はじめに
主に地場の工務店向けのプロの専門誌である建築知識ビルダーズの46号を読んでみました。プロ向けとは言えこれから特に工務店で家造りをする施主にも非常に参考になると思います。
高気密高断熱住宅について惜しみなく最新の技術が掲載されておりますので、本日はその中で気になった・面白かった部分の感想を述べてみたいと思います。
なお、高気密高断熱住宅に注力している住宅会社は、高耐震・高耐久はまず当たり前にやっている可能性が高いため、住宅会社選びの1つの選定基準になると思います。
ラファエル設計
新住協に加盟している栃木県のラファエル設計さんの特集は面白かったです。全部ではないと思いますがラファエル式全館空調(以下、R式)についてかなり踏み込んで情報公開をしていました。
私は2010年には電気工事士を取得して自力で小屋裏エアコンをやっていたため、他の空調方式の画像をみると大体の仕組みが理解できますがR式だけは仕組みが謎でした。
Twitterで公開されていた情報ではエアコンの設定温度が28℃と高いのにサーモオフせずに相対湿度が50%前後までしっかり除湿できていることが非常に不思議でした。
そして、Twitterに日立のワイヤードリモコンの画像があったため業務用エアコンを使っていて家庭用の壁掛けエアコンを使った全館冷房とは違う方式だと推測していました。
今回、公開された情報をみて仰天しました。業務用の壁掛けエアコンだと思っていたら、なんと床下にボックス型のエアコンがあり、初期のYUCACOシステムの様な構成でした。
(2021/09/04加筆)ラファエル設計のTwitterの情報から、再熱除湿を用いない屋根面の太陽熱まで利用した空調であることが判明。環境創機の「そよ風」に近いシステムなのかも知れません。
床下のエアコンで作った冷風をダクトのようなもので二階の天井まで吹き上げています。各部屋への冷気の供給は各部屋から排気量を多くしてドアのアンダーカットから吸込む方式のようです。
床から排気しているため天井付近が暑くなるではないかという点においては、人が生活しているのは床に近い部分であるためそれほど気にならないのではないかと思います。
各部屋の床からの排気を床下のエアコンにリターンさせている部分までは公開されていませんが、謎に包まれていたR式全館冷房の概要は理解することができました。
計画換気の5倍近い大量の空気を循環させるR式は、私の行っている原則はファンやダクトを利用せずに温度差で空気を動かすF式とは対極にあると思います。
ただ、ワイヤードリモコンを用いない家庭用の壁掛けエアコンを使った小屋裏エアコンではサーモオフしやすいため、割り切って業務用エアコンを使っているR式は賢いと思いました。
業務用エアコンは毎年モデルチェンジをするわけでもないでしょうから価格もこなれています。プロの方は無理に家庭用の壁掛けエアコンを使わなくても良いのではないかと私は思っています。
謎に包まれていたR式について、詳しく知りたい方はぜひ建築知識ビルダーズ46号をお買い求めになるといいでしょう。非常に詳しく解説がされています。
さて、ラファエル設計というと住宅展示場の家のエアコン室外機の数で家の性能を判断するという面白い視点の話を公開されていますが、それはちょっと違うのかなと思っています。
熱収支の計算から考えればそんな大量のエアコンがなくても冷暖房できることは明らかです。ただ、住宅展示場は個別接客室の温度を色々なお客さんに合わせる必要があるだけだと思いますよ。
凰建設
岐阜にある凰(おおとり)建設の専務、森さんがパッシブ換気について記載されていましたが非常に参考になりました。改めて日本のトップレベルの工務店だなと思いました。
省エネを考えるとファンの消費電力の大きい一種熱交換換気と消費電力の少ない三種換気では三種換気に軍配があがるという話がシミュレーションで示されていました。
やはり、一種熱交換換気扇は簡単に住み心地を良くするための快適装置であり、冷気がダイレクトに入ってくる三種換気の場合は設計力が問われるなと思いました。
北海道の冬のように温度差があるとファンがなくても空気の上昇でパッシブ換気を行っているケースがありますが、凰建設はこれを温度差の少ない温暖地で実践しています。
換気は機械換気という固定概念をもった人が多い中、機械を使わない換気のノウハウをふんだんに公開されていました。真似できる住宅会社がほぼないような気がしますが。。
また、北海道のパッシブ換気のように常に給気口は床下や一階というわけではなく、冷房時は二階の給気口に切り替えるなどノウハウがあるということも書かれていました。
JIN設計工房の小森さんが先日にYoutubeで換気装置のないWB工法について解説していましたが、WB工法ももしかしたら温暖地のパッシブ換気の一種なのかもしれません。
テープとシートまみれの家
ネオマフォームを使った付加断熱の施工について詳しく記載されていましたが、超気密施工のためにどれだけテープとシートを使ってるのかと、逆に違和感を感じてしまいました。
気密ラインが、室内側の防湿シート、構造用面材、付加断熱のネオマフォーム、防水シートと3重になっており、シートが2枚、テープが4回施工されています。
超高気密住宅は素晴らしいと思う反面、職人不足が進む中、現場でこんなに手間のかかる施工については、超高気密競争の弊害とも言える気がします。
そもそもネオマフォームの施工マニュアルではテープを何重にも貼るという施工を示していませんし、こんな手間な工法は何とかならないものかと思ってしまいます。
C値は低いに越したことはないですから新住協が開発したボード気密工法のように、防湿層と気密層を分離して気密施工を簡単にするような、新しい発想が生まれるといいですね。
最後に
本日は建築知識ビルダーズにて最先端の空調や施工技術などを学ばせて頂きました。ただ、これが未来も最先端なのかといわれるとそうではないのかもしれません。
家作りには色々な考えがあって正解はありませんが、空調の簡易さや省エネや防蟻を考えると小屋裏エアコンや床下エアコンを採用する住宅会社は減っていく可能性もあると思っています。
小屋裏エアコンは夏型逆転結露の考慮が必要であり家庭用エアコンを使った小屋裏エアコンではサーモオフが起きやすく気温の低い梅雨は相対湿度を60%以下に落とすことは結構難しいようです。
家が小さい都市部では小屋裏空間は収納として重宝しますから、天井や桁上で断熱気密をして小屋裏に二階の天井から排気をすれば小屋裏は劣悪な温熱環境にはならないと思います。
また、床下エアコンをするにはシロアリリスクが増える基礎断熱が必要となり、以前に私は基礎で気密をとって床で断熱したほうが施工が簡単で防蟻にも有利と妄想したことがあります。
通常の床下通気のある床断熱の場合、床下には外気が導入されてホコリ等で汚れるということと、床下へ侵入する場合があるアメリカカンザイシロアリへの考慮が必要になってくるでしょう。
よって、基礎で気密は取るものの基礎断熱を止めて床への付加断熱を分厚くしたほうが、特殊な基礎や高額な防蟻断熱材が不要になりますから色々な面で有利ではないでしょうか。
未来には換気については機械換気が当たり前という先入観から卒業してパッシブ換気を当たり前に行う時代がくるかもしれません。
私は大自然の山の中に少しばかりの土地を持っているため今後に自分で小屋を建てる予定ですが、今回の建築知識ビルダーズを読んで非常に刺激を受けました。家作りは奥が深すぎますね。