建ててしまった人は読まないでください。ショックを受けますから。

考察

はじめに

記事のタイトルは1999年に発刊された「いい家が欲しい」という高気密高断熱住宅を扱った書籍の帯に書いてあった宣伝のコメントです。著者は東京で工務店経営をしている松井修三さんです。

いま言われてもなるほどと思う言葉ですが高気密高断熱住宅はいまだに一般的には設計方法と住み方が理解されていないと思いますし、その誤解は温暖地においても20年以上前から続いています。

私は2000年に一軒目の家を建てて2018年に四軒目の家を建てています。入居して家作りに関心を失っていた時期もありましたが約20年間に渡って日本の家作りに関心を持ってきました。

1999年(平成11年)に制定された次世代省エネ基準は6地域のQ値は2.7Wという数値で、これは平成25年に制定された現在の省エネ基準のUA値0.87Wにもそのまま受け継がれています。

UA値0.87W = Q値2.7 * 0.37(2.7の逆数) ー 0.13(換気の熱損失分)

逆に言えば、現在の省エネ基準は、換気の熱損失を含まず、家の形状による熱損失が考慮されず、気密性能(当初は寒冷地のC値は2.0以下)も考慮されていないためかなり後退しています。

一方、この20年で窓と玄関ドアの性能は飛躍的に向上していて、YKKからも防火トリプルサッシが発売されるなど開口部の高性能化が住宅性能向上への突破口になっている感があります。

初めて家を建てる方が疑問に思うことについては、どの時代でも大体同じで既に先人が解決していることが大半ですが、家作りの期間が短いとなかなかその情報まで辿り着けないようです。

本日の内容は昨年の9月に私がインスタライブで話した高気密高断熱住宅の歴史と空調の発展についての振り返りです。私の推測を含んでいる部分があるためフィクションだと思ってください。

高気密高断熱住宅の発展

1970年代のオイルショックにより特に北海道を中心に住宅の高断熱化が進みましたが、最初は「ナミダダケ事件」のような新築住宅の床が結露で腐るという事故が起きています。

74年には2×4住宅が日本に導入されたものの、公庫(現在の住宅金融支援機構)の施工マニュアルでもコンセントBOX周りを含めた防湿層の指示が不十分で「壁内氷柱事件」が起きたようです。

このあたりの経緯は日本に2×4住宅やR2000住宅をもたらした故、鵜野日出男さんのブログに詳しく書かれています。

78年には東大大学院を卒業された鎌田紀彦先生が室蘭工業大学に着任され北海道庁に在来工法の欠点の改良を提案したものの受け入れてもらえなかったため自ら新住協を発足したようです。

現在では断熱の神様と言われる75年に室蘭工業大学を卒業した西方里見さんが鎌田先生と共に日本の高気密高断熱住宅の発展に大きな貢献をすることになるわけです。

一方で高気密高断熱住宅は温暖地へ進出した際に、窓の日射制御を行なわず飛んでもないオーバーヒートを起こす事例が発生するなど、設計方法の間違いから誤解を受け続けています。

余談ですが、次世代省エネ基準の制定に貢献された東大の坂本雄三名誉教授は名古屋大学出身であるにも関わらず東大教授となり、東大生え抜きの鎌田先生が東大の外に出た事に何かを感じます。

現在、坂本先生はHEAT20委員会の委員長であり官公庁対応ができる人な様で、一方の鎌田先生は宮仕えに辟易したのか独自に新住協という団体を発展させています。

「エコハウスのウソ」の著者で有名な東大の前准教授は坂本先生の系譜に繋がる方だと思いますが、新住協工務店との交流もあるようで、坂本先生や鎌田先生の後継者だと言えると思います。

「ソーラーサーキットの会」の分裂

奇しくも松井修三さんの著書「いい家が欲しい」が発刊された1999年は次世代省エネ基準(平成11年基準)が制定された年でした。

外張り断熱ブームの幕開けの年でしたが、ブームをけん引したのは断熱材メーカーであるカネカの「ソーラーサーキットの会」の会員工務店であり松井さんの工務店も当時は所属していました。

松井さんは著書とブログで外張り断熱以外の工法を強烈に否定していたことから、西方先生が「外断熱が危ない」という対抗本を発行するなど、荒れに荒れた時代でした。

大和ハウスのテレビCMでは職場で外断熱が重要であると知ったサラリーマンが心配になって奥さんに自宅が外断熱か電話で確認して安心するするといったものがありました。

大和ハウスの家は鉄骨で外張りの断熱材が薄いため今となっては外断熱以前の問題であり失笑されかねないCMですが、当時は外張り断熱であるかどうかがセールスポイントだったのでしょう。

さて、松井さんは信念の強い人のようで「会」が分裂や脱退を繰り返してしまったことが、私がご紹介しているエアコン全館冷房に繋がっていきます。このことは後述いたします。

まず、「ソーラーサーキットの会」の会員工務店である高砂建設が起こした「クレゾール事件」に対してカネカが除名処分をしなかった事から松井さんは他の工務店を引き連れて会を脱退します。

これが現在の「いい家を作る会」になりますが「いい家を作る会」が一種換気+ダクト式エアコンを標準仕様としたことで小屋裏エアコンを開発していた愛知の丸七ホームが脱退してしまいます。

松井さんは良くも悪くも信念の人であり自社工法への拘りが強すぎて「会」が分裂した結果、空調のノウハウが拡散してしまったとも言えます。

現在の松井さんは外張り断熱に拘りすぎて充填断熱を否定してきた経緯から、充填+付加断熱をしている超高断熱住宅を否定する立場となってしまっています。

私は新住協と共に「いい家を作る会」の家作りを非常に参考にさせてもらったため、ぜひ「いい家を作る会」は充填断熱を実施して、超高性能住宅へ進化して欲しいものです。

さて、空調に関しては当初の松井さんは施主と交流しながら小屋裏エアコンや床下エアコンを実験していましたが最終的にはこれを廃止して「SA-SEA」という空調システムを完成させています。

以上のような経緯から丸七ホームが開発した小屋裏エアコン(現在のマッハシステム)はソーラーサーキットの施主達が挑戦した過程を経て完成したと私は考えています。

そして、松尾さんから全国に広がった小屋裏エアコン方式は恐らくですがマッハシステムを参考にしたものではないかと思います。これは私の推測ですので真実かどうかはわかりません。

名古屋まで換気冷暖房システムを見学に行ってきました。
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寒冷地発祥の新住協は夏の夜は窓を開けたナイトパージを推奨するなど、全館冷房には出遅れていたことから、松尾さん経由で全館冷房のノウハウが全国に伝播したのではないかと思います。

私は2010年に建てた二軒目の家において電気工事士を取得してファンやダクトを自分で設置しながら小屋裏エアコンを完成させましたが、その原型となったものはマッハシステムです。

マッハシステムを提供している企業の顧問には坂本先生が就任しており、ヤマト住建も採用するYUCACOシステムの研究会の会長も坂本先生であるため、ここにも関連性があると思います。

つまり、現在提供されている壁掛けエアコンを使った廉価な全館空調システムの源流は2006年頃からソーラサーキットの施主達が挑戦した小屋裏エアコンにあると私は考えています。

そういった背景から家作りはプロに任せれば良いという意見には私は賛同できません。特に「空調」は施主が自己責任で行った実験を情報発信することで大きく発展してきたからです。

良いものは広まるべきだと思いますが私から言わせると小屋裏エアコンでドヤ顔しているプロには、それは施主達の挑戦をパクったものだという歴史をしっているのか?と思ってしまいます。

それは私のブログタイトルが「家は、空調。」である理由でありブログのドメインにiiieという文字を含む理由はソーラーサーキットを源流とする「いい家を作る会」への感謝の気持ちなのです。

そして、皆さんが壁掛エアコンによる全館冷房に挑戦する際は、各部屋のエアコン予備穴やバックアップのエアコンを設置するなど、失敗に備えた十分な設計をお願いします。

ソーラーサーキットの施主の功績

かつての松井さんは自社以外の施主にも開放した談話室という掲示板(現在は閉鎖されています)を運営していて、自らも家作りについての質問にコメントをされていました。

2000年頃の高気密高断熱住宅の黎明期の施主は理系で温熱の計算ができるマニアな人が多く、掲示板で話題になったことは熱量的にはエアコン1台で冷暖房できるはずだということでした。

この当時の掲示板には現在もベクターに掲載されている壁内結露計算アプリ「結露Kさん」を開発する人が現れるなどハイレベルなコミュニティでした。

なぜ、ソーラーサーキットの施主達が小屋裏エアコンや床下エアコンに挑戦したかということについては、ソーラーサーキットの家が外断熱二重通気工法であったことが大きく影響しています。

外断熱二重通気工法とは、外壁の通気層をアウターサーキットと称し、充填断熱のない外張り断熱であったため、壁の中を意図的に開放して通気させるインナーサーキットを設けています。

ソーラーサーキットの家は基礎外断熱の完全な外断熱住宅であったため、小屋裏と床下が室内空間であり、小屋裏と床下にエアコンを設置することを考えるきっかけになったと想定します。

そして、充填断熱のない単純な外張り断熱であったため、壁の中は空洞で、しかも壁内通気工法のためにインナーサーキットを冷暖房の経路に使えないかと考えた施主が多かったのです。

そもそも夏は基礎部分にある開閉可能なダンパーを開けて、床下から壁の中に空気を通気させて涼を得るという目的の工法でしたが、これが空調を発展させる原因となったと思います。

結果的には夏に床下に外気を取り込んでも湿度は下がらないし、地熱で冷える床下は結露してカビが発生する原因になるため、「いい家を作る会」では床下への通気は廃止となっています。

こうなると二重通気のうちのインナーサーキットも廃止して充填断熱をした方が良いと思いますが、充填断熱を激しく否定してきたため、それはできないのでしょう。

さて、松井さんの掲示板には小屋裏にエアコンを設置したが家が冷えないという報告が続出していました。エアコンの性能が足りないと考えて大型エアコンに交換した人までいました。

いまとなっては当然ですが狭い小屋裏空間でエアコンを運転すればサーモオフを起こしてエアコンが稼働しないということが当時はわかってなかったのです。

そのうちに、スウェーデンハウスの施主から吹き抜けの熱籠り対策として、二階の階段ホールにエアコンを設置したところ家中が涼しくなったという報告がありました。

そこで私は全館冷房の仕組みに気が付きました。エアコンを広い空間に設置してサーモオフを起こさなけれは24時間除湿が維持できるとわかったのです。

その結果、エアコンの風向きを下にして床に冷気を流せば吹抜けがなくても温度差で空気が循環するため送風用のファンを利用しなくても全館冷房が可能となることが判明しました。

逆に言えば小屋裏エアコンの場合は小屋裏と下の階との間に大きな開口がなければ、冷気が自然落下できないため、大風量ファンによる各部屋への送風をする必要があるということです。

ソーラーサーキットの施主達は床下エアコンには成功しなかったと記憶しています。当時は床下が剛床で密閉されていなかったことから、家中に暖気を供給できなかったのでしょう。

壁掛けエアコンによる全館冷房はソーラーサーキットの施主から発生し、床下エアコンは西方先生などの新住協から発展してきたものだと私は認識しています。

最後に

温暖地における高気密高断熱住宅の黎明期に「いい家が欲しい」の著者である松井修三さんが開放してくれた談話室という掲示板からエアコン1台による全館冷房は誕生したと私は考えています。

そして、私は古い時代からの施主であるため初めて家を建てる現代の施主の情報をみていると「あれ?また同じ話をしている」、「それとっくに解決済みなのに」などと感じるときがあります。

何が言いたいかというと、家作りで疑問に思われた方はぜひ先人の情報を検索してみてくださいということです。先人も同様に悩み考えているため1人で悩む必要はないと思います。

1999年に次世代省エネ基準が公布されて以降、高気密高断熱住宅については先輩施主が苦労に苦労を重ねて沢山の失敗をして色々なことにチャレンジした結果、多くの問題は解決しています。

後はそれをベースにこれから家を建てる人が自分に合った家作りをすれば良いと思いますが、1から自分の頭で高気密高断熱住宅を考えるには時間が足りないと思います。

そして、家はデザインと性能のどちらが重要かなんて話は無限ループな議論の状態でしたが、昨年ぐらいから住宅系Youtuberが増えたことから状況が変わりつつあるなと感じます。

これは急に家作りが進化したということではなく、2010年前後には解決していた話がしっかりとかみ砕かれて、広く知られるようになってきたということだと思います。

例えば、一種換気と三種換気のどちらが良いかという比較においては、三種の場合は給気口を一箇所にしてエアコンの近くに配置するといったデメリットの解消方法は昔から知られています。

そして、窓の選択や配置、換気の配置、そしてエアコンの配置は住宅がある程度規格化されているハウスメーカーであっても施主の知識次第で何とでもなるものです。

家作りは作り手から提供されたものをゼロイチ思考やメリットデメリットで単純に仕分けするのではなく、設置方法や使い方に改良を加えた上で判断しないと大きな失敗をしかねません。

住宅の価格が安い上で優れた営業マンや設計者に出会えれば幸運だと思いますが、通常は相当なお金を払わないとプロに家作りをお任せできような状態ではないと思います。

大事なことは家の性能をしっかりと担保した上で、数値に囚われない自由な家作りをすることだと思います。

私なら家の北側の景色がよければ北側に高性能な大きな窓を設けますし、一方で南側からの日射取得も重要ですから両方を狙います。

ステレオタイプの話に惑わされないことが重要で例えばUA値を小さくするために日射取得のできる南側の窓すら小さくするなんて話は典型的だと思います。そんな初歩的な話。。

家作りは難しいことを考えずに楽しくありたいですが、情報を取捨選択し過ぎれば性能かデザインのどちらが重要なのかといったバランスの悪い家作りになってしまいます。

住宅会社は自社ができないことについては「そこまで必要ではない」「もっと重要なことがある」といって話をすり替えてくると思いますが、それこそポジショントークというものでしょう。

情報弱者という言葉がありますが、情報収集弱者なのか情報処理弱者なのか分からないところです。いずれにしてもいまの住宅市場は消費者にとって不透明すぎると思います。

予算が少ない人ほど作り手側からの提案は少ないと思いますので、情報収集と共に情報処理能力を高めて大量の情報に溺れないことが家作りでは重要なのかも知れませんね。

 

本日は以上でございます。

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