一条工務店がパッシブハウス認定を取得した件

考察

はじめに

一条工務店からのプレスリリースはありませんが、一条工務店が建設した住宅がパッシブハウスの認定を取得したようです。建設地は神奈川県の小田原市です。

これまで商売敵だと思われていたパッシブハウスジャパン(PHJはドイツのPHの窓口)のホームページに「一条パッシブハウス」という不思議な記載があります。

404: ページが見つかりませんでした | パッシブハウス・ジャパン

以下のようなコメントが添えられており、いよいよ一条工務店がパッシブ設計に踏み出すのではないかと思います。

一条パッシブハウス小田原モデルは、一条社初の認定パッシブハウスです。「家に求められるのは性能」をコンセプトに、大地震や大洪水などの自然災害に強い、気密性の高い高断熱住宅の開発に注力してきました。常にパフォーマンスを追求してきたこの歴史の中でも、パッシブハウス認証の取得は確かに大きな課題であり、この時期に多くのことを学ぶことができました。正圧と負圧の両方を評価することで完全な気密性を確保し、太陽熱を利用して年間を通じて熱損失を減らす窓を設計し、地域の特性も考慮して各性能パラメータをカスタマイズします。これからも、自然と私たちの生活の調和をしっかりと支えてくれる家に挑戦し、創造していきます。

これまでの一条工務店は、温暖地は全面遮熱ガラス、寒冷地は全面断熱ガラスでしたが、今後は住宅と方位ごとのガラスの選択と日射シュミレーションをしていく可能性があります。

詳細内容

今回の建物の外観を見ると窓が小さいなという印象でした。通常のパッシブハウスは窓から日射熱を最大化するため窓を大きくしますが、詳細データをみると状況が理解できました。

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Hier finden Sie Informationen über weltweit gebaute Passivhäuser. In dieser Datenbank können Passivhaus-Projekte kostenfrei online erfasst und präsentiert werde...

今回の画像をみて、樹脂サッシやツーバイ工法は大開口が取れないといった、誤解が生まれないことを期待します。我が家には幅が3.6メートルの樹脂サッシがありますよ。

申請における窓の性能が1.35Wでしたが、これは恐らく準防火地域用の防火トリプルサッシであるため、通常のトリプルサッシの0.8Wより劣るから窓のサイズを絞ったのでしょう。

そして、今回は周りが田んぼといった冬でも日射がふんだんに取れる開放的な敷地の一軒家ではなく、南側に建物がある状態でのパッシブハウスの認定となっていることに驚きます。

パッシブハウスのデータベースにより、詳細な仕様が判明しましたが、なんとほぼi-smartⅡの標準仕様のままでした(南側の窓ガラスは断熱ガラスに変更していると思われます)。

異なる点は、標準の天井では一種換気のダクトを天井の充填断熱を切り欠いて設置していますが、今回はダクトスペースとなる空気層76mm(パイプが60φ程度)を設けている点だけです。

 

石膏ボード19mm
空気層76mm
硬質ウレタンフォーム235mm
構造用合板9mm

U-Wert = 0.129 W/(m2K)

 

家の大きさが100m2(121マス×910尺モジュール)であるため、外観がら想像すると、建物の中央部分が7×7マス+北側の出隅が5.5マス×1マス+南側の出隅が3×4マスと想定されます。

窓は見慣れた一条の窓であるため外観からサイズはほぼ分かりますが、画像がない西側のみ3個の小窓があるとして計算すると以下のようなスペックとなりました。

項目 部位ごとの断熱性能 U値( W/(m2K)
パッシブハウス認定(今回) 省エネ計算(これまで)
床面積 100m2 120.08m2
UA値/Q値 0.25W/0.91W
(間取りは今回のモデル)
0.21W/0.75W
(間取りは省エネ計算モデル)
0.142W 0.135W
0.204W 0.207W
天井 0.129W 0.129W
サッシ 1.35W(防火・ハニカムなし) 0.6W(防火なし・ハニカムあり)
玄関ドア(三共アルミ) 1.56W 1.2W
換気(うるケア) 全熱交換(90%)水道管直結の加湿機能付き
暖房 長府製RAY-4042X(一条標準の全館床暖房)
給湯 三菱電機製エコキュート(一条標準)

論点はUA値ではありません。窓を小さくすればUA値が良くなりますが、パッシブハウスの認定では年間の冷暖房費で評価されますから窓が大きい方が日射取得が有利なら窓は大きくすべきです

詳細計算内容は以下となります。恐らくですがサッシの性能からみて準防火地域でパッシブハウスの認定が取れたということには非常に驚きました。

計算内容は以下に開示しておりますので、興味のある方はご覧ください。

Dropbox

今回の間取りは東道路の住宅地で準防火の地域と想定され、窓からの日射取得を絞っていますから、これからパッシブハウス認定を取る家の窓が小さいということではないでしょう。

窓を大きくした場合と小さくした場合のどちらが有利なのか計算した結果でしょうから、今後、建てられる住宅においてどちらが有利なのかシュミレーションがされることでしょう。

また、YKKAPの防火トリプルサッシのU値が1.04W程度であることを考えると今回の一条の窓の性能(1.35W)申請が控えめなのか、YKKAPの窓の性能表示が怪しいのか分からないところです。

詳細データのコメントには以下のような記載があり、一条工務店がパッシブ設計の知見を得ていることが分かります。

一条パッシブハウス 小田原モデルは、私たち一条工務店にとって、初のパッシブハウス認定を取得した住宅です。一条工務店は「家は、性能。」というコンセプトのもと、地震や水害などの自然災害に強い安心な家づくり、高気密・高断熱住宅による快適で健康に暮らせる家づくりに取り組んでまいりました。こうして住まいの性能を追求してきた当社の歴史においても、パッシブハウス認定の取得は大きなチャレンジであり、認定取得の過程において大変多くの気づきと学びを得ることができました。冬の日射を多く取り入れつつ、年間を通じて熱損失が少なくなるような窓のデザインや、減圧及び加圧の両方向で評価を行う徹底した気密性の確保、そして、地域の特性も考慮しながら、より緻密に性能をカスタマイズしていくことなど、これからの開発においても大きなプラスになると考えております。今後も、自然と人の暮らしの調和を住まいの性能がしっかりと支える家づくりを目指し、チャレンジを続けてまいります。

一条工務店は結構、お客様の意見を取り入れます。再熱除湿エアコンや窓にシェードを設置する金物など、施主の要望が増えると標準仕様やオプションに設定されています。

ブログやSNSを含めた施主のコミュニティが大きい一条工務店はでは、施主側も一条工務店側も情報が入手しやすいのだと思います。

これからの一条工務店に期待したいこと

これまで一条工務店は以下のような他社にない驚くべきことをしてきました。よって、今後も益々他社が仰天するようなことをして、日本の家作りを進化させて欲しいものです。

・耐水害住宅

・二倍耐震等級住宅(ミッドプライ・ウォール)

・水道管直結の加湿機能付き換気装置(うるケア)

・電力革命(圧倒的低価格な太陽光パネルと蓄電池の提供)

・パッシブハウス認定(パッシブ設計)

今後は、超大空間を実現するための門型フレームの導入と、無垢材を高熱処理して寸法の狂わない高耐久なサーモウッドの導入(省令準耐火構造)を期待したいと思います。

門型フレームを使って積水ハウスなどが驚くような大開口を樹脂サッシで実現して欲しいですし、地場工務店が得意とする木板外壁や無垢床材などを採用する商品を作って欲しいと思います。

ツーバイ工法の商品はパッシブハウス等の性能を極め、軸組工法の商品は門型フレームを使った超大開口と木板を外観と内装に使った商品として差別化をすると良いのではないかと思います。

フィリピンに工場を持つ一条工務店ではサッシや断熱材の製造と木材など加圧注入処理を自社で実施していますから、不可能ではないでしょう。

また、換気装置では北海道仕様の地中熱利用型ロスガードを本州でもリリースして欲しいということと、冬は床からの熱損失を減らすために床下換気口を閉じれる仕様にして欲しいです。

私は以前から、気密の取りやすい基礎断熱とシロアリ被害の少ない床断熱の長所を掛け合わせた、基礎で気密を取って床で断熱するという方法を唱えていますがそれを採用して欲しいですね。

最後に

一条工務店のパッシブハウス認定は今回だけのシンボルとして取得しただけなのか分かりませんが、準防火の標準仕様の性能でパッシブハウス認定をクリアしてしまっているようです。

脱炭素に向けて、断熱性能の上位等級がHEAT20のG2が等級6、G3が等級7として制定されようとしていますが、「当社は標準でパッシブハウスです」という一条の戦略はその上を行きます。

一条工務店は戸建て注文住宅の最大手でありながら、非上場のオーナー企業です。上場しているサラリーマン社長の大手ハウスメーカーとは発想がまったく違うと思います。

軸組工法のハウスメーカーが、i-smartなどの2×6の付加断熱の商品を製作したり、浜松市に「一条堤」と言われる防潮堤の建設費用300億円を出せたのはオーナー企業だからでしょう。

(出典:静岡新聞

一条がその気になれば、四重サッシや五重サッシでも製造が可能でしょう。簡単に制作するなら、トリプルサッシの内側にペアの樹脂サッシ(ハニカムも)を設置すれば直ぐに実現可能です。

つまり、一条工務店はハウスメーカーであるだけでなく、製造メーカーでもあるため、既成のパーツを上手に組み合わせて組み立てている住宅会社とは違い、常識外れの行動が可能なのです。

一条工務店には全ての常識を破壊して欲しい。地場工務店でQ値1.0の家を建てた私が一条工務店施主として二軒の家を建て一条工務店に日本の家作りの未来を託すと思った理由はそこにあります。

そして、他の住宅会社が一条工務店の弱点を指摘することは、さらなる一条工務店の進化につながるでしょう。そうすることで日本の家作り全体がさらに進化することを期待します。

既に一条は太陽光パネル+蓄電池によって、昼間にエコキュートを動作+基本料金なしの電力プラン契約により、売電は別で夏の買電が月に千円以下という住宅が出てきています。

UA値やC値・パッシブ設計・小屋裏エアコン・床下エアコン、では一条工務店と差別化は難しくなっていくでしょう。ましてや、電気代や消費電力では蓄電池を搭載する一条には敵いません。

「家作りは外皮性能だけじゃない、デザインや外構などが本当の豊かさだ」なんて言ってると、それもパターンを見切られて一条工務店に標準化されてしまうかもしれません。

AI時代で必要がなくなるのは優秀な設計者かもしれません。果たして他の住宅会社はどうやって一条工務店と戦っていくのでしょう。価格帯や価値観をズラす作戦なのでしょうか。

ただ、一条工務店の建物価格は高機能な反面、高くなっています。地域の超優秀な設計者が必ず一条工務店を上回る家作りを行い、さらに日本の家作りが進化することを期待しています。

今回はフラッグシップとなる超高性能住宅の話でしたが、住宅価格が高額になっては多くの人は家作りの迷子になってしまうため一条工務店を含めてより低価格な住宅に力を入れて欲しいですね。

これから、どの住宅会社にも頑張って欲しいと思いますし、どの住宅会社でも高い性能が担保されていけば、本当の意味で価値観の多様性に基づいた家作りができるようになると思います。

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