床下エアコンは省エネ装置ではなく快適装置

考察

はじめに

一条工務店の全館床暖房はCOPが4.2しかないから、COPが6を超える壁掛けエアコンの高性能機種を利用した床下エアコンの方が省エネ性が高いと考える人がいますがそれは違うと思います。

なぜなら、一般的な基礎内断熱(立ち上がりと折り返しを断熱)では、床下が暖房空間として広くなりますし、基礎の鉄筋コンクリートが放熱板となって地面から室内の熱を逃がすからです。

簡単に言うと、基礎内断熱を採用すると基礎コンクリート底盤の鉄筋コンクリートが熱橋となって無断熱な基礎の立ち上がりまで熱を運び出して家の中の熱を放熱してしまうという現象です。

ただ、温熱の計算できるプロの方は床下エアコンを省エネな暖房装置とは言っていないと思いますが、多くの消費者は床下エアコンは省エネ装置だと誤解していると思います。

驚き!スラブ中央部から逃げる熱を熱流計で実測。その5 補足   床下暖房は省エネでは無い!
今年の最初の連載・・・「驚き!スラブ中央部から逃げる熱を熱流計で実測」は4のまとめで終わりました。ただわかり難いとのことでポンチ図でわかりやすさを心がけて補足とします。

床下エアコンは省エネ装置ではないけれど、エアコンという機器代が安くて高効率なヒートポンプを使った設備によって非効率な部分をカバーしている快適装置だと認識すべきものでしょう。

床面の断熱方法をイメージすると以下の様になると思いますが、一般的な基礎内断熱で床下エアコンを行うことは、そこだけを見ると省エネとは言えないと思います。

種類 蓄熱性 シロアリ対策 コスト 気密施工性
基礎外断熱
基礎内スラブ下断熱
基礎内折り返しのみ【一般的】
床断熱

最近では基礎断熱の防蟻断熱材などのコスト面や地面から逃げる熱の大きさを回避するために超高断熱住宅では基礎断熱から床断熱にシフトしているケースが増えてきていると思います。

床断熱にするか基礎内断熱(+床下エアコン)にするかは三種換気と一種熱交換換気のどちらを採用するかという問題と似ていると私は思っていて、どちらでも良いと思います。

温暖地の方は一種熱交換換気扇は冷暖房期間以外の時期のモーターの消費電力の大きさから、省エネ装置とは言えない快適装置であることはご存じだと思います。

では、なぜ一種熱交換換気を採用する人がいるかと言えば、三種換気ではダイレクトに給気口から入ってくる冬季の冷たい空気や夏季の高湿度を一種換気の熱交換によって緩和するためでしょう。

同様に床下エアコンは省エネ装置とは言い難いけれど、床が温かいということは格別なので快適装置として認識すれば良いのではないかと思います。

床下の地熱について

地下5メートル程度の地中の温度はその土地の平均気温程度だといわれています。温暖地では15℃前後ではないでしょうか。

床下エアコンについてはこの地熱を活用していると考えている人がいますが、まったく逆で事実は床下から住宅の熱を奪われ続けているため、ここが誤解の始まりだと言えます。

これは簡単な理屈で、一般的な基礎内断熱では基礎外周部以外は無断熱ですから、冬季の室温が22℃で地面が15℃とすれば、7℃の温度差の熱が常に地面に吸収されている状態です。

床下を暖房し続けていれば基礎の中央部から地面への熱損失はほぼ起こらなくなるようですが、問題は基礎底盤から基礎の立ち上がりへ熱が移動してしまう現象でしょう。

床下の地熱は冬の換気と夏の冷房に利用すれば意味があると思いますが、冬の暖房にとっては地熱は基礎外断熱にしない限りは、かえって暖房負荷が増えてしまうでしょう。

もし本当に地熱を利用するならヒートパイプを地面に埋めてそこから地中熱を得るか、穴を掘ってエアコンの室外機を地中に設置してしまったほうがいいのではないかと思います。

床下エアコン

床下エアコンは2002年に竣工した北九州市の省エネ等級3(UA値1.54W以下)の住宅で実施されていたという調査記録があります。どの時代でも人間の考えることは同じなんでしょうね。

(出典:北九州市立大学国際環境工学研究科

基礎断熱は最新の工法で北海道からようやく本州の温暖地に伝播してきたといった説明は半分間違いで、少数ではあると思いますが基礎断熱は1990年代から温暖地でも採用されています。

これだけ温暖地でも長い歴史がある基礎断熱ですが、ドイツのパッシブハウスの熱計算等により基礎内断熱は熱損失の大きさが明らかになってきているため、省エネ面の課題を抱えています。

省エネ基準においても今年から基礎コンクリートからの熱損失計算方法の見直しが図られ従来の基礎立ち上がりの400mmまでの部分と底盤の一体評価は分離され厳格化となるようです。

すべての住宅会社ではないと思いますが、床下エアコンを採用するにはUA値0.5W以下で吹き抜けが必要だと言われていますから、吹き抜け設置もコストとして考える必要があると思います。

床の表面温度を計算してみた

床暖房は床の温度が30℃を超えるから無垢床が利用できないといわれますが、これはガスや電気式の床暖房の話で、一条などの採用する低温水式の床暖房は床温度は20℃~25℃程度です。

また、床の仕上げ材に熱伝導率の低い無垢材を利用すれば足裏の体感温度が上がると言われますが、これは何と比較しているかわからないので計算に基づいた科学的な根拠が欲しいものです。

室温22℃で私の足の裏の表面温度を測ったところ23~24℃程度でした。だから、床が20℃程度だと少しひんやり感じるのですね。

では、室温22℃で床下エアコン(床下30℃)と床断熱(床下15℃)を比較すると、床の表面温度はどうなるのか計算してみました(私の提供してる結露計算シートで表面温度は計算可能です)。

床仕上げ 熱伝導率 床下エアコン
(床下30℃)
床断熱(床下15℃)
床断熱なし HGW16K 100mm HGW16K 200mm
カーペット 0.080 24.1℃ 21.7℃ 21.8℃
0.110 24.3℃ 21.7℃ 21.8℃
0.087 24.2℃ 21.7℃ 21.8℃
ブナ 0.140 24.5℃ 21.7℃ 21.8℃
合板 0.160 24.6℃ 21.7℃ 21.8℃

床下エアコンは合板12ミリの上に床材15ミリを設置、床断熱は高性能グラスウール16K(0.038)100ミリと200ミリの上に合板12ミリと床材15ミリを設置した想定です。

計算する前から分かってましたが、床材が15ミリ程度では表面温度の違いが起きるとは熱伝導率からは説明できません。多孔質の物はみかけの熱伝導率と実質は違うということなのでしょうか。

また、そもそもJISでは23℃の状態で熱伝導率が0.065W以上のものは断熱材とは言わないということと、床材が15ミリ程度では断熱性能に違いはないといってよいでしょう。

よくある説明は熱伝導率の違いを持ち出して、鉄と木は触ったときに体感温度が違うという話を転用して、無垢材と合板は体感温度が違うというものですが、全然説明になっていないですね。

こちらのサイトで計算しても、15ミリ程度の床仕上げ材の違いによる表面温度の違いはほぼありませんでした。無垢床だと暖かく感じるというのは本当かもしれませんしオカルトかもしれません。

もちろん、多孔質なものは接触冷温感が違うので家の中を歩く時は、針葉樹の無垢の床材などは暖かく感じると思いますが、長時間同じ場所にいれば足の裏に熱伝導します。

床の表面温度が同じ場合でも素足と床材の間の熱伝導率が違うというのであれば、床材の厚みに関係なく熱伝導率の低い材料を薄く床に張れば体感温度が上がるということになってしまいます。

無垢材と合板フローリングの比較が材料の温度と厚みを無視した体感温度の想像という話であるのなら思い込みの可能性があるため科学的な話では無いことから何とも言えないところです。

床下エアコンの採用した場合、床の表面温度が高いということは事実だと思いますが、基礎の断熱性能が弱すぎるのであれば床の表面温度は期待した程にはならないかも知れません。

この計算を見ると基礎断熱+床下エアコンの方が良さそうに見えますが、床断熱では室温を高くしても基礎断熱より省エネ性で上回るため同じエネルギーで室温をもっと上げることが出来ます。

夏については、無垢床推しの住宅会社が比較している家とは湿度コントロールが不十分な合板フローリングの家だと思いますから、比較している条件を示して欲しいと思っています。

夏においては合板フローリングでも湿度が60%以下になっていれば床はサラサラしています。特に湿度が50%程度になった時のサラサラ感は60%程度とは格段に違います。

入居初年度から梅雨を含めて相対湿度を60%以下にコントロールできる家であれば、床材は予算やお好みの応じて何でも良いと私は思っています。

温熱的に無垢床が優れているという事が思い込みではなく、私が知らない計算方法があるのであれば知りたいです。私は国産材の活用を願っているためオカルトではない事実が知りたいのです。

このように改良しては?

床下エアコンは汎用品のエアコンを使ったコストの安い庶民に手が届く全館暖房方式ということでしょうから、この思想には非常に共感を覚えます。

ただ、床下エアコンは吹き抜けやダクト空間が必要であったり、基礎断熱のコスト増加、シロアリリスクと熱損失の面からは不利となるため、床断熱と基礎断熱の優れた面を統合したいですね。

気密施工を簡単にするために基礎で気密をとって床で断熱した上で、一階の剛床の上に根太と合板を設置して通気層を設け、そこに壁掛けエアコンの温風をファンで流し込むのはどうでしょうか。

「床間エアコン」とも言えるシステムですが、床の付加断熱など床を底上げする工法はありますし、床を10センチ程度底上げして専用エアコンから暖気を床下に流す空調方法は存在します。

(出典:三菱重工冷熱 ユリカラ

例えば、エアコンの近くの暖気が当たる内壁の上部にシロッコファンやブースターファンを仕込んでダクト壁として、天井方向から暖気を吸い込んで床下に暖気を流す方法が考えられます。

この方式はダクトレスですし、ファンを回さなければただのリビングエアコンですから床下エアコンのようにエアコンのメーカー保証の問題がどうしたということも関係なくなるでしょう。

さらに、この方式を二階の床に採用すれば階段ホールエアコンから各部屋への全館冷房の経路として利用できますし、階間エアコンと違い構造内の結露リスクがないと思います。

コスト面ではファンの設置・根太と合板および床の気密処理ということになると思いますが、天井高さが少し低くなっても良いなら大したコストではないと思われます。

私は何軒か家を建て電気工事士を取得してDIYで空調を試行錯誤していく中で、冷房も暖房もエアコンを小屋裏や床下に密閉しないで広い空間に設置する開放型のほうが楽だと感じています。

最後に

基礎断熱の家や床暖房のある一条工務店の家に住んできた施主として、床暖房と床下エアコンは、リビングに設置したエアコンでの全館暖房には省エネ性で劣ると考えています。

私は一条ハウスで床暖房を利用しておりませんが、エアコン暖房でも結構快適です。ただ、低温水式の床暖房は間取りを選ばないためコストを度外視すれば最良の方式だと理解しています。

パッシブ設計をした上でUA値をG2以上にしてC値を1.0以下の家を建てても、それはまだ快適生活への道の途中であって、入居してからコールドドラフトや湿度管理との闘いが待っています。

そして、全館床暖房については一条工務店以外で実施すると200万円コースとも言われていますから、一条工務店以外では採用はされないでしょう。そうなると床下エアコンが注目されます。

床下エアコンは快適装置としては優秀だと思いますが、省エネ性を補うために断熱性能を上げてパッシブ設計を採用した日射熱の利用や太陽光発電をすれば良いのではないかと思っています。

ただ、超高断熱なパッシブハウス級の性能を求めると、基礎断熱から床断熱にしたほうが暖房空間が小さくなり、熱損失と建設コストが下がるため、今後はこの価値観の違いがぶつかるでしょう。

現状では「床暖房がいらない家」として床下エアコンをアピールする住宅会社があると思いますが、逆に「床暖房も床下エアコンもいらない家」とアピールしてくる住宅会社が出るでしょう。

さて、今後は床下エアコンを推奨する住宅会社は床断熱とUA値競争には参加しないでしょうけれども、UA値0.5W前後では基礎から逃げる熱損失が大きいため高断熱化を推奨してくるでしょう。

一方でG3を推奨している住宅会社は基礎断熱より床断熱にシフトしていくのではないかと思います。そうなるとリビングエアコンなどの方式を改良してくるのでしょうね。

皆さんは断熱を追求して小さなエアコンで家中の温度を均一にしていく家と、断熱はある程度にしておいて床下エアコンなどの空調を活用した家作りのどちらがお好みでしょうか?

これは冬季の日射があまり望めない日本海側など住んでいる地域や自分のライフスタイルや美意識によって考え方が変わると思います。

どちらがコスパが良いか言われると土地が広ければ床断熱でグラスウールで分厚く断熱してしまった方が基礎断熱と床下エアコンにお金をかけるより良い気がします(と言うプロの方がいます)。

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このあたりは新住協とパッシブハウスジャパンでも考え方が違うでしょうから、情報発信をする住宅会社が所属する団体を見れば視点の違いや色々な流儀が分かって面白いと思います。

ということで本日は床下エアコンについての考察でしたが、コストに応じて快適性と省エネ性のどちらを取るのか、住宅依頼先が得意な方法を含めて検討してみてはと思います。

また、床暖房も床下エアコンも快適装備に過ぎませんから、暖房方式で住宅依頼先を選択するようなものではないと思います。

【目を覚ませ】床暖房神話はやめよう
はじめに 本日はあえて全館床暖房を愛している一条施主の反発を食らう記事を書きます。 一条工務店を評して超高断熱であるにも関わらず差別化のために床暖房という過剰装備を搭載していると説明する地場工務店がありますが、これはむしろ一条工務店...

でも、快適なんですよね。。

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