はじめに
住宅の省エネ基準(断熱等級4)を義務化するかどうかについては以下のような説明で納得している消費者もたくさんいると思います。
省エネ基準を義務化すると断熱強化や性能計算のコストが施主の負担となり、それは消費者のためにならない。何を選択するかは消費者の自由だ。
これは全くのウソだと思います。そして最後には消費者のためにならないと消費者に責任転嫁をしている点は住宅業界が巧妙に話をすり替えていると感じます。
省エネ基準はレベルが低すぎるためこれから建てる家においては基本的には断熱強化のコストは増えないし、ましてや性能を計算しなくても基準に適合しているかは判断できます。
つまり、真実はコストも増えないし計算も必要ないです。省エネ義務化が消費者のコスト増とならないことは先日に内閣府の再エネタスクフォースで東大の前先生も言ってましたね。
なぜなら、古民家のような無断熱住宅を建てたいという場合は別ですが、それを除けばこの基準は既にどんな家でもクリアできているはずです。
知識のない住宅会社は自社の建物がどの程度の性能か知らないため、「省エネ基準の適合にはお客様のコストが増える」という訳の分からない説明をしているのかも知れません。
ただ、消費者が住宅業界の訳の分からない言い訳に対して変に納得してしまっているため、省エネ基準を義務化させれば施主のコスト負担が増えるというウソが常識のようになっています。
本日はUA値を計算してみればウソが簡単にわかりますよという話をしてみたいと思います
オープンハウスのUA値は省エネ基準を超えている
都市部を中心に立地が良いながらも超割安な戸建住宅を提供して躍進しているオープンハウス社。つまり建物の性能を割り切って立地で勝負している住宅会社だと思います。
立地で勝負していることを考えるとオープンハウス社の建物を誹謗する気はございませんが、恐らく現状の新築住宅の性能としてはボトムとして考えることができると思います。
ということでオープンハウス社の建物の性能計算をしてみます。情報は以下のオープンハウス施主様の情報から拾わさせて頂きました。
見積書ではグラスウールがHGW10Kと表記され、ホームページではHGW14Kですが、この際10KとH14Kの両方で計算してみます。換気は三種で家の形状は床面積120m2の標準モデルです。
部位 | 最低仕様 | 標準仕様 | オプション仕様1 | オプション仕様2 |
天井 | 10K×100mm | H14K×100mm | H16K×155mm | H16K×155mm |
壁 | 10K×100mm | H14K×100mm | H16K×105mm | H16K×105mm |
床 | 32K×80mm | 32K×80mm | 32K×80mm | 32K×80mm |
土間 | EPS3種50mm | EPS3種50mm | EPS3種50mm | EPS3種50mm |
窓 | アルミペアサッシ | アルミペアサッシ | アルミペアサッシ | APW330 |
玄関ドア | K4 | K4 | K4 | K4 |
UA値 | 0.78W | 0.73W | 0.70W | 0.50W |
Q値 | 2.51W | 2.38W | 2.28W | 1.76W |
OP費用 | ー | ー | 148,000円 | +80万円程度? |
省エネ基準のUA値は東京などの6地域で0.87Wです。つまり、オープンハウスの標準仕様で省エネ基準(断熱等級4)を超えている(下回っている)ということになります。
最低仕様で計算したグラスウールの10Kとはホームセンターで良く売っている最低性能の物でこれ以下の商品など流通しておらず、アルミのシングルガラスのサッシでも使わない限り、省エネ基準は超えてしまいます。
そして、樹脂のペアサッシであるオプションのAPW330を採用すればZEH基準(0.6W)やHEAT20のG1グレード(0.56W)を簡単に超えます。
オープンハウス社は立地で勝負しているので性能が低いからといって何を選ぶかは消費者の自由でしょう。立地の良い都市部の家では土地が狭いので3.5寸柱が多く付加断熱なんて無理ですよ。
今回の計算内容は以下に格納してありますので興味のある方はごらんください。17番~20番です。
断熱の施工精度がどうしたこうしたという話については、気密測定をしない住宅会社は空中戦になってしまうため何とも言えないところです。
ただ、合板を設置している軸組工法であれば基本的にC値は2.0~3.0付近にあると思いますので、オープンハウスは施工精度が極端に低いとは私は思いません。
軸組工法はツーバイフォーと違って壁の上下の気流止めを意図的に設置して気密測定をしない限り、断熱気密の施工精度うんぬんの話は意味のない話だと私は思っています。
計算なんて必要ない
IBECによると、省エネ基準への適合判定は計算を行う「性能基準」と計算を行わない「仕様基準」の2つのルートがあると記載されています。
仕様基準については断熱材メーカーが屋根・壁・天井をどれだけの断熱材の厚みにすれば良いかを示しており、計算しなくても省エネ基準に適合しているかわかります。
省エネ基準に適合させるための数値計算をすると結局は消費者のコスト増になるという説は半分ウソです。各戸ごとにUA値を正確に計算する必要がなければコストは発生しません。
計算をしない仕様ルートが良いとは思いませんが、ここまで誰でも省エネ基準に適合しているか分かるようになっているのに、消費者はそのことを知りません。
私のようにIBECの省エネ基準解説書を読み込んで省エネ計算ソフトを解析する人なんてそうそういないと思いますが、慣れればUA値の計算は手計算でも出来るような簡単なものです。
設計士の資格を持つプロと言われる人でも半数がUA値を計算できないという国土交通省のアンケート結果があります。
UA値の計算ができるからと言って腕の良い設計者であるという訳ではありませんが、Q値のような換気の熱計算を含まないUA値なんて素人でも少し勉強すれば計算できる程度のものです。
最後に
省エネ基準レベル(断熱等級4)の断熱性能は、むしろ現状ではそれ以下で建てることが難しいというレベルであり、仕様ルートを使えば省エネ計算の必要すらありません。
結局のところ住宅業界で働く人が、省エネ基準の中身を理解しようともしないから、面倒臭い・重要視しない・出来ないと言っているだけだと思います。
そしてUA値の計算ができない大多数の消費者は不勉強な住宅業者のポジショントークを鵜呑みにして不毛な議論を繰り返すという無限ループの状況に陥ってしまうのだと思います。
住宅会社からみれば省エネ基準をクリアしたところで一条工務店や高性能な工務店に温熱で比較されても勝負にならないため勝負の土俵を断熱気密に持っていかれたくないのでしょう。
消費者の中には住宅業界の訳の分からない言い訳を鵜呑みにして、「省エネ義務化は消費者のコストが増加する」と信じて疑わない人がたくさんいると思います。
今回の計算によって、立地を重視して建物の性能は割り切っていると思われる(これはこれで悪くない)オープンハウスであっても、省エネ基準以上の性能であることがわかります。
では、なぜ省エネ基準の義務化が必要かと言えば、将来的には最低でもZEH程度の断熱性能を義務化するステップとして、まずはこの基準を義務化すべきであると私は思います。
「家作りは多様であるべきだ」と言われます。私もその通りだと思いますが、この多様性を逆手にとって住宅業界は自分たちのサボタージュを隠していると思います。
「多様性の訴求」を消費者の意見が分裂するように情報操作の手段に利用しているケースがありますが、こんなのは植民地支配の手法と何ら変わらないでしょう。
私たちは本当に多様であるべきことと、多様性という言葉が消費者の意見が分裂するように情報操作の道具に利用されてることの区別ができていないのかも知れません。
私も家作り以外については恐らく政府や業界団体の情報操作に気が付かないただの凡人です。そして、私は家作りについては注文住宅を四軒建てて気が付きました。
この世界(住宅市場)は消費者と住宅会社の現場の人が何者かに情報操作されている
ただ、情報操作に気が付かず既に家を建ててしまった方は自宅を愛して欲しいと思います。それをこれから家を建てる人が誹謗中傷することは好ましいことではありません。
そして、これから家を建てる人にはマスコミや住宅業界の既得権益を守るために情報操作されている消費者のためにならない情報と消費者のためになる情報の違いに気が付いて欲しいです。
テレビや新聞といった住宅業界(ハウスメーカー・地場工務店)の広告費の影響を多分に受けているメディアを見ない消費者が増えていることから、これからは新しい家作りが広がると思います。
ただし、価格の高いスーパー工務店は一般庶民が建てられる家ではありませんから、消費者はスーパー工務店で建てられない現実を知って家作りの迷子になってしまうでしょう。
私は誰でも建てられる価格で、ほどほどに高性能な住宅が一番重要だと思っていますから、そういう情報をこれからも書いていきたいと思います。
本日は以上でございます。