はじめに
久々の投稿となります。先日、インスタグラムでライブというものをやってみましたが、当日の告知にも関わらず最大で200名以上の参加者がいて驚いた次第です。
皆さん、エアコン1台での全館冷房に興味があるようです。
ブログがオワコンだというつもりはありませんが、家作りの情報はインスタグラムから仕入れているという人が多いということを改めて実感しました。
さて、インスタライブでも色々とご意見を頂きましたが、やはり空調の質問が多かったと感じました。そして、皆さんが思っていることの大半は誤解であると思いました。
まず、エアコンの設置場所やエアコンの運転方法が常識的である場合、高気密高断熱住宅では快適な生活は送れません。ある意味ほとんどの家はこの状態です。
高気密高断熱住宅では少ない冷房エネルギーで家が涼しくなるなんて言われますが、室温が快適でも除湿がしっかりできないない家の生活は快適には感じないと私は思います。
私はこれまでの家作りにおいて色々な空調方式を採用していますが、やはり空調についてはある程度の場数をこなした経験値がないと空調を評価できない部分はあると思います。
二軒目 地場ビルダーの家 エアコン2台(一階+小屋裏) 基礎断熱+屋根断熱
三軒目 i-cube 床暖房+さらぽか空調+エアコン2台 床断熱+天井断熱
四軒目 i-smartⅡ 床暖房+寒冷地エアコン1台 床断熱+天井断熱
三軒目のi-cubeは一条工務店のさらぽか空調+床暖房 VS エアコン全館冷暖房というコンセプトで実験棟のような家作りをして空調方式の比較をしてみました。
また、私が二軒目の家で電気工事士の資格を取って実現した小屋裏エアコンは、失敗する可能性が高いため生半可な気持ちで素人が手を出さない方が良いかも知れません。
高額な全館空調システムを採用すれば施主は難しいことを考えなくて済みますが、ローコストに全館空調をしたい場合は施主がリスクをとって空調を考える必要があります。
私は家庭用の壁掛けエアコンをつかった全館冷暖房は立派な全館空調システムだと思っています。なぜなら、高気密高断熱住宅+間取り+窓の日射制御などが一体となったシステムだからです。
インターネットでは空調の考察や詳しく計算をしている人はいますが、単純な空気の動きが抜け落ちてしまっているように感じます。
エアコン1台の誤解
高性能住宅では単純にQ値をもとに計算をするとエアコン1台で家中の冷暖房が賄えることになります。除湿を考慮しない温暖地の冬季においては以下のような計算式になります。
Q値1.3W✕床面積100m2×内外温度差(20℃-5℃)=1950W
1950Wというと約2.0kwですから、一番小さいエアコンである2.2kWで賄えることになり、一条ハウスは小型エアコン1台で暖房が可能と計算されますがこれは机上の計算に過ぎません。
熱量の計算ができたとしても暖かい空気は上昇し冷たい空気は下降するためエアコン1台で全館冷暖房を行うことは基本的にはできません。エアコンの位置や間取りと言う要素が抜けています。
私はいつから高気密高断熱住宅は室温が均一化するなどという都市伝説が生まれたのだろうかと不思議に思いますが、どんなに家が高性能になっても空気が温度で上下動する現象は変わりません。
冬は家の低い位置に暖房器具を設置すれば熱が上昇して家中がほぼ均一な室温になりますが、暖房器具が家の高い位置にあったり、冷房器具が家の低い位置にあっては機能しません。
インターネットに溢れる情報を良くみてください。エアコン1台と謳っている場合においても多くのケースでは夏と冬で各1台と書いてあると思います。
・床下エアコンでは全館冷房はできない
・小屋裏エアコンでは全館暖房はできない
・エアコン1台で全館冷暖房を行うにはダクト式エアコンを利用するか空調室と大風量ファンが必要
完全にエアコン1台で全館冷暖房を行うには、階間エアコンのように一階と二階の間の懐にエアコンを設置するか、ダクトを使って各部屋を空調するなどファンの動力が必要です。
ファンの動力なくして本当にエアコン1台で家中を全館冷暖房することはできません。私はファンの設置費用などを考えるとエアコンを夏と冬の各1台設置した方が安いと考えています。
床暖房について
床暖房が必要かどうかと良く論点になりますがこれは考え方の問題であって高気密高断熱住宅に床暖房は必要ないということではありません。
床下エアコンを採用する場合は、床下の基礎コンクリートの形状と床下エアコンの設置場所の考慮が必要になります。またエアコンの機種ごとの温度センサーの場所に注意が必要です。
床下エアコンは基礎断熱を採用するためシロアリリスクが増加します。ここが床下エアコンの一番のデメリットだと私は思います。
階間エアコンは一階と二階の間のふところにエアコンを設置して冷暖房しますが、夏は一階の部屋には冷気は自然落下しますが二階の部屋に冷気を噴き上げるブースターファンが必要でしょう。
また、階間エアコンの問題は夏にエアコンの設定温度を下げ過ぎた場合の階間の結露にあると思いますからエアコンに近い部分は階間に断熱材を施工する必要があると考えます。
階間エアコンでは冬は二階の部屋は熱が自然に上昇しますが、一階の部屋にはブースターファンで天井から暖気を送る必要があるでしょう。
階間エアコンはまだデータが乏しい状態ですが、一階の床が室温より暖かくならない反面、基礎断熱を採用する必要がないためシロアリリスクが減ります。
床下エアコンと階間エアコンは経験のない工務店には難しいと思います。
では、簡単にリビングにエアコンを設置した場合はどうでしょうか。この場合はエアコンに近い場所の空気が乾燥します。また、家の形が真四角に近くないと家を均一の温度にできなくなります。
リビングエアコンは簡単な方式ですが、体感温度や快適性は少し劣ると感じます。
では、床暖房はどうでしょうか。暖房器具の設置場所は関係なく家中が均一な室温になります。ただし、床暖房のエリア分けを南北で分けるなどの工夫は必要です。
床下エアコンと床暖房は床温度が室温より高くなります。この床勝ちの暖房方式は他の暖房方式よりも温湿度のバラつきが少ないため体感温度が高く住み心地が一段上だと感じます。
床暖房のメリットは基礎断熱を採用しないことでシロアリリスクを低減させると共に、暖房装置の設置場所に囚われない間取りの自由度が得られることでしょう。
一条工務店のツーバイは間取りの制約が多いと言われますが、なぜか床暖房による間取りの自由度の高さについては語られないというのは不思議だなと思います。
さらぽか空調について
さらぽか空調なりエアコン1台での全館冷房については当然ですが窓を開けない生活になりますが、家中のどこへ行っても湿度が低いさらさらな空間が実現できます。
そして、湿度が低い空間では梅雨でも夏でも洗濯物が部屋干しで夜でも乾くため天気を気にせずに生活ができることから家事が楽になる家だと言えます。
間違えないで頂きたいのは室温はお好み次第です。汗をかきたいのであれば室温を高くすれば良いですし、超快適にしたい場合は室温を下げると良いでしょう。
さらぽか空調はデシカント方式であるため、夏は相対湿度を40%台にまで落とせる恐るべき装置です。ダイキンのデシカの技術と言われますがその根拠資料はみたことがありません。
さらぽか空調は梅雨の除湿に大活躍すると思います。エアコンの再熱除湿では外気温が20℃を下回るような超低温な梅雨時期にはサーモオフを起こす場合がありますが、さらぽかは外気温に関わらずガンガン除湿してくれます。
夏に相対湿度が60%以下の除湿された空間の快適さは一度味わうとやめられなくなると思います。これを知らない人が多いのでぜひ一度味わってみて欲しいものです。
床冷房は設定温度20℃などと低くして冷水を流すと床が結露する場合があるようです。また、床下が結露するという人がいますが床断熱であるためそれはあまり関係ないと思います。
以下のように梅雨の土砂降りの日と最高気温を観測した日において露点温度を計算してみると以下のようになります。
東京の気象 | 気温 | 相対湿度 | 露点温度 |
2019年6月10日 平均 | 16.2℃ | 100% | 16.2℃ |
2019年8月11日 13時 | 34.5℃ | 48% | 21.9℃ |
一条工務店の推奨の床冷房の設定温度は25℃ですから、盛夏において露点温度が20℃を超えるような時期は床冷房の設定温度を22℃以下に下げない方が良いでしょう。
さらぽか空調については単体で評価すべきものではなく、窓の日射遮蔽をしっかり行っているかが重要なポイントであり、窓の日射遮蔽が弱いと猛暑日はオーバーヒートします。
よって、私はさらぽか空調を採用した場合であっても、各部屋にはエアコンは不要ですが保険として二階の階段ホールなどに6畳用のエアコンを1台設置することをお勧めしています。
また冬季の加湿において、うるケアやさらぽか空調においてダクトの中が結露するという話がありますが、仮に18℃で80%の空気は露点温度が14.5℃なのでまったく結露しないでしょう。
ダクト内のホコリの蓄積などを考えると一種換気の場合は不在時を含めて換気装置は止めないことが基本です。
気密性能の考え方
私見ですが、省エネ対策としてのコストメリットの順番としては、
日射制御 > 窓 > 天井 > 空調 > 床 > 壁 > 換気 の順だと私は思います。
一種換気をしっかり稼働させるにはC値が0.5は必要と空調屋さんは言われますが、よく考えてください。省エネ対策としてもっともコスパの低い換気に拘るのはどうなんでしょうか?
換気装置はまずは換気がしっかりできれば良いのです。省エネ性に話がすり替わった瞬間にわけのわからない議論になってしまうと私は感じています。
温暖地では一種換気は贅沢な快適装備であって省エネ装備ではないと私は過去から申し上げていますが、C値が1.0以下が必要である理由は換気量における計画換気の割合が50%程度までの水準となるからです。
また、C値が0.7程度までになれば強風時に隙間から入る空気量はほぼ変わらないという千葉工大の小峰教授の研究が有名だと思います。
昔から超高性能な住宅を作っているオーブルデザインの浅間先生はC値は1.0以下であれば省エネ性の違いはほぼない仰っていますが、私もそう思っています。
基礎断熱はシロアリリスクが増大しますが気密処理が簡単であるため、C値が0.3程度出せる工務店が増えていると思います。一方、床断熱でC値を向上させることは難しいです。
仮にシロアリリスクの高い基礎断熱でC値が0.3の家と、シロアリリスクの低い床断熱でC値が0.7の家があった場合、どちらを採用するかは人それぞれでしょう。
また、C値だけに囚われずに家が大きい場合はC値が良くても隙間は多いことになりますから大きな家の場合はことさらC値は低い方が良いでしょう。
もっとも気密性能は低い程に良いことは間違いないですし、一条工務店でもC値が0.2といった方もいますが、床断熱で安定してC値が0.3以下などをだせるスーパー工務店もあります。
私はC値は床断熱で0.7以下、気積が増える基礎断熱では0.5以下が目標ではないかと考えています。
最後に
空調については間取りの制限を受けたくないという人や難しいことは考えたくないという人は床暖房とさらぽか空調をお勧めします。ただ、窓の日除けには注意が必要です。
そして、高気密高断熱住宅は夏にクーラーを使えば冷気が保冷されるとか冷暖房を行えば室温が均一化するという都市伝説が横行しているように思います。そんなわけはありませんよ。
家作りは数値に囚われるのではなくて数値は使いこなしてナンボだと思います。UA値やC値などの数値は家作りの1つの要素に過ぎず、空調を含めた住み心地という概念はもっと複雑です。
世の中には色々な空調方式や気密処理の方法があります。ただ、それらが相互に関連しているのにも関わらず単体で語られてしまっているケースが多いと思います。
シロアリリスクまでを含めてどのような空調方式が良いのかどの程度の気密性能や数値が妥当なのかはよく考えたほうが良いと思います。
一条工務店は加圧注入材を採用しているなど、防蟻処理にはこだわっている会社であることから、基礎断熱を採用した気密性能の向上は採用しないと思います。
基礎断熱を採用してしまえば気密性能は0.2~0.3程度は変わると言われていますが、一条工務店はシロアリリスクを増加させてまで目先の気密数値を向上させようとは思わないでしょう。
私はC値が低い程良いことは承知していますが、シロアリリスクを無視して単純にC値を比較している情報が多い現状には違和感を覚えています。
新住協がボード気密工法を開発した際に、それまでは壁の気密は気密層と防湿層が室内側の防湿シートで行っていたため煩雑な工事になっていましたが、気密層を柱の外の合板に分離したことにより施工性は大きく改善したと思います。
床や基礎の断熱気密処理についても同様で、床の気密は基礎でとって断熱は床で行うという発想もあると思いますから、今後の工法の発展に期待したいと思います。
一条工務店にはトリプルサッシ+ハニカムシェードにさらに内窓を付けたり、気密性能を圧倒的にしたりと、これまで以上に性能面で業界のけん引役になって欲しいなと思います。
たまたまなのか分かりませんが、私のあげたいくつかの改良要望について一条工務店は対応してくれたようなので、一条工務店は施主が要望すると意外と家を改良してくると最近感じています。
本日は以上でございます。