はじめに
(出典:日本経済新聞)
熊本地震では在来工法の家が多数倒壊しています。特に1階部分で被害が発生していますが、この原因は施工のミスもありますが現状の建築基準法の問題にあります。
そして、一条工務店ではi-smartに代表される枠組工法(枠組壁工法・ツーバイ工法)とグランセゾンに代表される軸組工法(在来工法)の商品があります。
世間ではツーバイ工法は制約が多く、軸組工法は制約が少ないと言われていますが、これは大きな間違いであり、軸組工法は耐震性を犠牲にすれば開放的な間取りが可能なのです。
一方、ツーバイ工法はアメリカで確立した工法であるため間取りを含めたルールが細かく決まっていて、耐震性を下げることが難しい工法だと言えます。
ちなみに一条工務店の場合、軸組工法であっても耐震等級は最高の3が必須となりますから、耐震性は低くても良いから開放的な間取りの家が欲しいという方には一条工務店はお勧めしません。
私は注文住宅を四軒建てていますが、ちょうど軸組工法と枠組工法が二軒ずつであり、軸組工法でも耐震等級3を取得しましたが、耐震性に拘ればどちらの工法でも間取りに制約がでます。
在来工法という新しい建物?
軸組工法(在来工法)は日本に古くからある風土にあった家作りだというセールストークが広くなされていますが、そんなウソを宮大工さんが聞いたら怒ると思います。
お寺の中には柱のみで筋交いや壁がない開放的な建物があります。これは柱と梁を「貫」という横材を貫通させて門型に剛接合している、いわゆるラーメン構造(ドイツ語の額縁の意味)です。
一方、現在の在来工法と言われる住宅は柱と梁の接合部は木材を削って「ホゾ」接合を行い、接合部の強度が弱いため「筋交い」や「耐力面材」で補強している住宅になっています。
現在の軸組工法の家は1960年代の高度成長期に家を大量生産するために確立された工法であり、接合部の強度が弱いことから、柱が太いお寺のようなラーメン構造とは似て非なるものです。
本来は開放的な間取りに向いていない接合部の弱い軸組工法ですが、イメージはお寺のような開口部(窓など)の大きな開放感を求めてしまうため、アベコベな家作りになっています。
建築の歴史を知らない初めて家を建てる人に対して、軸組工法なら開放的な空間が作れるというセールストークを広めている住宅業者の存在が本当の住宅業界の闇だと言えます。
ツーバイ工法の窓の最大の大きさは?
地震に強いと言われるツーバイ工法では窓やドアなどの壁がない部分を指す開口部はどの程度まで設置できるか仕様が決まっていて大まかに言えば以下です。
- 各部屋の大きさは40m2(24畳)、もしくは60m2(36畳)以下
- 部屋の縦横の長さは1対4以下
- 開口部(窓やドア)は壁の長さの4分の3以下
- 開口部は4メートル(13.2尺)以下
(出典:日本ツーバイフォー建築協会)
簡単に言いますと、20畳のリビングの場合、7.5マス以下の窓が設置できることになりますから以下にように水色の7マスに窓を設置した場合、かなり大きな窓が設置できることが分かります。
私のセカンドハウスである枠組工法のi-smartでは16畳のリビングに対して南側に12尺のパノラマウィンドウが設置されているため、ものすごい開放感です。
ツーバイ工法だから開放感がないというのは軸組工法を売っている建築業者さんのセールストークであり、軸組工法でも耐震性を高める場合は間取りの制約は発生します。
実際に私は軸組工法と枠組工法の両方で耐震等級3を取りましたが、ツーバイ工法だからといって間取り作りが難しかったということは感じていません。
恐らく多くの方は家を一軒しか建てる機会がないため、ツーバイ工法は制約が多いと思い込みで情報発信しているのではないかと思います。
軸組工法が地震に弱い理由
軸組工法が地震に弱い理由は、建築確認申請において実質的に耐震性の審査がないため、構造に無知な設計士さんが開放的な間取りを提供してしまうからです。
一方で、ツーバイ工法は地震に強いという印象がありますが、ツーバイ工法は仕様規定が細かく決まっているため、耐震性が下げられない工法であるため地震に強い訳です。
木造二階建てにおいて最も問題となるのは、偏芯率といって耐力壁が偏って設置されている家で、一階の壁の下に基礎がない家なども地震に弱いのは同様です。
諸悪の根源は木造二階建ての住宅については建築士さんが設計をすれば壁量計算書や構造関係の図面を建築確認申請に添付しなくて良いとされていることです(四号特例)。
木造2階建て住宅が構造計算されないことに対する問題点はこちら方のホームページに詳しく書いてございますので参考にされると良いでしょう。
私は前々から意匠系といわれるデザインや開放感を重視する住宅会社での家作りには警鐘をならしており、デザインや雰囲気で家作りをしている構造を知らない自称プロの設計士さんもいます。
しかし、意識の高い地場工務店や一条工務店を含めた大手ハウスメーカーは耐震等級2以上が必要な長期優良住宅に標準対応しているため、軸組工法であっても耐震性は確保されています。
軸組工法だから必ずしも地震に弱いという訳ではなくて、木造二階建てまでの軸組工法は建築確認申請での耐震性の審査がないため、それを悪用した家作りがなされているということです。
欠陥住宅というと施工不良のことを想像される方が多いと思いますが、住宅のプロである設計士による法律の拡大解釈が設計上の欠陥という住宅業界の本当の闇を生み出しています。
在来工法+ラーメン構造という選択肢
通常の軸組工法はホゾ接合という木材に刻みを入れた接合をしますが、接合部の強度が弱いため壁を筋交いや耐力面材で補強する必要があることから開放的な間取りにすると耐震性が下がります。
ただし、軸組工法においても柱と梁をしっかり金物とドリフトピンなどで剛接合(ラーメン構造)すれば鉄筋造の建物のように壁がない開放的な間取りが可能になります。
(出典:NK工法)
接合部を剛接合する金物が安価に提供されれば開放的で耐震性の高い軸組工法の家が建築できますが、金物メーカーが部材と構造計算をセットで高価格で販売していることが問題なのです。
そのため一般的な地場工務店では金物を使ったラーメン構造は普及しておらず、相変わらずホゾ接合の筋交いや耐力面材を使っているにも関わらず開放的な間取りを提供してしまっています。
開放感を求めなければラーメン構造は必要ありませんが、開放感に拘る方はラーメン構造を採用している住宅依頼先を検討すると良いでしょう。
SE構法
(出典:SE構法)
木造ラーメン構造の代表選手としてSE構法があります。地場工務店でも採用できる工法ですが、部材と構造計算がセットで提供されているため、150万円前後の費用がかかるようです。
ガレージ部分には太い門型のフレームを配置して乗用車2台が止められる設計になっている一方で、居住空間は4寸柱で間取りの自由度を高めています。
このように軸組工法はラーメン構造を併用することで大きな開口部を実現することが可能となります。
住友林業 ビックフレーム工法
(出典:住友林業)
住友林業ではビックフレーム(BF)工法という大きな柱を使ったラーメン構造の商品があります。
ただ、この工法にはデメリットがあって柱と梁を剛接合しているラーメン構造なのは良いですが、柱を太くして耐力壁の機能を併せ持たせているため、BFの部分には断熱材が入りません。
そして、大きな窓を設置するためにラーメン構造がある訳ですが、標準の窓は家の坪単価が高いにも関わらず、アルミ樹脂複合サッシという性能の低い窓です。
BF部分に断熱材が入らないことと大きな窓の性能が低いことを併せて考えるとBF工法の家は冬季に暖かい家にはならないことは間違いないでしょう。
また、リビングの窓を大きくするためにBFを無理やり他のエリアに設置する必要があるなど、これだけ大きな柱を入れると耐震性は上がっても間取りの自由度が高くなるとは言えないようです。
BF工法の問題点はラーメン構造と耐力壁を1つのパネルで実現しようとしていることにあり、SE工法のようにラーメン構造と耐力壁は分離した方が設計の自由度が上がると思います。
ただ、いずれにしても家の暖かさよりも耐震性や耐久性を優先するべきだと思う私には耐震性の高い家作りには好感が持てます。
3.5寸柱の問題点
(出典:ヤマダホームズ)
上記画像の左側は金物接合で右側はホゾ接合ですが、右側の3.5寸柱をホゾ接合すると通し柱の断面欠損が約半分程度にもなって、大地震の時に柱が折れると言われる問題です。
ただ、これは金物メーカーによる若干のセールストークが混ざっていて、実際には4方向からホゾ接合をするケースは滅多に発生しないのではないかと思います。
一般的には上記のような3.5寸柱の大きな断面欠損の風評被害を嫌ってより太い4寸柱を使っているということが実態であり、3.5寸柱だからと言って一概に悪いとは言えないでしょう。
しかし、一条工務店では4寸柱が標準ですが世間の多くの家作りでは3.5寸柱が利用されています。特に地価の高い都市部では建売住宅を含めて壁をいかに薄くするかが重要となってきます。
ただ、広い土地をお持ちの場合は3.5寸柱と4寸柱では材料費は15万円程度しか変わらないと言われていますから、4寸柱にしておいて方が良いでしょう。
柱が細いと地震の際に揺れるというのは間違えで柱は縦方向の鉛直加重を支えるものです。横方向の揺れは筋交いや耐力面材が担当するため、柱が細い家が地震に弱いという訳ではありません。
3.5寸柱(105mm)と4寸柱(120mm)では断面積が1.3倍変わりますから、柱が太いと地震に強い家というセールストークがありますが、これはほとんどウソなのです。
また、柱が細いと柱の間に充填する断熱材の厚みが減るという問題がありますが、断熱材の厚みに拘るよりは、熱が一番逃げる窓の性能を上げた方が良いでしょう。
3.5寸柱が一概に悪いとは言えませんが、構造計算すれば何が正しいか分かりますから、やはり空間デザインに優れながらも耐震等級3をとれる間取り作りが必要だと思います。
UFO-E 摩擦ゲンシンパッキン
一条工務店では軸組工法には免振装置がありますが、枠組工法には免振装置がありません。ただ、世間にはローコストに免振ができるという商品があります。
この商品は専門家の間で評価が分かれている部分があり、土台と柱を接合しているアンカーボルトやホールダウン金物の部分ではどのように動くのか分からないという点です。
免振装置とは通常は建物を特殊な基礎にのせるものですがこの商品は一般的な基礎コンクリートの天端に乗せて土台の下に設置しています。
建物は基礎コンクリートと土台をアンカーボルトで締め付けていますから、大きく建物が動けばアンカーボルトが折れてしまうと思いますが、実験動画ではその部分が分からないのです。
面白そうな製品なので今後評価されることを期待したいですが、この商品は横方向への揺れ対策であるため、縦方向に揺れた場合は基礎コンクリートの強度が重要になってくるでしょう。
最後に
家作りには多様な価値観がありバランスが非常に重要です。
ただ、そのバランスが耐震性・耐久性・デザイン・コストなどが高いレベルでバランスしていることが重要であり、家族の命を守る家であるならば耐震性と耐久性は最優先に考えるべきことです。
現在では家作りの情報が沢山ありますが、業者のセールストークには注意が必要ですし、家を一軒建てた方が発信している他社比較の情報はどうしても空想的な情報になってしまうと思います。
そういった意味で家は何軒か建てないと分からないということだと思いますが、色々な工法の家を建てると世間で言ってることががほとんど間違いであることに気が付けると思います。
ツーバイ工法は耐震性が下げられない工法であり、軸組工法は耐震性が下げられる工法だということを知っている人は少ないのではないでしょうか。軸組工法の問題点はここにあります。
さて、耐震性を求める場合は軸組工法であれば耐震等級3が取れるかを住宅依頼先に確認してください。また、家の長期的な耐久性を求めるのであれば気密測定をしているかが重要になります。
家作りは常識的な判断をしてはいけません。日本の住宅は30年で建て替えられる低性能な住宅であり、大地震に倒壊するような性能ですから、赤信号をみんなで渡っているような状態です。
建築基準法ギリギリの性能の家では30年しか持ちませんし、冬に寒い家についても家族内で世代が変わる時に30年程度で建て替えられると思われ非常にコストパフォーマンスが悪いです。
ただ、私は初めて家を建てた時は高いレベルのバランスといったことが全く理解できておらず、今振り返ると間取り以外は大失敗の家作りでしたから、あまり偉そうな事は言えないのです。
本日は以上でございます。