はじめに
東大の前先生が高気密高断熱業界に衝撃を呼んだ「エコハウスのウソ」の二巻目を発行されたのでさっそく読んでみました。ネタバレしない範囲で思ったことを書きたいと思います。
本の帯にはちょっと過激に「カラダに悪い、”ニセ省エネ”」と書かれているため住宅の温熱性能を重視していない人は読まない方が良いかもしれません。
ただし、本書を高性能住宅に肩入れする学者のポジショントークと片づけるのは早計です。仮に自分に合わない情報であっても内容が正しければ読んでみて損はないと思いますよ。
住宅の省エネについては温暖化で気温が上がり続けるためもう避けては通れないネタだと思います。今年の猛暑をみても来年の夏はどうなっちゃうのかと心配になりますよね。
住宅系Youtuberにおいても決してハウスメーカーだけを貶めているわけではなく性能が低い地場工務店についても言及しているため、本書も結局は家の性能について語っているだけです。
この本は省エネで夏涼しくて冬に暖かいと言われる高気密高断熱住宅の実態を数値データを測定して実際にはそうなっていない家が結構あるという趣旨の本です。
ハウスメーカーの中では圧倒的な性能を誇る一条工務店の家においても窓の大きさや軒の出などによってかなり住み心地が変わることから、参考になる本だと思います。
そして二巻目ではさらにデータと絵が充実してカラフルで読みやすくなりました。住宅の実務者でなくても一般の人でも読める本になったなと感じました。
高気密高断熱住宅で10年間温熱のデータを見てきた私にとって内容は率直に正しいと感じます。私が分からないこともありますが、分かる範囲で書いてあることはその通りだと思います。
本書は「変わる常識(基本編)」と「変わらない真実(対策編)」という2パートで構成されていますのでそれぞれで気になった点をご紹介したいと思います。
変わる常識
太陽光パネルは自家消費分乗せた方が良いという一般的な内容と共に私が長年分からなかった内容についての言及があります。
66ページからインフルエンザウィルス対策においては「飛沫感染」と「接触感染」が主な感染経路であって「空気感染」は主要な感染経路ではないと記載されています。
つまり、部屋の加湿による窓の結露やカビの発生するリスク、加湿器による空気汚染などのリスクを背負ってまで大量に「加湿」をする意味がどれだけあるのかと疑問を投げかけています。
私は冬は基本的に加湿しません。もちろん湿度が30%以下になるような状況では乾燥を感じます。
ただ、医師が推奨するような22℃60%などという状態はカビなどのリスクが高まるため無理があると思っていて、特に低気密低断熱住宅での加湿はカビのリスクが高いと思います。
人間は湿度に対する感覚は鈍感なようで思い込みが多分にあるので、インターネットやSNSなどの噂話をもとに加湿の必要性を判断するとカビやダニといったリスクを招くでしょう。
日本人は効果の高い気密や断熱という言葉には関心を示さないが、効果の低い蓄熱と遮熱とか調湿などを言われると感心を示すと言われています。加湿も同様だと思います。
人によって湿度の感じ方は違いますが、湿度を増やすほどにリスクが高まることも確かなので、ぜひ総合的に加湿について考えてみてはと思います。
変わらない真実
まず、281ページにある南側は遮熱ガラスはNGと書いてある記述が重要です。一条工務店では旧省エネ地域区分Ⅲ地域までが全面断熱ガラスでそれ以外の地域が全面遮熱ガラスです。
温暖地でも南側だけは日射取得を最大化するために断熱ガラスを採用したいところです。一条ハウスの弱点はまさにここにあります。
また、302ページに「冷房をきちんと効かせるには送風量の確保が絶対条件」とあり、冷房は真横に吹き出すと良いとあります。
これに関してはどのエアコン全館冷房の実務者とも私は意見が合わないのですが、間違っているとうことではなくて空気の動かし方はファン以外にも温度差で動かす方法があるという意味です。
それは誰でも知っている「暖かい空気は上昇して冷たい空気は下降する」という法則を利用しているだけです。家の中に温度差をあえて作ることで空気は驚くほどに動くのです。
家の中の空気に温度差があってはいけないと多くの方は思うようですが、確かに冬はそうですが、夏は違うと私は思っています。足元に冷気が流れていても体感ではほとんどわかりません。
多くのエアコン1台全館冷房の方式はファンの大風量で空気を移動させていると思います。たしかに冷房の仕組みは風量✕温度差であるためそれも理解できます。
ただ、風量=機械換気というだけが手段ではありません。私は夏にエアコンの設定温度を23℃程度まで下げて風量を絞ることで、床に冷気をはわせるという独特の方式を実践しています。
気温の高い夏なので床が冷たいと感じることもありません。ドライアイスの煙のように冷気は床を流れ家の隅々まで広がっているという形であり、温度差が風量につながるのです。
家の中の温度差による煙突効果を利用したファンを使わないパッシブ換気というものがありますが、まさにそれの冷房版が私の提唱するエアコン全館冷房の正体です。
最後に
省エネ住宅に興味がない人は高性能住宅は使いこなせないならやめておいた方が良いというでしょう。たしかにそうかもしれません。
ただ、省エネ住宅がUA値やC値がものすごく良い建築費用が高額な家だと思っているのであればそれは間違いだと思います。
要するに冷暖房をするエネルギーが少なくなれば良いので、家の日当たりや窓の日射制御など冷暖房費を減らす方法はUA値を良化することだけではありません。
C値を測っていない家においても気流止めがしっかりされていれば冬に暖かい家になる可能性はあります。
新住協の鎌田先生は「10軒の無暖房住宅が建つよりも1000軒の燃費半分の家が建つ方が良い」、「気密性能よりも気流止めが大事」などという含蓄のあることばを仰っています。
さて、温熱以外に関しても家の快適性とは色々な観点がありますが、温熱に関していってもUA値だけでは家の快適さや省エネ性能は分かりません。
本書ではそのあたりも丁寧にデータを示して解説していますので、省エネや温熱に興味がある方は、ぜひお買い求めになってはと思います。
人は単純なことを好みます。UA値やC値などは明確なので好まれると思います。そして、複数の要素があると頭が混乱してしまうと思います。だから家作りは奥が深くて面白いのだと思います。
本日は以上でございます。