はじめに
高性能な家を建てている設計事務所の情報を知ることはとても良いことだと思います。住宅展示場を回っているだけでは家作りの知識は半分しか身につかないと思った方が良いですね。
今回はパッシブハウスジャパンに所属するラクジュの本橋さんと松尾和也さんの対談がYoutubeで放映されていましたのでご紹介したいと思います。ぜひご覧になってください。
一条工務店についても23分付近から触れられています。
対談内容についての私の所感
今回の対談は住宅関係者に配慮して言葉を選んでいたと思いますし、マニアックにならないように内容に配慮されていたと思いますので、私にとっては一般向けで物足りない内容でした。
次回はもっとマニアックな内容でお願いしたいところですが、わかりやすく話していらっしゃる姿勢を見ると、ご両名が人気者である理由がわかりますね。
さて、対談の中で話題となった各項目について注文住宅を四軒建てた(内、C値1.0以下の住宅が三軒)私の意見を述べさせていただきたいと思います。
自然・健康・エコハウスの罠
木や自然素材をふんだんにつかった家はエコであると言った世間の風潮について、それではCO2は減らないという指摘をされていました。その通りですね。
木や漆喰などを使っても冬季に室温が高くなるわけではありません。冬季は18℃以上の室温を保つことで免疫力を高めて風邪などを引かないようにできる住宅が本当の健康住宅であると思います。
確かに杉や桐などの軽くて気泡が大きい木材をフローリングに利用すれば足裏の感覚的には暖かいと感じますが、その前に家自体を高気密高断熱にしないと本末転倒でしょう。
調湿する建材を使うと冬季に乾燥しないなんていう建設会社がいますが、調湿建材が乾いてしまえば室内を加湿できなくなるため、調湿建材に加湿効果はないと思った方が良いでしょう。
冬季は室内が暖かくて加湿しなくても乾燥しないという家は生活廃湿が多いか換気量が少ないかのいずれかしかありません。
断熱の素朴な疑問、終点
グラスウール断熱はコストに優れるものの施工手間がかかることから、気密が取りやすいという意味でコストパフォーマンスが良い現場発泡ウレタンの施工が伸びていると話されていました。
私は新住協が推進するグラスウール断熱による高気密高断熱住宅は大工さんへの教育に時間がかかることから温暖地では普及せず、温暖地は現場発泡ウレタンが主流になると思っています。
また、現場発泡ウレタンについてA種3とA種1Hの区別なく話していたことが残念で、A種1Hで面材に透湿抵抗値の低いものを利用すれば結露計算上問題ないということまでは触れてませんでした。
室内に防湿シートを施工することは手間であるため、A種1Hの現場発泡ウレタンを利用することで、防湿シートの施工を省略する工法が良いと私は思いますが、これを唱える人はまだいません。
私はQ値の終点は0.3Wだと思っています。これは計算するとわかりますが、内部発熱だけで完璧な無暖房住宅になってしまうと、外気温が高い時にはバイパス換気をする必要が発生します。
冬季に外気を大量に取り入れれば室内は過乾燥になりますから、完全な無暖房住宅ではなく、少しだけ暖房を使う状態でなければ温度と湿度がコントロールできなくなるからです。
ただし、全ての家が超高断熱になる必要はないと私は思っていて、C値が1.0以下であれば断熱性能は家の日当たりや予算に応じて検討すれば良いと思っています。
温暖地で日当たりがすごく良い土地の場合、コストパフォーマンスを追求するなら、Q値2.0W程度・C値1.0以下の三種換気の住宅でエアコンでの間欠暖房なんていう家もありだと思いますよ。
そして、結露計算をした上で大切な事は高断熱の前に高気密であり、特に高気密でなければ湿度がコントロールできないため、夏にカビやダニに悩まされる家作りから開放されません。
換気とレンジフードの疑問
一種(熱交換あり)と三種換気については私もまったく同じ意見で、特に温暖地では標準仕様が一種でなければ無理に一種にする必要はないと思います。
ローコスト系の高気密高断熱住宅では三種換気を採用する場合が多いと思いますが、恐らく換気が0.5回/hより少なくて家が暖かい状態になると思いますが、それはそれで良いでしょう。
気密が良い住宅が一種換気を採用した場合、計画通り空気が入ってきてしまうため冬季の暖房費用が高騰するという面がありますから私は冬季の換気量はもう少し下げるべきだと思います。
一条工務店の場合は標準で高性能な一種換気のロスガードが付いてくるため過乾燥を招きますが、今後についてはロスガードに無給水加湿機能がつきますので緩和されるでしょう。
キッチンの換気扇についても無理に高額な給排同時タイプにする必要はなく、レンジフードの近くに差圧式の給気口があれば良いと私は思います。
空調・エアコンの疑問
全館空調というと贅沢品で家中がダクトだらけというイメージがありますが、そうではなくてエアコンだけでも全館空調であるということをおっしゃってました。
私も空調は家の断熱気密性能までを含めて空調だと思っていて、低性能な家+ダクトを使った空調という場合もあれば、高性能な家+壁掛けエアコンのどちらも空調システムだと思います。
高性能な家のリビングにある壁掛けエアコン1台で家中が暖かくなるのと設計時点から分かっているのであれば、それは全館空調システムなのだと私は思っています。
そして、松尾さんは梅雨から夏季はエアコンを24時間運転する方がカビやダニを防げて衛生的な生活が送れると言ってましたが、これが次の世代の高気密高断熱住宅の姿だと思います。
一条工務店にはさらぽか空調という除湿と加湿ができるデシカント換気扇+床冷暖房というオプションがありますが設備費と電気代が気になる人はエアコン1台で家中を除湿することも可能です。
私は夏季に24時間エアコンを稼働させて家中を除湿するという生活を10年前からやっていますが、世間の高気密高断熱住宅ではまだ夏季にはエアコンの間欠運転が常識だと思います。
これは認識を改めて頂きたいところで、夏季に高温多湿な日本では窓を閉めての24時間連続除湿がもっとも日本の気候にあった家作りであると私は思います。
また、冬季は天気の良い太平洋側はエアコンを日中は切った方が省エネになるという話については、エアコンは設定温度になるとサーモオフするため、切らなくても良いと思いました。
設定温度を高くしている床下エアコンなどを採用している場合は別だと思いますが、壁掛けエアコンであれば設定温度に室温が到達すればエアコンは勝手に止まります(サーモオフ)。
また、全館空調システムについては将来の交換費用が高いという事を述べていますが一条工務店の場合は施主の報告を見ると全取り換えする訳ではないため修理費はそれほど高くないようです。
修繕費の違いについては、オプションで全館空調システムを導入している住宅会社と標準仕様で全館空調システムを導入している一条工務店のような企業では異なると思います。
オーバーヒートについて
冬季にオーバーヒートした場合には窓を開ければ良いという意見もあります。そして、一条工務店のロスガードについては新型のうるケアには熱交換をしないバイパス換気が搭載されました。
しかし、夜に暖房を利用するのに昼間に熱を家の外に捨てることには違和感があると思います。ここは非常に悩ましい論点でして、昼間の日射熱の蓄熱は簡単ではないということです。
南側の日当たりの良い窓際にコンクリートの土間のようなものが作れれば蓄熱した熱を夜間に持ち越せますが、そんな家作りは予算面からみて一般的ではないでしょう。
オーバーヒート対策としての蓄熱を考慮した家作りは地価の高い都市部ではあり得ないと私は考えていますから、オーバーヒートした場合は勿体ないですが熱を室外に捨てるしかないでしょう。
また、日本海側のような冬季の日射量が少ない地域と共に都市部の日当たり悪い家についても窓を小さくして熱損失を減らすことが大切だと思います。
なぜ業界が断熱気密に抵抗?
松尾さんは言葉を選ばれていたのだと思いますが、C値の基準や省エネ基準の義務化が撤廃された本当の理由は元東大教授で大権威の坂本雄三先生が関わっているのではないでしょうか。
日本の温熱計算はIBECのSMASHという坂本先生が開発に携わったソフトが元になっていて、EXCELで簡単にQ値計算ができるようになった新住協のQPEXなどはその焼き回しな訳です。
私が無償公開しているQ値計算シートはこの計算方法を踏襲しているため、プロに頼んだQ値計算と誤差がほぼ無いと言われるのですが、それは元が同じなので当然のことなのです。
現在では大半の注文住宅の断熱性能は省エネ基準を超えています。ただし、気密性能については下請けに工事を発注する大手ハウスメーカーや不勉強な地場工務店はクリアできていない状況です。
対談の中で松尾さんは最近は建売でもC値は2.0~2.5は出ているが、C値が1.0以下でないと高気密住宅とは世間では言わないと仰ってました。
私は全棟の気密測定をしていない住宅会社は高気密住宅を名乗ってはいけないと思います。たとえモデルハウスの気密性能が良かったとしても、個々の家とはまったく関係がありません。
さて、坂本先生は省エネ基準の義務化見送りなど国が主導する省エネ政策の推進には抵抗勢力が多すぎると判断して、民間団体であるHEAT20の普及にシフトチェンジしたのだと思います。
諸外国からみれば理解に苦しむ省エネ基準や気密性能の義務化見送りですが、これには住宅業界を操る国土交通省の天下り先を含めた利権が絡んでいるのだと思います。
なお、高気密高断熱住宅が高温多湿な日本の気候に合わないという人がいますが、それは不勉強なだけです。
私の考える高気密高断熱住宅のゴールについて
私は高気密高断熱住宅に対する疑問というか着地点はコストパフォーマンスを含めて既に解明されていると考えているため、あまり高気密高断熱住宅に対する悩みや疑問はありません。
C値については0.7以下であれば強風時の吹込みによる影響がないことが分かっています。Q値についてはお好みで良いですが全館暖房を期待する場合は1.4W以下にしたいところです。
調湿・遮熱・蓄熱などといった言葉は一般受けは良いですが効果は少なく、やはり気密・断熱が効果が大きいと思います。C値は低い程良いですが断熱性能を良くした方が効果的です。
高気密高断熱住宅は冬季は窓から日射熱が入るように建物の位置を含めて計画し、春を過ぎれば窓から日射熱が入らないように屋根の軒などを使って日射制御をする設計がとても重要です。
また、夏季の夏型逆転結露については常態的に起きないことが結露計算から分かるため、とくにタイベックスマートなどの可変調湿シートはあっても良いですが無くても良いと思います。
タイベックシルバーのような遮熱透湿防水シートについては、断熱材が設置されている外壁面に採用してもあまり意味がないため、断熱材がない部分に設置する以外は意味がないでしょう。
屋根のルーフィングは透湿ルーフィングの方が野地板が腐らないと思っていましたが小屋裏の絶対湿度を測ったところ地表より絶対湿度が低いため防水性能がより高いゴムアスも良いと思います。
ちなみに私は二軒目の家でタイベックスマート(当時はザバーンBFと言ってました)と屋根の透湿ルーフィング(タイベックルーフライナー)の両方とも採用しましたが杞憂に過ぎませんでした。
さて、気密については特に誤解が多く、多様な価値観がある家作りにおいても、耐震性などと同様にどの家にも必要な家の基本性能であるという認識がされていない状況です。
現在は一条工務店が躍進している状況をみても、高気密高断熱住宅のニーズが高まっています。かなりの住宅会社でトリプルサッシを採用できる状況にもなってきました。
一条工務店がトリプルサッシ以上の窓を投入しない限りは当面は世間の家作りに大きな変化はないと思いますが、一条工務店が大人しくしているわけがないと思います。
一条工務店の北海道仕様では給気ダクトを地面に埋設した地中熱利用型のロスガードになっていますから、一条工務店は地中熱の利用を温暖地でもやってくるかも知れません。
住宅性能が諸外国に比べて格段に劣っていた日本の住宅ですが一条工務店の先導によって、あと10年後には諸外国が追い付けないレベルまで一部の住宅は到達してしまうと思います。
また、高気密高断熱住宅を得意とする設計事務所はバルコニーはない方が良いと言いますが、これについては私も賛成で実際に私の自宅のi-cubeはバルコニーはありません。
あと、10年したらバルコニーがない洗濯物の完全部屋干し住宅が珍しくない時代がくると思いますが、これも高気密高断熱住宅が普及したことによる家作りの変化です。
みはりん坊Wについて
松尾設計室のブログを拝見したところ、私の愛用するみはりん坊Wを松尾設計室でも施主の入居時のプレゼントとして採用されたようです。これは広めていって欲しいですね。
松尾さんは一条ブロガーのまぼこさんのブログをみてみはりん坊Wの存在に気が付いたようですが、一条工務店の施主の一部の方はみはりん坊Wを使って高気密高断熱住宅の最先端の世界に到達しています。
高気密高断熱住宅は冬に暖かいとか夏はエアコンを使うとすぐに涼しくなるという程度の理解の人は、まだ高気密高断熱住宅という世界の入口にいて奥まで辿り着けていないと思います。
高気密高断熱住宅はスポーツカーだと思います。冬季は直線道路を走るようなものなので誰でも性能を引き出せますが、冬季以外はカーブの連続で運転技術がないと性能を引き出せないでしょう。
そんな高気密高断熱住宅の難しい運転を助けるメーターが絶対湿度が分かるみはりん坊Wであり、これが発売されてから格段に家の内外の湿度の状況を簡単に理解できるようになりました。
そして、夏季には全館冷房用のエアコンの吹き出し口にみはりん坊Wを設置して、絶対湿度が12g/m3以下になっていれば家中が小型エアコン1台で除湿できることが分かっています。
みはりん坊Wは高気密高断熱住宅に住む方にとって必需品だと私は思いますよ。
改めて一条工務店の存在感が分かった
今回の対談においても一条工務店の話題が出ていました。
インターネット上の家作りの情報は一条工務店の話題で溢れています。大手ハウスメーカーは軒並み販売棟数を減らして一条工務店の一人勝ち状態です。
二軒目に設計事務所+地場工務店で高性能な家を建てた私は一条工務店以上の家を作ったと思ってブログを書いていましたが、一条工務店の施主になってからアクセス数が全く変わりました。
ブログ村をみてもランキングの上位は一条工務店の施主が大半で、他の住宅依頼先で建てた一部の施主から嫉妬?や羨望?を受けている状態だと思います。
反対に一条工務店の施主やスウェーデンハウスの施主はあまり他のハウスメーカーに興味がないと思いますが、その理由として独自の世界観に満足しているからでしょう。
国民の健康のために高気密高断熱住宅の普及を願う私は一条工務店の施主になる必要がありましたが、私が書いた電子書籍についても私が一条の施主であるからたくさん読んで頂ける訳です。
個人的な意見としてはC値が1.0以下の高気密高断熱住宅以外は一条工務店とジャンルが違うと思ってますからブログなどのアクセス数の増加を狙って一条工務店に絡まれるのは迷惑ですね。
情報がムダだということではないですが、ハウスメーカーごとなどでカテゴリー分けされているわけですから、上位カテゴリーや共通カテゴリーで情報共有すれば良いと思いますよ。
そして、営業マンとの相性などの問題はあるにせよ、大手ハウスメーカーで建てる際にスウェーデンハウス・一条工務店・セキスイハイム以外で家を建てる理由が私には良く分かりません。
特に軽量鉄骨のプレハブのハウスメーカーは地震に強いと言われますが、地震以前の問題として冬に寒すぎる家であるため免疫力の低下やヒートショックを招く不健康な住宅だと思います。
地震に強いという観点で軽量鉄骨住宅を選ぶくらいなら、耐震性と住み心地の良いコンクリート造の外断熱住宅を選ぶべきで、高価格な軽量鉄骨住宅を建てる意味が私には分かりません。
一生に一軒だけ家を建てるなら建てた家に満足するように自分に言い聞かせて住むしかないと思いますが、私の様に次に家を建てるチャンスがあれば考えが変わると思います。
もう一回家を建てるならどこで建てるかと考えてみれば現在のお住まいに満足しているかどうかわかると思いますが、そうは言っても家は簡単には建て替えできないので悩ましいところです。
大手ハウスメーカー以外の選択肢としては予算が厳しい方はローコスト系の高気密高断熱住宅を建てたり、凝った事がしたい人は設計事務所や地場工務店での家作りが良いと思います。
最後に
高気密高断熱住宅はデザインを軽視していると誤解する人がいますが、そうではありません。家作りはデザインも性能もコストも全部重視すべきであると思います。
私は二軒目の家に設計事務所+地場工務店で高気密高断熱住宅を建てていて、その際には高気密高断熱住宅を得意とする設計事務所や新住協などの発信する知識に非常にお世話になっています。
そのような経緯から私は高気密高断熱住宅を得意とする設計事務所や地場工務店については親近感を持っていて、一条工務店とは兄弟のようなもので対立する存在ではないと思っています。
前にも書きましたが、注文住宅のシェアで言えば大手ハウスメーカーは3割ですから、一条工務店はその3割を取りに行って、設計事務所や地場工務店は残りの7割の中で戦えば良いと思います。
そうすることで日本から気密測定をしない住宅が減っていき、ヒートショックや熱中症、そして熱帯夜やカビやダニによるアレルギーのない健康的な家作りがされると思います。
気密性能の必要性について冬に家が暖かくなるとか暖房代が安くなるといった次元で捉えて欲しくないと思います。気密性能は日本では非常に誤解される概念ですが健康のために必要なのです。
そして、冬と共に夏に家の気密性能は必要であり、高温多湿な日本では夏にカビやダニを発生させないことと、家の耐久性を高めるには夏に除湿をしっかりできる家が重要であると考えています。
今後については、気密測定をしない大手ハウスメーカーや地場工務店の家作りの姿勢の改善と、高気密の本当の意味を理解していない消費者の認識を変えることが重要なのかなと思います。
家作りは多様な価値観があって良いのですが、基本性能として必要な耐震性・耐久性・健康に関わるものについては国が義務化を出来ないのであれば施主のニーズ次第になると思います。
そういった意味で地場ビルダーで高気密高断熱住宅を学んだ私が一条工務店の施主となって情報を発信することが、日本の家作りの改善に何か影響を与えられたら良いなと思っています。
本日は以上でございます。