はじめに
エアコンの畳数表示は現状の新しい家の性能と合っていないと、前の行政改革担当大臣でありワクチン接種推進担当大臣であった、河野太郎さんのTwitterが話題になりました。
明確にしました。エアコンのカタログの何畳用という数字は1960年代の基準で計算されています。6畳用とカタログに出ているエアコンでも、最近の高気密高断熱住宅ならば20畳から30畳の部屋で使えます。カタログ値で選ぶとエアコンはオーバースペックになり、エアコン価格と電気代が無駄になります。 https://t.co/sFCVCROHlb
— 河野太郎 (@konotarogomame) March 29, 2022
新しい家であれば6畳用のエアコンが20~30畳の部屋で利用できるという前大臣のツイートに対して、エアコンを扱っている業者の方からそんなの無理という意見も書き込まれています。
一条工務店ぐらいの家の性能になると、吹き抜けがあれば6~8畳用のエアコン1台で60畳(つまり家全部)を全館冷房できている事例はたくさんあります。
つまり、前大臣のコメントにある「6畳用のエアコンは20~30畳まで使える」というのは、家の性能によっては大げさな表現ではなく、むしろ控えめな表現だと言えます。
興味のある方は私のエアコン容量計算ツールをご覧ください。かなり少ないエアコンサイズが計算されると思いますが、顕熱と潜熱も含めて計算した上で安全率をかなり見込んでいます。
これからも、エアコンメーカーをスポンサーとするテレビや新聞などは、エアコンのサイズや設置数が過大になっていることを積極的に取り上げないと思います。
ただ、私の無断熱の実家では6畳用のエアコンを設置したら6畳の部屋が冬に寒くてたまらず、10畳用のエアコンに交換しましたから、前大臣の話はすべての家に当てはまる訳ではありません。
次に、エアコンの設定温度については、一般的なエアコンの設定温度27℃では除湿があまりされないため室内が蒸し暑いですし、家中にダニやカビ・雑菌が繁殖する環境は改善されません。
家中を除湿するために設定温度を18℃や23℃などにするとエアコンに負担が掛かって故障したり効率が下がると思われていますが、消費電力を測ってみると全然負荷はかかっていません。
むしろ、電力測定もせずにエアコンの能力が不足するとか無理をさせると早くエアコンが壊れるという印象操作をすることでエアコンをたくさん出荷する方向に世論を誘導していると感じます。
さて、先進的な家作りではエアコンの畳数の問題は20年前にはとっくに知られていて、さらに10年位前からは湿度をどのようにコントロールするかという話題が中心になっています。
ということで、本日は「最近の家の性能に応じたエアコンの適正サイズの理解」は当然のこととして、さらに「最近の家の性能に応じたエアコンの運転方法」について考察します。
エアコン運転方法の流派について
本日の本題ですが、エアコン1~2台を使った全館冷房をするにおいて、運転方法では大きくわけて「適温多風」と「低温微風」の2つの流派があると思います。
区分 | 設定温度 | 風量 | 備考 |
①適温多風 | 25~27℃ | 多い・自動 | 新住協の工務店に多い印象 |
②低温微風 | 18℃ | 最弱 | 岐阜県の凰建設方式? |
23℃が基本 | 最弱が基本 | F式 |
基本的に夏のエアコン運転は、設定温度を下げて風量を上げると消費電力が増えて、室温が下がりたくさん除湿されます。後は家の性能と日射遮蔽に合わせてどの設定にするか考えるわけです。
「適温多風」については、新住協の鎌田先生が風量が多いほうが除湿量が多いと仰っているように、たしかに真夏の運転ではその通りだと思いますが、梅雨はサーモオフしてしまうと思います。
この対策として、一階のエアコンを動かして二階のエアコンをサーモオフさせない方法がありますが、間取りによっては一階が暑くなってしまいますから、除湿器の併用も良いと思います。
新住協は未だに暑い関西は夏の夜はエアコンの連続運転が必要だが、それ以外の地域は夜は窓をあけてナイトパージしたほうが省エネだと言っていますので冷房計画が出遅れていると感じます。
これに対して除湿を重視して梅雨を含めエアコンを連続運転する考えから「低温微風」が生まれたと思いますが、逆に真夏は特に三種換気で室温や除湿量が物足りない状態になると思います。
この対策としてF式では吹き抜けがある家は風量を上げ(消費電力は増える)、吹き抜けのない家であれば一階のエアコンを補助的に利用するという使い方が一般的です。
つまり、吹き抜けがある階段ホールエアコンであれば真夏ではF式は風量を上げて消費電力を増やすことで「適温多風」に近い発想での運転方法になります。
なお、27℃設定で家中のエアコンを5台運転しても電気代が安いというような情報がありますが、どれか1台のエアコンに負荷をかけないと除湿が十分されないため電気代は安くなります。
二階のエアコンの設定温度は固定して、補助的に利用する一階のエアコンで室温調整するという方法はF式でも真夏はやりますが、二階エアコンが真夏と同じ設定だと梅雨は寒くて仕方ないです。
このため二階のエアコンには極力、再熱除湿エアコンをお勧めしていますが、再熱運転の場合、吹き出す空気が冷たくないため、一階まで落ちにくく真夏の運転には向いていません。
F式では23℃前後、風量最弱、風向き下を基本のセオリー運転と称していますが、これはあくまでも出発地点であり、部屋が暑ければ風量を増やし、寒ければ風量を絞ります。
そして、23℃前後の意味ですが、サーモオフさせないことが目的であるのならエアコンの温度設定を最低の18℃にしたほうが合理的ではないかという意見もあると思います。
F式が設定温度23℃を基本とする理由
これはF式の生い立ちが原因になっています。私の二軒目の家は日本第一号のパッシブハウスである鎌倉パッシブハウスの年間消費電力を下回るという目標を掲げて生活をしていました。
共に太陽光パネルがなく坪数も同じ程度でしたので、快適性を維持しつつ、照明・給湯の節電はもとより、特にエアコンの運転は消費電力をにらめっこしながら行ってました。
真夏は寝るだけの夜間にエアコンの電力をたくさん使いたくないという理由から、夜間は設定温度をサーモオフぎりぎりの25.5℃程度まで上げて消費電力を抑えていました。
真夏の昼間は300~500W程度までエアコンの電力は上がりますが、夜間は80~130W程度で納めていました。そのため、常に何℃でサーモオフするか意識している必要があったのです。
結局、真夏は設定温度を23℃まで下げればほぼサーモオフしないことがわかり、キーボード入力のホームポジションのように、23℃をスタートにそこから調整するスタイルになったのです。
二階のエアコンは設定温度18℃固定で一階のエアコンで調整するというスタイルは簡単で良いと思いますが、サーモオフ手前の消費電力が低い状態を狙う場合は設定温度を上げる必要があります。
また、設定温度が固定だと困るのは梅雨だと思います。F式では23℃微風でも冷房運転では室内が寒いという人が大半ですから、再熱除湿や除湿器併用に切り替える人もいます。
二階エアコンが設定温度固定の場合、どのように梅雨を寒くなくしっかり除湿できるのかについて、私にはわからないところですが、何か手段があるのでしょうか。
F式の定義とは何か?
家系ラーメンの定義とは何なのかみたいな話ですが、技術的には「低温微風」派に属していて、エアコンの設置場所は小屋裏でも階段ホールでも「開放型」になっていればどこでも構いません。
洗濯物の部屋干し乾燥やカビダニの抑制を考えると真夏だけでなく梅雨においても相対湿度をしっかりと60%以下に抑えたいという、時短家事を重視する消費者視点での発想です。
エアコンにワットチェッカーとみはりん坊Wを設置して、少ない消費電力でしっかり除湿できているかを確認しながら運転する方法です。省エネにこだわっている方法だと言えます。
みはりん坊Wについては松尾さんが一条施主の「まぼこさん」のブログをみて、全国の工務店に紹介したのか分かりませんが、松尾さんも再熱エアコンの必要性を述べています。
梅雨においてF式では「再熱除湿エアコン」を推奨していますが、消費電力を抑えて室温低下を抑制するために冷房運転でさらに風量を絞る「フィルターマシマシ」という裏技があります。
また、夏の夜間など外気温が下がった状態で設定温度を25℃程度まで上げてサーモオフさせずに消費電力を抑え、100W前後でエアコンを運転している状態を「魔界」と称しています。
まぁ、とにかく家中の相対湿度を60%以下かつ消費電力を抑えるということを熱心にやってきた私の運転方法がF式なのですが、現在は省エネより快適性の方を重視した情報発信をしています。
この理由として、一条施主としてF式第一号と思われる「まぼこさん」は温湿度の感受性がとても鋭く、快適性のためなら消費電力が少し上がる再熱除湿を躊躇なく利用されていたからです。
省エネのために家族の快適性を犠牲にするなんて本末転倒だということを理解した私は再熱除湿運転はぜいたく品だという考えを改めました。
また、再熱除湿機能を搭載しているエアコンを推奨する理由はダイキンの上位機種などの除湿より室温低下に設定を振っている梅雨に除湿量を稼ぎにくい機種を避けるためでもあります。
そんなこんなで、現在ではF式ってなに?と聞かれるとこんな感じですね。
①開放型のエアコン設置、基本は低温微風運転
②梅雨を含めて相対湿度60%以下にできる(再熱除湿エアコンを推奨)
③吹き抜けやファンやダクトがなくてもよい(温度差で空気を動かす)
④情報がオープンで施主が実践できる
⑤消費電力を抑える裏技がある(変態施主向け)
最後に
高性能住宅をアピールするのであれば、梅雨を含めてダニカビの発生を抑える相対湿度60%以下をキープできる家である必要があると私は考えています(手段は何でも良いと思います)。
消費者が高性能な住宅会社に目星をつける業者リスト等の整備が進んでいますが、断熱気密+耐震等級3+パッシブ設計+暖房計画までで、冷房計画ができる住宅会社は皆無に等しいようです。
エアコン1台で全館冷房できますとアピールする住宅会社でも、涼しいだけで梅雨に除湿不足になったり、猛暑日に暑くてたまらない家など、まだまだ冷房計画は難しいようです。
私のところにくる相談においても、このレベルの工務店でも冷房計画が出来ないのかと驚くことが多々あり、それでF式を採用する施主が増えているという状況です。
だからといって、冷房計画だけで住宅会社を選ぶなんてことをしたら、予算やデザインを含めて気に入った住宅会社を選択できなくなります。
私は予算を含めて相性の良い気に行った住宅会社で家を建てるべきだと思いますから、冷房計画は施主(自己責任)と住宅会社の二人三脚でも良いじゃないかと思っています。
ましてや、エアコンの畳数表示など、国やエアコンメーカーがひた隠しにする問題を消費者が知ることができない現状では、住宅会社や設計士さんだって空調の挑戦は難しいでしょう。
冷房計画をネタに住宅会社の差別化が図られるようであれば、消費者はますますコストを含めて選択できる住宅会社が少なくなってしまいます。
「お金のない人はマンションに住め」というような意見もありますが、私が戸建てに住みたいと思う理由は「音」です。そもそもは子供が走り回っても近所迷惑が気にならない事が安心なのです。
土地が狭くて予算が少なくてもマンションを選択したくない人がいて、そういう人には全館冷暖房なんて夢のまた夢なのですが、そんな時にF式がお役に立てたらいいなと思っています。
F式とは何かと問われれば、本質としては「庶民のための全館空調です」ということでしょう。B級グルメのようなもので、安いのに結構美味しくて病みつきになる人もいますよ。
F式を採用されるときは二階のメインエアコン(再熱)に加えて一階に暖房用のエアコンを設置してください。また、各部屋にはエアコンの予備穴とコンセントを設置してください。
そうすれば、仮に室温調整がエアコン1台では満足できない場合やお子様の思春期はドアは明けておけないという問題があったとして、部分的に個室エアコンを併用することもできます。
全部を把握してませんが、F式で運転している住宅は既に百棟以上は余裕であると思います。今年の夏にはさらに増えると思いますが、私は情報を有料にする気はまったくございません。