初めて家を建てる時にはどの程度の断熱性能が必要か、壁の中で結露しないか、など悩みますよね。断熱は壁だけでなく天井や床にも必要ですが、今回は壁内の結露について考察します。
壁の構成の確認
上記の画像は一条工務店のウレタン断熱材を使った、i-seriesⅡ(i-smartⅡ/i-cubeⅡ)の壁構成であり、柱の中の充填断熱に外張り断熱を加えたリッチな付加断熱工法です。
一条のこの壁構成は水蒸気を通しにくいウレタンフォームを利用しているため、室内側に防湿層を設置せずとも壁内結露は起きませんが、本来は非常に高コストな断熱工法であり、フィリピンに生産工場を持つ一条工務店以外ではコストパフォーマンスが悪くて採用できないと思います。
さて、付加断熱工法では室内側から必要に応じて防湿フィルム+充填断熱+合板+外張り断熱+透湿防水シート+通気層+外装材という構成になります。
付加断熱工法について、一条では外内断熱工法といいますが、私にはガイナイ?というのが非常に読みにくくて、なんで普通に付加断熱と言わないのか良くわかりません。
現実的には人口の大半が住む土地価格の高い大都市圏の一戸建てでは3.5寸柱の軸組工法の住宅が中心ですから、付加断熱工法なんて相当に贅沢な仕様であり、一般的とは言えません。
私自身は温暖地では窓の性能を良くすれば壁の付加断熱工法まで必要だとは思っていませんし、透湿抵抗比を無視して下手に真似をすると最低気温が低い地域では壁内結露を招くと考えています。
木造住宅ではコストを考えると外張り張り断熱は不要で充填断熱が良いと言われますが、合板の外側に断熱材を設置する外張り断熱の方が熱橋の処理、気密施工、壁内結露の対策が容易です。
断熱材は何がよいの?
結論から言えば、コストを含めて完璧な断熱材は存在しないため、壁の中で結露を起こさずにちゃんと施工されるのであれば、あとは壁の厚さとお値段で断熱材を選択すればよいと思います。
ウレタンフォームやフェノールフォーム等の高性能な板状発泡断熱材は価格が高く、逆に最も普及しているグラスウールは価格が安い反面、断熱性能が低いため分厚く施工する必要があります。
グラスウールやロックウール等の繊維系断熱材については結露しやすいため室内の湿気を壁の中にいれないように室内側に防湿フィルム(簡単に言うとビニールのシート)の設置が必要になります。
ただ、この防湿層の施工については温暖地の大工さんは知識がないため、適当にやってしまったり、逆に隙間がないと柱が腐ると誤解して施工する大工さんが後を絶たないようです。
そして、防湿シートが室内側である程度しっかり設置されているのであれば気密性能も同時に高まりますから、いまだに気密測定をしないハウスメーカーは防湿層の施工精度も疑問です。
土地の安い寒冷地では壁を分厚くして価格の安い繊維系断熱材を壁に400ミリも充填する例もありますがグラスウールは防湿層をしっかり設置できる業者にとっては安くて良い断熱材と言えます。
最近では壁の外側に耐力面材を設置せずに筋交のみで耐震性を確保し、柱の外側をふかして合板を設置して繊維系断熱材を吹き込む充填断熱と外張り断熱の区別がつかない工法があるようです。
断熱材は防火性・価格と厚みの問題・防湿層の必要性など、どの断熱材を選んでも一長一短であるため、建築条件に応じたベストなものを選択する必要があるでしょう。
採用してみたい断熱材
私のこれまでに建てた四軒の注文住宅で採用した断熱材は以下です。
- 初代【低気密住宅】天井、壁、床ともにグラスウール
- 二代目【Q値1.0W】屋根(現場発泡ウレタン)、壁(外張り:フェノールフォーム+モイス+充填:A種3現場発泡ウレタン+防湿層ザバーンBF)、基礎断熱(フェノールフォーム)
- 三代目【一条工務店i-cube】屋根(EPS)、壁(外張り+充填:EPS)、床(ウレタンフォーム)
- 四代目(一条工務店i-smart2) 屋根(ウレタンフォーム)、壁(外張り+充填:ウレタンフォーム)、床(ウレタンフォーム)
20年前に初めて家を建てた時にはここにある断熱材はすべてありましたが、当時の私は家作りの知識もなく、気流止めのないグラスウール断熱の家を建ててしまい冬は非常に寒い思いをしました。
また、現場発泡ウレタンは施工後に木材から剥離すると言われていましたが、二代目の小屋裏から屋根断熱の断熱材をむき出しで見ることができましたが我が家では剥離は確認できませんでした。
今後、もし家を建てる機会があるのであれば、やってみたい断熱工法は以下です。
- 耐火性能の高いロックウールボードでの外張り断熱
- 調湿能力の高い羊毛断熱材の充填断熱
- お金がたくさんあるならフェノバボードの単純外張り断熱120ミリ
調湿機能のあるセルロースファイバーについては古新聞のリサイクル品であるにも関わらず高価格であり、室内側に断熱材を充填するためのシートの設置が必要などの手間がかかることから対象外としています。
良い家を量産化するには、工事の間違いを減らす必要があり、施工が簡単であることが大事ですから、気密は柱の外側の合板で取り、防湿層の設置が不要な工法が望ましいと私は考えます。
最近の流行りは現場発泡ウレタン
出典:日本パフテム株式会社
上記の表は現場発泡ウレタンの種類を示しています。
現場発泡ウレタンとは専用の断熱業者が壁などに断熱材を吹き付けて現場で100倍等に発泡する断熱材であり、複雑な施工箇所に容易に断熱材を吹き付けることができます。
特にローコスト住宅で高気密住宅を謳っているハウスメーカーでは現場発泡ウレタンは流行っていて、ハウスメーカーによっては泡断熱などと呼んでいます。
ただし、現場発泡ウレタンには水蒸気を通し易いという落とし穴があるのですが、長期優良住宅の申請やフラット35を借りない場合は特に審査がないためか、あまり知られていないようです。
A種2やB種は冷蔵倉庫などで利用されるものですから、住宅用としてはA種1とA種3を考えることになりますが、2015年にJISの規格改定が行われ、A種1Hのような熱伝導率が低くて高い透湿抵抗を持つ商品が出てきました。
水蒸気の通し難さを透湿抵抗といい、柱の外側の合板を分岐点として、室内側と室外側との透湿抵抗の比率を透湿抵抗比といい、壁の中に結露が発生するか計算するときに利用します。
パフピュアーエースウォームという商品では防湿層が不要と記載されていて、これは高気密高断熱住宅では施工が面倒なグラスウールの充填断熱工法の代替に成り得る画期的な話だと思います。
また、普及している廉価なA種3の現場発泡ウレタンは水蒸気を良く通すためフラット35を借りる場合、技術基準に適合させるために基本的には室内側に防湿フィルムの設置が必要になります。
以下に代表的な現場発泡ウレタン断熱材を例示します。
- A種3 水蒸気を良く通す 熱伝導率0.040W以下
- アクアフォーム、フォームライトSL、モコフォーム、アイシネン(※)
- A種1 水蒸気を通しにくい 熱伝導率0.034W以下
- パフピュアー
- A種1H 水蒸気を通しにくく、高断熱 熱伝導率0.026W以下
- アクアフォームNEO、フォームライトSL50α、パフピュアーエース、ゼロフロンER-X
現場で発泡した際の断熱材の中の空気のカプセルが独立気泡なのか、連続気泡なのかによって、水蒸気の通り難くさは変わってきますが、基本的にA種3は連続気泡なので水蒸気を沢山通します。
二代目の家を建てたときに、現場発泡ウレタンの端材を水に漬けて試してみましたが、すぐに水を吸い込んでしまい沈みました。要するにA種3の現場発泡ウレタンはスポンジだと思ってください。
一方で外張り断熱につかった独立気泡のフェノールフォームの端材はいつまでも水に浮かんでいましたが、ここが連続気泡と独立気泡の大きな差です。
ただ、A種3においてもアイシネンについては独立気泡の発生率が高く、防露認定を取得している工法もありますが、条件に適合しないとA種3として扱われて防湿層が必要になります。
また、正式な防露計算には使えないと思いますが、A種1Hの断熱材の中には実験による測定値としては規格以上にもっと透湿性があると記載している商品があります。
耐力面材との組み合わせが重要
上記は建売やローコスト系住宅で頻繁に採用されるノボパンというパーティクルボードで、耐力壁としては頑丈で良いものの、水蒸気をほとんど通さないことから扱いが難しい建材です。
また、下記は透湿抵抗比といって壁内結露の安全性を計算するおいて基準となる数値で、壁の柱の外側(特に耐力面材)と室内側(特に充填断熱材)の水蒸気の通し易さの比率を示しています。
出典:住宅金融支援機構
人口の多い温暖な「6地域」においても壁の透湿抵抗比が「2倍」は必要であり、室内側から柱の外側に向かって水蒸気が抜けやすくなってないと壁の中での結露の危険性が増えます。
現場発泡ウレタンの施工において問題となるのが柱の外側に設置する合板がどれだけ水蒸気を通すかによって、面倒でコストの掛かる室内側の防湿フィルムの施工が必要かどうかが決まる点です。
水蒸気を良く通すA種3については、柱の外側の耐力面材に透湿抵抗の高いノボパンなどのOSBや構造用合板を使うのは冬季に外気温がゼロ℃になるような地域では壁内結露の危険性が高まります。
透湿抵抗の低い断熱材を利用する場合は耐力面材には断熱材よりも水蒸気を良く通す、ハイベストウッド、モイス、ダイライト、スターウッドなどの利用が良いと思います。
二代目を設計していた当時の私は知識不足で、夏に壁の中で発生する逆転結露を恐れて夏と冬で透湿抵抗が可変するザバーンBF(現在のタイベックスマート)という高額な防湿シートを採用しましたが、今では結露計算から夏型結露は起きない若しくは発生しても一日の中で解消する程度だと理解しています。
また、現場発泡ウレタンを耐力面材なしで透湿防水シートに直接吹き付けて通気層をつぶしてしまうなんて話がありますが、なんでそんなことを設計段階で気が付かないのか不思議です。
一部に透湿性の高い外壁材を使って通気層なしで現場発泡ウレタンを透湿防水シートに吹き付ける湿式工法がありますが、通気層がないと長期優良住宅の認定取得が難しくなると思います。
結露計算をしてみました
私のブログにはQ値やUa値の計算シートの他にも色々な計算シートを公開していますが、私が一番価値があると思っているのは結露計算シートで、これは中々手に入らないものだと思います。
防露認定を取っていない断熱材を使用する場合や、付加断熱工法において断熱材を複数種類利用した場合は、このような定常計算による結露計算をする必要があります。
ビニールクロスは防湿層として参入はできませんが、コンセントボックス等の小さな開口から水蒸気が大量に通過することが分かっていることから、私もビニールクロスは計算に参入しません。
A種1H + OSB
右上に表記されている透湿抵抗比が基準の「2」以下の「0.7」と不十分であり、定常の結露計算においても室内側に防湿層の設置がなければ結露すると計算されています。
A種3よりも水蒸気を通しにくいA種1においても、柱の外側の耐力面材が、OSBのような水蒸気を通しにくいものである場合は透湿抵抗比をクリアできません。
やはり、OSBは価格は安いものの水蒸気を通さないため、単純な外張り断熱以外では利用はしないほうが良いと思います。
A種1H + ハイベストウッド
耐力面材を透湿抵抗の低いハイベストウッドに変更したところ、透湿抵抗比が基準の「2」を大きく上回り「5.8」になりました。
同様にモイスやダイライトでも余裕で透湿抵抗比の規定を満たせることから室内側に防湿フィルムを設置しなくて済みます。
北海道を含む寒冷地の透湿抵抗比が壁は「4」で天井は「5」ですからこの構成は北海道でも防湿層なしで施工ができることになりますが、結露計算における安全率に余裕がないため室内で加湿をし過ぎるない方が良いと思います。
また、この計算シートの結露判定は露点温度について、25%の安全率をみており、その範囲は△と表示されていますから△だからアウトというわけではありません。
A種3 + ハイベストウッド
A種3の場合は耐力面材に透湿性の良いハイベストウッドを使っても、透湿抵抗比が「2」を超えず「1.6」であるため、フラット35を借りるには防湿フィルムの設置が必要になります。
ちなみに、断熱材の厚みを2×6の140mmまで厚くすれば透湿抵抗比が「2.2」になりますが、在来工法の4寸柱の120mmでは「1.9」までしか行きません。
A種3 + 構造用合板
もっとも一般的な壁構成と国の結露計算の基準であるゆるい条件で計算してみました。
耐力面材に合板+3.5寸柱にA種3の現場発泡ウレタンという最もよくあるケースだと思いますが、透湿抵抗比が「0.4」しかなくフラット35を借りるには防湿フィルムの設置が必要になります。
この壁構成において実際に結露するかについては、このゆるい条件のような室温15℃のような住み方と外気温が5℃程度の地域であれば結露判定の通り、壁内結露の恐れは少ないと思います。
ただ、外気が0℃の場合、室温22℃なら相対湿度を35%未満に抑えれば結露は起きない計算になり、仮に多少結露しても日中に外気温が高くなれば結露は乾燥すると考えられます。
このように実際の生活の温湿度を想定して、透湿抵抗の高い合板+A種3の現場発泡ウレタンという壁構成を考えると、室内を加湿せずに相対湿度をかなり低くする必要があります。
効果はわかりませんが、DIYでビニールクロスを防湿層化する場合、断熱材のある外壁に後付け型気密コンセントカバー等を設置して壁に開いている穴をふさいでいく必要があると思います。
最後に
断熱材はすべての面においてベストという商品がありません。透湿抵抗を考えながら予算や外壁の厚さに応じて断熱材を選択していく必要があります。
また、省エネ性を向上させるには断熱材による高断熱化よりも窓と気密のレベルアップの方が低コストですから、トリプルサッシの採用とC値1.0cm2/m2以下の性能確保を優先すべきです。
木造住宅における外張り断熱のコストは充填断熱よりも高い反面、防露・熱橋・気密の対策が行い易いため外張り断熱は安心な工法であると言えます。
逆に言えば、充填断熱で安心を得るには施主がより深く勉強して知識を得る必要がありますが、防露・熱橋・気密の対策を施主が理解できるならコストの安い充填断熱工法が最良とも言えます。
私のような異次元の電気代を達成するには一般的な外張り断熱や充填断熱だけでは性能が不足するため付加断熱工法以外で達成するには外張り120mm断熱や充填300mm断熱等が必要です。
一般的には充填断熱が主流で坪単価の高いハウスメーカーでは何故か価格の安いグラスウールやロックウールが利用され、ローコスト住宅では気密性の良い現場発泡ウレタンが流行っています。
そして、一条工務店のように海外の工場を使ってコストを圧縮しているケース以外ではEPSやウレタンフォームなどを分厚く施工している家はほぼありません。
また、施工性やメンテナンス性を無視して断熱材を検討しても仕方がないため、例えば現場発泡ウレタンを基礎断熱に利用した場合など、床下の点検が難しくなるなどの弊害もあります。
これから家を建てる方は断熱性能を検討する際にぜひ壁・天井・床の結露計算をして価格を含めたメリット・デメリットを確認することをお勧めします。
防湿シートを設置しているからと言って、施工が正しくなければ壁内結露の安心はできませんから、やはり気密測定をするかしないかが住宅業者の施工精度を判断する目安となるでしょう。
なお、一条ハウスはEPSやウレタンフォームといった水蒸気を通しにくい断熱材を採用し、気密測定をしていますので、結露計算を施主が心配する必要はないと思います。
以上、結局、断熱材は何が良いのかは言えないよ絶対にの巻でした。