はじめに
夏に快適もしくは健康的と感じる室内の温湿度はどの程度なのか?アンケートを取った方がいますのでご紹介いたします。アンケート結果によれば世間の常識と消費者ニーズはかなり違いました。
さて、以下の基準に基づきオフィスの室温を28℃にすれば快適性と省エネが両立すると言われてきましたが、現在では28℃は暑くて仕事にならないため27℃が上限と考える人が多いと思います。
基準名 | 制定年 | 温度上限 | 湿度上限 |
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令 | 1972年 | 28℃ | 70% |
労働安全衛生法 事務所衛生基準規則 | 1970年 | 28℃ | 70% |
そして、厚生労働省が発表している「建築物環境衛生管理基準の設定根拠の検証について」によると、許容限度27.8℃の想定について「安静時、上半身裸体、男 」という記述があります。
何とか生活できる許容限界である28℃が「快適なエアコンの冷房設定温度」という言葉にすり替えられて、かつその温度の前提が上半身裸であったとは消費者にとっては驚くべきことです。
また、湿度については人間の快適性とは別にダニの繁殖の問題があり、梅雨を含めて相対湿度は60%以下に保つことでアレルギーの元となるダニの繁殖が防止できます。
なお、私がご紹介しているF式全館冷房はエアコンを1台に減らすことが目的ではなく全館冷房用のエアコンは家全体の除湿機であり必要に応じて各部屋にエアコンを追加することは矛盾しません。
F式の普及によりZEH以上の性能がある住宅ではエアコン1台で家中の除湿をすることが可能であることが判明しています。今後もSNSを中心に家中の除湿は口コミで拡大することでしょう。
アンケート結果
今回のアンケートは一条工務店の施主である、うにをさんととりさんが行ってくださったものです。F式に国境はありませんから、回答者は一条工務店の施主とは限らないでしょう。
世間的には28℃でも湿度が低ければ快適という意見や26℃は寒いといった意見がありますが、今回のアンケート結果における分布では、消費者の意見にあまりバラつきはありませんでした。
なお、アンケートの回答者はさらぽか空調やエアコンで家中を全館冷房している人と、個室エアコンの人が混在していると思われますので、すべてが全館冷房をしている人ではございません。
また、回答の選択肢において室温24℃~25℃がないという事と、湿度の区切りに60%がないですが、おおよその消費者のニーズはわかると思いますので参考までにご覧ください。
室温 | 理想 | 現実 | ||
回答数 | 割合 | 回答数 | 割合 | |
27℃以上 | 116 | 16% | 151 | 25% |
26℃~ | 351 | 47% | 267 | 44% |
25℃~ | 220 | 30% | 157 | 26% |
24℃以下 | 55 | 7% | 36 | 6% |
合計 | 742 | 100% | 611 | 100% |
室温についての消費者ニーズは25℃~26℃が多く、合計すると理想は77%・現実は70%となっているため、ほぼ理想通りの室温を実現していると考えられます。
夏は汗をかくべきという認識を家の中に持ち込むか持ち込まないかによって意見は分かれますが、27℃以上の室温で家の中で汗をかくことについて大半の消費者は「NO」と言っています。
湿度 | 理想 | 現実 | ||
回答数 | 割合 | 回答数 | 割合 | |
65%以上 | 13 | 2% | 118 | 22% |
~64% | 129 | 22% | 198 | 37% |
~55%~ | 335 | 58% | 165 | 30% |
50%以下 | 105 | 18% | 61 | 11% |
合計 | 582 | 100% | 542 | 100% |
湿度については55%以下を希望する消費者76%に対して、現実は41%の人しか理想の湿度になっていないようです。やはり、家作りでは湿度コントロールが難しいことを表しています。
今回は一条のさらぽか空調やF式の全館冷房を実施している人も多数含んでいると想定されることから、大半の一般的な住宅においては室内の湿度は65%以上になっていると思われます。
快適過ぎる家は体がなまるとか不健康という意見もありますが、消費者のニーズはせっかく新築住宅を建てるのに、なぜ我慢した生活をわざわざする必要があるのかという点にあると思います。
快適な家を否定する人はステレオタイプにずっと家にいる前提で物事を語っていると思いますが、私は昼は家の外に出てしっかり汗をかき、夜は超快適空間でぐっすり寝たいです。
これまでいろいろな施主の情報に触れてきましたが、温度・湿度・気流が考慮された冷房では、室温に対しての男女差は世間で言われるほど大きな差はないと私は感じています。
今回のアンケート結果から大半の消費者が求める理想の室温は25℃~26℃、湿度は55%以下だと想定します。よって、27℃で65%の程度の状態になる空調方式では物足りないと思います。
ただし、消費電力を抑えながら理想の快適状態を実現するには、住宅会社の力だけでは実現が難しいため実際に生活する消費者が多少は運用の勉強をする必要があると思います。
できないと必要ないは違う
梅雨に室内をダニの繁殖を抑える相対湿度を60%以下にすることはプロでも難しいようです。また、真夏でも相対湿度60%以下に出来ていない事例も結構見受けられます。
そういうプロに限って、室温は27℃~28℃で低湿度の方が発汗して健康的といった話のすり替えをしていると思います。温湿度を低くできないことを誤魔化しているのではないでしょうか。
できないと必要ないは違います。特に夜間に窓を開けるナイトパージを推奨してきた新住協系の工務店は湿度コントロールが得意ではないと感じますし、PHJは室温の情報ばかりな気がします。
もちろん、ハウスメーカーや一般的な工務店は湿度コントロールの知識がありませんから、それはそれで仕方ないですが、高性能住宅を謳うなら湿度コントロールはしっかりして欲しいものです。
厳しく言えば、住宅の高耐久や調湿する建材の効果を語ったところで梅雨を含めた湿度コントロールができてなければ何の説得力もありません。
また、一条工務店のように坪1.5万円のオプションでさらぽか空調というデシカント除湿で圧倒的な低湿度を実現する方式もありますが、まだまだ採用する人は少ないようです。
F式の事例では三種換気でも入居初年度でもエアコンの運転をマスターした人は相対湿度が60%以下に出来ていますが、多くの人は2年目から梅雨の運転のコツを掴むようです。
温湿度をコントロールができないからといって27~28℃を推奨して消費者の求める温湿度を健康的ではないと否定することは、もはや時代錯誤の老害的なものとなっていると思います。
そして、WBGT(暑さ指数)が25℃より上を警戒温度としている理由に対して何らの科学的根拠を示していないと共に今回のアンケートでもわかる消費者ニーズを無視した形になっています。
全館暖房は簡単でも全館冷房は難しいと言われますが、冷房に関してはプロに任せれば大丈夫というのは大間違いだとおもいます。湿度コントロールができるプロは日本でもごく一部でしょう。
住宅系YouTubeにおいてエアコンの運転を解説をしているケースがありますが、実際に高気密高断熱住宅に住んでエアコンを何年も運転をしていない人は私にはすぐにわかります。
F式全館冷房については採用している人は現状において最低でも200棟は超えているようで、来年にはさらに多くの人が湿度コントロールに取り組んでいることでしょう。
もはや施主が少しの勉強をすればある程度の性能がある家では湿度コントロールを含めた全館冷房ができてしまうことは明らかであり、消費者は既にそれに気が付き始めています。
ただ、家作りは日々進化していくものであり、今が不十分なら改良していけば良いだけですから、批評と受け取らずに正面から受け止めることができるかが重要であると思います。
そして、家作りで考慮すべきは温湿度のコントロールだけではありませんが、極端に高性能な家でなくても、夏は温湿度のコントロールができることは知られるべきです。
UA値やC値は重要ですが、それは冬に大きな効果を発揮する指標です。猛暑日が増える中、夏は夏で日射制御やエアコンのコントロールなどもっと別な論点で考える時代に来ているでしょう。
自然素材を使っても快適にはならない
自然素材や無垢材などの見た目の風合いや肌触りなどを気に入って採用することは良いと思いますが、空気が綺麗になるとか湿度が下がるといった説明はオカルトだと思います。
私は二軒目の家で透湿する石膏ボードや紙クロスなどを採用し、現在はビニールクロスの一条工務店の家に住んでいますが、エアコン1台で除湿した双方の家の環境は何ら変わりませんでした。
確かにビニールクロスを使った相対湿度が80%の家と紙クロスを使った65%の相対湿度の家を比較すれば大きな差がありますが、50%程度まで除湿している家からみればどっちも一緒です。
自然素材推しの住宅会社が空気がきれいといいながら梅雨に湿度計が65%程度を指している場合があり、全館の除湿がしっかり出来る家から見ると10年遅れの家作りだなと感じてしまいます。
エアコン1台で全館の除湿が誰でもできる今、自然素材は見た目や肌触りを楽しむものであって、それ以上の効果はないと言えます。「呼吸する家」は「除湿する家」と比較すると物足りません。
除湿が十分にされた空間では雑菌が繁殖しにくいため空気がムワッとしないと言う施主がいます。また、除湿によって排水することで水蒸気に含まれる部屋の臭いも家の外に出すことができます。
従来は家中を除湿するという発想がなかったため、調湿する建材は良さそうに見えていましたが、家中を除湿する家から見れば自然素材は感性として楽しむもの以上でも以下でもないでしょう。
最後に
冷房の温湿度に正解はなく、人それぞれ感じ方が違います。ただ、温度だけでなく湿度と気流(冷風が人に当たらない)まで考慮した環境でエアコンを運転している人は少ないと思います。
結果としてエアコンは誤解され続けてしまい「エアコン嫌い」な人を増殖させています。ただ、今回のアンケート結果からもわかる通り、理想の温湿度を実現している人もいるということです。
なぜ、「エアコン嫌い」などのようにエアコンが誤解され続けているかという理由は私は明快であると思っています。その答えは「窓の付け過ぎ」であり間取りの問題でしょう。
日本家屋の伝統は障子のように窓を大きくたくさん設置することを良しとしているため、壁が減ってしまい、ソファやベッドを配置する壁にエアコンも設置されるからです。
その結果、エアコンからの冷風が人に直撃してしまって、家庭内における暑い・寒い問題が起きるという単純なメカニズムだと思いますが、世間ではあまりこの事が認知されていないと感じます。
家作りでは間取りを作り終えてからエアコンの設置場所を考えるケースが多いと思いますが、ぜひ間取りを作りながら間取りを壊さないようにエアコンの設置場所を考えてはと思います。
冬季の暖房費を減らしつつ夏季の快適性を実現するには日射遮蔽を考慮した上で南側の窓を最大化してそれ以外の窓を少なく小さくする方法が簡単ですが窓は絞らずスダレの利用もよいでしょう。
さて、夏に熱い家の外で仕事をしている方は家にいる時ぐらいは極めて快適でありたいと思うでしょうし、ずっと家にいる人は少し動くと汗をかくぐらいの温湿度が快適かもしれません。
家の中で自然を感じたり、汗をかいたりといった、オールインワンの家作りが好きなのか、室内は室内・室外は室外と別れているセパレートな住み方が好みなのかは人それぞれでしょう。
私は山の土地で休日は野良仕事をしていることもあり、家の中の温湿度は極めて快適で虫のいない状態であってほしいですから、家の外と内は完全にセパレートしたいという立場です。
都市部の30坪や40坪しかない土地の中で作る自然はフェイクとも言える自然なので、通える範囲の田舎に二束三文の畑でも所有するか借りるほうが余程自然を感じることができるでしょう。
そして、今回のアンケートように消費者が極めて快適な状態を求める理由として、現代人は仕事や育児などで疲弊しているため家にいる時ぐらいは超快適でいたいのだと私は思っています。
梅雨を含めて湿度を60%以下に抑えれば、カビダニの発生を抑制して、布団干しの必要はなくなり、天気や時間を気にせず部屋干しで洗濯物が乾燥するため家事は格段に楽になります。
小さい子供を野放しにできた昔と違って、現代の親は子供の相手を四六時中して疲れ切っていますから快適な家の温湿度についての感覚は世代間のギャップも大きいと思います。
最近の家づくりは「冬を旨とすべし」という「冬旨」が主流だと思いますが、吉田兼好法師のいうような「夏を旨とすべし」という「夏旨」な住宅の重要性も再認識されていると思います。
ただ、消費者からみればコストを抑えながらも、春夏秋冬、梅雨の時期を含めて快適な室温と相対湿度60%以下の「四季旨な住宅」を望む人も多いのではないでしょうか。