はじめに
私は炎の揺らぎを見るのが好きで一条工務店で家を建てる際に薪ストーブは設置できるかと聞いたところ、無理ですと即座に断られました。
しかし、ドイツの高性能住宅であるパッシブハウスでは薪ストーブを採用している住宅があります。
ちなみにパッシブハウスは無暖房住宅と訳すよりも軽暖房住宅と訳した方が良いと思います。大型の暖房器具が必要ないという意味で無暖房住宅と訳されていますが、暖房器具は必要です。
さて、本日は一条工務店では採用できない薪ストープがなぜパッシブハウスでは採用できるのかという件について、想像している薪ストーブがそもそも違うのですという話です。
多くの人が想像するのは鋳物製の料理ができる薪ストーブ
(出典:本間製作所)
将来は田舎に移住して薪ストーブで料理をしたいなんてイメージが一般的であると思いますが、それは昔ながらの鋳物製の薪ストーブを使わないと難しいです(鋳物製の価格は非常に安い)。
簡単にいうと、太い薪を大量の酸素を利用して燃焼させるタイプの薪ストーブで、薪を大量に必要とするため省エネな暖房器具とは言えない反面、料理ができる高い火力があります。
昔の家には隙間が多かったため、薪ストーブは燃焼に利用する酸素を大量に室内から得ることができましたが、高気密化が進む現在の住宅では燃焼に利用する空気が十分に得られません。
三種換気の場合は室内が負圧になるため薪がしっかり燃えないと薪ストーブの煙突から空気が逆流してきて、室内の空気が汚染されてしまいます。
このため薪ストーブに直接外気を導入する外気導入型の薪ストーブが一般的だと思います。
ただ、薪ストーブを燃焼させていない時間はやはり薪ストーブの煙突が給気口になってしまいますから、薪ストーブを導入するには室内が負圧にならない一種換気が必要だと言われています。
大きな薪をくべる鋳物製の薪ストーブは断熱がされていないため大量の熱を放熱しますから家は暖かいし料理もできて素晴らしいと思いますが、燃費が良い暖房方式ではありません。
一般的な料理ができる薪ストーブは薪を大量に消費しますから、燃料となる薪が安く潤沢に手に入るの環境であれば良いですが、薪を確保して割るのも一苦労だと思います。
また、薪がしっかり燃焼しないと室内では一酸化炭素中毒になる可能性もありますし、市街地では煙や臭いで近所迷惑になりかねないです。
このように、多くの人が憧れイメージする料理のできる薪ストーブはコストと手間が非常にかかるものですから、よほどのもの好きでないと運用に疲れてしまうでしょう。
なお、薪ストーブやFF式灯油暖房のような大火力の暖房方式は住み心地が良いです。私も小さいころから空気の汚れないFF式の灯油暖房で育ったため大火力の魅力は体が覚えています。
エアコンのような低温の暖房方式を使って住み心地を良くするのは難しくてコールドドラフト対策が必要ですが、その点からも一条の全館に床暖房を敷設する方式は理にかなっていると思います。
UA値がHEAT20のG2あれば家中の温度差がなくなるなんてウソですよ。私は10年前に建てた二軒目の家からG3の家を三軒建てていますがセールストークに惑わされないでと言いたいです。
夜間や天気の悪い日に家の北側・玄関や大きな窓から発生するたかだか数℃の温度差の空気が寒さの原因と気が付くのは入居した後でしょう。特に日当たりの良くない家は注意が必要です。
高気密高断熱住宅は暖かいと言われますが、従来の寒い家と比べて暖かいと言っている人と、夜間にもコールドドラフトを感じない暖かさを言っている人に分かれていると思います。
そして寒冷地だから高気密高断熱住宅が必要というわけでもなくて、現在の日本はほぼどこでも夏は暑くて、温暖化が進んだとは言え冬は寒いため全国で高気密高断熱住宅は必要だと思います。
寒冷地と温暖地で家を建てて湿度をコントロールしている私からすると地域に応じた家作りなんてセールストークよりも家の日当たりと予算に応じた家作りを考えた方が良い家が建つと思います。
最新式の薪ストーブは高気密高断熱な鋼板製
(出典:スキャンサーム)
現在、薪ストーブ販売会社のショールームに行くと主力商品として展示されているのは、ストーブ本体は熱くならずにガラス面から放熱する料理ができないタイプの薪ストーブだと思います。
住宅の高気密高断熱化に合わせて少ない薪と酸素で燃焼するタイプの料理のできない鋼板製の薪ストーブが主流になってきています。つまり、燃料が少ない省エネな薪ストーブです。
薪を完全燃焼させるために本体に鋼板を使って高気密化し、内部に断熱材を設置して炉内の高温を実現しているため薪ストーブの外皮が熱くならないことからストーブ料理ができません。
薪ストーブなのに料理ができないなんて魅力が半減だと思うでしょう。まぁこれは高気密高断熱住宅にガス調理機を設置すべきかという話と共通する論点ですね。
燃費を重視する最新式の料理のできない薪ストーブでは「スキャンサーム」が有名だと思います。ドイツ建築技術研究所(DIBt)による認証を取得していてパッシブハウスにも使えるそうです。
スイス製の高効率蓄熱薪ストーブ「トーンヴェルク」も良さそうですね。こちらは薪の熱を蓄熱材に蓄熱させているため長時間薪をくべなくて良いそうです。
海外産は非常に高額で設置費用まで考慮すると100万円は余裕で超えると思います。国産でも高気密高断熱タイプの薪ストーブはあるようですが性能に違いがあるのかも知れません。
薪ストーブの燃費は?
薪は燃料として安いのか高いのか?他の燃料と比較してみます。
外気温0℃で室温22℃した場合、床面積が100m2で家のQ値が1.6程度であれば、内部発熱を4.65W/m2とすれば、4032W/hの熱量が必要です。
燃料 | 熱量 | 必要量 | 単価 | 一時間当たり |
薪(広葉樹) | 18.4MJ/kg | 0.79kg | 100円/kg | 79円 |
電気(COP3とする) | ー | 1.34kWh | 27円/kWh | 36円 |
灯油 | 36.7 MJ/L | 0.40L | 80円/L | 32円 |
今回は電気を使うヒートポンプ機器のCOPを3で計算していますが、太陽光発電が余剰発電契約ではない場合はエアコン暖房よりも灯油暖房の方が条件によっては安いと計算されます。
原油価格に左右されますが、FF式暖房方式は太陽光パネルを設置しない場合や余剰発電契約ではない場合の高気密高断熱住宅では暖房方式の選択肢の1つだと思います。
薪ストーブは薪が完全燃焼したとしても電気や灯油の倍以上のコストになり、実際は完全燃焼しないためもっと高いコストだと思いますし、さらに薪の確保や薪を割る手間がかかります。
そして、従来からある鋳物製の薪ストーブと新しい省エネな鋼板製の薪ストーブでは実際に両方利用されている方の情報を拝見すると薪の使用量が3倍程度違うようです。
薪ストーブを日本中の人が採用すれば日本の山はハゲ山になってしまうでしょうから、薪ストーブは廃材が手に入るような環境にいる人が利用すると環境にやさしい暖房方式と言えるでしょう。
ただ、間伐がされずに荒れて果てている日本の山林を整備するという意味で、もう少し薪ストーブやペレットストーブは普及しても良いのではないかと思います。
田舎暮らしはコストがかかるの?
「いつかは田舎で平屋を建てて薪ストーブのある生活をしたい」このような話はよく聞きます。私は仕事をまだ引退できておりませんが週末は高原にある平屋のセカンドハウスで過ごしています。
最近はコロナウイルスの影響で地方移住した方の情報発信が増えていますが料理のできる鋳物製の薪ストーブと料理はできないけど省エネな鋼板製の薪ストーブではまったく生活が違うでしょう。
料理ができる鋳物製の薪ストーブは燃費が良くないため薪の確保が大変だと思います。また、寒冷地での生活は水道が凍結しないようにヒーター代がかかるなんて話を聞きます。
24時間暖房をしていれば水道は凍結しないためヒーター代はかかりませんから、私は主暖房は薪ストーブより省エネなエアコンやFF式ストーブにした方が生活が楽になると思います。
また、田舎なので土地が広いこともあって雪止めのない3.5寸勾配屋根を採用したため、雪が降ってもすぐに雪は屋根から落ちることから冬季も発電量はしっかりと確保できています。
ガスも薪ストーブもなくオール電化で冬は24時間暖房、夏は24時間除湿のためにエアコンを運転していますが、再エネ賦課金も含めた年間の電気代の請求額は40,819円(1,531kWh)でした。
上記の光熱費を見ると少なすぎて理解に苦しむと思います。軽井沢のような寒冷地の田舎暮らしはお金がかかると言われますが、家の作り方や太陽光発電の契約方法と暖房方式次第なんです。
高原の夏の高い湿度について、私は24時間小型エアコンを使って除湿を行い家中の相対湿度を60%以下に維持しているためカビに悩まされたり洗濯物が部屋干しで乾かないなどはありません。
我が家は給湯のエコキュートは昼間に太陽光発電で賄っていますし家の日射制御とヒートポンプの効率化を最大限に考えているため一般的な高気密高断熱住宅よりも燃費が良いと思います。
家を建てる際に高気密高断熱化と太陽光パネルの設置でコストはかかりますが、私のような田舎暮らしは、ランニングコストは低いまま都市部の生活とあまり変わらない生活スタイルです。
私の場合は家の中にいる限り外の寒さもわからないのであまり田舎暮らし感はありません。でも本日の最低外気温はマイナス7℃でしたから、ご近所の昔ながらの家は相当寒いのだと思います。
田舎暮らしといっても色々な方式があって、最近は有名な寒冷地の別荘地でも一条ハウスが建築されていることから維持費のかかると言われてきた別荘にも省エネ住宅が広がっているようです。
ただ、コストはかかりますが料理のできる薪ストーブのある生活はとても良いと思います。これから地方に移住しようと考えている方はぜひ色々な田舎暮らしがあることを知ると良いでしょう。
最後に
高性能化が進む住宅においては使われる薪ストーブ自体も高気密高断熱化が進んでいて、少ない薪を完全燃焼させるために料理ができない省エネな薪ストーブへと進化しています。
サイクロン式の薪ストーブであれば少量の薪で料理が可能なようですが長時間利用するには頻繁に細い薪をくべ続ける必要があるようですから薪ストーブを主暖房とする場合は手間がかかります。
私もサイクロン式薪ストーブとして高名なケチキュートをいつか導入してやろうと夢見ています。
料理ができるタイプの薪ストーブを採用する場合は薪ストーブは補助的に利用してメイン暖房は手間のかからないヒートポンプ式のエアコンなどの暖房機器が良いと私は思います。
薪ストーブは導入するだけでも本体と工事費で設置費用が多額にかかるのに一種換気も導入するとなると、ものすごいコストと贅沢な生活が同時に味わえる暖房方式だと言えるでしょう。
本日は以上でございます。