伊礼智さんの「心地よさのものさし」を読んで

考察

はじめに

家作りにおいて建築家の伊礼智さんを信奉している人は多いのではないでしょうか?

この度、伊礼さんが新しく本を出版されたので早速読ませて頂きましたが、ある意味で伊礼信者を裏切る内容であり、一方で伊礼さんの進化と懐の大きさを思い知らされる内容でした。

今回の書著は間取りなど詳細な記載もあり、どの家も窓から眺める景色は絵画のようであり、照明を含めた空間の陰影はみごととしか言いようがありません。

私は普段は家の数値や性能について情報発信することが多いですが、伊礼さんの書著「小さな家 70のレシピ」を読んで痛く感銘を受けた1人です。

家作りではデザインも性能もどちらも大事だと思いますが、コスト面やセールストークなどが相まって、どちらを選択するのかという対立になってしまうことが多いのかなと思います。

デザインと性能は対立するのか?

ハイレベルな設計ではデザインと性能(特に温熱)は対立しないと思います。一方でコスト面ではデザイン料と性能にかかるコストは対立する可能性はあります。

上記は今回の著書の前書き部分であり、以下のように明言されています。

今や伊礼智設計室の性能の「ものさし」は耐震等級3(許容応力度計算による)、外皮性能はG2となりました。

これは画期的な発言であり、一方でこれまで伊礼さんを信奉してきた空間デザインを重視する住宅関係者にとって激震を生む結果となると思います。

本書で紹介されている住宅にはUA値・C値・ηA値などが記載されていてこれまでの伊礼さんのイメージを覆す内容となっています。

家の外との繋がりを含めた家作りのデザインについて、伊礼さんのお弟子さんや伊礼さんを信奉する人は多く、過去の伊礼さんの姿を模倣している人はたくさんいるのではないでしょうか。

ただ、今回の著書で伊礼さん自身が高性能な住宅を取り入れ家作りを進化させていることを明言していることから、梯子を外された格好になってしまった人も多いのかなと思います。

ぜひ、この著書を読まれて自分自身の知識をブラッシュアップすることをお勧めします。もし、デザインと性能が矛盾すると思うなら想像力を高めると良いのかも知れません。

困るのはデザイナー住宅と大手ハウスメーカー?

これまで、家作りは性能よりも家の外との繋がりが重要と言ってきた住宅関係者は多いと思いますが、今回の伊礼さんの著書でその根拠を完全に失ったと思います。

もちろん、予算に限りのある中でデザインと性能のどちらを選択するかという議論は残ると思いますが、高価格帯でデザインと性能のどちらを優先するかという話はもはや通用しないでしょう。

これまで伊礼さんの情報は、某設計士の言葉を借りれば家の断熱気密性能の低いデザイナーズスカスカ住宅とラーメン構造を得意とする大手ハウスメーカーに利用されてきたと思います。

ラーメン構造(ドイツ語の額縁という意味)とは柱と梁を剛接合して壁の少ない窓の大きな開放的な空間を作る、主に大手ハウスメーカーが得意とする工法です。

つまり、開放的な空間をセールスポイントとして、自社の得意でない断熱気密を回避するための説明として、家作りは性能よりも空間デザインが重要だと言ってきたということです。

自社が「出来ない・得意ではない」ことを、「必要がない・もっと重要なことがある」と話をすり替えるようなセールストークは消費者のためになっているのでしょうか?

窓の性能が良くなくても家の外の景色を含めて家の豊かさは性能だけではないと言ってきた庭との繋がりを求める低性能窓の大開口住宅は完全に根拠を失うことになったと思います。

なぜなら、そのような設計をしていた伊礼さん自身が家の性能に目覚め家作りを進化させてしまったからです。

多くのデザイナー住宅やラーメン構造の大開口住宅は伊礼さんの過去の姿を追いかけている間に、伊礼さん自身が数年前からどんどん進化していることに気が付かなかったのでしょう。

高価格帯であれば家のデザインと性能が矛盾するのは不自然です。例えば大開口住宅にトリプルサッシを採用すれば暖かくて景色の良いデザインと性能が両立した家ができるからです。

問題となるのは予算不足の施主

予算が十分にあって高価格帯で家を建てる場合は家の性能とデザインが両立できないことはおかしいと言えますが、予算が足りないとデザインと性能が矛盾する場合が多いと思います。

無理のない範囲で家を小さく建てることで、家の性能と空間デザインを両立させる方法があると思いますが、はじめて家を建てる多くの方は家を大きくしたいのではないでしょうか。

予算が苦しい施主ほど、家の性能とデザインを矛盾させないためには家の外構まで含めて施主が勉強するしかないと思います。

断熱気密面においても、グラスウール断熱で気密測定をしない住宅会社の場合は家の暖かさを期待する施主との間で施工品質のトラブルが後を絶たない状態です。

特にローコスト住宅であれば、施主が勉強するしかないと思いますが、その場合は基礎断熱でA種1Hの現場発泡ウレタンを採用する方法が近道なのかなと思います。

結局、断熱材は何が良いの?
初めて家を建てる時にはどの程度の断熱性能が必要か、壁の中で結露しないか、など悩みますよね。断熱は壁だけでなく天井や床にも必要ですが、今回は壁内の結露について考察します。 壁の構成の確認 上記の画像は一条工務店のウレタン断熱材を使...

そして、外構や庭造りはDIYでコツコツやるしかないのかなと思いますが、それはそれで楽しいのかも知れませんね。

伊礼さんも空調には悩んでいる?

伊礼さんは温暖な沖縄出身ということもあって、家の断熱気密を重視してこなかったというようなことが著書に書いてありました。

そして、今回の著書を読ませて頂いて、伊礼さんはエアコンの設置方法や使い方に試行錯誤しているとご本人も仰ってました。

私も家中のエアコンを1台にするようなことを目的とする家作りには違和感を覚えますし、バックアップとして補助エアコンはあった方が良いと思います。

ただ、著書の中で空調は機械式のファンによる空気の移動が必要だと仰ってましたが、家の中で温度差による自然対流を利用しても良いのかなと私は思います。

空調に関してはスーパー工務店と呼ばれるレベルでも、もしかしたら現状ではまだ理論が完成していない可能性が高いと私は想像しています。

最後に

今回の伊礼さんの著書を見て、これまで伊礼さんを信奉してきた人は路頭に迷うのではないか?と思うほどに衝撃的な内容だと思います。

しかし、高価格帯においての家作りではデザインと性能を両立させている設計者は他にも現れているため、家作りは次のステージへと移っています。

過去の伊礼さんの姿を追いかけて模倣する時代はすでに終わっていると思います。それを知るためにも今回発売された著書を読まれると勉強になると思います。

伊礼さんはもともとOMソーラーなどで温熱にも取り組んでいましたし、日本エコハウス大賞の審査員になってからずいぶんと考えが変わったようです。

これを方針転換と受け止めるか進化と受け止めるか色々とあると思いますが、私は伊礼さんはいつまでも向上心のある偉大な人なんだろうなと思っています。

 

本日は以上でございます。

タイトルとURLをコピーしました