はじめに
今年の梅雨入りは非常に早くなりそうです。いよいよジメジメした季節がやってきます。
さて、ある程度、高性能な住宅ではエアコン1~2台で全館冷暖房が省エネに出来ることが知られるようになってきたと思います。ただ、エアコンの容量計算がわからないという人も多いでしょう。
以前にエアコンの容量計算のExcelツールを公開しましたが、使い方などについて記事を書いてなかったので今回記事にいたします。
既に1964年に制定されたJISのエアコン畳数表示は無断熱住宅を基準に制定されていて実態と合ってないということは多くの人がご存じであると思います。
そして、電力中央研究所のエアコン選定支援ツールは省エネ基準レベルまでのエアコン能力計算しかできず、24時間全館冷暖房などの計算が出来ないこともご存じでしょう。
家電量販店では現代の家の性能に対しては過剰な性能のエアコンを販売していることになりますが、クレームを恐れてなのか利益を得るためなのか余裕のあるサイズを推奨するようです。
エアコンの容量は日射熱や人などから発生する内部発熱もあるため、UA値やC値だけでは計算できないことから、消費者は怖がって容量の大きいエアコンを買ってしまう傾向にあると思います。
ということで、私が建物の冷暖房熱負荷を計算する「F式エアコン容量計算シート」作ってみました。ご利用は自己責任となりますので参考としてご利用ください。
エアコン1台全館冷房の誤解について
私が提唱するエアコン1台による全館冷房はエアコンを1台にして将来の買い替えを含めたコストカットすることが主たる目的ではありません。それはオマケです。
最も重要なことは夏季の家中の相対湿度を60%以下に抑えることで家中のカビとダニの発生を抑制することであり、健康で掃除などの家事が楽で余暇を楽しめる生活を主たる目的としています。
そして、小屋裏や階段ホール等に設置するエアコンはコスパ最強の除湿機だということです。結果として家中を涼しくできるケースが多いというだけです。
ただ、窓の日射遮蔽をしっかりしている場合は日中に部屋のドアを開けて冷やしておけば各部屋にエアコンを設置しなくても過ごせるケースが多いようです。
「エアコン1台」に拘る必要はなくプライバシーを重視するなら必要な部屋にエアコンを設置しても構いませんし、各部屋にはエアコンの予備穴は設置しておくべきでしょう。
そして、猛暑日に備えると共に冬の補助暖房として一階にもサブエアコンはあった方が良いです。ではなぜ、階段ホール等にエアコンを設置するかと言えば除湿機として設置するからです。
各部屋に6畳用のエアコンを設置した場合、過剰性能であるため寒がりな人は辛いと思いますから、そういった人は部屋の外にエアコンを設置することを検討すると良いでしょう。
私は夏季に家中の湿度を60%以下にキープできる家であれば、厚手の洗濯物でなければ一晩で部屋干しで乾くため、ガス乾燥機の乾太くんはなくても良いと思っていますが、ライフスタイルにもよるのでお好みで選択されると良いでしょう。
そして、スーパー工務店のフラッグシップと思われるウェルネストホームにおいてもすべての家ではないと思いますが、夏季に相対湿度を60%以下にするのは難しいようです。
ネットの情報をみていると、スーパー工務店と呼ばれる住宅会社においても夏季に相対湿度を50%前半まで落とすノウハウを持っている住宅会社は少ないのではないかと思います。
ハウスメーカーやローコストな工務店ではエアコンでの全館冷暖房のノウハウなどはありませんから、全館冷暖房をしたい場合は施主の自己責任での実施となるわけです。
階段ホールエアコンはダクトを一部利用する小屋裏エアコンより難しいと言われますが、これは慣れてしまえば簡単ですし、吹き抜けにエアコンを設置すると大体うまく行きます。
そして、私の提唱するF式全館冷房では階段ホールがあれば吹き抜けや換気のダクトがなくても温度差を利用して家中の空気を入れ替えることができます。
これはエアコンの吹き出し口にみはりん坊Wを設置して絶対湿度が12グラム以下になるように運転すると冷たい空気が出てくるため空気が床を流れてダクトレスの全館冷房が可能となります。
階段ホールエアコンは一条工務店の施主を含めて既にたくさんの人が実践しています。
エアコンの容量を計算してみる
近年では夏の猛暑日に40℃を超えるような日があり、暖房のエアコン能力よりも冷房のエアコン能力の方が必要になってきています。
空気中の熱は温度(顕熱)と湿度(潜熱)の2つがあり両方を足して全熱となります。家庭用のエアコンは熱交換器が1つしかないため、空冷と除湿を同時に行っています。
慣れてくると同じ消費電力を使って、風量などを調整することで室温を下げるか湿度を下げるかある程度は操作ができるようになってきます。
同じ消費電力の場合、湿度を沢山下げれば室温が下がりにくいということになり、室温を沢山下げれば除湿量が減るという関係になります。温度除去と湿度除去の比率を顕熱比といいます。
除湿をする際には水蒸気が水になる時に水蒸気が持っていた熱が放出されますから、エアコンの容量を計算するにおいては水蒸気が抱えている熱量も計算しなくてはならないのです。
熱交換換気した場合は顕熱比は8対2程度ですが、熱交換換気を採用しない場合は6対4程度の顕熱比になり、エアコンの操縦を熟知していないと湿度除去が難しくなってきます。
さて、エアコン容量の計算には家のUA値やηAC値が必要になりますが詳細に分からない場合は以下を参考としてください。住宅依頼先が気密測定実績がなくC値に関して分からない場合は合板を柱の外に張る工法なら2.0~3.0程度だと想定されます。
それでは黄色の部分に値をいれてください。夏季条件と冬季条件については東京の条件を初期値として入力してありますから6地域の方は変更しなくて良いと思います。そして計算内訳に熱交換率がありますが三種換気の場合は0%としてください。
上記の計算結果(赤色のセル)では二階に設置する夏季用のエアコン(再熱除湿を推奨)は2.5kW、冬季用の一階に設置するエアコンは2.1kWと計算されています。
以下の表に計算結果を当てはめると二階のエアコンは8畳用、一階のエアコンは6畳用と計算されます。家に2台のエアコンがある場合はエアコンを1つ上の容量にする必要はありません。
最大と最低の温湿度を用いて計算しているためかなり安全側に計算されています。よって、実際には定格能力の5割~8割以下で運転されるため省エネ運転となることを想定しています。
計算過程においては見落としがちな窓から入る日射熱や換気装置の漏気を組み込んでいます。
計算において夏は平均気温を取っている理由は水蒸気が抱える熱量が多いため日没後においても潜熱除去の冷房負荷が高いからです。一方で冬は最低気温を基準としています。
松尾設計室のYoutubeに「エアコンは6・10・14畳しか買ってはいけない」とありますが、あれは暖房用のエアコンの話です。
また、200Vエアコンについては私は24時間連続運転をするなら100Vでも良いと思っていますが、200Vの方が電気ケーブルの抵抗が少ないので若干の省エネになると思います。
冷房負荷の計算例
東京の気候で床面積120m2で天井高さ2.4mの省エネ基準計算の標準モデルの間取りを使って計算します。
以下のkWで表示している部分の数字は家一軒に対するエアコンの最大必要容量です。やはり、気密性能の良い家と全熱の熱交換換気の家が有利と計算からも分かります。
住宅性能 | 換気熱交換率(顕熱/潜熱) | |||||
基準 | UA値 | ηA値 | C値 | 熱交換なし | 70%/40% | 85%/80% |
断熱等級4 | 0.87W | 2.8 | 3.0 | 9.4kW | 7.9kW | 6.7kW |
1.0 | 7.7kW | 6.7kW | 5.8kW | |||
0.5 | 7.3kW | 6.3kW | 5.5kW | |||
ZEH≒G1 | 0.56W | 1.8 | 3.0 | 7.9kW | 6.4kW | 5.2kW |
1.0 | 6.2kW | 5.2kW | 4.3kW | |||
0.5 | 5.8kW | 4.8kW | 4.0kW | |||
G2 | 0.46W | 1.5 | 3.0 | 7.4kW | 6.0kW | 4.8kW |
1.0 | 5.8kW | 4.7kW | 3.8kW | |||
0.5 | 5.4kW | 4.4kW | 3.6kW | |||
G3 | 0.26W | 1.0 | 3.0 | 6.6kW | 5.1kW | 3.9kW |
1.0 | 4.9kW | 3.9kW | 3.0kW | |||
0.5 | 4.5kW | 3.5kW | 2.7kW |
上記は最大負荷ですが、全館冷房を行うには二階エアコンを14畳用(4.0kW)を上限として考えて、足りない分は二階に追加設置もしくは一階のエアコンを稼働する想定で考えてみてください。
凡その目安として二階の階段ホールや小屋裏に設置した14畳用(4.0kW)のエアコン1台で全館冷房を行う場合、G1の性能では全熱の熱交換換気扇を利用しないと難しいと計算されます。
断熱気密を軽視するとエアコンの機器代とランニングコストがあがるためトータルで損をすると思います。屋根の断熱性能は壁の倍以上を目安とすることと、窓の日射遮蔽対策は最重要です。
三種換気で全館冷房を行う場合は二階ホール等のエアコンのすぐ近くに給気口を設けて各部屋には小型の排気換気扇を設置するなどの方法があります。
暖房負荷の計算例
同じく床面積120m2の省エネ基準の標準モデルの間取りで計算します。安全側に計算するために天気が悪い日や夜間を想定して日射取得はないものとして計算します。
住宅性能 | 換気熱交換率(顕熱のみ) | ||||
基準 | UA値 | C値 | 熱交換なし | 70% | 90% |
断熱等級4 | 0.87W | 3.0 | 9.2kW | 7.8kW | 7.4kW |
1.0 | 8.2kW | 7.2kW | 6.9kW | ||
0.5 | 8.0kW | 7.0kW | 6.8kW | ||
ZEH≒G1 | 0.56W | 3.0 | 6.7kW | 5.3kW | 4.9kW |
1.0 | 5.7kW | 4.7kW | 4.4kW | ||
0.5 | 5.5kW | 4.5kW | 4.2kW | ||
G2 | 0.46W | 3.0 | 5.9kW | 4.5kW | 4.1kW |
1.0 | 4.9kW | 3.9kW | 3.6kW | ||
0.5 | 4.7kW | 3.7kW | 3.4kW | ||
G3 | 0.26W | 3.0 | 4.3kW | 2.9kW | 2.5kW |
1.0 | 3.3kW | 2.2kW | 1.9kW | ||
0.5 | 3.0kW | 2.1kW | 1.8kW |
上記は最大負荷です。夏季と異なり除湿負荷がないため暖房負荷の方が冷房負荷より少ないことが分かります。
全館暖房については家の日当たりが良ければG1の性能から可能であると思います。UA値を少し下げるよりも冬季に日当たりの良い土地を探してパッシブ設計をした方が良いでしょう。
床下エアコンなどの全館暖房においては熱交換換気扇を設置すれば、一階のエアコンはG2で14畳(4.0kW)程度、G3になると6畳用エアコンでも余裕だと計算されます。
再熱除湿エアコンの必要性
湿度を気にしないなら再熱除湿は必要ないでしょう。ただ、気温の上がらない梅雨時期に家中のカビやダニを抑制したい場合は室温の下がりにくい再熱除湿があると住み心地が向上します。
施主の中には一階のエアコンを暖房運転して二階のエアコンを冷房運転して再熱運転と似たような環境にチャレンジする人がいますが、これは間取りが適していないと無理がある話でしょう。
よって、私は住み心地に拘るのであれば再熱除湿付きのエアコンを小屋裏や二階の階段ホール等に設置することをお勧めします。その方が間取りと空調設計が自由になるからです。
また、梅雨において天気が悪い日が続くと窓から日射熱も取れず、再熱除湿でも家が寒い状態になることがあります。その場合は除湿機を利用されると良いでしょう。
繰り返しますが、私の申し上げているエアコン1台による全館冷房のエアコンは除湿機ですから、再熱除湿付きのエアコンは二階に1台あれば良いのです。
逆に各部屋に6畳用のエアコンを設置した場合、相当に過剰性能ですから寒がりの人は再熱除湿付きのエアコンを設置することをお勧めします。
また、平屋の場合は熱がエアコンの周りに集まりにくいためサーモオフが起きやすいですから、住み心地に拘るのであれば再熱除湿は必須と思って良いでしょう。
窓の日射遮蔽について
パッシブ設計では窓から入る日射を夏はカットして冬は取り込みます。南側の窓を最大化して南以外は窓を少ない小さくすると良いでしょう。
家は温熱のためだけにあるわけではないので、その土地の中で景色が良い方向があれば窓の日射制御やコールドドラフト対策をした上で大きく窓を取ると良いと思います。
ただ、パッシブ設計をしないまま高気密高断熱住宅を建ててしまうと春から室温が高くなるオーバーヒートという現象が起きてしまいます。
騒音問題や花粉症の人がいなければ窓をあけて通風することで対応することができますが、基本的には窓の日射遮蔽が優先で窓を開けるのは最終手段だと私は思います。
一条工務店の樹脂サッシはスダレを設置する金物を取り付ける場所がないためスダレが設置できなくて春から天気の良い日は暑くて困っている人も多いのではないでしょうか。
うにをさんという一条施主が100均一で売っている目玉クリップを利用した非常にお手軽なスダレの設置方法を公開していますので、興味のある人はごらんください。
最後に
冷暖房負荷の計算からみればエアコン1~2台の全館冷暖房はもはや多くの家で出来ると分かると思いますが、経験がないと非常に難しいため実施するかは慎重に判断した方が良いと思います。
また、エアコンの容量計算だけ出来てもエアコンの設置場所が良くなければ住み心地が良くありません。夏エアコンは階段ホール等の広い場所に、冬エアコンは冷え込む窓や玄関に向けます。
そして、エアコン1台による全館冷房は除湿がメインです。除湿の手段はさらぽか空調でも除湿機でもなんても構いませんが、エアコンはコスパ最強の除湿機であることは間違いありません。
さらぽか空調の除湿能力は非常に優れていますが床冷房による冷房には限界があるため、窓の日射制御が不足する場合は、階段ホールに6畳用のエアコンを1台設置することをお勧めします。
家庭用の壁掛けエアコンを利用した全館冷暖房はスイッチ1つで快適になるような高額な空調機ではありませんから、入居してからの運用が大切です。
入居して最初の年は梅雨のエアコンの運転が理解できないと思いますが、エアコンの吹き出し口に設置したみはりん坊Wの絶対湿度をみて諦めないで取り組んでみると良いでしょう。
呪文のように「部屋が寒ければ22℃設定程度の再熱除湿」「盛夏は風量最弱風向き下で23℃設定」を基本に運転してみてください。風向に関しては人にエアコンの風が当たらないようにしましょう。
私はエアコンの設定は梅雨・盛夏・秋雨と3回しか変更しませんから、慣れるとエアコン1台での全館冷房は非常に簡単ですよ。