はじめに
家作りにおいて断熱材は何が良いの?という無限ループの話題があります。価格、断熱性能、気密性、結露対策、施工しやすさなどに加えて環境負荷という話がしばしばなされます。
結論からいうと私は断熱材は何でも良いと考えています。ただし、各地域の条件を考慮した夏と冬の結露計算を実施して予算や施工を含めた最適な方法を検討したほうが良いでしょう。
また、断熱材の製造時~廃棄までの環境負荷についてはかなり古い情報が現在でも住宅業界で利用されているため情報のブラッシュアップが必要だと思います。
以下のようにウレタン断熱材を製造しているアキレス社の温室効果ガスの排出量は1990年から比べると現在は激減しています。
(出典:アキレスのCSR2020 地球温暖化対策)
環境負荷についてはLCA(ライフサイクルアセスメント)、LC-CO2(ライフサイクルCO2排出量)やLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス住宅)など考え方が沢山あります。
本来はLCAの中にLC-CO2があって、LC-CO2を住宅全体で表したものがLCCMだと思いますが、もうこの時点でどこまでの環境負荷が入っているか素人にはわからないですよね。
LCAの場合はエネルギー消費や二酸化炭素排出量を対象とするのか、オゾン層の破壊や河川や海の環境影響など多岐に渡るので、住宅関係ではLC-CO2やLCCMが利用されていると思います。
LCAは資源の掘削から対象としていると思いますが、LC-CO2やLCCMは製造時からを対象としているため片手落ちになっており、環境負荷に対して情報操作がされる可能性があります。
LCAと言いつつ資源掘削時の環境負荷を含めていなかったり、例えばグラスウールではリサイクルガラスを製造時に利用していても廃棄される時は埋め立て処分されてしまうなどの事例です。
よって、どの断熱材の環境負荷が高いのか低いのか、断熱材メーカーによって情報が都合よく切り取られて印象操作されているため、本質的な比較は難しいと思います。
CO2排出量の誤解
(出展:一般社団法人ニューガラスフォーラム)
一般的には石油由来の発泡プラスチック断熱材(ネオマフォームや現場発泡ウレタンなど)はCO2排出量が多いと認識されていると思いますが、この情報は古いと思います。
上記の画像は2006年の資料ですが、CO2排出量が多いのはフロンを利用している発泡プラスチック断熱材であることが分かりますが、現在では断熱材にフロンは利用されていません。
発泡プラスチック断熱材は製造時に原料を発泡させるために「発泡剤」と言われるガスを使用しますが、ガスの温室効果をCO2の温暖化係数に換算してCO2排出量が多いと言われています。
ただ、現在ではノンフロンの発泡剤を利用しているためこの話は過去のものとなっていますが、現在でも都市伝説のように発泡プラスチック断熱材は環境負荷が高いと言われます。
JIS A 9521:2017 建築用断熱材の規格によると、以下の記載があり既にフロン系の発泡剤は利用されていません(2013年にフロン廃止の規格改定されたようです)。
この規格は,発泡プラスチック断熱材にあっては,発泡剤としてフロン類1) を使用しない断熱材とする。 なお,技術上重要な改正に関する旧規格との対照を附属書Iに示す。 注1) フロン類とは,ハイドロフルオロカーボン(HFC),クロロフルオロカーボン(CFC)及びハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を指し,HFO-1233 zd,HFO-1336 mzzに代表されるハイドロフルオロオレフィン(HFO)は該当しない。
現在では以下の表の一番下にあるCO2かHFOが発泡剤となっているため、CO2の排出量はどの断熱材を利用してもあまり変わらないということが妥当な認識ではないでしょうか。
断熱材の製造から廃棄までの環境負荷
製造時のCO2排出量の他に製造時のエネルギー消費について、以下の表ではグラスウールやロックウールといった繊維系断熱材の製造時のエネルギー消費量が少ないことが分かります。
ただ、この情報はグラスウールメーカーのフォーラムの情報であり、2006年の情報であるためグラスウールが有利になるように記載されている可能性があります。
断熱材の原料を採掘してから製造工場に運搬するまでの環境負荷が含まれていないことと、グラスウールは廃ガラスを利用して製造されているものの廃棄時には何も再利用されないからです。
表では断熱材1kgあたりの製造時のエネルギー比較をしていると思われますが、断熱性能の違いが加味されていないため、断熱材同士の比較になっているのか分からないところです。
なお、セルロースファイバー工業会からみると他の断熱材は非常に環境に悪いようです。ただ、2004年の情報なので発泡プラスチック断熱材はフロンを利用していた時代でしょう。
(出典:日本セルロースファイバー工業会)
一方でグラスウールメーカーからすればグラスウールは最高の断熱材のようですが、比較しているウレタン断熱材の製造時のCO2排出量はフロンが利用されていた1990年の情報となっています。
(出典:マグ・イゾベール社)
断熱材メーカーは他社と製品比較をする際に発泡剤になにを利用しているかを示さないため消費者が家作りに迷う諸悪の根源は断熱材メーカーにあるのではないかと思ってしまいます。
断熱材の輸送(建設時)に関わるCO2排出量については、グラスウールなどの繊維系断熱材は圧縮して運搬できることから発砲プラスチック断熱材よりも少ない積載量で運搬できます。
また、現場発泡ウレタンのような現場発泡する場合は運搬の環境負荷は低いかもしれないが、スキンカットの廃棄における輸送の負荷があるなど、論点は多数あります。
現場発泡ウレタンはスキンカット部分の廃棄や建物解体時の木材との分離が難しいなど、環境負荷が高そうに見えますが、実際に日本のリサイクルの中心はサーマルリサイクルです。
生ごみを燃やすには燃料が必要です。生ごみを燃やすために重油を燃やすのか廃プラスチックを燃やすかの違いでしかなく、プラスチックのリサイクル性はもっと深く考える必要があります。
さらに言えば環境負荷を考える上では断熱材に限らず工場生産率の低い住宅会社はメーカーや問屋が在庫を保管して細かく配送していますから流通の環境負荷は高いのではないかと思います。
廃棄時においては価格の安いグラスウールは再利用されずほぼ埋め立てられてしまうため、焼却してサーマルリサイクルされる発泡プラスチック断熱材とどちらが環境負荷が高いのでしょうか。
また、過去に現場発泡ウレタンを推していたのに、今になって現場発泡ウレタンは廃棄の問題から採用すべきでなく、断熱材はグラスウールが良いと発言している実務者がいます。
住宅業界では宗旨替えは良くある話ですが、過去に施工したお客様がいるのだからネットで声高に過去を否定するのはまずいと思います。そして、いま言ってることも信用ならないですね。
特にグラスウールと在来工法を推している新住協系の工務店は他工法を否定する不寛容な人が見受けられるため住宅業界の革命者なのか有害団体なのか評価が分かれると思います。
ウレタン火災について
環境負荷ではありませんが、グラスウール推進派はウレタンの環境負荷と共にウレタンは燃えると盛んに主張します。ただし、住宅での火災事例が1つも提示されていません。
ウレタン単体の燃焼実験は意味がありません。住宅では石膏ボードが設置されますから、壁の中の断熱材が突然燃えることはありません。
過去のウレタン火災は工場やビルの建築現場や解体現場で発生しています。鉄骨造の建物は建設時と解体時にガスバーナーを使いますからそれがウレタンに引火したという事例です。
木造住宅ではガスバーナーなど利用しませんし、木造住宅では火の利用はご法度です。ガスバーナーを使った工場やビル火災の事例を木造住宅に引用している時点でミスリードが起きています。
住宅での火災事例では、ウレタン断熱で有名なFPの家でのキッチン火災の事例では建物の気密性の高さから火災が自然消火された事例が有名です。
硬質ウレタンフォームの発火点は約410℃であり、これは木材とほぼ同じ温度です。そして、グラスウールは不燃材ではあっても400℃程度で溶けて防火機能を失います。
それでもグラスウールは燃えない、ウレタンは燃えると言い張る人がいますが、火災による有毒ガスから人が避難するまでに必要な時間と断熱材が燃えるまでの時間は異なります。
ウレタンは燃えると猛毒のシアンが発生するといわれますが、そもそも石膏ボードの中の断熱材は突然燃えることはなく、シアンは魚のアジを焼いても発生するものです。
それよりも一酸化炭素を発生させるガスコンロの設置はもっと危険な行為ではないのでしょうか。ウレタンを否定する住宅会社がガスコンロを禁止しないのはおかしいですよね。
気密が取りやすことから採用事例の多い現場発泡ウレタンにおいても、難燃剤が添加されていますし、木材が燃える温度で断熱材を比較するのであれば木造住宅以外を検討した方が良いです。
そして、火災時は石膏ボードに被覆された断熱材より、カーテンや家具などの内装のほうが燃えるリスクが高いため、なぜ壁の中の断熱材が突然燃えることを想定するのか理解に苦しみます。
もはや、グラスウールvsウレタンは科学的な話ではなく、グラスウールメーカーが流す情報に乗せられた住宅会社のセールストークや感情的な話でしかないと思います。
このように、建築や解体現場のウレタン火災の誤った引用やウレタン単体の燃焼実験など、実際の住宅とはかけ離れた事例をもとに断熱材は何が良いのかなどが考察されています。
グラスウールメーカーに踊らされたグラスウール推進派はウレタン断熱材に対しての激しいミスリードをしていますが、住宅業界の発信する情報はこの程度の根拠であり、大半が嘘です。
情報発信側の情報リテラシーが低く、メーカーや学者に利用されていることに気が付かないまま、誤情報を発信していることに気が付いてないことが誤情報の輪を広げていると言えるでしょう。
除湿負荷について
グラスウールなどの繊維系断熱材は夏型結露を防止するために、温暖地を中心に可変調湿シートを採用するケースがあると思いますが、これは除湿負荷が増えるということになります。
可変調湿シートは、外気の高湿度な水蒸気を室内に通すことで夏型結露を防止しているため、例えば延床30坪程度で外壁が264m2の家では、外壁から以下の水蒸気が透過します。
外壁構成(充填断熱は105mm) | 水蒸気透過量/L・日 |
防湿シート+グラスウール+合板 | 0.4 |
可変調湿シート+グラスウール+ハイベストウッド | 12.2 |
防湿シート+グラスウール+合板+外張りネオマ40mm | 1.1 |
可変調湿シート+グラスウール+ハイベストウッド+グラスウール40mm | 11.3 |
室内は25℃60%で外気は33℃70%絶対湿度25g/m3と厳しめの条件で計算しておりますが、上記のように透湿系の構成の場合、夏季の除湿負荷がかなり増えます。
断熱指標がQ値から換気の損失を含まないUA値に変わり、超高断熱住宅においてもコストの安い三種換気の採用が増え、さらに外皮の透湿化により夏季に除湿不足になる家が増えてしまいました。
三種換気や一種顕熱交換の換気扇を採用すると夏の除湿負荷が多くなります。さらに外皮を透湿系で構成すれば、エアコンでの除湿が追い付かなくなります。
結露計算のみで透湿量の計算をせずに、安易に「呼吸する家」などといった家を販売する住宅会社が増えてしまった結果、超高性能住宅にも関わらず夏に相対湿度が60%を切れない家があります。
一種の全熱交換換気扇を採用しない場合、外気の給気をエアコンに吸い込ませるなど工夫が必要であり、夏冬の給気口の位置を考えると夏用と冬用のメインエアコンは分けた方が良いでしょう。
家作りは自然素材を使えば結露が防止できるというものではなく、計算をしっかりすることが必要だと思います。結露計算や透湿量に興味がある方は私の計算ツールをご利用ください。

グラスウールなどの繊維系断熱材の夏型結露防止のために透湿する壁にした結果、夏の除湿負荷が増えてしまうことは、環境負荷の増加と言えるのかもしれません。
断熱材メーカーや住宅会社が自社の断熱材を美化して他社の断熱材を非難する例は過去から無数にありますが、大半がセールストークであり、少し調べれば間違いであると分かります。
最後に
断熱材は種類によって以下のようにたくさんの団体があります。それぞれが各断熱材の優位性を語り他社製品との比較をしていますが、比較条件が古い・正しくない事例が散見されます。
(出典:断熱建材協議会)
この各団体の理事には官僚や学者、建材メーカー出身者が多く、天下り団体のように見えてしまいます。我々の税金が補助金として利用されていますが、こんなにたくさん団体が必要なのか。
省エネのために国から補助金が出ていますが、本来なら減税をすればいいのに、わざわざ補助金にしている理由は、恒久減税の回避と特定のメーカーや天下り先を儲けさせるためでしょう。
国からの財政支出は景気対策にもなるため補助金自体は否定しませんが、高気密高断熱住宅に特別な資産価値が付くのなら消費者は自分で投資するので国からの補助金は不要なはずです。
環境については人によって論点や考える範囲がかなり違うので非常に難しい話だと思いますし、ある意味わざと他者が不利になるようにミスリードをしてトレンドを作っているとも言えます。
過去においてはダイオキシン問題が騒がれましたが現在はマスコミは騒がなくなっています。高熱の焼却炉が普及したから問題が解決したというよりはそもそもデマだったとも言われています。
環境活動家からプラスチックは目の敵にされていますが、ダイオキシン問題が片付くと今度はマイクロプラスチックだと騒いでいますが、化粧品などはマイクロプラスチックですよね。
日本のごみ問題はそもそも生ごみが多いことが最重要課題であり、生ごみを燃やすためには燃料が必要で生ごみと一緒に燃やすプラスチックごみが燃料代わりになっている面があります。
食の豊かさが日本の文化であり観光資源でもあるため、生ごみを燃焼させるためにプラスチックごみを燃料とするのか、重油をさらに燃やすのか、環境問題は難しい判断が必要です。
さて、現在ヨーロッパではEV(電気自動車)が広まっていますが、10年前ぐらいに欧州が主導したクリーンディーゼル車はどこにいってしまったのでしょうか?
かつて日本の自動車メーカーに対抗するためフォルクスワーゲン社がクリーンディーゼル車を投入しましたが排ガスの不正でとん挫したため欧州は今度はEVだと言っているわけです。
グリーンウォッシュという言葉がありますが、環境に優しそうに見せかけて商品などを販売することを指します。GXを含めてこういうセールストークは住宅業界にも蔓延していると思います。
電気自動車のように一見するとエコそうに見えるけれども電池の原料となるレアメタル等の採掘時の環境破壊が問題となっているなど、どこまでを含めて環境負荷と考えるか難しいところです。
家作りにおいては、JISの規格の改定などを踏まえた情報のブラッシュアップが必要だと思いますが、各住宅会社は断熱材メーカーの説明を鵜呑みにしていると感じます。
また、樹脂サッシをお勧めしておきながら発泡プラスチック断熱材はダメという論理がおかしいと思います。プラスチック系の断熱材を否定する人は木製サッシしか利用できないはずです。
グラスウールは防湿シート、気密テープ等の石油由来の製品を必要としていながら、発泡プラスチック断熱材は環境負荷が高いなどと、あべこべなことを語る人がいます。
内装にビニールクロスの利用を否定する住宅会社が、防湿シートが必須なグラスウールを利用しているなど、見た目の好みと環境問題をわざと混同して語り、素人を騙す商売が横行しています。
そして、発泡プラスチック断熱材を批判する人が化学繊維の洋服を着ていたりウレタンマットで寝ているなど、話に一貫性がないのも環境問題あるあるです。
牛の飼育といった畜産業から排出される温暖化ガスの割合はかなり多いですが、だからといって肉を食べるのを控えますかといわれると、私はそこまではしたくはありません。
なるべく環境にやさしい商品を選択したいと思う人は増えていますが、例えばストロー1つをとってみてもプラスチックが良いのか紙が良いか重視する環境指標によって意見が分かれます。
そして、田舎に超エコな家を建てたとしても田舎のインフラを支えるほうが税金もかかるし環境負荷ともいえるので、人口の少ない田舎に建つエコハウスは本当にエコハウスなのでしょうか。
私は東京一極集中は良くないと考えていますので田舎のエコハウスに賛成な立場ですが、環境問題という切り口で言えば過疎化が進む地域は閉鎖した方が良いという極端な話になりかねません。
と、言ったように人それぞれ、どこで環境を意識するかは違うと思うので、自分のできる範囲で各地域の自然や環境を大切にしていけば良いと思います。
家作りに論拠の怪しい医療や環境の問題を持ち込むと高気密高断熱住宅に対する信ぴょう性がなくなるので、私は高気密高断熱住宅は快適とか過ごしやすいなどの説明で良いと思っています。