はじめに
まったく需要がないような気がしますが、本日は温暖地の三種換気を採用した標準モデルの間取りにおけるUa値とQ値の換算式は実際の家ではあまり正しい換算ができないですよという話です。
その前になぜQ値やUa値を使うのかを理解すると良いと思います。住宅の断熱性能の目安として利用する人が大半だと思いますが、Q値は省エネやエアコン容量の計算にも使えるのです。
さて、以下が近畿大学の岩前教授が公開した換算式ですが、実際に建つ家では相当にズレます。
(Ua値+0.13)÷0.37=Q値
上記の換算式を変形してQ値からUa値を求めた場合も実際の家では相当にズレます。
Q値×0.37-0.13=Ua値
そして、一種換気の家はUa値からQ値へ換算不可能です。私の住んでいる平屋のi-smartⅡではQ値は0.91WでUa値は0.18Wですが、Ua値から換算するとQ値が0.83Wと良くなってしまいます。
なぜ、換算がしっかりできないかと言うと、同じ床面積でも家の形によって外皮の熱損失は異なる点とQ値には含まれますがUa値には含まれない換気の熱損失の補正が大雑把であるからです。
今回は平成11年省エネ基準(次世代省エネ基準)におけるQ値と平成28年省エネ基準におけるUa値の換算を行いますが、実はどちらの基準も目標としている家の断熱性能は同じものです。
家の燃費や空調設備の計算をしたいという方は、IBECの住宅の省エネルギー基準の解説をお買い求めください。画像の本は私の持っているH11年省エネ基準当時の解説書です。
この本が発売された1999年には現在みなさんが断熱などで悩んでいることの大半は既に答えが書いてあるのですが、専門書を買う人が少ないためか情報があまり浸透していない気がします。
また、義務化が出来なかったH28年省エネ基準はH11年省エネ基準よりも後退している内容であるとも言えるため、私のようなH11年基準を知っている人の方が省エネに詳しかったりします。
三種換気の場合
まずは、換算式の細かい数値の意味をみてみましょう。
(Ua値+0.13)÷0.37=Q値
0.13を足している理由は換気の熱損失分であり、0.37で割っている理由は温暖地の平成11年省エネ基準の基準Q値2.7Wの逆数(1÷2.7)が0.37であるからです。
そして、次世代省エネ基準の解説書にある温暖地の損失計算例は以下のようになっています。
部位 | 熱損失量 |
貫流熱損失(外皮面積299.31m2) | 270.63W |
換気熱損失(気積296.29m3) | 51.85W |
熱損失合計 | 322.48W |
Q値(床面積121.73m2) | 2.65W |
上記式を元にUa値を計算すると、H11年省エネ基準が想定していたUa値は0.9Wであったことがわかります。
貫流熱損失270.63W ÷ 外皮面積299.31m2 = 0.90W
6地域の基準Ua値0.87WはQ値計算と比較して基礎コンクリートの熱損失計算の一部を省略した関係から少し熱損失が減ったのだと思います。
省エネ基準のUa値に換気の熱損失を加えてみると以下のようにQ値は2.78Wとなり、標準モデルでさえ元々のQ値である2.65Wから既にこの時点で5%ズレています。
(Ua値0.90+0.13)÷0.37=Q値2.78W
三種換気において、Ua値から正しくQ値へ換算をしたい場合は以下の式を使うべきでしょう。
(Ua値×外皮面積+気積✕0.5回✕0.35)÷床面積=Q値
Ua値×外皮面積は外皮からの熱損失の総量で、気積✕0.5回✕0.35は換気の熱損失であり家の中の空気の量である気積は天井高さ✕床面積、0.5回は換気回数、0.35は空気の容積比熱の定数です。
では、上記式を使ってUa値からQ値へ換算をしてみましょう。
(0.90×299.31+296.29✕0.5回✕0.35)÷121.73=2.64W
小数点第二位の計算誤差はありますが、元々のQ値2.65Wに戻りました。
一種熱交換換気の場合
一種熱交換換気は省エネであると思って熱交換率に拘る人が多いと思いますが換気扇の消費電力が高いと省エネ効率は下がり、むしろ熱交換率が低くても消費電力が少ない方が良かったりします。
一種換気の住宅はUa値からQ値に変換することが難しい理由は、一種熱交換換気扇の熱交換率を計算に入れた上で実質的な換気回数(見かけの換気回数)を求める必要があるからです。
見かけの換気回数とは通常の0.5回の換気回数に比べて熱交換換気扇を使うと実質は0.2回の換気になりますよという意味ですが、以下の様に複雑な式であるためExcelなどを使わないと苦しいです。
換気回数ー温度回収率✕有効換気回数+(換気扇の消費電力増加分✕電気の一次エネルギー係数)÷((空気の比熱容量✕気積✕暖房機器の2次エネルギー係数✕暖房設備の一次エネルギー換算係数))×暖房期間における換気扇の年間稼働時間
上記の式でも私が分かりやすく変換していますが、元々の計算式をみると私が二軒目の家を建ててる最中に計算で疲れ果てたという意味がわかると思います。
詳細を知りたい方は以下をご覧ください(私のExcel計算シートに具体的な計算式があります)。
さて、A住宅とB住宅という2種類の換気扇を使った計算をしてみますが、有効換気回数の計算については一時間あたりの換気量は気積の半分とした上で有効換気換気率は90%とします。
項目 | A住宅 | B住宅 | 3種換気 |
換気回数 | 0.5回 | ← | ← |
有効換気回数(換気量✕有効換気率÷気積) | 0.45回 | ← | ー |
換気扇の温度回収率 | 90% | 70% | ー |
三種換気と比較した場合の増加消費電力 | 70W | 30W | 20W |
空気の比熱容量 | 0.35W/m3 | ← | ← |
気積(床面積×天井高さ) | 296.29m3 | ← | ← |
暖房設備の効率(COP4とした場合の逆数) | 0.25 | ← | ← |
暖房設備の一次エネルギー係数(電気の場合) | 2.71 | ← | ← |
暖房期間における換気時間(Ⅳ地域の場合) | 0.122 | ← | ー |
見かけの換気回数 | 0.424回 | 0.326回 | ー |
換気の熱損失 | 44W/h | 34W/h | 51W/h |
では、上記を踏まえてA住宅をUa値からQ値へ補正してみましょう。
部位 | 熱損失量 |
貫流熱損失(外皮面積299.31m2) | 270.63W |
換気熱損失(一種熱交換) | 44W |
熱損失合計 | 314.63W |
Q値(床面積121.73m2) | 2.58W |
(0.90×299.31+44W)÷121.73=2.57W
はい、しっかりUa値からQ値に戻りました。当たり前ですけど。。
換気の計算を見ていただけると分かりますが、ロスガードのような90%の熱交換率があっても消費電力が90Wと大きい換気扇は温暖地では、あまり省エネ効果がないということです。
むしろ、熱交換率が低くても消費電力が小さい換気扇の方が有利であることが分かります。ここは重要ポイントで熱交換率だけでなく換気扇の消費電力が重要ということです。
ただ、家の大きさやダクトの曲がり具合にもよりますが、私の自宅でロスガードの消費電力を測ったところ50W程度でしたので実質の換気回数は2.36回で換気の熱損失は24Wと計算されます。
そして、上記の計算式をみてみると換気扇のメーカーが隠していることがありまして、COP(暖房の効率)が低い状態で見かけの換気回数を計算しています。
確かに寒冷地のヒートポンプ機器のCOPは2程度だと思いますが、温暖地の暖房のCOPは4程度になると思われますから、温暖地では熱交換換気扇の省エネ性はあまり効果がありません。
上記の式は暖房をCOP4で計算していますが、オイルヒーターなどのCOP1の機器を使った場合はそれぞれ、A換気扇(換気回数0.177回・熱損失18W)、B換気扇(換気回数0.220回・熱損失23W)と、熱交換率の高い換気扇が有利に計算されます。
換気扇メーカーのカタログをみると一種熱交換換気扇を利用すると見かけの換気回数が0.2回程度に減りますよと書いてあると思いますが、これはスペックマニアを誘惑するセールストークです。
恐らく高額な熱交換率の高い換気扇を販売するためにエアコンなどのヒートポンプ暖房と併用するとどうなるのかということは伏せているのではないかと思います。
ただし、私はSAからの給気温度という住み心地を考えると三種換気より一種熱交換換気が優れていると思いますから、特に温暖地については個人個人の好みで考えれば良いでしょう。
こういう記事を書くとロスガードは省エネではないとか一種換気は不要といった早とちりをする人がいるので、住み心地を含めて考えると一種換気は良いものですと申し上げておきます。
このように換気の計算を知れば、換気扇メーカーのカタログの数値だけでは分からないことや換気扇メーカーに有利に計算されていることが分かってきます。
また、詳しい方なら上記の見かけの換気回数の計算式に気密性能が入っていないことに気が付くと思いますが、H21年の省エネ基準改正により気密性能の基準は廃止されてしまいました。
省エネ基準通りに計算すると見かけの換気回数が大きくでてしまうため、計算ソフトによっては漏気の補正をしていますが、私の提供している計算シートでも同様に漏気の補正をしています。
やはりQ値が使いやすい
これまでの項目をみればUa値からQ値に正確に換算することは可能だと分かりますが、簡易式では実際の住宅ではUa値からQ値にはまったく換算できないことも分かります。
そして、Q値が分かればご自宅の省エネ計算ができるようになり、暖房についてはエアコンのサイズなどの計算が可能となってきます(冷房は除湿負荷などの計算が必要)。
私がQ値を使い慣れているからUa値が嫌だと言っているわけではなく、両方とも計算過程はほぼ同じなのですが、換気を含むか含まないかは省エネ計算をする上で便利さが全然違うのです。
一方でH28年省エネ基準が優れている点は換気を除外して一次エネルギー側で換気から給湯まで含めて省エネ計算を行うということでしたが、結局は躯体部分のUa値だけが独り歩きしています。
さて、気積と床面積については床下や小屋裏を換気経路とした空調方式を採用した場合、省エネ基準では気積には含めても、天井高さが2.1m未満の床下や小屋裏は床面積に参入はできません。
この場合は屋根断熱と基礎断熱を採用した住宅のQ値が悪く出てしまうため、過去には北海道庁が主導している北方型高気密高断熱住宅において、気積計算の天井高さを2.6mとしていました。
現在は国の省エネ基準に従って北方型住宅は天井高さの補正はやめていますが、私は補正した方が以下のようにQ値の活用ができると思っています。
Q値✕床面積=家全体を1℃上昇させるためのエネルギー量
Q値を知っている人がUa値にしっくりこない理由はQ値は空調計算にそのまま使えるにも関わらず換気の熱損失を含まないUa値は空調計算にそのまま使えないからです。
自宅の床面積を答えられる人は多いと思いますが、自宅の外皮(天井・壁・床・窓・玄関ドア)面積を答えられる人は中々いないと思いますから、いまだにQ値が使われているのだと思います。
自宅のQ値を知らないとなると自宅の室温を1℃上昇させるにはどれだけエネルギーが必要かという基本的な空調計算ができなくなってしまいます。
例えば、床面積120m2、Q値1.6W、最大温度差20℃、エアコン効率COP4、電力単価@27円の場合のエアコン能力と消費電力および電気代が計算できます(条件が一定な定常計算ですが)。
120m2×1.6W=192W
→ 家全体の室温を1℃上昇させるために必要なエネルギーがわかる
120m2×1.6W÷COP4=48W
→ 家全体を室温を1℃上昇させるために必要な消費電力がわかる
120m2×1.6W×20℃=3840W(3.84kW)
→ エアコンは14畳用(4.0kW)が必要であることが分かる
3.84W÷COP4×@27円×24時間×30日=18,662円/月
→ 24時間全館暖房した場合の最大の電気代がわかる
Q値は色々な計算にすぐに利用できるためUa値より便利なのです。
最後に
本日は熱交換率の高い一種熱交換換気扇をつければ省エネになるという思い込みについては実際の消費電力次第であるという事と一種換気は快適装備だと思った方が良いという事を書きました。
そして初めて家を建てる方が陥りやすい事はUa値等の数値に囚われたり自然素材を利用すれば加湿不要とかシックハウス予防ができるといった業者のセールストークを信じてしまうことでしょう。
例えば住宅では日射制御・断熱・気密は非常に効果が高いにも関わらず施主の評価は低くて、効果の低い通風・調湿・蓄熱・遮熱・自然素材の利用などは逆に施主に過大評価されています。
無垢材をふんだんに使いましょうなんてことをいう住宅業者がいますが、ヒバなどを含む針葉樹を家の内装に大量に利用すれば自然素材であってもシックハウスを招きます。
住宅依頼先を選択するときに目立たないけれども効果の高いことを説明している会社と効果の低いことを盛んにアピールしている会社があれば、それは1つの判断材料として考えて良いでしょう。
また、施主は計算まで出来る必要はなく専門家を探す知識を学ぶべきという意見は一般的には正しいと思いますが、施主の中で誰かが数値をチェックできなければ住宅業界に騙されてしまいます。
計算ができる人にはエアコンのサイズや換気装置の効果など以外にも、世間の家作りの常識は販売者側のセールストークを信じた消費者によって大半が作られているという現実が見えています。
施主の中で数値計算が出来る人はそれをインターネットに公開して、住宅業界の常識やセールストークが正しいのか解説してみてはと思いますよ。
本日は以上でございます。