はじめに
「地域に応じた家作りをしよう」ということは大事ですが、国土交通省より示された地域ごとのUA値および断熱仕様の例は夏冬の結露計算を考慮したものではないと思います。
もちろん、基準の大きな大きな前進に関わった方の努力には敬意を表しますが消費者からみると「示して欲しいのはその先なんだよ」と思う部分を本日は記載したいと思います。
この断熱仕様の問題点はUA値から逆算した仕様になっているがゆえに、断熱材に応じた内部結露のことを考慮すると予算や地域に応じたガラパゴスな断熱仕様が生まれてしまうことでしょう。
(出典:国土交通省)
上記の画像では断熱材の種類がバラバラで断熱材メーカーへの配慮もあると思いますが、断熱材の厚みもバラバラでこれが多種多様な製品を生み出してしまい混乱の元になっていると思います。
HEAT20がなぜ105ミリ(3.5寸柱)を基準とした断熱仕様になっているかを想像すると、材料の種類を統一することによるコスト削減と作業性の効率化による省エネ住宅の普及が目的でしょう。
国交省の断熱材のガラパゴスな仕様は家作りを混乱させます。また、グラスウールとロックウールという繊維系の断熱材シェアは70%超ですから繊維系を中心に考えることが優先でしょう。
まずは、繊維系で全国的に通用する結露対策がされた1つの最低限の仕様(G1プラスα)をベースとして示して、そこから階段式に断熱性能を上げる仕様とすべきでしょう。
もっと全国を統合して抽象的に物事を見れば、地域ごとに細かく仕様を変えずに結露計算された全国統一の基本仕様に対して階段式に断熱材を加えるという仕様になると思います。
「地域に応じた家作り」「みんな違ってみんな良い」という発想は間違っていませんが、一方で消費者を混乱させ、ガラパゴス化によって住宅の高性能化を阻みコストを増加させることでしょう。
HEAT20の設計ガイドブック2021の防露計画を読むと壁の結露のことしか書いておらず、画像の等級4や5で示されている床のグラスウール断熱は温暖化が進むと夏型結露が懸念されます。
なぜか、夏型結露は雨が侵入した壁だけに起こる限定された現象として設定されていて、温暖化を前提とした断熱等級の設定であるにも関わらず外気の絶対湿度が上昇する想定がないと感じます。
夏の床下はそんなに暑くならないと思うでしょうけれど、夏型結露は温度ではなくて絶対湿度が強く影響するため温暖化が進むほどに透湿する断熱材の床断熱は夏型結露の可能性が出てきます。
外気の絶対湿度が25g/m3で室温が25℃であれば床の結露判定がでます。地球温暖化を懸念するからこその脱炭素であるにも関わらず絶対湿度は上昇しない前提であれば、違和感を感じます。
施主に実施したアンケートでは室温26℃以下が快適という人が70%程度でした。省エネの観点から室温は26℃以上にしようという話には一理ありますが、消費者ニーズとは異なっています。
施主の家族の中には冷房時の室温が高いと「何のために高い金を出して高気密高断熱住宅にしたんだ、これなら個別エアコンで自由に冷房できる家の方がマシだ」と言う人がいました。
結露しない家を希望する施主を混乱させるのは、地域ごと断熱材ごとの壁・床・天井に対する防湿シートと可変調湿シートの使い分けの方法で、結露計算ができないと答えがわかりません。
温熱に詳しいプロからみれば、何でこんな簡単なことが分からないのかと疑問に思うでしょうけど、SNS等の施主の情報を見ると未だに地域によって住宅会社の技量に違いがあるのでしょう。
家作りは地域と計算に精通したプロに任せれられれば良いのですが、高気密高断熱の後進地域や予算が少ない施主はお任せできるプロがいないため、住宅会社ガチャは消費者の悩みでしょう。
ただ、いつまでもこんな議論をしていても仕方がないので、グラスウールを使って夏も冬も結露しない全国統一で地域区分のない仕様の例を国が示せば良いのではないかと思っています。
ということで、本日は素人考察ですが、グラスウール断熱の全国統一仕様を考えてみます。同様に透湿抵抗の低いロックウールと100倍発泡の現場発泡ウレタンA種3でも同様の考え方となります。
一条工務店は全国一律の性能
本日の記事は一条工務店の話題ではありませんが、一条工務店がなぜ全国一律な商品展開をしているかという理由がわかるような気がします。
一条工務店では、軸組工法(UA値0.35W程度)は北海道を除く全国販売をしていて、i-smartなどの枠組壁工法は全国販売しています。準防火地域は防火サッシになりますが性能は全国同じです。
これは量産化のための作り手の都合と捉えることもできますが、目的(日本全体の省エネ)を達成するための検討結果と考えることもできます。
先日、一条工務店がパッシブハウスの認定を取ったという記事を書きました。窓の性能から防火サッシを利用していると想定されますがハニカムなしでUA値はカタログ通りの0.25Wでした。
今後は一条工務店も地域に応じたパッシブ設計に取り組むと想定されますので、パッシブ設計は立地や地域に応じるのは当然だと思います。
ただ、一条工務店の特徴は断熱材にEPSやウレタンを用いることで、防湿シートを利用せずに、夏と冬に内部結露をしない構成にしていることです。これは消費者には非常にわかりやすいです。
そして、特にシェアの高いグラスウールにおいて、消費者が家の性能について難しいことを考えなくてよいという状態にすることが、住宅の省エネ促進のためには必要だと私は思っています。
木板外壁の防火対策
建築基準法では過去の火災を踏まえて、建物の内外に木部を露出させることを制限しています。つまり、地場工務店で人気の杉板外壁などはそのままでは防火性能が高くはないということです。
ただ、木板外壁の場合は付加断熱をすることで、火災保険が安くなる省令準耐火構造にできるようですから、付加断熱のコストを火災保険の減額で回収できる可能性があります。
(出典:北海道立住宅研究機構)
この実験をみると、グラスウール50ミリの付加断熱とポリスチレンフォーム20ミリの耐火時間に大差がないことがわかりますから断熱材は単体で燃焼を考えても意味がないでしょう。
木板外壁にするなら防火の観点からも付加断熱が望ましく、断熱性能を高めつつ省令準耐火構造にして火災保険の減額を狙うことも検討してみてはと思います。
全国統一グラスウール断熱仕様
前置きが長くなりましたが、本日の本題です。
グラスウールを推奨する新住協では省令準耐火構造を加味したGWS工法という優れた工法を生み出していますが、これの全国統一版である統一GWS工法のようなものがあれば良いと思います。
簡単にいうと、室内は通年25℃-55%で外気の冬はマイナス20℃-90%、夏は絶対湿度25g/m3(36℃-60%想定)で結露しない仕様であれば北海道の極寒冷地を除いて対応できます。
私が申し上げたいのは、燃費から断熱仕様を逆算する前に建物の耐久性で重要な結露計算で最低限の性能を担保した上で断熱性能を付加していかないと消費者の混乱は収まらないということです。
もちろん、定常計算の結露計算でわかる範囲は「想定内」のことであり、日射熱と雨の侵入による蒸し返しなどに備えて通気層をしっかり確保するという基本を重視した上でのことです。
また、グラスウールは厚みや長さの規格が多数ありますがこれは製造や流通・在庫管理コストの無駄だと思います。厚みは50mm・105mm(3.5寸柱)・120mm(4寸柱)以外は不要でしょう。
もういっそのこと、2×4も89mmの断熱ではG2にするには樹脂のペアサッシでは性能が不足するので、日本版の2×4はスタッドを105mmにしてはと思いますよ(暴論です)。
断熱材の厚みが多種多様であることが結露計算を複雑化させ、ガラパゴス化によって省エネの普及を遅らせていると思います。もっと規格をそろえることが必要だと私は思います。
天井
簡単に気密をとるのであれば、天井の梁と桁の上に合板を設置して気密処理を行い、グラスウールを桁上断熱として設置すると簡単ではないかと想定します(ブローイング施工含む)。
上記の事例では合板を利用した防湿気密ですが、夏の室温24℃で結露判定がでました。ただ、小屋裏エアコンを採用しなければ、真夏に二階の天井が24℃になるようなことはないでしょう。
壁
壁は外皮量が一番多い反面、断熱材を厚くしずらいため断熱性能の低いグラスウールでは充填断熱を無くすことはできないと思います。そうなると、結露対策が難しくなります。
面材に構造用合板を使った105mmの充填断熱のみの場合、室内の防湿シートを設置しても外気がマイナス7℃で結露判定がでますから、全国統一仕様とするなら付加断熱が必要でしょう。
壁の構造用合板が冷えないように1センチでも付加断熱をするとマイナス16℃まで結露判定が出ませんが、2センチ付加すればマイナス23℃まで結露しないと計算されます。
ただ、外装が木板の場合は火災保険が安くなる省令準耐火を採用する場合は付加断熱のグラスウールは50mm以上が必要になります。
また、全国統一仕様にするのであれば夏型結露を考えると透湿しない通常の防湿シートでは結露判定が出るため、夏に透湿するタイベックスマートなどの可変調湿シートが必要です。
現状の寒冷地では夏型結露の心配がなくても、50年や100年住宅というのであれば、温暖化を想定して可変調湿シートを採用しておいた方が安全側だと思います。
可変調湿シートを使ったとしても1棟で数万円程度でしょうから、多くの人が可変調湿シートを利用することで量産化による価格低下が起きてくれたら良いなと思います。
床
今回、結露計算をしていて床が一番難しかったです。まず、床に合板のある剛床で床が充填断熱105mmだけでは温暖化が進み夏の外気の絶対湿度が25g/3mにもなると床の結露判定がでます。
一方、大引きへの充填断熱のみでは熱橋が多く、床の温かさを重視して剛床の室内側に付加断熱をすると冬型結露をします。これは単純に断熱材の室内側に防湿層がないからです。
どうすれば夏も冬も結露が納まるのか計算したところ、以下のように防湿シートを入れずに合板を二重にして、内付加断熱を80mm以下(厚くすると結露する)にすると結露が収まりました。
天井と違って床の場合は断熱材の厚みをとるために充填断熱を必要としますし、耐震性の面から大引きの上に合板を設置したいと思いますが、これが問題をややこしくするようです。
よって、床断熱をするのであれば、スタイロフォームやウレタンなどの吸水性が低く透湿抵抗の高いボード系の断熱材が結露計算からみても都合が良く施工も簡単であると言えます。
多くの工務店では床にボード系断熱材を使っていると思います。一条工務店はこの考えを天井と壁にも拡大して利用することで「地域を問わず結露しない」工法としているわけです。
グラスウールを利用した床断熱では日本住環境の床断熱フックがありますが、施工事例では将来に絶対湿度が上昇した際の夏型結露が防止できない気がしますが、心配し過ぎでしょうか。
また、シロアリリスクを考えると床断熱の場合は床下の防蟻処理が弱いと床下換気口からのアメリカカンザイシロアリの侵入に弱く基礎断熱では土壌性のシロアリに弱いというリスクがあります。
よって、床の結露およびシロアリリスクと熱損失を最小化するには基礎で気密をとって床で断熱することが良いと私は考えています。
全国統一グラスウール仕様のまとめ
今回、室内は通年25℃-55%で外気の冬はマイナス20℃-90%、夏は絶対湿度25g/m3(36℃-60%想定)で結露しないという余裕を持った仕様での考察でした。
結露計算からグラスウールによる全国統一工法をまとめると以下の様になりました。廉価な構造用合板によるボード気密工法を基本としていますが、シートを利用する際は注意が必要です。
部位 | 断熱材 HGW16K | シートの種類 | |||
充填断熱 | 付加断熱 | 防湿 | 可変調湿 | 透湿防水 | |
天井 | なし | 210mm(桁上) | 不可 | 不要 | 可 |
壁 | 105mm | 外20mm以上必須 木板:外50mm以上 |
不可 | 必須 | 可 |
床 | 105mm | 内80mm以下 | 不可 | 不要 | 可 |
上記の仕様であれば、極めて寒冷な1地域以外では床の内付加断熱を増やすことを除き、どれだけグラスウール断熱材を付加しても夏も冬も結露しないと計算されます。
この仕様において付加断熱をしなくても、6地域では窓をアルミ樹脂複合サッシにすればG1で樹脂のペアサッシにすればG2ですから、非常にわかりやすいと思います。
床の内付加断熱については、床で断熱して基礎の外周で気密をとれば(床下の換気は考慮する)、水蒸気の動きを制御できると思いますので、今後はそんな工法も研究されると良いですね。
また、基礎で断熱しないと床下エアコンが利用できなくなりますが、床の合板とフローリングの間に通気層を設けて暖かい空気を送り込む「床間エアコン」などのアイデアもあると思います。
現場発泡ウレタンでは壁内結露を回避するためにシートを使わずに透湿抵抗の高いA種1を採用しても、面材がダイライトなどの透湿しやすいものでないと結露判定がでますので要注意です。
現場発泡ウレタンでは2×8材を垂木に使って分厚く充填断熱する場合がありますが、屋根の野地板との間に通気スペーサーを入れて透湿ルーフィングを利用した方が結露しにくいと思います。
最後に
本日は将来の温暖化による夏の絶対湿度上昇を加味した結露計算をしてみました。未来が本当にこのような状態になるかはわかりませんので参考までということでお願いします。
グラスウールを利用した全国統一基準では付加断熱が必須というのは過剰だと思いますが、家作りのガラパゴス化を収束することはコスト削減に繋がり消費者にメリットが生まれて行くでしょう。
そして、全国統一グラスウール断熱仕様はHEAT20のG1プラスαでありコスト面では大したことがないと思います。断熱性能ではなく結露計算に基づいた全国統一断熱仕様という意味です。
全国統一で結露計算されたベース仕様から地域の気温や予算に応じて必要な分だけ断熱材を増やしても結露しない階段方式の仕様ですから消費者には安心だと思います。
地域ごとの仕様は国というよりは断熱材の製造メーカーが示していると思いますが、地域ごとのUA値に合わせて仕様をガラパゴス化しないで、結露しない全国統一仕様があると良いですね。
私は「地域に応じた家作り」も「地域の木材の有効活用」も大好きです。ただ、何でも地域地域と言って細分化してしまうと、余計に消費者は混乱して住宅の省エネ化が遅れると思っています。
もちろん、寒冷な地域では屋根において雪の融解と凍結を繰り返して屋根を腐らせる「すが漏り」のような現象や、豪雪地域では耐雪荷重の問題など、地域毎に家作りは違うでしょう。
日本海側と太平洋側では冬季の日射取得量が異なりますし、都市部でも日当たりの悪い家が多いですから、立地によって窓ガラスの種類や窓の大きさ日射制御の方法は異なると思います。
また、温暖地では夏に絶対湿度が25g/m3を超えてくる現象が起きているなど、温暖化が進むほどに夏型結露の問題が懸念されて行きます。
そうなると一周回って「高高住宅に不慣れな工務店はボードの外張り断熱を採用した方が良い」と2000年頃に言われていた話は今も変わっていないのではないかと考えされられます。
3×6板の100mm厚のネオマが8000円程度/枚で売っていますから30坪の家の外皮が400m2だとすれば断熱材だけなら200万円程度です(温暖地はもう少し性能を下げて良いでしょう)。
充填断熱の採用によって地域毎の結露計算の話がこじれるなら温暖地の場合は少し高額になるかも知れませんが高性能なボード系の外張り断熱のみにした方が良いのではないかと思ったりします。
一昔前のボード系外断熱は厚みも少なく性能が低かったのもあって断熱不足な面がありましたが、現状では性能が良くなっています。まだ外張り断熱と充填断熱の論争は続くのかもしれません。
そうは言っても、断熱材ではグラスウール・ロックウール・現場発泡ウレタンのシェアが圧倒的ですから、ネオマフォームの外張り断熱100mmのみにすれば良いというのは暴論でしょうね。
この論争の根本は「地域に応じた家作り」であると思います。地域毎に考慮すべきことがあることは事実ですが、省エネ性に関しては地域毎の仕様の違いが少ない方が良いと私は考えます。
各住居や地域毎の個別最適化はミクロの面で大切ですが、国全体の省エネというマクロの面では足を引っ張ることもあります。全体主義が良いとは思いませんが個人主義にも課題があるでしょう。
家作りでは「地域に応じた家作りをすべき部分」と「地域に応じないほうが良い基本の部分」があると思います。皆さんはどう思われますでしょうか?