「最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版」を読んで

考察

はじめに

高気密高断熱住宅の設計者として尊敬する秋田県の西方里見先生の本が改訂されたので買ってみました。西方先生は北海道を発祥の地とする新住協の理事も勤めてらっしゃいます。

「外断熱が危ない」という西方先生の本を買ったのは、かれこれ10年前に二軒目のQ値が1.0Wの家を建設するに当たり知識のなかった私が最初に買った家作りの本でした。

何気なく本屋さんで手にした本が最良の高気密高断熱住宅の図書であったことが私にとって幸運でした。当時はまだ高気密高断熱住宅の本が少なかったということもあります。

西方先生の本が素晴らしいのは、特定の工法に捉われず住宅をフラットにみていることです。そしてコストや耐久性は当然ながら施工性に考慮した具体的な工法を記述されていることです。

当時の西方設計のホームページではボード気密工法をより簡略化した施工方法など最先端の技術が公開されていて、非常に勉強になりました。

10年前は外断熱が良いとか、エアコンを使わずに家を涼しくする方法など、温暖地における高気密高断熱住宅のあるべき姿がまだよくわからない状況でした。

今では色々な方が高気密高断熱住宅の四季に適応した家作りの本を出していますが、どうしても新住協を立ち上げた鎌田先生と本著の西方先生の二番煎じに思えてしまうのです。

つまり、著書の内容は正しいと感じるものの、内容にオリジナリティというか独創性をあまり感じないため、今後はもっと独創的な内容を紹介していって欲しいところです。

次世代においては新潟のオーブルデザインの浅間先生が計算に裏付けられたオリジナリティに溢れた高気密高断熱住宅を設計していると思います。こういう人を天才というのでしょうね。

世間の情報に流されなくなった

西方先生の著書を読んで学んだことは、なぜそうなっているか、どうすれば良いのかといったことが具体的に書いてあるため、世間に溢れる家作りの情報には流されなくなりました。

三種換気が良いとか一種換気が良いとかそういったことにはこだわらくなりました。つまり、デメリットがあっても対応策があれば良いのです。

三種換気のメインとなる給気口の上にはエアコンを設置してコールドドラフトを防止し、強風による吹込み防止のために給気口は外壁を貫通させずに通気層から空気を取り入れれば良いのです。

また、基礎断熱はカビが生えると指摘する方がいますが、床下に空気を循環させれば良いだけのことなので、このように指摘するにとどまっている情報自体が問題と言えます。

問題提起なくしては進歩はないとも言えますが、日常世界で起きている問題は具体的な解決策を提示しながら問題提起をしなければ、誤解が誤解を生むだけです。

世間では単純にQ値等の数値を比較したり、各工法の問題を指摘するに止まっている情報が多いですが、解決策において自分の考えを添えることができるとさらに良いと思います。

本著のポイント

高気密高断熱住宅の多岐にわたる知識が記述されていますが、その中でこの10年で変わったと思った部分をご紹介します。

これまでは、寒冷地に本拠地がある西方先生や新住協の情報は、温暖地の設計方法が不十分だと感じていましたが、今回の改訂ではそこが訂正されています。

関東以西の酷暑問題

本著の「温暖地の冷房の必要性」というページにて、以下のように記述されています。

温暖化の現在は、低温な時代の吉田兼好の「夏を旨とすべし」を従来の通風や日陰などの伝統的な手法のみでは凌げなくなってきています。

かつては有効であった窓を開けての涼風の通風が、長期にわたる真夏日や熱帯夜では大量の熱風と湿気が室内に入り込んでしまい逆効果になっています。

屋外の温度が冷えた夜間に窓を開け室内に涼風を取り入れる、ナイトパージの手法は3~1地域にのみ有効になっています。

真夏日や熱帯夜が長期にわたる6地域以西では、冷気が直接に体に当たらないなどの工夫をし、体に負担にならない冷房(エアコン)が必要です。

また、画像右側の「意外に多い熱帯夜や猛暑日」というコラムでは、以下のように記載されています。

関東以西では、夏の間1日中エアコンなしではいられない高温で高湿度な猛暑日や、夜にエアコンなしでは寝られない熱帯夜が続きます。このような気温は身体への負担が大きいので、高断熱住宅であっても無理をせずエアコンを使いましょう。

鎌田先生の「本気のエコハウス」では関西などの西日本については、夏は窓を開けた涼風では凌げないという記述ですが、西方先生の本著では関東以西と範囲が拡大しています。

これは関東に高気密高断熱住宅を建てた私の経験と一致します。以下はアメダスの過去データを日別にグラフ化したですが大阪と東京にはそれほど相違がない事がわかります。

上記の気温は平均気温ですが、大阪の方が東京よりも若干高いです。ただ、絶対湿度(重量)や気温と温度の熱を合計した比エンタルピーにおいては東京の方が高い結果となっています。

つまり、蒸し暑さでは大阪よりも東京の方が上とも言えます。

最近になって、新住協や西方先生においても温暖地の夏は窓を開けても凌げないという記述に変わりましたが、関東で高気密高断熱住宅を建てた私は10年前からそう思っていました。

温暖地の都市部における高気密高断熱住宅の情報が乏しい理由は地価が高くて注文住宅を建てることが難しいからでしょう。

関東においても窓を開けて涼を得られる時代は過去のものですが、そうなるとエアコンを長時間運転できる冷房病にならない間取りの家作りが必要になっていきます。

エアコン1台による24時間全館冷房は決して贅沢のためにやっているのではないのです。

冬季の日射取得の過大な効果

本著の冒頭の「はじめに」において、冬季の日射取得の過大な効果と書かれています。

冬季に窓から入る日射熱は床がレンガなどの蓄熱材になっていなければ日射熱を蓄えることができず、むしろ室内のオーバーヒートの原因となってしまいます。

住宅が密集している都市部の狭小な住宅では一階の部屋まで日射を十分に得る事が難しい上に蓄熱材を設置するようなスペースを確保することは困難です。

西方先生や新住協の情報を拝見すると田舎の高気密高断熱住宅でしか成立しない方式だなと思ってしまいます。

よって、私は温暖地の市街地における高気密高断熱住宅では、窓を大きくして日射取得熱に過大な期待をすることは住み心地の悪化を招くと考えています。

採光という面では吹抜けの窓を見てわかる通り、窓は高い位置にあれば部屋は明るくなるため、南側以外の窓は採光においては窓は小さくても高い位置にあれば良いのです。

本著においても各方角の適正な窓比率などの具体的な記述はないものの、温暖地の高気密高断熱住宅は各方角の窓の大きさと網戸の有無は裏と表の関係にあります。

窓は気分的には開けても良いのですが、窓を開けないと室温が調整できない高気密高断熱住宅は窓のサイズの選択と日射制御が組み合わせが不十分であるということです。

私としてはこの話の結論は既に出ていると考えていて、高気密高断熱住宅においては、南側の窓は大きくして日射制御を行い、それ以外の方角の窓は少なく小さく高くが結論だと思います。

ただ、窓のサイズや窓を開けて換気するということは日本人の生活習慣に大きくかかわることであるため、あと10年ぐらいは議論の収束に時間がかかると思います。

断熱性能の推奨値

上記を見ると、西方設計では最寒冷地の北海道のUa値は021Wを推奨しているようです。一条工務店のi-seriesⅡにおいては南側以外の窓を少なくすればクリアできるレベルです。

東京や大阪などの大都市圏が属する6地域では推奨のQ値は1.15Wとなっています。私もHEAT20のG2グレードであるQ値1.6Wでは全館冷暖房を行うには不足していると考えています。

やはり、住宅の高断熱化を進めることが省エネ対策には一番有効でどこまで低コストに高断熱化ができるのかが、永遠の課題だと思います。

建築費用に対するコストパフォーマンスには電気代の基本料金の有無が大きいですがある意味、基本料金とはQ値が良くない家を救済するためにあるものだとも言えます。

これからの日本の最先端の高気密高断熱住宅は圧倒的にQ値を低くして基本料金のないプランを選択することで光熱費を圧縮する時代に突入すると思います。

ダニアレルギー対策までは踏み込んでない

新住協系の方は寒冷地においては外の涼しい空気を気温が上昇する前に取り入れて冷房費用を下げる手法を採用していますが、温暖地の家作りについては言及が少ないです。

西方先生の本においては非常に広い範囲を取り扱っているますがシックハウス症候群の大きな要因であるダニアレルギーの防止については記載しておらず、情報が不足していると感じます。

室内の相対湿度を60%以下に保てる家はダニやカビの発生を抑制できますが、本著および新住協の鎌田先生の著書においても、そこに踏み込んでいません。

東大の前先生の著書「エコハウスのウソ」においては湿度管理まで踏み込んでいますが、前先生は建築の実務者ではないため、具体的な湿度のコントロール方法までは言及していません。

低コストに家中の湿度をコントロールするということは最先端の技術であり、まだまだ世間には普及していませんが、20年後には普及していると思います。

現状では湿度をコントロールできる全館空調については、大手ハウスメーカーにオプションで用意されていますが、200万円~300万円もする高額オプションであり一般的ではありません。

一条工務店のさらぽか空調は坪1.5万円と非常にリーズナブルな価格で提供されていますが、それでもまだ庶民には手が出ないため、私はエアコン1台による全館冷房をご紹介しています。

西方先生の教えを一条工務店で実践する

どちらかと言えば新住協や西方先生を担ぐ地場工務店とは商売かたきの一条工務店ですが、私は二軒目の家を地場ビルダーの高気密高断熱住宅で建てて、三軒目からは一条施主になっています。

一条工務店で三軒目にi-cube、四軒目にi-seriesⅡという枠組工法(2×6)の家を建てていますが、家作りの方法はまさに西方先生の教えであり、新住協の発想です。

一条ルールというものがあって自由な間取りにならないと世間では良く言われますが、私にはまったくそうは思えませんでしたし、かなり自由に設計させていただきました。

その理由として私はそもそも、耐震性に拘っているため総二階で外壁の角には耐力壁を取るクセがついているのと、窓は南側以外は大きく取らないため2×4のルールとそもそも矛盾しないのです。

簡単にいうと、耐震性の壁量計算を知っていて、西方先生の本などを読んで高気密高断熱住宅のセオリーを知っている人であれば、間取り面で一条ルールは問題とならないと思います。

逆に高耐震と高気密高断熱住宅の法則に逆らった間取りになっている場合は目の前に一条ルールが立ちはだかることになるでしょう。

西方先生や新住協の知識をベースとした家作りをしている私が一条施主になった理由は良い家を量産化するには、知名度のある大手ハウスメーカーの施主になるしかないと判断したからです。

熱中症やヒートショックを防止したいという、西方先生や新住協の思いは、私のような施主を通じて、いま一条施主の中で受け継がれ始めていると思います。

注文住宅を四軒建てたとは言え、一施主にすぎない微力な私ですが、新住協と一条工務店が対立の構図ではなく、融合の構図にならないかと思いながらブログを書いています。

10年後の高気密高断熱住宅を占う

今回の令和の大改訂において温暖地の高気密高断熱住宅の記述が充実しました。

そして、最先端の高気密高断熱住宅では湿度管理が進んでいることから、窓を開けない家や洗濯物を干すためのバルコニーがない家が増えています。

これから家を建てる人には想像ができないかもしれませんが、このような家がこの先の10年、もしくは20年後には普及していると思います。

10年前に私が思ったことが、ようやく一条施主たちの間で広がってきています。ただ、まだまだ窓をあけて室温調整する人がいる状態ですので、この話の収束にはあと10年はかかると思います。

そして、温暖地の高気密高断熱住宅の普及は新住協の推奨するグラスウール+ボード気密等の工法ではなく、現場発泡ウレタンによる高気密化になると私は思います。

やはり、人口の多い大都市圏ではどの業種でも従業員の仕事の分業制が進んでいることから、断熱は大工さんではなく断熱業者が担う形に収斂すると思います。

最後に

これから家を建てる方には西方先生の本を買って高気密高断熱住宅について学ぶことをお勧めします。

そして、私のように西方先生や新住協の教えを重視しながらも一条工務店の施主になっている人間がいることも知ってほしいと思います。

さて、ウレタン断熱材やEPSなどは20年前には既にあって高気密高断熱住宅は何十年も前から建材の面からは建てることが可能であったのですが意識と知識が追い付いてない状態でした。

さすがに家の隙間の少ない高気密高断熱住宅は息苦しいとか木が腐るといった認識をする人は減ってきていると思いますが、これまでの常識を切り替えるには相当な時間が必要だと思います。

今後においても、これまでの日本家屋の住み方から脱却できない人が多いと思いますから、高気密高断熱住宅の活用についてはしばらくは足踏みすることが想定されます。

ただ、私がブログで述べている湿度管理は10年前には一部の人が取り組んでいて、10年遅れて一条工務店が取り組み、この先10年で取り組むハウスメーカーが増えるでしょう。

このように日本の家作りは最先端の技術が20年遅れで普及する状態であるため、最先端の情報はなかなか理解されない状態にあります。

そして、この先の10年はすべてのハウスメーカーが気密測定を行うようになるのか見物ですが、現場発泡ウレタンが浸透すればどのハウスメーカーにおいても気密性能が向上すると思います。

家には自然素材をふんだんに使って窓を開けて換気をすれば健康的だなんて大間違いで、まだまだ迷信や先入観に基づいた家作りが蔓延していますが、これが将来どう変わるのでしょうか。

私は20年後には65歳になっていますが、もしかしたら五軒目の家を建てているかもしれません。その時にいま思っていることがどれだけ実現したのか確かめる事ができたら嬉しいですね。

本日は以上でございます。

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