全館冷房を支えるアイテムたち
全館冷房は低コストで家中を除湿することが可能です。エアコンによる除湿、窓の日射制御、エアコンから各部屋への空気の移動(館内通気)、そして絶対湿度の測定の4点を検討してください。
エアコン
梅雨の室温低下に備えて全館冷房のメインとなるエアコンは再熱除湿機能が付いた機種を選択してください(床暖房についてくるRAYエアコンは2018年の新型から再熱除湿機能が無くなりました)。ずっと窓を閉めてエアコンを運転していれば室内は汚れにくいためエアコンにはお掃除機能等の付加機能はなくて結構です。
一条工務店に依頼する場合は三菱のJXVシリーズという再熱除湿機能付きのエアコンが用意されていますので、そちらを採用してください。日立の再熱エアコンをご希望の方は一条工務店に見積依頼すれば設置できます。
再熱除湿とは除湿して冷えた空気を再度温める除湿方式ですが、現在では採用するエアコンメーカーが減り、弱冷房方式を改良した疑似再熱とも言えるドライ機能を搭載したエアコンが多いですが、このタイプは超断熱の一条ハウスにおいて梅雨時期の室温低下を招きます。
室温が下がるならエアコンの設定温度を上げたり、エアコンを切れば良いではないかと考える方もいると思いますが、エアコンを24時間しっかり稼働させないと室内を低湿度に維持できないのです。
再熱除湿はしっかりと除湿した空気を温めて送り出す機能ですが、疑似再熱は空気の温度が下がらないように除湿をしっかりおこなわない方式であるため、電気代は安いですが除湿量が少ない方式です。
以下は窓の日除けをした上での必要なエアコンの能力になりますが、高性能な家は小さなエアコン1台で全館冷房することが可能ですが、夜間まで猛暑日になるような異常気象に備えて一階と二階に各1台(合計2台)のエアコンを設置しましょう。
上記表の水色の部分は冷房用エアコンの畳数、ピンクの部分は暖房用エアコンの畳数です。冷房用エアコンは二階建ての場合、二階の階段ホールや吹き抜けへ、暖房用のエアコンは一階リビング等へ設置してください。
二階建てについては一階のエアコンを夏に補助冷房として運転する場合、二階のサブエアコンは削減可です。平屋の場合は冷暖房のいずれか大きい容量をリビングに1台設置してください。
このエアコン容量は最高最低気温および最大の湿度で負荷計算されているため、安全率が加味されている状態ですから、念のためワンサイズ大きくしなくて良いと思います。
無理して1台のエアコンで全館冷房するのは非効率ではないかと思う方がいますが、実際にエアコンの消費電力を測ってみると常識とは異なり、上記のエアコンサイズでも定格の消費電力の半分も行かない状態なのです。
エアコンの畳数表示はQ値が10W程度の無断熱住宅が基準になっているため、一条ハウスの実際に建築される家のQ値は1.0W前後ですから、6畳用のエアコンは一条ハウスならは60畳まで対応可能だということです。
よって、大きなエアコンは不要です。大型のエアコンは機器代が高く、COPも小型エアコンに劣るため消費電力が増えます。全館冷房には再熱の付いた小型エアコンを利用してください。
また、大型のエアコン1台で全館冷暖房を行おうとすると、室温調整の運用が難しくなるため、エアコンは複数台に分かれている方が住み心地が良くなるでしょう。
エアコンは定格能力(100%)の60~80%程度の運転が良い燃費になり、負荷を掛けないとエアコンの熱交換器が冷えないため除湿が進まない結果になります。
つまり、除湿を重視したい夏は1台のエアコンに負荷をかけて熱交換器をキンキンに冷やして結露する量を増やします。すると、室温は大きく下がらずに湿度だけが下がっていく状態になります。
逆に暖房時のエアコンの運転方法は熱交換器をあまり温めない方が電気代が減るため、複数台のエアコンを運転して熱交換器の温度を低くすることで電気代を減らします。
夏と冬でエアコンの効率の意味は変わりますが、世間では室温を安い電気代で調整できることを効率的と言っていますが、私は夏は除湿を重視して、冬は温度を重視してエアコンを運転することが本当の効率的なのだと思います。
さて、6畳用のエアコンで100m2まで冷房できるなんていうとビックリすると思いますし、設計士さんによっては、そんなの無理ですと言われる場合もあるでしょう。しかし、実際に私は二軒目の家においては8畳用のエアコン1台で112m2の家を全館冷房していました。
そして、私は一条ハウスの冬季においても省エネや住み心地向上のために、床暖房とエアコンの併用を提唱しています。エアコンは冬季の補助暖房としても1台は一階にあると便利ですから、夏季に夜間まで猛暑日になるような異常気象に備える意味もあって、一階にもエアコンの設置を薦めています。
なお、一階のエアコン設置場所は人にエアコンの風が当たらないようにすることは当然ですが、冬季に補助暖房として利用することも想定して、冷え込む玄関等から発生するコールドドラフトにエアコンの温風がぶつけられる場所がお勧めです。
窓の日除け
一条ハウスは窓の日除けの設定が少ない事から窓から侵入する日射熱により室温が上昇しやすいです。日除けのない大きな窓がある家は春先からオーバーヒートして熱帯夜になってしまいますから、窓の日除けに十分注意しないとエアコンの稼働期間と消費電力が増えてしまいます。
日射の角度は季節によって変わります。6月の夏至が日射角度が最も高いですが、実はその時は南側よりも東西からの日射量の方が多いのです。気温が上がる午後の西日の強烈さは有名ですが、朝方も室内が暖かい高気密高断熱住宅では朝日対策も重要になってきます。
以下は夏至の方位係数です。屋根が受ける日射を100%とすると、東京などのⅣ地域では東西が45%、南側は39%と東西の方が多いです。また、北側についても24%と日射が回り込んでくることがわかりますから、景色を楽しむ以外には北側に大きな窓を設置するメリットはないでしょう。
高気密高断熱住宅は魔法瓶住宅と言われるように、保温された家の中では外気温の変化にはすぐに室温は影響されませんが、窓から入る日射熱と換気から入る湿度にはすぐに影響され不快な室内環境になります。この対策が窓の日除け+全館冷房なのです。
日中に窓から入った日射熱は上昇して天井や二階に蓄熱されて就寝時に寝苦しくなります。よって、窓の日よけとともに日中もエアコンを運転して建物に熱が蓄熱しないようにすれば夜は寝やすくなります。
不在時にエアコンを運転するなんてムダじゃないかと考える方が多いと思いますが、超断熱の家では帰宅してから高熱になった自宅を急速冷房しても、24時間エアコンを弱く運転しても余り電気代が変らないのです。
夏の都市部では窓をあけても、外気の湿度が高く熱帯夜を回避できないため、窓を閉めてエアコンを利用されると思いますが、24時間全館冷房をしていないとエアコンを切るとすぐに部屋が暑くなる場合は、日中に建物に熱が蓄えられてしまっているからです。
窓の日除けは室外側で実施すると効果的です。現在は窓の外側にシェードを設置するためのアイプレートがオプション設定されています。
ハニカムシェードで日射熱をカットしようと考える方が多いですが、ハニカムシェードは室内側に設置されるため、室内への直射日光は防げてもジワジワ室温を上昇させます。
遮熱ハニカムは通常のハニカムシェードよりは日射遮蔽効果はありますが、室内が暗くなり外の景色が見れないため、その窓自体がそもそも必要なのか、そんなに大きな窓にする必要があったのかという矛盾を感じます。
南側以外は日射が斜めに入ってくるため窓の外側での日射制御が難しいです。日射制御を簡単に行うには、まず全方向の窓を大きくせずに南側だけ窓を大きくして、それ以外の方角の窓は少なく小さくすることです。
そして採光用の窓であれば小さくても高い位置に設置する(ハイサイドライト)と室内は明るくなります。また、二階の窓は床から+782mmの低さでは小さな子供が誤って転落しかねません。
繰り返しになりますが、冬に日射が入る日当たりの良い南側の窓であれば窓を大きくし、それ以外の窓は少なく小さく高くすることが、超断熱の一条ハウスでの窓設計のセオリーとなるでしょう。
小さな窓には日除けは付けなくても大丈夫ですが、大きな窓にはスダレ(シェード)が有効です。ただ、スダレを設置するのが面倒という方や外が見えなくなるという方は南側に関しては屋根の軒や庇を張り出すと良いでしょう。以下はその解説となります。
(出典:一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)
窓からの日射侵入率はLow-Eガラスの場合は、窓の外に日除けを設置した場合で10%程度、窓の内側に設置した場合は30%程度の日射が侵入します。ハニカムシェードは室内側の設置になるため、大きな窓の場合は外側での日除けが好ましいです。
軒や庇はその設置位置から窓の下までの長さの3分の1の出幅が丁度良いとされ、太陽の日射角度の変化により冬は窓から日射が入り、夏は日射を遮る優れものです。目の前を遮らないため景色を期待する窓には向いていると思います。
庇は太陽角度によって日射を入れたり遮ったりする優れものですが、南側では50%日射制御ができますが、東西では70%の日射侵入を許してしまいます。朝日や西日対策には窓を少なく小さくするか、庇よりスダレ(シェード)をお勧めします。
屋根の軒は標準の範囲で伸ばせるだけ伸ばしましょう。この画像は2月下旬の模様です。屋根の軒があると季節ごとの日射角度に応じて、冬は窓から日射を入れて、春から日射が入らないようになります。
これは一条工務店のアーバンルーフという庇です。これは50cm出幅ですが90cm出幅に関しても同じ金額でした。画像はゴールデンウイークの状況ですが、窓にしっかりと日影ができて日射をカットしていることがお分かりいただけると思います。
アーバンルーフは総二階部分にしか設置できない事と高額であることから、一階の窓にはシェードセイル金具(アイプレート、パッドアイ等)を設置している方が多いです。ただ、一階でもシェードが固定できない場所や足場のない二階の窓にはシェードの設置が困難である事からその場合はグリーンバーや布団干しバーの設置が良いと思います。
(出典:YKKAP グリーンバー)
(出典:サンワカンパニー ホセ)
窓の外にゴーヤなどを植えてグリーンカーテンにしようとされる方がいると思いますが、高気密高断熱住宅は日射量の増える4月からオーバーヒートする可能性があるため、春の日射遮蔽としては植物の成長時期から間に合わないでしょう。
館内通気(エアパスファン)
全館を除湿することだけが目的であればエアパスファンの設置は必須ではありません。各部屋のドアを常時少しだけ開けておくか、不在時にドアをしっかり開けておけば除湿がされてダニの発生は抑制できるからです。
ただ、プライバシーの観点から各部屋のドアを閉めておきたいという場合や、各部屋にはエアコンは付けないという場合は、廊下側の除湿された涼しい空気を各部屋の中に取り込む必要がありますから、エアパスファンのような商品を取り付ける必要があります。
エアパスファンは各家の設計条件や間取りによって付けられない場合があります。また、計画換気の空気の流れと逆行することを憂慮する設計士さんもいると思います。
換気は新鮮な外気を直接居室に給気することが最上であるということは同意します。さらぽか空調などは新鮮な外気を除湿したうえで各部屋にダクト経由で供給しています。
一方、エアコン1台全館冷房は設備費用はエアコンだけという簡易的な全館冷房システムですから、計画換気の流れと逆行してしまうのは致し方ありません。
しかし、家庭内でペットなどを飼っている場合を除いて、普通に生活しているリビング等の空気は汚れているから、各部屋にその汚れた空気を流入させないというのは少し神経過敏ではないかと思います。
エアパスファンの設置方法については以下をご覧ください。
https://iiie296.com/?p=7046
単純に全館冷房をするには、各部屋の戸を開けないと各部屋に冷気が行き渡りません。各部屋での冷気の取り込みを容易に行うために引き戸を推奨しますが、引戸を採用すると開口部が広くなって耐力壁が取り難くなってしまいます。
誤解が多いのが、引戸は隙間が大きくて音漏れすると考える方がいますが、ドアについても排気のためのアンダーカットが設置されているため、音漏れという意味ではどちらでも大差はありません。
引戸の採用が難しく、ドアしかない場合やプライバシーの観点から部屋の戸を閉めたい場合はエアコンのある空間に面した部屋の壁にエアパスファン(Panasonicではツールームファン)の設置が必要になってきます。ただし、エアパスファンの運転音はトイレの換気扇程度は発生することにご注意ください。
館内通気に当たっては該当の部屋の計画換気量の5倍を目安に風量を検討してください。音が大きくなるため設置場所に注意が必要ですが風量は120m3/h以上を推奨します。取付にあたり壁をふかしたり天井下がりになる可能性があり、取付自体を設計士さんにダメだと言われるケースがあります。
当然ですが、ドアの上にエアパスファンを設置する際は構造用の垂れ壁である、S垂れ壁がある部分やユニットの収納などに面している壁にはエアパスファンは設置できません。
ドア上以外を含め構造に影響がない範囲の壁にエアパスファンを設置し、階段ホールや廊下側からエアコンの冷気を室内に取り入れる事で、少ないエアコンの台数で全館冷房が実現できれば、エアコンを各部屋に設置するより安上がりです。
ただし、エアパスファンが設置できないとしても、全館冷房用の小型エアコンは付けた方が良いです。完璧な状態でなくても、必ず24時間運転できる場所に全館冷房用のエアコンを1台設置してください。
各部屋の不在時にドアを開けておくだけでダニの発生は抑えることができますから、各部屋の室温調整までが完璧にできない場合であっても、除湿という観点から全館冷房をする意味はあります。
また、超断熱の一条ハウスは各居室にエアコンを設置して扉を閉めて除湿をしっかり行おうとすれば部屋の中が冷えすぎて堪えられません。エアコンは人から離れた場所に設置しないと冷房病になります。
みはりん坊W
全館冷房にチャレンジするぞ!という方はこちらのみはりん坊Wを3個買ってください。ぜひ、設計や入居前から現在のお住まいにてみはりん坊Wの使い方を学ぶと家作りの役立つと思います。
何千万円も掛ける家作りにおいて数千円の機器購入の出費をためらっていては良い家は作れません。
みはりん坊Wをエアコンの吹き出し口、リビング、そして家の外(直射日光の当たらない場所)に設置して、みはりん坊Wに表示される絶対湿度を確認していくと全館冷房が簡単に理解できると思います。
全館冷房が成功しているかを確認する方法はリビングなどの居室の相対湿度が常時60%以下になっていれば大丈夫です。ダニの増殖には2週間程度の時間が必要であることから、数日程度60%を超過するのは構いません。
一条施主においても、全館冷房していますという方を見かけますが、エアコンの設定温度が27℃などではエアコンの熱交換器が冷えず、家中を除湿できるとは思えないため湿度計が正確ではないと想定されます。
一条工務店から入居時に無償で頂ける温湿度計は個体差にもよりますが、おおむね湿度が10%程度低くでるようですから、みはりん坊Wの購入をお勧めしております。
さて、エアコンがしっかり除湿をしているかを確認する手段として、エアコンの吹き出し口に絶対湿度を測れる温湿度計を設置する方法とエアコンに消費電力を測るワットチェッカーを設置する方法があります。
ワットチェッカーについてはエアコンの機種によってはコンセントプラグの形状を変換しなければならず、初心者には難しいことから、最も簡単な方法はエアコン吹き出し口の絶対湿度を測る方法です。
皆さんが普段目にしているパーセントで表示される湿度は相対湿度といって、室温によって大きく変動してしまうことから、単純に空気中にある水蒸気の量(=絶対湿度)を測るとエアコンの動作が良くわかります。
みはりん坊Wに表示される絶対湿度は容積絶対湿度といって、g/m3(グラム・リッポーメートル)という単位であり、これは1立方メートル(縦1m×横1m×高さ1m)の空気の中に何グラムの水蒸気が含まれるかという意味です。
夏季に室温28℃で相対湿度55%の室内の絶対湿度は15グラムであり、夏の外気の絶対湿度は20グラムを超え、さらに室内では人間や生活から発生する湿度がありますから、エアコンは1日に20リットル近く除湿する必要があります。
全館冷房では吹き出し口から出てくる空気の絶対湿度が12~13g/m3以下を維持できれば、リビングに設置した湿度計の相対湿度が60%以下になるでしょう。
みはりん坊Wをエアコンの吹き出し口に設置することが全館冷房への近道です。可能であれば屋外、リビング、エアコンの吹き出し口と3個のみはりん坊Wの設置をご検討ください。
設計に入る前からみはりん坊Wを購入して現自宅のエアコンに設置して全館冷房の練習をしてみるなど、事前に使い方を理解しておいた方が設計時に全館冷房のイメージが湧きやすいと思います。