「5人の先生が教える 一生幸せなエコハウスのつくりかた」を読んで

考察

はじめに

9月に面白そうな本が発売されたので買ってみました。なぜ、面白そうかというと、5人の建築家の中に家の性能を重視する方と家のデザインを重視する方が同居した本であるからです。

ややもすると、家の性能と空間デザインは対立概念のように扱われてどちらを選択するのかといった偏った話になりがちですが、この本の企画はその対立の愚かさを指摘しているのだと思います。

本の冒頭に編集をされている建築知識ビルダーズ編集部から以下のような問いかけがあります。

「高性能な家に住みたいけど、性能を売りにしている会社の家作りは面白くない」、「お洒落でかっこいいデザインにしたいけど、デザインを売りにしている会社の家は性能が後回しになっている」、「性能が高くて、素敵なデザインの家を作るのは難しいことなのか?」

私も家の性能とデザインを対立概念のように捉えていること自体が間違いであると思いますが、なぜこのような対立概念になってしまうのかという事が本質的な問題であると思います。

きっと、多くの人はメリット・デメリット論という二極対立を招きやすい思考方法で問題を仕訳してしまうため、性能とデザインという両者を対立させてしまうが故に統合できないのでしょう。

プロの建築家においても性能とデザインを高いレベルで統合することできずに、家の性能は建築基準法を守る程度で済ませてデザインを重視した家作りをしてしまう人もいます。

多くの人が一生に一度の家作りであるなら、家の性能とデザインそしてコストをどれだけ対立させずに最大限に共存させることができるか、家作りは施主の統合能力が問われる瞬間だと思います。

著者5名の価値観は真っ二つに割れている?

この本は5名が著者という建て付けで、性能重視の松尾和也さん、西方里見さん、デザイン重視の伊礼さん、三澤さん、学者として高気密高断熱住宅を分析している東大の前先生という形です。

この5名が日本エコハウス大賞の審査をした模様が伊礼さんのブログに掲載されていて審査の意見が真っ二つに割れたことが、今の日本の家作りの価値観の多様性を象徴していると感じます。

ただ、デザインを重視する建築家がエコハウスの審査員になったということは画期的だと思います。そして、ここからは著者について私なりのコメントをしたいと思います。

松尾和也さん

パッシブハウスジャパンの理事もされていて、メディアの露出度の高い建築家ですからご存じの方も多いと思います。

松尾さんは高気密高断熱住宅+耐震等級3の住宅は最低必要という考えなので、家作りにおいては私とは近しい考えだと思います。

また、家のプロである設計事務所や工務店が実際にはほとんど高気密高断熱住宅やエアコンの使い方を理解できていないと指摘していることも特徴的だと思います。

発信される情報は高気密高断熱住宅は廊下やお風呂が寒くないなど、当たり前の内容のが多いですが、恐らく一般の人に分かりやすい説明をしようとしているのだと思います。

ただ、高気密高断熱住宅に詳しい一般人も増えていますから、ブログやTwitterなどの利用されるSNSを使い分けて一般向けと玄人向けの情報を分けて発信されてはと思います。

例えば窓の日射制御や小型のエアコン1台で家中を冷房できるという話は一般の人には驚きかもしれませんが、ある程度高気密高断熱住宅に詳しい人にはもはや驚くことではありません。

そして、私は空調の成功率を重視していますので冷暖房をエアコン1台で賄うような腕自慢には反対ですし、冬用エアコンは一階か床下に1台、夏用エアコンは二階に1台が良いと思います。

冷房に関して私も小屋裏エアコンをやったことがありますがサーモオフ対策や各部屋への送風は、一般工務店には難解であるため二階の階段ホールにエアコンを設置した方が簡単だと思います。

西方里見さん

高気密高断熱住宅業界のレジェンドであり新住協の理事でもある西方さんです。ベストセラーの本を最近改訂されています。

「最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版」を読んで
はじめに高気密高断熱住宅の設計者として尊敬する秋田県の西方里見先生の本が改訂されたので買ってみました。西方先生は北海道を発祥の地とする新住協の理事も勤めてらっしゃいます。「外断熱が危ない」という西方先生の本を買ったのは、かれこれ1...

私が二軒目の家を建てる際に特に参考にさせて頂いたのは西方先生と新潟のオーブルデザインの浅間先生のご両名であり、このお二方は高気密高断熱住宅業界の中では別格だと思います。

2009年に鎌倉にパッシブハウスが初めて建った時に、私は軒ゼロ住宅を温暖地で建てたことに悪い意味で衝撃を受けましたが、西方先生もそれを憂いるような記事を書いてましたね。

パッシブハウスジャパンの代表の森みわさんも新住協に加入されたようですし、新住協とパッシブハウスジャパンは西方先生の存在もあってより強く結びついていくような気がします。

伊礼智さん

OMソーラー系の建築家に連なる方だと思いますが、家を外部とつながる空間として考えている意匠(デザイン)や気候の変化を家から感じることを重視している空間設計者と言えるでしょう。

ただ、本書の画像には撮影用に網戸のない状態で窓を大きく開けた写真を掲載していますが、現実的には蚊や蜂がいるため、これは誤解を招く家作りの紹介だと思います。

発信されている情報だけみると私の家作りの考えとは相性が悪そうで、私は耐震性など家の性能を疎かにしてまで家の中に自然を取り入れる空間デザインは良いとは思わないからです。

家は人造物であり自然を破壊して建築されるもので、なるべく自然を壊さず調和して見せるという事は良いのですが、自然を破壊してまで建てる家の性能が低いというのは本末転倒だと思います。

せっかく自然を破壊してまで家を建てるのであれば、耐震性や断熱性などの性能が低くて家族の生活や健康が守れないような家では破壊された自然に申し訳ないではないかと私は思うのです。

ただ、若い頃はともかく現在の伊礼さんはOMソーラーのOMXという全館空調の機械仕掛けの家やFPの家や構造計算をする工務店などともコラボレーションしているようです。

三澤文子さん

国産材を利用して古民家のような優れたデザインの家を作っています。そして家の暖かさや耐震性、シロアリ対策を含めたメンテナンス性なども重視しています。

この方がもしかしたら、日本で一番デザインと性能の両立をされている方なのかもしれません。ただ、家の暖かさといった観点ではやはりOMソーラーを採用されているようです。

OMソーラーは生い立ちが高気密高断熱住宅とは違いますが暖かい家を目指しているということでは同じです。ただ、なぜかエアコンを利用すると設備に頼った家と言われるのは不思議です。

OMソーラーも大掛かりな設備で太陽熱を集熱して家中に循環させています。一方でエアコンも空気中の熱を利用しているので、自然エネルギーの利用という観点では変わらないと思います。

ただ、なぜかエアコンは悪でOMソーラーは善のような扱いを受けるのはイメージの問題なのでしょうか。そういった意味でOMを利用している建築家はイメージで得をしている気がします。

前真之さん

著書の「エコハウスのウソ」で有名な東大の前先生は設計事務所や地場工務店向けにセミナー公演を頻繁にされていると思います。

高気密高断熱住宅が設計どおり快適になっていない事例や夏の温暖地は窓を開けても涼しくならないことをデータを測定して検証しています。

私も断熱性能が高まると室温が均一化するといった定番の都市伝説は間違いだと思います。断熱性能を上げても暖かい熱は上昇しますし冷たい空気は下降しますから家の中に温度差は発生します。

なお、前先生は地場工務店向けセミナーではインデペンデンスデイという宇宙人に侵略される映画のポスターを使って、このままでは皆さんは一条工務店に滅ぼされると説明しているようです。

ちなみに私のような設計事務所+地場工務店で高気密高断熱住宅を建てて、後に一条工務店の施主になっている人間もいるので、一度直接話をお聞きしてみたいところです。

最後に

家づくりには色々な価値観があり、そのすべてが正しいと思います。

ただ、色々な価値観を取り入れて十分なレベルをクリアしたうえで、さらに自分の志向にあった家作りをすべきだと思いますが、自分の志向が優先され過ぎて家作りとしての最低限のレベルに到達していないことは回避すべきだと思います。

建築基準法の第一条には「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」とあります。

つまり、建築基準法は十分な基準でないことを自ら認めていて、度重なる地震で倒壊する家があることをみても、多種多様な価値観に基づいた偏った家作りがされているということです。

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家の依頼先を選定する際は、耐震等級3が取れるか、気密測定をしているか、という2点を確認してください。この2点をクリアしていれば後は各自の好みで家作りをされると良いでしょう。

デザインが良くて性能も良くてなおかつ、それを低コストで実現するということを期待するのであれば、天才建築家を探すしかないですが、日本に数人しかいないので簡単に探せないでしょう。

そして家作りにおいては大手ハウスメーカーの家という安心感も重要な価値観の1つだと思います。

性能・デザイン・コスト・安心感といった要素からどの住宅依頼先を選ぶか悩ましいですが、どれかに偏らずに高いレベルで全てが実現できると良いですね。

そして、この本を読んでも家作りの依頼先をどこにすれば良いか分からないという方は一条工務店で建てると良いと思います。最近はデザイン性に優れるグランセゾンが出たことですし(笑)

本日は以上でございます。

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