はじめに
先日、床暖房にとらわれた家作りはしないほうが良いですよという記事を書きました。
私は初めて家を建てる初心者の方には「床暖房にとらわれるな」と言いますが、家の性能が分かる人に向けては「一条工務店の床暖房は良い」と説明しています。
矛盾しているように見えますが、まず初心者向けには暖房方式を考える前に家の気密断熱を先に考えましょうと伝えています。
そして、玄人向けには完璧な暖房方式はないということを伝えています。断熱材もそうですが、コストを含めて完璧なものがないので、ある意味暖房方式はなんでも良いと思います。
もちろん、ヒートポンプを利用しないオイルヒーターなどの電気式の暖房器具は消費電力が大きすぎるため、省エネな暖房器具であれば何でも良いという意味です。
一条工務店の床暖房やさらぽか空調に対抗するように地場ビルダーでは小屋裏エアコン、床下エアコン、階間エアコンなど色々な場所にエアコンを設置した空調方式を開発しています。
ただし、注文住宅を何軒も建てた私には、一周回って良く考えると一条工務店の床暖房が最強の暖房方式ではないかと思うときがあります。
床暖房の種類
ご承知の通り初めて家を建てる方は床暖房の熱源を理解しないまま一括りに床暖房について判断してしまうため、床暖房の有無で家作りを考えてしまうようです。
床暖房の熱源 | 光熱費 | 一次エネルギー | 住み心地 |
電気式 | ×× | ×× | △ |
ガス式 | × | ○ | ○ |
ヒートポンプ式 | ○ | ○ | ◎ |
電気式は低温やけどの恐れがありますし電気代が高いです。ガス式でも光熱費は高騰します。私のイメージでは電気式やガス式は全館暖房ではなく部分暖房に向いていると思います。
一方、一条工務店の床暖房は低温水によるヒートポンプ方式ですが、低温水式であるがために広い面積を暖房しないと暖かくならないでしょう。
低温水式で家中を暖かくするにはそれなりの気密断熱性能が必要になるため、床暖房の導入を検討する際は家の性能をどの程度にするかによって導入するシステムが変わると思います。
床暖房の長所
床暖房は間取りが自由になるという点が最大の長所でしょう。
私は一条ハウスに住みながらエアコン暖房をしているという変わり者です。床暖房を使わないのはパフォーマンスであって、家作りは床暖房にとらわれないでというメッセージなのです。
ご覧のようにダイキンの6畳用のエアコン1台で家中を暖房しています。床暖房より省エネではありますが、快適性は床暖房には及びません。
また、床上エアコンを設置するには1マス分のスペースが必要であることと、玄関から発生する冷気を殺せる場所にエアコンを設置するために間取り作りが難しくなるという欠点があります。
床下エアコンの場合は一般的には階段の下やテレビ台を造作してその下にエアコンを設置すると思いますが、テレビを低く置きたい場合などは別途エアコンを設置するスペースが必要になります。
そして、床下エアコン最大の問題は床下に温風を通気させるために基礎の立ち上がりを減らす必要があるため、地中梁やコラム基礎などの検討に伴うコストの増加が問題点だと言えます。
エアコンの設置スペースだけを考えても、1マス分必要であるなら坪単価が60万円でエアコンが15万円するとなると、30万円は設置費用がかかることになります。
一条工務店の床暖房は全商品に標準ではないですが、オプションの場合は坪2万円ですから、30坪であれば60万円の設置費用です。
また、一条工務店以外でヒートポンプ式の床暖房を家中に設置すると200万円などといった法外な金額になるようですから、一条工務店以外では床暖房は部分的な設置となるでしょう。
つまり、低温水式の床暖房は一条工務店で家を建てる場合にのみ「有り」な暖房方式であり、一条工務店以外で建てる場合は床暖房は「無し」な暖房方式だと思います。
また、空気を温めるエアコン暖房よりも一条工務店の床暖房の方が住み心地が優れていると私は感じますが、その理由は温度と湿度のムラの違いだと思います。
エアコンの吹き出しは40℃程度あると思いますから相対湿度が低い乾燥した空気が出てきます。どうしてもエアコンから近い場所は乾燥しますし、エアコンから離れた場所は少し寒いです。
エアコンから離れた場所まで暖かいという床下エアコンなら素晴らしいですが、省エネ性を考えるとエアコンをリビングに設置することになると思います。
超高断熱住宅の床下エアコンでは脱衣所付近にエアコンを設置して裸になるエリアを高温にしてリビング側は快適レベルにしているケースがあり床下エアコンにもレベルがあると思います。
さて、床下エアコンの設計の難しさや間取りの自由度、そして床下エアコンのレベルの違いなどを考えると、一条工務店の低温水のヒートポンプ式床暖房は間取りを問わないため高気密高断熱住宅の普及に適した優れたシステムだと思いませんか?
不凍液の交換は10年ごとに5万円と言われていますが、最近の温暖地仕様では不凍液は使わずに水道水に変わっています。
床暖房の温水パイプはつなぎ目無しの架橋ポリエチレン管(宅内の水道管と同じ)であるためメンテフリーですし、室外機の故障修理は施主のレポートによると5万円程度のようです。
そして、最近ではロスガードに水道管直結の無給水加湿機能がついたため冬季の乾燥対策も万全と言えるでしょう。
そもそも全館暖房に必要なこと
日本からヒートショックの死亡者を減らすには全館暖房の普及が必要だとおもいます。
どのような全館暖房方式であっても24時間連続運転が基本です。ただ、家の日当たりが良い場合は日中に無暖房状態になると思います。
床下にエアコンを設置しても家の断熱性能が低い場合には、電気代が怖くて24時間連続運転ができないようであれば、床下にエアコンを入れた意味がなくなってしまいます。
エアコン暖房は吹き出し口の温度が低いことから連続で運転して家を温める必要があります。
高性能な家を作るビルダーさんの悩みの1つに、性能の良い家を作っても入居する施主が暖房をケチって連続運転せずに家が寒いとクレームを言ってくるケースがあるようです。
温暖地であればQ値が1.6W以下で気密性能がある程度良ければ全館暖房をしても電気代は高額にならないと思いますが、電気代の高騰が怖いという人には全館暖房は難しいでしょう。
一条工務店以外で家作りを検討している方は、エアコンを床下に設置することを検討する前に家の断熱性能や壁内の気流が止まっているかよく住宅依頼先に確認した方が良いと思います。
気密測定をしなかったり、天井に袋入りのグラスウールを乗せてるだけのような住宅では、暖かい空気は天井から空に全部抜けていってしまうと思いますよ。
基礎断熱の問題点
床下エアコンを行うには床下を基礎断熱にする必要があります。基礎断熱にはデメリットが2点あり、シロアリに対するリスクと空調空間が広がることによる省エネ性の悪化です。
まず、基礎断熱のシロアリ対策については、断熱材や柱に防蟻処理が必要といった話をプロでもしていますが、その前にシロアリが侵入しにくい家であるべきだと思います。
私は断熱材を型枠とした基礎コンクリートの一体打設には反対の立場で、コンクリートにジャンカがあった場合は目視が不可能であり、そこからシロアリが侵入できてしまうと思います。
次に床下空間まで暖房することについては、省エネ基準程度の断熱性能に窓をアルミ樹脂複合サッシとした場合を標準的な住宅モデルで計算すると以下のような暖房費になります。
みなし床面積(気積) | Q値 | 1月暖房電気代 | |
床断熱+天井断熱 | 120m2(288m3) | 1.96W | 15,120円 |
基礎断熱+天井断熱 | 135m2(323m3) | 2.16W | 17,018円 |
基礎断熱+屋根断熱 | 150m2(359m3) | 2.13W | 17,711円 |
基礎断熱の場合、北海道庁が推進する北方型住宅では天井高さを2.6mとしてQ値を計算することになっていましたが、現在は省エネ基準に合わせて2.4mの天井高さとしています。
上記の電気代については、やはり床断熱+天井断熱が省エネになります。また、一部の高気密高断熱住宅の設計者からは暖房空間を狭くして高い室温の家を作るという発想も出ています。
居室は24℃、浴室は26℃が人間にとって快適であるという設計者もいて、そのためには暖房空間を狭くして省エネを図るべきという意見もあります。
一条ハウスにおいても、床暖房のエリア分けを南北で分けて北側の室温を高くしたり、冷え込む玄関に床暖房の温水が集中するヘッダーボックスを配置するなどの工夫をすると良いと思います。
床下エアコンのメンテナンス性は?
収入がたくさんあるにも関わらず床暖房が必要ないという人の意見は説得力がありますが、収入が多くない人が床暖房は必要ないというと説得力に欠けると思います。
もし、収入がたくさんあって将来のメンテナンス費用も潤沢にあるのなら、多くの人は全館空調システムを導入するのではないでしょうか?
私なら設置費コミで300万円程度するといわれるダイキンのデシカホームエアを入れますね。つまり、冷暖房方式は施主の収入次第で何が正義なのか変わるのだと思います。
ただ、床下エアコンは導入コストとメンテナンス費用が安いと言われますが、私は床下エアコンのメンテナンス費用が安いという意見には賛成しません。
最近話題の床下エアコン、小屋裏エアコン、階間エアコンなどはどんな住宅依頼先でも設置できるものではなくエアコンの機種選定を含めてノウハウが必要です。
経験のある住宅依頼先は「そんな簡単にマネはできません」と言っておきながら、将来のメンテナンス費用は家庭用のエアコン1台だけですと言っていることに違和感があります。
特に床下エアコンなどを得意とする地場ビルダーはカリスマ社長が倒れたら資材の調達を含めて事業が立ち行かなくなっていくと思います。
小屋裏エアコンや床下エアコンを設置した地場ビルダーが倒産したら、エアコンが故障した場合に誰が代わりにメンテナンスしてくれるのでしょうか?床下エアコン協会でも作らないと誰も面倒をみてくれないでしょう。
エアコンの機種によって温度センサーの位置は違いますし、再熱除湿機能の有無など、壁掛け設置以外で家庭用のエアコンを使った特殊な空調方式はノウハウが必要です。
家作りにおいても地場ビルダーの一般的なオープン工法なら誰でも修理できて、ハウスメーカーの型式認定工法はそのハウスメーカーにしか直せないというのはポジショントークだと思います。
最後に
一条工務店の床暖房には以下の優れた点があります。
- シロアリ対策として床断熱が有利
- 将来のメンテナンスが安心
- 新型ロスガードには無給水加湿機能がある
- 床断熱+天井断熱は暖房空間が最小限になるため省エネに有利
- 暖房装置を設置する場所が不要であるため間取りが自由になる
- 高熱の部分がないため温度と湿度のムラがすくない
- それほどメンテナンス費用は高くない
しかしながら、以下のデメリットがあります。
- エアコンと比較すると燃費が劣る
- 床暖房のエリア分けと玄関の冷え込み対策は考慮が必要
- 一条工務店で家を建てないと床暖房は高額になる
- そもそも一条工務店で家を建てるとそれなりの金額になる
つまり、一条工務店で家を建てる予算は無いけれど、冬に暖かい家を希望する方はある程度の高性能な高気密高断熱住宅を建ててエアコン暖房を採用すると良いという話だと思います。
「床暖房が必要かどうか」については家の性能と予算の問題だと言えます。家の性能が低ければ床暖房はやめておいた方が良いですし、家作りの予算が少なければエアコン暖房が良いでしょう。
本日は以上でございます。