一条工務店 枠組工法VS軸組工法

考察

一条ルールの誤解

一条工務店は間取りが自由にならないと世間では言われておりますが、それはi-smartをはじめとする、枠組工法(ツーバイフォー)の商品の話です。

i-smartだけを見て、一条は坪単価が高いとか、高気密高断熱住宅に床暖房は必要ないといったことが世間では取り上げられていますが、それは早合点だと言えます。

一条工務店には設計が比較的自由な軸組工法の商品があり、総二階がルールのi-smartなどの枠組工法に比べると建て方次第で建物総額を抑えることが可能です。

また、軸組工法の商品は枠組工法ほどの断熱性能はありませんが、世間の高気密高断熱住宅と比較するとかなりの高性能であり、また床暖房などはオプション扱いになっています。

予算的にi-smartは苦しいといった場合に他のハウスメーカーを検討されるのも良いとは思いますが、一条工務店の軸組工法を検討してから判断されると良いでしょう。

私はi-seriesの一条ルールの問題点はツーバイフォーのルールよる間取りの制約よりも、総二階の積算ルールが招くコスト増加にあると考えています。

一条工務店の商品ラインナップ

私が取得した見積りとネットの情報を勘案すると30坪の場合の本体価格は以下になると思いますが、詳しくは営業さんに聞いて下さい。耐震等級はすべての商品において3だと思います。

工法 商品名 坪単価 構造 下屋 Q値 床暖房 TS HS 備考
枠組 i-smart 65万円 2×6 0.51W モダン
i-cube 63万円 2×6 0.51W モダン
i-palette 2×4 0.89W 建売
軸組 百年 62万円 四寸柱 0.98W 和風
セゾンF 61万円 四寸柱 0.98W モダン
ブリアール 59万円 四寸柱 0.98W 南欧風
セゾンA 57万円 四寸柱 0.98W モダン
セゾンアシュレ 51万円 四寸柱 1.15W × 規格型

※TSはトリプルサッシ、HSはハニカムシェードの略となります。○は標準装備、△はオプション、×は選択不可。

多くのハウスメーカーが謳う「当社の建物は最高の断熱等級です」という意味は、Q値が2.7Wという低い水準のことであり、一条工務店の軸組工法の性能が高いことが分かると思います。

後述しますが、i-seriesは総二階のルールがあるため長い廊下などのデッドスペースや吹き抜けなどの面積調整の施工面積が増える傾向にあり、坪単価だけで軸組工法と比較はできません

一般的には上記の本体価格の1.3倍~1.4倍が一条工務店のオプションを除いた最終支払額になると言われており、私の三軒目のi-cubeと四軒目のi-smartⅡにおいても同様でした。

高気密高断熱住宅に床暖房は不要と仰る方も多いですが、一条工務店の全商品に床暖房が標準で付いているわけではなく、床暖房がオプションの場合は坪2万円とリーズナブルです。

コスト削減のためであれば高気密高断熱住宅に床暖房はなくても良いと思いますが、一方で壁掛けエアコンによる全館冷暖房にはエアコンの設置位置などのノウハウが必要になってきます。

また、i-smartなどの枠組工法と比較して、一条工務店の軸組工法は設計の自由度が高いと言われていますが、その理由としてポイントとなるのが下屋の存在です。

下屋とは

(出典:一条工務店 ホームページ)

下屋とは一階の屋根の部分です。一階と二階の床面積が同じである総二階の場合は下屋がないことになります。また、二階の屋根と一階の屋根が連続している場合は大屋根といいます。

一条工務店のi-seriesでは、一階より二階の床面積が小さい場合、坪単価の半額を支払って下屋・バルコニー・吹抜けのいずれかを選択して一階と二階の施工面積を揃える必要があります。

そうなると、本来必要のない施工面積が追加されて建物総額が上昇してしまいます。ここが一条工務店の枠組工法最大の問題だと私は考えています。

カタログ値でQ値0.51Wの家をこの坪単価で提供している事は素晴らしいですが、一方で総二階のルールは間取り作りを難しくするためデッドスペースが発生して床面積が増えやすいと思います。

平屋や床面積の大きな二階建ての家では問題とならない総二階のルールですが、延床が30坪前後の二階建ての家では施主が積算ルールを把握せずに間取りを考えるとコスト増を招きます。

一般的には一階の床面積が広い方がリビングや水回りを一階に配して住みやすいことから、総二階よりも一階が広い家の方が好まれると思います。

ただ、総二階の方が一階と二階の壁が揃って耐震性が確保しやすいことと、建築コストが下がることから、ハウスメーカー側は総二階の家を勧めてくる傾向にあるでしょう。

一方、一条工務店の軸組工法では総二階にならない場合も枠組工法と違って下屋の設置に追加料金が発生しないことから、軸組工法の方が建築総額を抑えらえる場合があります。

このように、一条工務店の枠組工法と軸組工法の設計ルールや積算ルールがあまり知られていないまま、一条ルールという言葉だけが独り歩きしている感があります。

断熱性能の違い

Q値で言えば、i-smartなどの枠組工法(Q値0.51W)と軸組工法(Q値0.98W)ではカタログの断熱性能が倍程度は違う形になりますが、実際はそうとも言い切れません。

先日投稿したi-seriesのQ値が0.51W(Ua値0.17W)の窓が最小限の間取りを、そのまま軸組工法の構成に置き換えて計算するとQ値が0.83W(Ua値0.33W)となりました。

一条工務店のQ値0.51Wは本当なのか?
一条工務店のi-seriesⅡ(i-smartⅡ/i-cubeⅡ)はQ値0.51Wという量産住宅にしては圧倒的な断熱性能を誇っていますが、実際に計算して内容を確認してみました。 当然ながらこのQ値計算は一条工務店による正式なものでもな...

Ua値はカタログスペックの通り、倍ぐらいの差がありますが、Q値がそこまで差がつかないのは窓の大きさや間取りの形がQ値に大きな影響を与えるからです。

試しに以下のような大きな中庭のある間取りで一条工務店の枠組工法(i-seriesⅡ)と軸組工法のQ値を計算するといかに家の形が断熱性能に影響を与えるか見てみましょう。

(出典:新築間取り.com

商品 Q値 Ua値
中庭あり 枠組工法(i-seriesⅡ) 0.90W 0.19W
軸組工法(夢の家) 1.35W 0.32W
中庭なし 枠組工法(i-seriesⅡ) 0.69W 0.17W
軸組工法(夢の家) 1.06W 0.29W

上記のように、Q値を計算すると中庭ありの枠組工法は0.90W、中庭なしの軸組工法は1.06Wとなり、間取りによっては枠組工法と軸組工法のQ値の差が少ない場合もあり得ます。

Ua値は中庭を設置して外壁が増えることによって家から逃げる熱が増えても、Ua値の計算式においては熱損失を割る外壁量も増加しますからあまり変化しない結果になります。

中庭を設けた場合、Ua値の変化は少なくても実際に家から逃げる熱量が2割以上は増加していることはQ値を見ればわかりますから、Q値を計算して間取りを判断した方が良いですね。

開放感や採光面からみれば中庭があることは良いと思いますが、外壁量と窓が増えるため冷暖房費は増加するということは分かったうえで間取りを選択された方が良いでしょう。

Q値やUa値の計算はハウスメーカーに依頼すると一般的には有料になりますが、興味があるかたは以下に私が作成しましたQ値Ua値μ値計算シートがございますのでご利用ください。

計算ツール
F式(私ことフエッピー式)の各計算ツールは無償でドドーンとご提供します。その代わりサポートはございませんので自己責任でご利用ください。また、告知なく修正しますので、ご利用の際は最新版をダウンロードしてご利用ください。 ダウンロードを行...

i-seriesⅡの断熱性能は圧倒的ではありますが、軸組工法においても家の形と窓の大きさに注意しながら設計すれば、平均的なi-seriesⅡの家に負けない性能を出すことが可能です。

予算が少ない方にはi-smartはお勧めしない

i-smartは平屋か床面積が大きい家の場合にはコストパフォーマンスが良くなりますが、30坪前後で二階建ての場合は間取りによってはコストパフォーマンスが良くないとも言えます。

また、i-smartはキッチンやユニットバスなどの標準設備が豪華ですし、床暖房・ハニカムシェードが標準ですが、その分コスト的には割高になります。

特にi-seriesで総二階にするための面積調整として吹抜けやベランダだらけになってしまう家については、軸組工法にした方が建築総額が安くなります。

また、大手ハウスメーカーの設計士さんはクレーム回避の意図もあってお客様の要望を優先する傾向にあると思いますから、施工面積を削るにしても大胆な提案はしてこないと思います。

営業面からも、i-smart一択の予算の少ないお客さんと無理な契約をすれば、後々大きなクレームに発展する可能性があり、i-smart一択の場合は軸組工法に変える提案は難いでしょう。

一条工務店との契約を見送った方の一定数は、i-smart一択+予算が少ない+床面積が30坪前後の二階建ての家を希望したお客さんではないかと思います。

小ぶりなi-smartは階段を家の中心にもってこないと、一階と二階の施工面積の差が発生してムダな廊下やバルコニー・吹抜けが増えるため建築総額が増加します。

また、軸組工法は床暖房がオプションであり、さらぽか空調はオプション設定されないことから、割り切ってエアコンによる全館冷暖房を選択するというコスト削減が可能です。

その場合は施主に若干の知識が必要ですが、1階と2階に各一台の小型エアコンを設置して全館冷暖房を行えばコストを抑えてQ値が良い家が建築できることになります。

軸組工法は加圧注入材を二階まで採用しているため防蟻防腐処理はi-seriesよりも広範囲です。

i-seriesは工場で生産されるパネルが大きいため、3トントラックが入れない土地の場合、建設が難しく、i-seriesから軸組工法に変更される方がいますが、その場合はハイドロテクトタイルの外観を持つセゾンが特別に建設できるようですね。

お勧めはブリアール

(出典:一条工務店 ホームページ)

私が四軒目の家を建てる際に当初は建設費用を最低限にしようとしていてコスト面から目をつけていたのが、規格型住宅のセゾンアシュレと自由設計のブリアールです。

ただ、建設地が寒冷地ということで最終的には断熱性能等を優先してi-seriesを選択しましたが、三軒目の家をi-cubeで建てていたことから、四軒目はi-smartを選択しました。

そしてフラット35のセカンドハウスローンが借りやすいことから、床面積を70m2以上にする必要があり、そこから予算のタガが外れてしまいました。

住宅ローンが4000万円もあって心配でしかたがないという方がいますが安心してください(?)。私は二軒分の住宅ローンを借りてますが何とかなるだろうと悩んだことはありません。

さて、外観は好みの問題ですがブリアールの南欧風の外観はファンが多いですし、ブリアールはスタートの坪単価が低く軸組工法であるため総二階にする必要がないためコストが圧縮できます。

i-seriesでは出来ない下屋収納を作ることが可能であり、気密エリア外となりますが二階からアクセス可能なコストの安い収納スペースを作ることができます。

そして、外観や内装ではアール垂れ壁や妻飾り、パイン材などを室内にあしらえるなどの差別化が図られています。未確認ですがセゾンAでは1.25坪のお風呂はオプションのようですね。

最近に建ったブリアールをネットで拝見すると、外観がオールブラックであったり、南欧風のイメージと全然違う外観になっている方もいます。

標準屋根材のテラコッタ瓦はメンテナンスフリーだと言えます。瓦屋根は凍害を受けることから寒冷地には向きませんが軸組工法は北海道等の寒冷地では現在は販売していないそうです。

総二階にすると不必要なバルコニーや長い廊下などのデッドスペースが発生する間取りの場合は、一条工務店のi-seriesはコストパフォーマンスが良くありません

i-seriesは平屋や床面積の大きな家ではコストパフォーマンスは高いですが、小ぶりな二階建ての家では階段の位置に注意しないと総二階ルールによってムダな施工面積が増加します。

温暖地の住宅密集地においては、土地の大きさや建築規制などを勘案すると結果的に一条工務店でもっともコストパフォーマンスが高い商品はブリアールではないでしょうか。

耐震等級3でありながら開放的な木造住宅にするには

一般的には一条ルールによって一条工務店での家作りは間取りの自由度が少ないと言われますが、私にはかなり誤解が入っていると感じます。

まず、耐震等級3を取ろうと思えば、どのハウスメーカーでも間取りの制約を受けるからです。私は絶対に耐震等級3は必要だと思いますし、さらに耐震性を求めたいぐらいです。

ほとんどの新築住宅は耐震等級1であり長期優良住宅でも耐震等級2がほとんどだと言われています。大手ハウスメーカーの家であっても確実に耐震等級3になるとは限らないのです。

ツーバイフォーについては明確な設計ルールがあるため、間取りの自由度が低いと言われますが、耐震等級3を取りやすいです。

一方、木造の在来工法では鉄骨住宅などに比べると柱との接合が緩いため合板や筋交いなどを設置した耐力壁を増やす必要があり間取りを自由にし過ぎると耐震性が悪化します。

例外として住友林業のビッグフレームやSE構法といった壁が少ない工法がありますが、これは柱の接合を鉄骨住宅のように剛接しているラーメン(ドイツ語で額縁のこと)構造だからです。

木造住宅で相当に窓が大きい開放的な家でありながら耐震等級3を取得したいという方はラーメン構造を採用しているハウスメーカーでの建設を検討されてはと思います。

古い日本のお寺や神社などにみられる貫工法もラーメン構造の1つであり、お寺は柱ばかりで壁が少なく開放的な間取りが可能になっていますが現在の在来工法とは建て方が違うのです。

多くの方が在来工法と思っている柱に筋交いを設置した工法は明治以降の新しい工法で、柱との接合が緩いことから間取りを自由にし過ぎると耐震性の確保が難しい工法です。

在来工法のハウスメーカーが昔のお寺の建築を引用して日本の風土にあった工法であると主張しますが、お寺と住居の在来工法は建て方が全然違うので正しい説明ではないと思います。

最後に

一条ルールについては自由な間取りが難しいと世間では良く言われますが、私はi-seriesを二軒建てましたが全くそうは思いませんでした。

簡単にいうと、ツーバイフォーのルールと耐震性の壁量計算、そして高気密高断熱住宅のセオリーをある程度勉強してから設計に臨めば、間取り面で一条ルールは問題とならないと思います。

逆に高耐震と高気密高断熱住宅の法則に逆らった間取りを作ろうとすれば目の前に一条ルールが立ちはだかることになるでしょう。

ただ、一条ルールで大きな問題となるのはi-seriesの総二階のルールであり、これがコスト面に大きく影響する場合がありますので、その場合は軸組工法を検討されると良いと思います。

私は床暖房が欲しくて一条工務店を選択したわけではありません。現在では床暖房は使わずに小型エアコンだけで全館冷暖房をしています。家は基本性能が重要で床暖房はおまけだと思います。

耐震等級3が確実に取れて、防蟻性能が優れていて、Q値が1.0W前後、C値が0.7cm2/m2以下、低コストに全館冷暖房が可能という家作りができる依頼先はかなり限られています。

初めて家を建てる方が、上記のような条件の満たすハウスメーカーや工務店を探すことは難しいと思いますから、よく分からない人は一条工務店を訪れてみてください。

私は多くの人が熱中症やダニアレルギーのない健康住宅に辿り着くためには大量生産が可能な高気密高断熱住宅が受け皿として必要だと考えていて、それが私が一条工務店を選んだ理由です。

 

本日は以上でございます。

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