ダンプハウス(高湿度住宅)のカビ問題

考察

はじめに

(出典:一条工務店

ダンプハウス(DampHouse)・ダンプネス(Dampness)という言葉をご存じでしょうか。高湿度環境から発生するカビなどの生物汚染がもたらすシックハウスのことです。

一条工務店のホームページにも湿度管理というページがあり詳しく書いてありますが、家作りの好みの問題もあるためなのか、湿度管理の手段までは書いてありません。

大人はこれまで日本に生活してきて湿度は特に意識しなくても大丈夫だったというかもしれません。ただ地球温暖化の影響による近年の夏の高い気温によって湿度も上昇しています。

冬季の窓の結露はもちろんのこと、梅雨から秋にかけては外気の湿度が高いため除湿をしなければ家の中には目に見えない程度のカビを含めてカビが生えてしまいます。

1990年代頃から欧米でよく議論されている問題ですが、日本においても日経ホームビルダーの2018年10月号の「住宅に広がるカビ汚染」特集で知ったという人も多いでしょう。

ただ、2018年頃の一条工務店の施主は家の外である床下のカビを心配していた時期であり、なぜ室外である床下のカビよりも室内のカビを気にしないのかなと私は不思議に思っていました。

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キッチン下のカビについては最近あまり聞きませんが、気密と抗菌対策や施主への案内が徹底したのでしょうか。

いずれにしても、入居してから梅雨~秋にかけては除湿を継続しなければ、断熱気密性能に関わらずどんな家でもダンプハウス(高湿度住宅)になってしまいます。

入居済で対策をしていない方についても、除湿器を使うなどやり方次第で対応は可能だと思います。

高湿度住宅がもたらす問題

(出典:秋田県立大学 長谷川兼一教授他の論文

上記のグラフは住宅のダンプネスのアンケートによる評価法と提案と子供のアレルギー疾患に及ぼす影響に関する全国調査という論文の中の資料です。

ダンプネス(高湿度)の程度が高いほどに、子供のアレルギー性鼻炎や喘息などの症状が悪化しています。そして、梅雨から秋にかけて窓を開けた生活をすれば室内は高湿度になってしまいます。

87.5%の住宅がしっかりと湿度管理ができていない状態というレポートですから、これまでの窓を開ける生活習慣からくる家作りや住まい方がいかに湿度管理を難しくしているかがわかります。

国民全員に影響があるということではありませんが、アレルギー性鼻炎などは9%から18%に倍増していますから少数派の問題と片づけることはできないと思います。

このほかにも、花粉症は国民の4人に1人と言われていますから、窓を開けずに温度調整と除湿ができる住宅の必要性は高まると思います。

どんな家を建てるかは人それぞれですが、家を建てる親が自分たちが大丈夫だからこれまでの窓を開けて風を通す家作りで良いという時代ではないのかなと思います。

熱がこもる高気密高断熱住宅では窓をあけたい人は窓を開けて、ただし窓を閉めても快適な家にする必要があるでしょう。ゼロか百かではなくその中間点があるはずです。

夏季の湿度対策について

乾燥する冬季の加湿量は窓の結露との相談になると思います。トリプルサッシであれば20℃50%でも結露し難いと思いますが、ペアサッシの場合は20℃40%で結露すると思います。

私は二軒目の家において冬にどうしても結露してしまう窓の下枠には結露水を吸水するテープを貼っていました。軽度の結露であれば夜間に吸水して日中に乾いていました。

では夏季はどうするかというと、窓を閉めて除湿をするしかないでしょう。窓を開けても高湿度な空気が入ってくるだけです。

ただし、除湿には色々な手段がありますので、電気代の違いはあるもののどんな方法でも良いと思います。

以下のように冷房計画において温度と湿度の調整を考えるとコストを含めて完璧な方法はありませんが、間欠運転となってしまう個室エアコンのみでは湿度コントロールができません。

空調方式 初期コスト感 運用コスト 温度調整 湿度調整
全館空調システム 150~300万円
さらぽか空調 50万円(坪1.5万円)
エアコン1台全館冷房 15万円(再熱エアコン)
個室エアコン 30万円(3台設置) ✕~○
除湿機(カライエ等)※ 5万円

先日、私はダイキンのカライエを購入して現在テストをしている最中ですが1台でさらぽか空調の半分の程度の除湿量があるため個室エアコンの方はカライエを併用されると良いかもしれません。

ただし、湿度の排出のためにエアコン穴が必要です。個室エアコンを希望する方は新築時にエアコンの予備穴を各居室だけでなく脱衣所などにも設けた方が良いでしょう。

高気密高断熱住宅だからといって入居後に壁に穴をあけてはいけないというわけではありません。初期のi-cubeユーザーなどはエアコン穴がそもそもなかったと思います。

壁に穴がない穴は開けたくないという方は除湿器とエアコンを上手に使えば良いと思います。ただ、除湿器の大半の機種は排熱で室温が上がってしまいますから使う場所には注意が必要ですね。

空調の誤解

一条工務店の施主において猛暑日に家中のエアコンをフル稼働してますという人がいますが、設定温度が高くてエアコンに負荷がかからない運転では各エアコンは遊んでしまいます。

エアコンの電源が入っていることとフル稼働しているという意味は違いますし、一条ハウスほどの性能で各部屋のエアコンがフル稼働することはありません。

しっかりエアコンに負荷を掛ければ1~2台のエアコンで家中が涼しく除湿されます。この負荷を掛ける運転方法というのは今回は割愛しますが、知らない人が大半だと思います。

なお、私はさらぽか空調とエアコン1台全館冷房の両方の利用者です。どちらが良いかと言われるとさらぽか空調はスイッチ1つで快適になるため非常に良い設備だと思います。

ただ、さらぽか空調の床冷房は猛暑日に結露防止運転に陥ってしまい熱が上昇する二階が暑くなるため、二階の階段ホールに室温調整用に一番安い6畳用のエアコンが1台あると良いです。

エアコン全館冷房はドアを開けたくなければエアパスファンを付けるか各居室にエアコンがあっても構いません。ただ、二階のエアコンのどれか1台に負荷を掛けると除湿が進みます。

負荷をかけるといっても電気代が凄くあがる訳ではありません。世の中にエアコンほど誤解されていて使い方を理解されていない機械はないと思います。

エアコンの運転に興味のある方は私のブログを読んで頂ければと思います。採用に当たっては各部屋にエアコンの予備穴を設けるなどしっかり保険をかけながら自己責任で実施してください。

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エアコンを1台にすることが目的ではありません。しっかり除湿をすることが目的ですから各部屋にエアコンがあっても良いですが、大半は1台で家中が結構涼しくなってしまうだけです。

エアコンの湿気戻りについて

エアコンの室内機にはドレンパンといって水受けが付いています。冷房運転で除湿をすると結露した水がそこにたまって溢れた分がドレン管(排水管)から室外に出ていきます。

機種にもよりますが1リットルぐらいの水が溜まるドレンパンもあります。エアコン内部で結露した水はドレンパンからオーバーフローしないと家の外に出ずに家の中に残ってしまいます。

(出典:愛生クリーンサービス

そして、エアコンをON・OFFを繰り返すとドレンパンに溜まった水が蒸発して室内を高湿度にしてしまいます。せっかく除湿したのに加湿してしまう現象が湿気(しっけ)戻りです。

また、エアコンの内部が温まってしまうとエアコン内部にカビが生えてしまうため、湿気戻りはしますが、冷房をしない時間はエアコンをOFFにせずに送風運転にしておいた方が良いでしょう。

個室エアコンは温度調整がしやすいというメリットはありますが人によっては冷気が直撃して冷房病を招いたりエアコンのON・OFFによるカビ発生の危険性が高まるなどの問題があります。

個室エアコンの致命的な弱点は家中の湿度を低く保てないということです。この対策としてカライエなどの除湿機を併用すれば良いのではないかと考えています。

私は最近さらぽか空調やエアコン1台全館冷房を実施していない住宅の除湿を想定して複数の除湿機やスポットクーラーを購入して色々と実験をしています。

家中の除湿がしっかりと出来ている私の自宅には関係のないことではあるものの、温暖化の進む日本の将来においてダンプネスがシックハウス問題となることは間違いないと思うからです。

どんな冷房計画でも構いませんが、家中の相対湿度を60%以下に保つために除湿だけはしっかりできることを私は願っています。除湿剤を置いても焼け石に水です。

水分の吸放湿性のある自然素材を家の内装に使うことは悪いことではないと思いますが、大気の水蒸気量は膨大であるためこれもまた焼け石に水だと言えるでしょう。

温暖化によって日本が熱帯に向かうことは間違いないため、今後は温度調整だけでなく湿度調整が注目されることでしょう。

ただ、コストを含めて完璧な除湿方法はないため、除湿をしなければカビと共存することになりますが、古民家のような暮らしを求めるのであれば、それも住み方の1つと言えるでしょう。

なぜ、国はダンプネスに対策を打たないのか

家中を除湿するにはある程度の住宅の気密性能が必要になっていきます。2020年に見送られた省エネ義務化には気密性能は入っていませんでした。

1999年に制定された次世代省エネ基準においては、当初は寒冷地はC値2.0以下、温暖地はC値5.0以下とかなり緩いながらも気密性能の目標値は設定されていました。

省エネ基準の義務化については消費者が求めていないという回答を住宅業界は述べますが、消費者にアンケートをとると住宅の温熱環境が重要だという回答が上位に来ます。

住宅の温熱性能に拘っていない住宅会社と契約している方は、家作りはバランスだというかもしれませんが、それが将来に子供の疾病という形で跳ね返ってくる可能性があります。

私は住宅の断熱性能などはお好みで良いと思っています。大事なのはある程度の気密性能であり湿度コントロールです。しかし、これは多くの人は重視していない項目だと思います。

国は住宅業界の意見を採用して広く意見を聞いているつもりだと思いますが、専門家がどんなに数値に基づいた意見を国に出しても、それも1つの考え方という捉え方をしているようです。

フィルターの掃除が不十分な場合の換気不足を高湿度の要因としている場合がありますが、それは1つの要因に過ぎず、最も大きな問題は夏はそもそも大気中の水蒸気が多いことです。

住宅会社においても住宅の瑕疵に結露やカビの発生などの項目がないことから、消費者の住み方の問題として片づけているケースが多いと思います。

大きなシックハウス問題になる前に国と住宅会社が対応することを期待したいです。

最後に

この手の話は最終的には各自が好きなように家を建てたら良いということになりますし、私の述べていることは家作りの1つの意見でしかありません。

ただ、地球温暖化が進んでいることは近年の猛暑日をみても多くの方が感じていると思います。そして、ダニや真菌などの生物学的要因のシックハウスは国も認識しています。

現状では室温が快適なら湿度を気にしていない人が大半であると思いますが、ただそれはカビにとって快適な空間を作ってしまっていることになっているかも知れません。

目に見える大量に発生したカビのことだけを言っているわけではありません。目に見えない程度のカビが怖いのです。

そして、最近浸透してきたWBGTという暑さ指数は簡単に言えば、気温1・湿度7・輻射熱2の割合ですから、湿度が暑さと大きく関連していることがわかると思います。

私が提唱するエアコン1台による全館冷房は全館除湿といった方が分かりやすいと思います。ただ、私の考える冷房とは温度と湿度の両方を除去するものです。

事実、家庭用の壁掛けエアコンは温度を下げると同時に湿度も下がります。温度か湿度の片方だけが下がる家庭用の空調機器など私はみたことがありません。

加温・加湿・除湿という言葉は聞くけれど、「除温」という言葉は一般的には聞かないので、多くの人は冷房=温度除去と思い込んでいるのかも知れませんね。

エアコン全館冷房の優先順位として、全館の除湿→全館の冷房→究極の省エネだと思っています。よって、上手に設計すれば家中の温度のコントロールまでできます。

ダニやカビの発生を考えると除湿の重要性が高すぎるため、全館冷房は除湿がメインで涼しさはオマケといっているだけで、上手に設計すれば全部が実現します。

しかし、難易度の高い空調設計をすることが目的ではありませんから、最重要である家中の除湿さえしっかりできれば涼しさは個室エアコンなど色々な方法で対応して良いでしょう。

さて、気温が上がるということは空気が抱えることができる水蒸気量が増えるということであるため、現在は問題が少なくても今後はますます住宅の除湿が重要視されると思います。

以下は湿度の高い空間で開封した粉ものを保管している場合のダニの増殖についてです。除湿をしていない家は粉ものは冷蔵庫にしまった方が良いでしょう。

食料庫に保管している粉製品は要注意!

高気密高断熱住宅は誤解が多いですが、窓をあけて生活しても個室エアコンでも構いません。網戸が必要かどうかいった話が良くされますが付けたければ付ければ良いでしょう。

ただ、窓を閉めても温度と湿度も調整ができる家にして子供がアレルギー疾患にかかった際に対応がしやすいです。

何千万円もかける家作りですから何重にも対策をした方が良いかも知れませんが、その何重にもわたる対策はお金がかかる話ではなく知識の問題だと言えます。

それは知識量というよりは知識を得たタイミングの問題であり、設計の初期段階に知識を得ていれば対応は難しい話ではありませんが、設計の終盤や入居後に知るとかなり難しいことになります。

エアコン1台による全館冷房は誰にでもできるものではないとも言えますし、誰にでもできる簡単なこととも言えます。特に重要なのは情報を知ったタイミングだと思います。

もちろん、間取りを崩してまで実現をする必要はないと思いますが、設計の初期であれば比較的簡単に取り込めると思います。ただ、間取り重視の方はさらぽか空調が良いと思いますね。

いずれにしてもどんな方式でも良いので家中の除湿ができると良いと思います。既に入居済みの方は高湿度が気になるなら除湿器を上手に使うと良いと思いますよ。

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