エアコンの消費電力と除湿量の関係

考察

はじめに

エアコンの風量を少なくすると除湿量が増えるという情報と風量を増やしたほうが除湿量が増えるという情報がありますが、結論から申し上げますと消費電力次第でどちらも正解です。

本来、冷房運転では梅雨のように室温を低下させたくない場合と盛夏のように室温を低下させたい場合ではエアコンの運転方法が変わりますが、私は設定温度以外は固定した案内をしています。

私の方式では「23℃程度の設定温度、風量最弱、風向き下(特に階段ホールエアコンの場合)」と設定温度以外は固定して、寒ければ再熱除湿か除湿器、暑ければ補助冷房か扇風機を利用します。

風向き下については階段ホールエアコンの場合はエアコン周りが冷えてサーモオフしやすいためであり、吹き抜けエアコンや平屋のリビングエアコンの場合は風向きは水平でも構いません。

風量を絞っている理由は少ない消費電力で除湿量を増やすことと、ファンやダクトを使わずに全館冷房をするには大風量で冷気をかき混ぜずに床に静かに冷気を流す必要があるからです。

私がなぜこのような単純化した案内をしているかというと、エアコンは消費者からみればブラックボックスですから設定を固定してしまった方が多くの方が理解できると思っているからです。

しかし、実際にはエアコンはもっと色々な運転ができますから、本日はエアコンはこんな特性で動いてますよというイメージを記載します。数値はイメージですから参考までにご覧ください。

消費電力を測ることがエアコンの動きを理解する早道だと思いますが、エアコンのコンセントプラグの形状が100Vの平行型だと一般的に市販されているワットチェッカーが利用できます。

エアコンの動きは非常にシンプル

まず、エアコンには室内機と室外機があります。室外機にはコンプレッサーと言って冷房エネルギーを生み出す部分があり、エアコンの消費電力の大半はコンプレッサーの稼働によるものです。

室内機には熱交換器といってコンプレッサーで生まれた冷房エネルギーを室内で放出するためのアルミのフィンがあり、さらに風を送るためのファンがついています。

室外機のコンプレッサー、室内機の熱交換器とファン。そしてエアコンを動かす方法は設定温度・風量・風向の3つしか方法がありません。よく考えるとエアコンは非常にシンプルな機械です。

再熱除湿機能が付いていないエアコンの場合は風量の弱い冷房運転とドライ(弱冷房)は基本的に同じだと思ってください。よって設定温度が自由に変えられる冷房運転を選択します。

エアコンは風量を増やすとファンのモーターの消費電力だけが上昇して、設定温度を下げるとコンプレッサーの消費電力が上昇すると思われがちですが、そうではありません。

機種にもよると思いますが、エアコンに消費電力がわかるワットチェッカーなどを設置すると、風量を上昇させてもコンプレッサーが稼働して消費電力が上昇することが理解できます。

例えば室温が25℃でエアコンの設定温度が23℃の状態で風量を増やせばエアコンは「部屋をもっと冷やせという指示」だと受け止めてコンプレッサーを動かすため消費電力が増加します。

エアコンは、室温と設定温度の差×風量=消費電力だと理解すれば非常に簡単な機械ですが、大半の消費者はエアコンの消費電力を知らないため凄いハイテク装置だと誤解していると思います。

エアコンは室温>設定温度でコンプレッサーが動作する単純なローテク機械です。設定温度が室温より高いとコンプレッサーが動きを止めてしまう状態をサーモオフといいます。

消費電力が一定の場合

まずは基本パターンを考えてみます。設定温度が一定で風量を上げれば消費電力は増えますが、消費電力を増やさず風量を増やすにはどうするかというと設定温度を上げるということになります。

消費電力は100Wのままで風量を増やすと室内の温かい空気を大量にエアコンが取り込むため熱交換器が冷えずに室内の空気に含まれる水蒸気の結露する量(除湿)が減ります。

風量を増やして除湿量が減ってしまったのに100Wの消費電力はどこに消えたのかというと大量の涼しい風としてエアコンから排出されるため寒くてジメジメした冷房になってしまうのです。

家庭用のエアコンは熱交換器が1つしかないため同じ消費電力の場合、温度を下げるか湿度を下げるかはシーソーゲームの関係で、難しく言うとこの割合を顕熱比といいますね。

上記の一番左が私の提唱する設定温度が低くて風量を絞った除湿が進む運転方法で一番右が世間で省エネ運転とされる除湿量が減るけれど室温が下がる運転方法です。

そして設定温度が高いとすぐにサーモオフしてコンプレッサーが休止しますから除湿量が非常に少ない運転になり、ここで除湿されないと思って設定温度を下げると相対湿度が上昇し続けます。

梅雨のように室温が低い場合は除湿量を増やして室温低下を防止した方が住み心地が良いですから、画像の一番左の方法が最近の高性能な住宅の連続運転に適しています

部屋が寒い場合は再熱除湿運転にするとよいですが、上記の原理を利用して自己責任ですがエアコンにフィルターやタオルを乗せて風量をさらに絞って室温低下を緩和する方法があります。

ただ、あまりにも風量を絞ると熱交換器が凍って(日立の凍結洗浄の原理)エアコンの安全装置が働いてしまうため、風量を絞るのは程々にされたほうが良いと思います。

消費電力を増加せさる場合

盛夏ではもっと室温も湿度も下げたい場合があると思います。そういった場合は設定温度を下げて風量を増やせばよいのですが、それは消費電力を増加させているということです。

以下のグラフは分かりやすく設定温度を一定のまま風量を増やした場合に消費電力が冷房エネルギーとして室温低下と除湿量のどちらに消えたのかを表しています。

消費電力を大きく増やせば、風量を増やして室温低下側に顕熱比が上がっても消費電力が大きいため除湿量は消費電力の少ない弱冷房より多くなります。

ただ、消費電力を大きく増大させた冷房運転は家の性能が良いほどに寒くて仕方がない状態になるため、これは猛暑日と昔の性能の良くない住宅や間欠運転に適していると言えます。

弱冷房より冷房運転のほうが除湿量が大きいと言われますがそれは当然のことで、少ない消費電力で除湿量を増やしているのではなくて、大きな消費電力で除湿量を増やしているのですから。

消費電力を増大させれば室温と湿度は下がりますが、なるべく室温を上昇させないようにパッシブ設計を行って窓の日射遮蔽には特に注意したいところですね。

再熱除湿の消費電力が大きい場合

最近の性能が良い住宅では消費電力の少ない冷房運転でも気温の低い梅雨時期は家が冷えすぎてしまうという現象が起きます。その際にあると便利な機能が再熱除湿方式です。

二階冷房で一階暖房という方式もできますが間取りの考慮が増えてしまうため、より簡単な空調設計と運用を実現するために再熱除湿エアコンをお勧めしています。

冷房運転だと部屋が寒くて設定温度を24℃まで上げてたらサーモオフして除湿ができないといった場合、再熱除湿を利用する際に皆さんは設定温度は何℃にすれば良いと考えますか?

冷房24℃設定でサーモオフするなら再熱運転は25℃以上だろうと考えると思いますが逆で、再熱は室温の下がりにくいため設定温度が低くて良く、除湿のできる暖房だと思えばよいでしょう。

高気密高断熱住宅はQ値が1.0Wなら人や家電の内部発熱で4.6℃程度は室温が上昇する計算になります。快適な室温が25℃だとするならば再熱の設定温度は21℃になるはずですよね。

現在の再熱除湿は室外機の廃熱を再利用するなど省エネになっていますが、設定温度が高い場合や風量を増やすとヒーター部分の消費電力が上昇してかなりの消費電力になります。

設定温度が低い再熱除湿は冷房運転に近づくためヒーター部分の消費電力が減りますが、冷房と同じく室温以下の設定温度にするとサーモオフします。

再熱除湿は消費電力が多いというイメージがありますが、高気密高断熱住宅は内部発熱がありますから設定温度の低い再熱で良く、その消費電力は冷房の10~20%増し程度でしょう。

部屋が寒いときは再熱除湿を利用されることをお勧めしますが、再熱でもサーモオフしてしまう外気温の低い時期は除湿機を利用されると良いと思います。

(2021/06/26追記)施主が三菱に確認したところ三菱の再熱除湿は潜熱除去の際に発生する室内側の熱を利用しているということで室外機の排熱を再利用するタイプではないようです。

つまり、消費電力を増やさないタイプの再熱除湿ということになり25℃のように設定温度が高くても消費電力が増えないようです。

この特性を利用して梅雨時期は60W台でサーモオフさせずに室温を下げない再熱運転が可能という報告があります。

色々なことを統合した結果の運転方法なのです

私の案内しているエアコンの運転方法はこれまでの経験を元に非常にシンプルな形にしていますが、何年か全館冷房の運転を行って慣れてきた方は私の運転方法の限界に気が付くと思います。

それは、私のエアコン運転方法がいかに少ない消費電力で室温を下げないように除湿量を増やすかを突き詰めた運転方法であるため盛夏においてはオーバーヒートする可能性がある点です。

天井の断熱や窓の日射遮蔽が弱い場合は盛夏にオーバーヒートしてしまう可能性があり、特に窓の日射遮蔽の重要性については何度も説明している理由はここにあるわけです。

私の考えでは全館冷房用のエアコンは除湿機であってオマケで冷房ができてしまうケースが多いというものですから各部屋にエアコンを設置して暑い時はそれを利用しても構いません。

メインエアコンの風量を上げて消費電力を増やせば1台で家を涼しくすることもできますが、小型エアコンの場合は負荷が大き過ぎると燃費(COP)が悪化してしまいます。

猛暑日にエアコン1台の消費電力が定格以下で運転できるなら補助エアコンは利用しなくて良いですが、誰もがワットチェッカーを付けないため私は暑ければ補助冷房の利用をお勧めしています。

エアコンが1台しかない家はエアコンの故障時に困るため結局は複数台設置をするのであれば、機器代の安い小型エアコンを複数台設置したほうがコスパが良いし運用もしやすいと思います。

また、冷房用のエアコンを1台にすることが目的になってしまうと間取りの設計が難しくなって「除湿によって家事が楽になる生活」が多くの人に普及しないと考えています。

私自身は日射遮蔽も完璧に行って冷房のエアコンは1台で賄えていますが、色々な家づくりがあって然るべきですから、どのような状況にも対応できる分かりやすい方式が最良と考えます。

エアコン全館冷房に挑戦するからといって窓に網戸をつけて窓を開けた換気をしてはならないなんてことはなく花粉症などでなければ外気の絶対湿度が低い時期は窓を開けても良いのです。

最後に

エアコンの運転を上手に行うには、エアコンの吹き出し口に絶対湿度を測るみはりん坊Wを設置して、さらにエアコンの消費電力を測るワットチェッカーがあると便利です。

ただ、なぜエアコンはこんなにも消費者に分かりにくいブラックボックスなのかといえば、それはエアコンメーカーがあえてブラックボックスにしているからでしょう。

昔は東芝のエアコンで消費電力が本体に表示される機種がありましたが、エアコン本体やリモコンに消費電力を表示する機種が増えればエアコンの適正サイズが消費者にも分かるようになります。

うがった見方をすればエアコンメーカーは、より高額な容量の大きいエアコンをたくさん出荷したいでしょうから、消費者にエアコンの適正サイズを認識されては困るのでしょう。

世間ではエアコンの推奨運転は27~28℃で自動運転なんて言われますが除湿量が少ないため部屋が冷えて冷房病になるし相対湿度が上昇してカビやダニが発生しやすい環境になってしまいます。

また、エアコンを乾かさずに小まめに電源をオフすればエアコン内部にはカビが発生して、次回にエアコンを利用した時にはエアコンはカビの拡散機になってしまいます。

なぜ、未だにこんなエアコンの運転方法がテレビなどで紹介されているのか疑問に思いますが、カビやダニを繁殖させて布団乾燥機やお掃除道具などを買わせるためなのかと思えてしまいます。

実態は原発停止を踏まえて消費電力を減らすために大半のエアコンメーカーは除湿をなかば放棄して温度と気流をコントロールして体感温度を下げる方向に舵を切ったということでしょう。

さて、1964年に制定されたJISのエアコン畳数表示が改訂されない理由はなぜなのか?住宅の断熱性能に関してUA値0.87Wという低い基準が最高等級である理由はなぜなのか?

現在の住宅に容量の大きなエアコンが必要ないことは消費者は薄々気が付いているものの、あまりにも小さいエアコンの設置については躊躇する人が大半だと思います。

断熱性能の指標はQ値からUA値に改悪され、エアコンの性能表示もCOPからAPFに改悪されており、我々消費者は情報をどんどんと奪われていっています。

家電のAI化が進んでいます。機種にもよりますがエアコンの自動運転のように家の性能向上を考慮せずに居住者の快適性とはかけ離れたプログラムがされてしまわないことを願うばかりです。

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