はじめに
グラスウールは正しく施工すれば安くて良い断熱材だといわれますが職人不足が加速していく中で施工手間や工期短縮という観点からみるとグラスウールが最適解なのかは疑問に思います。
大半の住宅会社は袋入りグラスウールを採用していますが、断熱材がしっかりと充填されていなかったり、防湿気密が取れていなかったりと、施工精度を求める消費者とのトラブルが絶えません。
もちろん、しっかりグラスウールを施工できる住宅会社は素晴らしいですが、国全体の省エネを考えるのであれば、扱いの難しいグラスウールの利用に拘ると省エネ住宅の普及が遅れるでしょう。
一方、ローコスト系住宅会社を中心に現場発泡ウレタンと屋根・基礎断熱を組み合わせて、比較的簡単に省エネ住宅を作っていますから国全体の省エネを考えるとこちらのほうが優れています。
完璧な断熱材は存在しないと私は考えますが、本日は近年温暖地でも普及してきている付加断熱に加えてグラスウールと現場発泡ウレタンの違いについて考えてみたいと思います。
素人の考察ではありますが、私は在来とツーバイフォーを各2軒、グラスウール・現場発泡ウレタン・フェノールフォーム・EPS・ウレタンフォームを利用した家づくりをした事があります。
付加断熱ブーム?
私は四軒の家を建て二軒目以降の家は付加断熱をしたG3の性能です。付加断熱については個人的にはYESですが、国全体の省エネを考えると初期コストが上がり普及型とは言えないと思います。
そして、付加断熱をすれば建物の寿命が延びるという点にはついては、2000年頃に外張り断熱と充填断熱の優劣を論じた対決を思い出します。
外張り断熱のブームを牽引し充填断熱を批評した「いい家が欲しい」という書籍に対抗して西方里見先生の「外断熱が危ない」という充填断熱を擁護する書籍が対立した時代がありました。
20年前の話ですからいま家を建てる人は知らない話だと思いますが、この経緯を知っていると付加断熱が絶対に必要だという人はなぜ充填断熱を廃止すべきと言わないのかと矛盾を感じます。
外張り断熱としての付加断熱が絶対必要というのであれば充填断熱をやめて、以下の表の④にある完全に外張り断熱のフェノールフォーム120ミリ断熱にすべきというなら話は分かります。
壁の断熱構成 | 内容 | 熱貫流率 W/K |
①充填断熱のみ | HGW16K 120mm | 0.390 |
②外張り断熱のみ | フェノールフォーム 50mm | 0.351 |
③付加断熱=充填断熱+外張り断熱 | ①+② | 0.188 |
④外張り断熱のみ | フェノールフォーム 120mm | 0.157 |
充填断熱を残しながら付加断熱が必要という論法が私には良くわからないのです。コストの問題と言うのであれば付加断熱をしない充填断熱の家を否定できないはずです。
外張り断熱VS充填断熱の時代に壁内結露や建物の耐久性についての議論は出尽くしていると思います。それをなぜ今更蒸し返すのでしょうか?断熱層ではなく蓄熱層だというのでしょうか?
充填断熱のみより付加断熱があったほうが良いなんてことは分かりきっています。ただ、設計や施工が良ければコストパフォーマンスの高い充填断熱でも問題ないと過去に結論付けたはずです。
逆に付加断熱が絶対に必要という充填断熱を併用する住宅会社は外張り断熱のみでフェノールフォーム120mmを採用している住宅会社からはそれじゃ駄目だと言われると思いますよ。
本日のブログのタイトルで「付加断熱が危ない」と記載した理由は、付加断熱をしない家を否定するような風潮はむしろ省エネ住宅の普及を遅らせるため危険だと考えているからです。
もちろん、付加断熱をした高性能住宅はトップランナーとして家作りをけん引するという重要な役割がありますが、一方で普及版の高性能住宅についても配慮をして欲しいと思っています。
グラスウールについて
新住協の会員を中心にグラスウール推しの住宅会社が口を揃えて言うのは、現場発泡ウレタンへの否定です。後述しますが、それには多分に誤解があると私は思っています。
グラスウールをツーバイフォー工法で利用する場合は問題点が少ないと思います。ツーバイフォー工法では壁の気流止めとファイヤーストップが普通に実現するからです。
在来工法における気流止めとファイヤーストップについては新住協の鎌田先生が軸組工法の弱点を改良した新在来木造構法が硝子繊維協会のからもGWS工法として紹介されています。
ただ、ウレタンは燃えると言うグラスウール推しの住宅会社の中には省令準耐火構造を標準採用していない場合があり、防火構造を無視した断熱材単体での比較は意味がないと私は思います。
安価で耐火性に優れるグラスウール(細かくいうとロックウールの方が耐火性が良い)を使って、高性能住宅を普及するという鎌田先生の思想はかなりの影響を与えたと思います。
一方、当初の新住協はフェノールフォームを認めていなかったことからも、鎌田先生の言うことが絶対であるといった問題も起きているのでしょうか?
しかし、いまだにグラスウールを採用していて気密測定をしない住宅会社が大半であること、職人不足から正しい施工が温暖地の大工さんを中心に浸透しないという問題があると思います。
そして、在来工法では火災保険が安くなる省令準耐火仕様において偽装問題が起きやすくなります。これは壁の上部の梁まで石膏ボードを張り上げにくい軸組工法の問題点だと言えます。
現在は改良されているかもしれませんが、近年に鎌田先生が提唱している階間エアコンは、二階の床にブースターファンを設置する関係から省令準耐火が取りにくいという情報もあります。
グラスウールは正しい施工をすれば安くて良い断熱材だと思いますが、在来工法とグラスウールを使うから、施工精度がピンキリになってしまうというジレンマが起きます。
グラスウールをしっかり施工できない住宅会社は潰れてしまえば良いという意見もありますが、それでは需要と供給のバランスが取れないため国全体では成り立たない議論でしょう。
加えて断熱性能の低いグラスウールを使って高性能化を目指せば柱の外に付加断熱、室内側には調湿シートや配線胴縁、更に夏型逆転結露に備えた内付加断熱などコストと手間が増加します。
このようにグラスウールを使った住宅の高性能化は地域や個人といったミクロの視点では最適な場合があっても、国や社会全体の省エネというマクロの観点では矛盾が生じていると思います。
もちろん、地域ごとにグラスウールを使った高品質な家作りを否定するものではなく、地場の工務店が自分にできることを精一杯に取り組む姿勢は尊敬に値します。
しかし、マクロな視点で脱炭素などの環境面から家作りを考えるのであれば、工場生産比率の低い軸組工法や精工精度がバラつくグラスウールが果たして有効な方法なのか私には非常に疑問です。
また、在来をオープン工法と称する人がいますが、スーパー工務店は自社から1時間程度の範囲しか対応しないケースがあり後継ぎのいない工務店では将来誰が面倒を見てくれるのでしょうか。
大手ハウスメーカーの型式認定工法は将来メンテナンスに懸念があると言う地場工務店がありますが、付加断熱など特殊な工法を採用していれば、どっちもどっちだと私は思います。
スーパー工務店のセールストークの行き過ぎは良くないとは思うものの、逆に言えば過去から大手ハウスメーカーなどのブランド戦略が地場工務店に不当な差別を招いてきた可能性があります。
現場発泡ウレタンについて
まず、現場発泡ウレタンには種類があり、それが一括りに説明されていますが、分類すると以下のような形になると思います。
種類 | 発泡率 | 透湿抵抗 | 断熱性能 | 価格 |
A種3 | 100倍 | 低い | GW並み | 手間込みでGW並み |
A種1 | 30倍 | 高い | GW並み | 若干高い |
A種1H | 30倍 | 高い | 高い | 高い |
コストのやすいA種3はアクアフォームなどが有名だと思います。A種1はアキレスのエアロンFR-NF、A種1HはアクアフォームNEOなどが該当だと思います。
A種3は透湿抵抗が低いため、少し寒冷な地域では防湿シートが必要になりますし、現場発泡ウレタンを吹き付けるには柱の外に透湿抵抗の低いダイライトなどの面材が必要でしょう。
私は日本全体の省エネや脱炭素を考えるとすれば普及版の高気密高断熱住宅は気密の取りやすい基礎断熱と屋根断熱を採用したA種1若しくはA種1Hの断熱材を利用することにあると考えています。
100倍発泡を基礎断熱に使うと湿気でボロボロになると言われますが、夏にしっかり除湿している家ではそんなことにはなりません。私の二軒目の家で基礎の断熱補強に使って確認済みです。
暴論を言えば、夏に除湿をしない家は耐久性を語るには片手落ちではないかと思います。付加断熱やC値に拘っても夏に湿度をコントロールしなければ不完全な状態であると考えます。
また、土壌性のシロアリと飛来性のアメリカカンザイシロアリのリスクまで考えると床下の木材を防蟻処理するか、基礎で気密をとって床で断熱する(床下通気は考慮する)などが考えられます。
そして、現場発泡ウレタンは難燃性とは言っても単体では燃えます。耐火性に優れるグラスウール推しの工務店がこのことをしばしば指摘しますが、これはブーメランを食らうと思います。
グラスウールは単体では湿気に弱いため防湿シートが必要になる欠点のある断熱材であり、耐火性に優れるといいながら防湿シートというプラスチックを利用している点は非常に矛盾しています。
中にはグラスウールを採用する理由が雷にあった時の備えという人もいますが、そこまで言うのであれば木造住宅を建てない方が良い気がしますし、落雷時の防湿シートの性能維持は疑問です。
グラスウールは防湿シートが維持できなければ温暖地においても冬に内部結露することは明白ですから、火災や落雷で防湿シートが損傷すればグラスウールほど危ない断熱材はないと言えます。
完璧な断熱材がない以上、断熱材単体で評価することは無理があると思います。私は省令準耐火構造が取れている前提で断熱材を透湿抵抗で判断することが冷静な考えではないかと思います。
ただし、現場発泡ウレタンには1つだけ問題があると私は思っています。それは現場作業者の健康問題です。作業環境保全とともにこの点については注視すべきであると思います。
クリックしてanzentebiki_20140616.pdfにアクセス
また、現場発泡ウレタンが木材と分離できないからリサイクルができないという人がいますが、これは違うと思います。まず、中古の木材は新築住宅の構造材としてリサイクルされません。
通常は産廃業者の焼却炉で高温で燃やすことになると思いますし、家庭ゴミにおいてもプラスチックは燃えるゴミとして区分され、生ゴミの燃焼させるために必要になっています。
木材のリサイクルについてはMDFの原料や燃料チップになりますが、現場発泡ウレタンと木材は分離せず、焼却炉で高温で燃やすかRPF燃料としてリサイクルする方法があります。
環境問題について
ひと昔前までプラスチックを燃焼させると猛毒のダイオキシンが発生すると言われてきましたが、ウソがバレて最近では報道されません。環境問題には非常に眉唾物が多いと感じます。
ダイオキシン類には幅があって猛毒なものから毒性の低いものまでありますが、区別がされないまま我々が分別しているプラスチックゴミはいま世界の海に漂流して海を汚染しています。
これは日本で処分できなかったプラスチックゴミを燃料として海外に引き取ってもらったにも関わらず、海外で海洋投棄されているからです。環境への取り組みが環境を壊しているのです。
本来、プラスチックは燃やせば環境負荷が少なかったはずだったのに、マスコミがダイオキシン問題を煽り立てるため、プラスチックを分別してリサイクルするという妄想が生まれたのです。
現場発泡ウレタンについても同様でリサイクルしないもの=悪だという誤解が生まれています。先述した木材とウレタンを分離せずにRPF燃料とする技術が広まっています。
上記はNEDOの情報ですが、プラスチックはしっかり燃やさなければ環境問題を起こすということです。外国にプラスチックゴミを押し付けてきたエコという幻想はやめるべきでしょう。
考えてみれば、太陽光発電など自然エネルギーの発電量が拡大したとして資源のない日本は天然ガスや石炭を燃やさなければ国全体の発電量を賄えません。
石油は木材ほど環境循環が早くないため再生可能エネルギーとは言い難く、最善の策ではないかもしれませんがRPF燃料を使えば新たに燃やす石炭の量を減らすことができます。
既に家庭ゴミではプラスチックは分別されて処理されていません。高温の焼却炉で燃やすことでダイオキシン問題は過去のものとなっていますし、生ゴミを燃やすためには燃料が必要です。
また、私は二酸化炭素の排出が環境問題かどうかについては懐疑的です。環境問題というよりは中国やインドなどの台頭を防ぐという先進国に都合の良い持続可能な社会の構築だと思っています。
もちろん、日本はエネルギー資源の少ない国ですから、私は危機管理という意味で省エネ住宅には賛成の立場です。
最後に
鎌田先生が構築した新在来木造住宅は素晴らしいと思います。一方で新住協の工法を最上のものとしている限り、人口の大半が住む温暖地の高性能住宅の普及が遅れる現象が起きるでしょう。
各地域には少数ですが抜きん出て優れた設計者がいます。マクロな観点から高性能住宅の量産化を願う私とは理解し合うことは難しいと思いますが考え方は違えど私は彼らを尊敬しています。
また、自然素材を家作りに多用する住宅会社は新建材を批評することがありますが、私は現場で施工手間のかかる工法や建材と比較して、量産住宅や新建材は非常に重要だという立場です。
職人不足の中、多くの国民に省エネで冬暖かく夏涼しい住宅を提供する。そうであれば自然素材は嗜好物であると思いますし、湿度コントロールせずに耐久性や調湿を語るのは無理があります。
「本物の家作り」とは国全体や社会といったマクロからみた場合と地域や個人といったミクロでみた場合では違うものだと私は思っています。両方とも正解ですし両面から見るべきでしょう。
脱炭素、持続可能な社会などは家作りのセールストークだと思います。過去のダイオキシン問題によるプラスチックの分別などの事例を見ても環境問題ほど怪しいものはないでしょう。
私は住宅の高性能化を願う立場ですが、それは家族が快適で健康に過ごしてほしいということと、エネルギーの危機管理として省エネ住宅が優れているという単純な理由からです。