外壁が黒色な家は夏に暑いのか?

考察

はじめに

私はInstagramでエアコン1台による全館冷房のアドバイスをしていますが、これまで外壁の全面が真っ黒な方が何人かいらっしゃいました。

外壁の全面が真っ黒の家というにはとてもカッコ良いと思いますが、濃い外壁の色の家は夏に室温が高くなるということも一般的には言われています。

ただ、昔の家や工場のように断熱材が入ってない建物と断熱材が入っている現在の住宅では外壁の色による影響は違うのではないかと考えられます。

一般的には遮熱製品を販売する業者は日射の反射率だけを取り上げて省エネ効果を謳っていますが、日射が侵入しても断熱性能が勝っていれば大した影響はないという話もあります。

住宅の情報はこのような噂話が多く、その大半は業者の流すセールストークがもとになっていて、それによって家作りの誤解が増えてしまうため誰かが本当の事を確かめる必要があるでしょう。

と、いうことで恐らくこれまで誰も計算したことがない(私は見た事がない)、遮熱と断熱を両方計算して、外壁の色の違いによる室温変化を標準モデルの間取りで計算してみたいと思います。

これに合わせて私の計算シートも屋根と外壁の色の違いによる室温を計算できるように変更しました。

計算ツール
F式(私ことフエッピー式)の各計算ツールは無償でドドーンとご提供します。その代わりサポートはございませんので自己責任でご利用ください。また、告知なく修正しますので、ご利用の際は最新版をダウンロードしてご利用ください。 ダウンロードを行...

明度

今回は外壁の色の明るさの違いによる太陽光の反射率を求めてそれと基に計算します。

色の明るさには明度(めいど)というものがあって、0の真っ黒から10の白までがあるようです。皆さんご存じのように外壁の色によって日射の反射率が変わってきます。

(出典:武蔵野美術大学

実際は明度0の漆黒であったり、明度10の真っ白という外壁色はないと思います。

日射反射率

省エネ基準は外壁の色を問わない状態でのηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)を計算しているため、これに日射反射率を加味すれば答えが出るのではないかと思いました(私の独断です)。

参考にしたのは遮熱塗料の日射反射率を計算する際に用いる「JIS5602 塗膜の日射反射率の求め方」というものがあるようで、その規格値に沿って計算したいと思います。

今回は一般塗料のN1(暗い)~N9.5(明るい)における、日射反射率(%)を日射取得熱にかけることで計算してみたいと思います。

(出典:日本塗料検査協会

塗料の色はJISの規格で決まっていて日塗工番号という番号でネットで検索すると具体的な色が分かります。また、マンセルシステムという色の体系があるようです。

外壁の色の違いによる日射熱の室温影響を計算してみました

日射熱が室温に与える影響を単純に計算してみます。1時間あたりに上昇する熱量を示しているため、1日で考えると外気温が高い日はエアコンで冷房をしなければ大変なことをになります。

以下に示した日射熱による室温上昇以外にも二階には一階から熱が上昇するということと、断熱性能が低い家は天井や壁からの輻射熱が別途あることをご承知ください。

Q値 ηAC値 二階 一階 温度差
i-smartⅡ 0.75W 0.81 屋根黒系・外壁黒系 7.06℃ 8.35℃ ▲1.29℃
屋根黒系・外壁白系 6.59℃ 7.56℃ ▲0.97℃
屋根白系・外壁真っ白 5.58℃ 7.11℃ ▲1.53℃
グランセゾン 1.19W 1.07 屋根黒系・外壁黒系 6.22℃ 6.50℃ ▲0.28℃
屋根黒系・外壁白系 5.42℃ 5.36℃ ▲0.06℃
屋根白系・外壁真っ白 3.99℃ 4.70℃ ▲0.71℃
省エネ基準レベル
(H28 等級4)
2.63W 2.70 屋根黒系・外壁黒系 6.58℃ 8.03℃ ▲1.45℃
屋根黒系・外壁白系 6.13℃ 7.33℃ ▲1.20℃
屋根白系・外壁真っ白 5.39℃ 6.92℃ ▲1.53℃
旧省エネ基準
(S55 等級2)
5.17W 4.41 屋根黒系・外壁黒系 6.33℃ 5.72℃ +0.61℃
屋根黒系・外壁白系 5.66℃ 4.72℃ +0.94℃
屋根白系・外壁真っ白 4.07℃ 4.14℃ ▲0.07℃

外壁を黒系にした場合、白系より1℃ほど室温が上昇するようです。つまり、お日様が出ている間は1℃分の冷房負荷が増えることになりますが、冷房負荷は家の断熱性能によって変わります。

また、ほぼ無断熱住宅とも言える旧省エネ基準では二階天井の断熱が薄いため屋根が黒系の場合は二階が暑くなってしまうことが計算からも分かります。

屋根と外壁を白くすることは特別な外壁でない限りは汚れが目立ちやすいという問題がありますが、やはり屋根が白系で外壁が真っ白な家は熱は室温が下がるようです。

ほぼ無断熱住宅の旧省エネ基準の家では屋根を白系にすることで一階と二階の日射熱による温度差がなくなりました。やはり、断熱性能が低い家には遮熱は効果が大きいようです。

また、現物を見た事がありませんが、ある時点からi-seriesⅡでは235mmの天井充填断熱に加えて屋根パネル(2×4)にもウレタン断熱材を充填していると聞いたことがあります。

一条工務店のグランセゾンなどの軸組工法は天井より上の桁上(けたうえ)断熱なのですが、屋根パネルについて断熱が追加されたのかはわかりません。

電気代への影響を計算してみました

前項の表をみると高性能住宅は日射熱が室内に籠ってしまうため、夏は性能の低い家の方が省エネなのではないかと思われるでしょう。ただ、高性能な住宅は冷房も効きやすいのです。

日射熱をエアコンで冷房した場合の8月の電気代を計算してみます。(計算条件)エアコンCOP5、日照時間は東京の過去5年間の8月の日照時間の平均157時間、電力単価は@27kW円とします。

Q値 総熱損失 日射熱 電気代/月
i-smartⅡ 0.75W 91W 屋根黒系・外壁黒系 7.78℃ 600円
屋根黒系・外壁白系 7.14℃ 551円
屋根白系・外壁真っ白 6.44℃ 497円
グランセゾン 1.19W 143W 屋根黒系・外壁黒系 6.38℃ 773円
屋根黒系・外壁白系 5.39℃ 653円
屋根白系・外壁真っ白 4.38℃ 531円
省エネ基準レベル
(H28 等級4)
2.63W 318W 屋根黒系・外壁黒系 7.40℃ 1,995円
屋根黒系・外壁白系 6.81℃ 1,836円
屋根白系・外壁真っ白 6.26℃ 1,688円
旧省エネ基準
(S55 等級2)
5.17W 621W 屋根黒系・外壁黒系 5.99℃ 3,108円
屋根黒系・外壁白系 5.13℃ 2,662円
屋根白系・外壁真っ白 4.11℃ 2,132円

上記の通り、ほぼ無断熱の旧省エネ基準の家では屋根や外壁の色が電気代に及ぼす影響が大きいことが分かりますが、一条ハウスほどの高断熱住宅ではあまり影響がないことがわかります。

そして、省エネ基準レベルの住宅からは天井の断熱は壁の倍程度設置されていますが、電気代からみて断熱性能がまだ足りてないということが分かります。

また、冷房負荷を下げるには家の断熱性能と共に気密性能が重要になってきますから、気密についてもC値1.0以下を確保すると良いでしょう。

実は日射熱の大半は窓から侵入しています

ここまでの展開でお気づきかと思いますが、遮熱建材の効果が大きく出る建物は無断熱な住宅や工場などであって、高断熱住宅では遮熱はあまり効果がないということです。

最も住宅で多い屋根が黒系で外壁が白系の住宅における部位ごとの日射熱の影響割合は以下です。

天井 壁・玄関ドア
i-smartⅡ 10% 7% 83%
グランセゾン 17% 15% 67%
省エネ基準レベル(H28 等級4) 7% 7% 86%
旧省エネ基準(S55 等級2) 22% 13% 65%

上記はあくまで日射熱が侵入する割合であるため、何が正しい値というわけではありませんが、いずれの住宅においても窓から侵入する日射熱が相当な部分を占めていることがわかります。

最後に

今回の内容をまとめると以下になります。

  1. 日射の大半は窓から入るため窓の日射制御をしっかり行うことが第一優先
  2. 無断熱の建物では白系の屋根や外壁を使った遮熱は大きな効果がある
  3. 電気代をみると遮熱より断熱の効果が高いことがわかる
  4. 外壁を濃い色にすると白系の外壁より1℃程度室温が上昇する
  5. あくまで、窓の日射制御 > 断熱・気密 > 遮熱・蓄熱 の順番

結論としては一条ハウスほどの断熱性能があれば外壁の色は気にしなくて良いと思いますが、外壁の色が濃い人ほど窓の日射遮蔽はしっかり行った方が良いと思います。

一条ハウスでは黒系の外壁を使った場合は白系よりも夏は室温1℃は上がると思った方が良いでしょう。そして、グランセゾンの場合はこれを冷却するための電気代は120円/月程度でした。

ただし、今回は日射熱による室温上昇だけを計算していますが、夏は壁や天井が蓄熱しますから表面温度の上昇により発生する輻射熱を加味した体感温度の考慮はしていません。

家作りはすべてが室内の温熱環境のためにあるわけではありません。デメリットをしっかり理解してリカバリーができるのであれば、家は好きなように建てると良いと思います。

 

本日は以上でございます。

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