はじめに
私は二軒目の家で小屋裏エアコンに挑戦しましたが、小屋裏エアコンを分類すると小屋裏と下の階の間に大きな開口がある「開放型」と開口が小さい「密閉型」に分類できると思います。
ここでいう開放型とはロフトのように下の階と小屋裏が間仕切りなく大きく開放されている場合であり、密閉型は小屋裏と下の階がダクトやガラリなど小さな開口で接続されているケースです。
私が提唱しているF式全館冷房は階段ホールエアコンだけだと誤解されていると思いますが、エアコンの設置場所は小屋裏でも構いません。要はF式は開放型の全館冷房方式だということです。
家庭用エアコンは温度センサーが付いていてエアコンの周辺が設定温度に到達するとエアコンの運転がストップ(サーモオフ)して送風状態になることが小屋裏エアコンでは特に問題となります。
小屋裏エアコンが難しいと言われるのは密閉型の方のことであり、サーモオフを回避するために様々な工夫が必要になりますが、一方で開放型の小屋裏エアコンは難しくありません。
ただ、開放型の小屋裏にする場合、自治体ごとに判断が異なると思いますが防火対策が必要となると小屋裏の壁や天井に石膏ボードを設置するなどコストアップになるでしょう。
また、冷気は下に落ちるため小屋裏にエアコンを設置すれば効率的に家全体を冷やせると言われますが、改めて考えると密閉型の小屋裏エアコンは上昇する空気の動きを遮っていると感じます。
小屋裏エアコンで誤解をしやすいのは、冷気を落とすと暖気が上がってくるのではなく、暖気を取り込むから冷気が落ちるということであり、これが逆になっていると上手くいかないでしょう。
なぜ、私がこのようなことが言えるかというと、私の二軒目の家は小屋裏への固定階段があり、入口にはドアがついていて、ドアを締めれば密閉型、ドアを開ければ開放型に出来たからです。
最初はドアを閉めた密閉型で大風量ファンで家中に除湿された涼しい空気を供給していましたが、ファンを使わない開放型でもうまく行くことがわかり、そこからF式全館冷房が生まれました。
開放型のエアコンの運転方法を理解してみると、エアコンの位置は小屋裏でも階段ホールでも良く、間取りも吹抜けがなくても、平屋でもマンションでも構わないということが分かりました。
さて、前置きが長くなりましたが、本日は開放型ではなく密閉型の小屋裏エアコンがどうして難しいのかという話でございます。
サーモオフを回避する方法
一番最適な方法は小屋裏空間と下の階との間に大きな開口をつくり暖気を取り込む開放型にすることです。これは平屋建ての場合のロフトエアコンと同じ手法です。
(出典:住宅空間研究所)
暖気を取り入れる開口と冷気を落とす開口を分けた方が空気の循環が進み成功確率はさらに上がると思いますが、開口が分けられない場合は開口を大きくすると良いと思います。
エアコンの温度センサーをだますという方法がありエアコンの温度センサーに暖気を吹き付ける方法です。似たような手法に下の階からエントツを設置してエアコンに暖気を送る方法があります。
(出典:ハリマハウス)
このファンを使ってエアコンの温度センサー目がけて暖気を送る方法はコストが安く済む方法であると思いますし、三種換気の場合は夏の集中給気口としてもよいでしょう。
エアコンの機種によってはエアコンの温度センサーを切り離して温度センサーのついているワイヤードリモコンを暖かいリビングなどに設置することでサーモオフを回避する方法があります。
ただ、ワイヤードリモコンは家庭用エアコンでは三菱のみ設定があると思います。業務用エアコンでは日立のワイヤードリモコンを使っている事例もありました。
このように、小屋裏の温度が十分に上がる真夏を除くと密閉型の小屋裏エアコンはサーモオフとの闘いになってしまうため、再熱除湿機能があっても除湿を維持することが難しいでしょう。
また、一階暖房+小屋裏冷房運転の運用については、一階のエアコンがリビングエアコンの場合はリビングが暑くて不快になるため、床下エアコンや床暖房との組み合わせなら良いと思います。
小屋裏や二階ホールのエアコンに再熱除湿機能がなくて冷房運転で部屋が寒くなってしまうときは、エアコンの下や脱衣所などでコンプレッサー式の除湿器を運転すると良いでしょう。
小屋裏の内部結露
密閉型の小屋裏エアコンのもう1つの問題は小屋裏天井の屋根断熱における内部結露です。設定温度が低すぎると小屋裏が結露すると言われていますので実際に結露計算をしてみます。
利用者が多い現場発泡ウレタンのA種1~A種3とグラスウールにおける可変調湿機能のありなしのケースで断熱材の厚みを変えて計算してみましたが、結露判定がでるのは1種類だけでした。
断熱材 | 防湿層 | 断熱材厚み | |||||
100mm | 200mm | 300mm | |||||
夏 | 冬 | 夏 | 冬 | 夏 | 冬 | ||
A種1(30倍発泡) | なし | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
A種1H(30倍発泡) | なし | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
A種3(100倍発泡) | なし | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
グラスウール | 可変調湿なし | △ | ○ | × | ○ | × | ○ |
〃 | 可変調湿あり | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
計算条件は6地域である東京の最高気温時と最低気温時(夏:外気34.7℃61%、室内24℃55% 冬::外気▲3.6℃50%、室内22℃50%)で計算しています。
室内のビニールクロスは通常は結露計算に参入しませんが、今回は安全側に計算するため合板程度の透湿抵抗として参入しています。
なお、現場発泡ウレタンを利用する際は屋根の野地板と断熱材の間に外気を導入する通気スペーサーを設置している前提です(この場合は透湿ルーフィングの採用が良いと思います)。
結露計算から、小屋裏エアコンを実施した場合において、可変調湿機能のない通常の防湿シート+グラスウールを利用した場合、100mm以上の断熱をすると夏型逆転結露の判定が出ます。
小屋裏の結露を恐れて小屋裏エアコンの設定温度を下げられないという話が一般的ですが、結露計算をしてみると、それは調湿機能なしの防湿シートを利用した場合に当てはまる話のようです。
密閉型の小屋裏エアコンの問題点は狭い空間にエアコンの冷気が留まるショートサーキットにより、小屋裏が冷えてサーモオフを起こして、特に気温の低い梅雨に除湿不足になることでしょう。
ちなみに、夏は小屋裏の室内条件を15℃70%にしても調湿機能のない一般的な防湿シートを利用したケースを除き結露判定は出ません。なのに、小屋裏を冷やすと結露すると思われています。
ただ、現場発泡ウレタンを構造用合板等の透湿抵抗の高い面材に直接吹いている壁などでは、少し寒冷な地域では冬は結露判定がでますから防湿層が必要になります。
普及型の高気密高断熱住宅を考えた時、30倍発泡の現場発泡ウレタン+ダイライトなどの透湿抵抗の低い面材を採用すれば防湿シートがなくても最寒冷地以外は夏も冬も結露判定は出ません。
住宅の結露の話の大半はグラスウールに引きずられた誤解であることは計算するとわかります。自己責任となりますが、私のブログに計算ツールがありますのでよろしければご利用ください。
小屋裏エアコンが難しい理由
除湿がしっかりできない原因として除湿が得意ではないエアコン(最近のダイキンの上位機種?)を採用している場合と小屋裏エアコンが頻繁にサーモオフをしている場合があると思います。
私は梅雨時期を含めて居室の相対湿度を60%以下に落とせない冷房方式は改良が必要だと思います。やはり、ダニが繁殖しない環境でないと健康や家事に与える影響が大きいからです。
ただ、大半の小屋裏エアコンの情報を見ると真夏は60%以下にできるが梅雨は60%以下に出来ていない、もしくは真夏においても二階しか涼しくないといった状態が見受けられます。
チャンネルあきさんがYoutubeに小屋裏エアコンへの挑戦を公開しています。素晴らしい挑戦だと思いますが、ある程度の涼しさは得られるものの二階居室の平均相対湿度は70%を超えてました。
もちろん、個室エアコンのように部屋が冷えすぎずに熱帯夜が無くぐっすりと眠れるようになるため住み心地はかなり改善していますが、温湿度のコントロールが十分な状態ではないようです。
施主が小屋裏エアコンに挑戦すると大抵の場合、小屋裏との空気の循環量が足りなくてサーモオフの頻発による除湿不足と二階が涼しくなるだけの冷房方式となってしまうと思います。
このような小屋裏エアコンへの挑戦は20年前ぐらい前に屋根断熱であるソーラーサーキットの家の施主の間で行われていましたが、過去の施主から現代の施主への情報の伝承は難しいようです。
世間では家庭用エアコンを使った全館冷房方式は超高性能な家で一種熱交換換気を採用しないと梅雨においてリビングの相対湿度が60%を切れないなどと言われています。
ただ、除湿を突き詰めたF式では三種換気でも建築初年度でも相対湿度は60%を切っている家が大半であり、家の性能もZEHからG3まで様々ですから世間の全館冷房の説明とは異なる状態です。
最後に
工法や換気空調は日々進化しています。以前の私には小屋裏エアコン+床下エアコンは合理的に見えていましたが、最近は他にも良い工法や方式があるのではないかと思うようになりました。
例えれば、手間のかかる室内防湿シートでの気密処理から簡易なボード気密工法への遷移のようなものでしょう。より、簡単にコスト安く誰でもできる快適な全館空調があると思っています。
小屋裏エアコンは小屋裏から二階の部屋に冷気を落とせるから効率的だと思われていますが、密閉型は暖気については自由に小屋裏に上昇できないため理にかなっていないと感じます。
よって、密閉型の小屋裏エアコンにおいてショートサーキットやサーモオフが起きる事例が後を絶たないという問題の根本原因はここにあり、対策ができていないと上手くいかないのです。
開放型は廊下の床を流れる冷気を室内に吸い込むという考え方をしますから、ファンを使うならエアパスファンや、マーベックスの澄家のように室内から排気する発想が馴染みます。
三種換気やパッシブ換気の場合は、冷気は床の上に流して、天井を流れる暖気については二階の天井のファンやガラリなどを経由して小屋裏から家の外に排気する案もあると思います。
開放型の場合、階段ホールや廊下の面積が広くなると思われていますが、エアコンの前を1マスと狭くしたケースでは階段ホールに扱いやすい日立のエアコンを設置して成功している方がいます。
一般的にはサーキュレーターやシーリングファンを使って空気をかき混ぜると冷房が効率的だといわれますが、温度差で空気を動かす開放型では基本的には空気をかき混ぜません。
さて、現在の私にとっては床下エアコンより床に付加断熱をした一階リビングエアコンの方が魅力的に映ります。コストは安く暖房負荷も減り、基礎断熱のシロアリリスクも減るからです。
以前に申し上げましたが、床下換気を考慮した上で基礎で気密を取って床で断熱するといった場合では、床下にはホコリはたまらず床下の点検も楽だと思います。
床下エアコンの課題として、温暖化が進み猛暑日が増えているため一階がオーバーヒートした場合、床下エアコンが冷房に利用できない設置方法だと一階に補助冷房が必要になることでしょう。
また、シックハウス対策としてF4☆の建材が当然となったいま、24時間計画換気は廃止して良いのではないか?と思えて来ました。もちろん室内の結露対策や二酸化炭素の排出は必要です。
私が初めて建てた家は計画換気導入前の柱の外に合板が設置された家でした。空気質の数値は測っていませんが、換気装置がなくても息苦しいなどと感じたことはありませんでした。
パッシブ設計を含めた高気密高断熱住宅の理論は既に完成していると思いますが、空調と換気に関してはまだ見直しや改良の余地があると私は思っています。