。
また、フラット35を借り入れた場合ではコンクリートのかぶり厚さ等が建築基準法より多めに求められますが、コンクリートの呼び強度やかぶり厚さによって基礎コンクリートの寿命が決まりますから、30年以上住みたいのであればコンクリートに拘ることも重要でしょう。
家作りは予算との兼ね合いがありますが、特にローコスト系住宅を建てる場合はコスト面から長期優良住宅の認定やフラット35を利用しない場合が多いと思いますから、その場合に施主は耐震性が役所に審査されないことを理解する必要があるでしょう。
住宅の依頼先をどのような価値観で決めるのかは人それぞれですが、まず耐震性と耐久性が優先的にあって、その上にデザインなどの嗜好で判断されるのは良いと思いますが、耐震性や耐久性より別の価値観が優先されることは私は良いとは思いません。
台風などで水害が発生していることを考えれば、同じ天災といった意味では地震もまたいつ起きるかわからないと思います。優良な家作りの依頼先を見定める際に簡単は方法は「耐震等級3」が取れるか、「気密測定」をしているかの2点が分かりやすいと思います。
最近では意識の高い地場工務店やローコスト系ハウスメーカーでは、二階建ての木造住宅においても許容応力度計算による構造計算を自主的に行っているケースがありますから、日本の家作りは数々の地震を経験して徐々に良くなっているのかもしれませんね。
本日は以上でございます。