「Q1.0住宅 設計・施工マニュアル 2020」を読んでみて

考察

はじめに

2002年から18年ぶりに新住協の Q1.0住宅 設計・施工マニュアルが改訂されたため読んでみました。A4サイズで126ページですが画像が多いためそれほど読むのには時間はかかりません。

施主が高気密高断熱住宅の施工マニュアルまで読む必要はないと思いますが、興味のあるかたは読んでみると面白いと思います。

ネタバレになると悪いのであまり中身には触れませんが、最先端の知識が学べる本当に素晴らしい著書だと思います。

知識はさわりだけ学ぶと頭でっかちになりますが、一周回るぐらい学ぶと性能では満たせない空間デザインなどと性能の両方が心の豊かにつながることに気が付けるのではないでしょうか。

予算に限りある中でどれだけあらゆる事を矛盾させずに高いレベルで両立させることができるか?これが注文住宅を四軒建てた私がいま感じていることです。

そして、予算が少ない人ほど自分で勉強しなければならない現状だと思います。また、家を建てるほどに自分の知識不足を感じる家作りはまさに底なし沼ですね。

ただ、強く思うことはなぜ最初から性能とデザインのどちらを重視するかなんて諦めた家作りをしなければならないの?かという事です。家作りはもっと自由で楽しくありたいじゃないですか。

さて、新住協はオープン工法であり、今回のマニュアルにおいても余すことなく全てを公開しているようです。新住協を発足した鎌田先生の度量の大きさには感服いたします。

そして、鎌田先生は一貫してコストパフォーマンスに拘り、誰にでも建てることができる高性能住宅を提唱していることがポイントです。

鎌田先生が在来住宅の高断熱高気密化を提唱されたのは1984年とのことです。最近は高気密高断熱住宅の認知度が増えましたが情報が伝わるのにそれだけ時間が必要なのでしょうね。

住宅関係者に読んで欲しい

Youtubeの住宅系動画をみるとHEAT20のG2やG3といったハイスペック住宅以外を否定されているように感じると思いますが、あれはあくまでもフラッグシップモデルの住宅の話です。

Youtubeで情報発信している住宅会社は高価格帯だと思います。誰もがポルシェやフェラーリに乗れるわけではありませんが、フラッグシップモデルはさらなる成長のために必要な存在です。

ただ、鎌田先生は無暖房住宅が数軒建つより燃費半分の住宅が普及する方が日本にとって良いと仰っていて、それはこのマニュアルの随所に簡略な施工方法を示していることからも分かります。

私は性能面では耐震等級3・温暖地はUA値0.6W以下(ZEH程度)、C値1.0以下、長期優良住宅(耐久性)をどの住宅会社でも建てれるようになって欲しいと思っています。

日本の住宅は中古住宅の資産価値がないため売却ができずに買い替えではなく建て替えになってしまうため、これが日本人の資産形成を消耗させています。

これを防止するには上記を満たすような住宅を超長期優良住宅として税法の耐用年数を60年とすれば中古住宅に対する銀行の融資額も増えるのではないかと思っています。

さて、デザインや自然素材の採用が得意で高気密高断熱が苦手という住宅業者は昔からいます。

ただ、圧倒的に住宅事業者と消費者には知識の格差がある中で、消費者が家の性能について学んで確認しなければならないということは異常なことだと思います。

消費者のためを思うなら、ぜひデザイン重視の住宅関係者も食わず嫌いをせずに性能面を学んでから意見を言ってほしいと思います。

空間デザインで有名な伊礼智さんでさえ住宅の断熱性能が良ければデザインがより自由になると最近は仰っています。特に大開口窓はトリプルサッシの普及で採用しやすくなると思いますね。

有能な住宅関係者であれば性能とデザインは両立できると言ってほしいところです。

グラスウール断熱について

新住協では耐火性の観点からグラスウール・ロックウールなどの繊維系断熱材を推奨しています。

これはこれで良いと思いますが、問題なのは温暖地でグラスウールを使って気密施工できる事業者を見つけることが難しい点です。

施主が現場を監督して大手ハウスメーカーでもC値1.0以下を出したケースがありますが、現場によっては高気密化に協力的ではない場合があり施主とのトラブルが後を絶ちません。

特に大手ハウスメーカーは耐震性の向上をけん引してきたため、柱の外に面材を貼らないラーメン構造を得意としている場合は安定的な高気密化は難しい状況だと思います。

柱の外に面材を貼らない工法の場合は室内側の袋入りグラスウールを含めた防湿シートで気密化を図らなくてはならないため、現場によって気密性能にばらつきが出やすい工法だと言えるでしょう。

そういった観点から考えると私は温暖地は透湿する面材+現場発泡ウレタンが良いと考えています。グラスウールは耐火性が優れていたとしても温暖地では高気密化が難しいからです。

ここは難しい判断ですが、いつまでも普及しない温暖地の高気密化をいかに解消すべきかという話であり、特に気密施工が難しい床は気密は基礎でとって断熱は床といった工法もありだと思います。

また、現場発泡ウレタンには一般的な水蒸気を通しやすいA種3より透湿抵抗の高いA種1Hの採用が必要だと考えていますが、これはグラスウールを得意とする工務店は言わない真実です。

夏型結露について

本マニュアルで1点考察が必要だと思う点があります。夏型結露です。

夏型結露とは簡単にいうと室内がクーラーで冷やされている状態で外気の水蒸気量(絶対湿度)が増えると壁などの建物内部で結露が起きる現象です。

水蒸気を通しやすいグラスウールやA種3の現場発泡ウレタンでは室内側に防湿シートの設置が必要だと思いますが、温暖化が進むとこの防湿シートが夏型結露の原因になります

補足:一条工務店の家は防湿シートはありません。断熱材となるウレタンやEPSの透湿抵抗の高さで壁内結露を防止しています。

現状ではまだ問題ないと言えると思いますが、2020年の8月の東京では建物の構造内部が結露する危ない状況になっていることがわかっています。危ない未来が現実的になってきているのです。

上記は8月17日の24時間の気候の変化です。黄色線の露点温度(結露する温度)をご覧ください。24時間にわたって露点温度が26℃付近にあり27℃に近い時間があることがわかります

この日は大気の水蒸気圧は1006~1008hPaとほぼ標準大気圧で安定していましたから絶対湿度の計算において問題はありません。

この状態はクーラーを使って室温を27℃以下にできないということです。つまり、防湿シートがある家は普通に生活していて建物の構造部分が結露してしまうということです。

第二のナミダダケ事件は進行しているかもしれないのです。そしてそれは全国規模です。

これは断熱性能に関係がなく、防湿シートや袋入りグラスウールを使っている大半の住宅が該当します。まだ盛夏の数日しかこのような状態ではありませんが常態化すれば危ないとおもいます。

8月15日も外気の絶対湿度が24グラムを超えており、温暖化が進んで外気の絶対湿度が26グラムを超えてくれば防湿シートを利用する大半の家は壁の中が結露して家が腐る可能性が出てきます。

家の外に絶対湿度計を設置して外気を観察してみて下さい。絶対湿度24グラム超えの時代はそんな先の事ではないことがわかりますし、常時26グラムを超えたら危機的状況になるでしょう。

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エー・アンド・デイ(A&D)

そろそろ、温暖地では袋入りグラスウールを含めてグラスウールを施工する際には防湿シートには調湿タイプのものが必要になってきていると思います。

ただ、グラスウールを使っての高気密化は温暖地の大工さんには難しいため防湿シートを設けずにダイライトやモイスなどの透湿する面材とA種1Hの現場発泡ウレタンの採用が現実的でしょう。

A種1HとはアクアフォームNEOやフォームライトSL-50αなどです。

現場発泡ウレタンのA種1Hと透湿する面材の組み合わせでは防湿シートがなくても相当な寒冷地でもない限り冬型結露も夏型結露も起きないことが計算から分かります。

夏型結露については不安を煽ろうという趣旨ではなく、このまま温暖化が進めば計算から間違いなく近い未来に現実となることを示唆していますから温暖化を防止しなければなりません。

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アメダスのデータと露点温度を計算して室温が長時間にわたって露点温度に到達していれば建物の構造内で結露をしているということになりますが、これは誰にでも分かる単純な物理現象です。

試しに以下のサイトで自宅周辺の温湿度を拾って露点温度を計算してみてください。2020年では蒸し暑いと言われる関西より関東の方が危険ない状態に近いことがわかります。

気象庁|過去の気象データ検索
気象庁|過去の気象データ検索
気象~露点温度
気温と相対湿度から露点温度を求める

温暖化によって気温が上がれば大気が含むことができる水蒸気の量(飽和水蒸気量)も上昇します。ただ、気温が上がればクーラーの利用が避けられませんがこれが壁内結露を招きます。

この状態がどれだけの長時間続けば建物にダメージを与えるか今後に分かってくると思いますが、恐らく大地震が来て建物が倒壊しないと分からないと思います。

最後に

鎌田先生は1947年生まれですから73歳になられています。今回のマニュアルは遺書というにはまだ早い(失礼)と思いますが、30年以上に渡る活動の集大成なのだと思います。

HEAT20という民間基準が最近では浸透してきていると思いますが、所詮はQ1.0住宅の焼き回しでしかないと思います。結局、鎌田先生が引いたレールの上を我々は歩いているのでしょう。

心配なのは鎌田先生の後を引き継ぐ後継者がいるのかということです。HEAT20は坂本先生の後は東大の先生が引き継ぐと思いますがパッシブハウスジャパンは高価格すぎて停滞ぎみのようです。

さて、高気密高断熱住宅が最近の流行りのように感じる人もいると思いますが理論は古くからあって、2010年頃には空調を含めてほぼ全ての原理が解明されていたと思います。

ただ、エアコンの設置方法1つをとってみても、本当の意味がなかなか伝わらない状況です。

現在はまだ高気密高断熱住宅の普及段階にあり、これまでの生活様式をしてきた人との意見の食い違いがたくさん発生していると思いますが、これも過渡期の現象なのでしょう。

そんな時は鎌田先生が一貫してコストパフォーマンスに拘って、一部の人しか買えない高性能住宅ではなくて誰でも建てられる高性能住宅を目指していたことを思い出して欲しいと思います。

そして、間違いなく温暖地を含めて高気密高断熱住宅が高温多湿な日本の気候に適していると私は計算結果から断言しますが、このことが理解されるまであと何十年もかかると思います。

施主がそんなに勉強しなくても誰でも安心して色々なデザインの家を選べる時代が早く来てほしいですし、それが地球温暖化防止に繋がります。それが鎌田先生の望んだ世界ではないでしょうか。

気密施工を嫌がる住宅会社はまだ多いかもしれませんが、地球が温暖化すれば防湿シートを使っている木造住宅は構造が腐る可能性があるということは理解して欲しいと思います。

まぁ、こんな記事を新住協加盟の地場工務店の施主ではない一条工務店の施主である私が書いている時点で世の中ずいぶんと変わったと思いますけどね(笑)

 

本日は以上でございます。

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