エアコン1台全館冷房(除湿)

エアコンのドライ運転は3種類あるので要注意

ドライという言葉はエアコンの機種によって指している意味が異なります。冷房除湿は消費電力が少ないですが、室温が下がります。再熱除湿方式は冷房した空気を温め直すため室温はあまり下がりませんが消費電力が大きくなります。

そのため、最近多いのはダイキンなどのマイコンドライと言われる疑似再熱を搭載したエアコンがありますが、これは冷房運転の派生です。難しい電子制御で消費電力を抑えようとするため全館冷房では非常に扱うのが難しいです。

そして、廉価機種のドライは弱冷房のことであり消費電力が少なく室温は下がります。再熱機能や難しい電子制御の付いていない廉価機種を使っての全館冷房も想定されますが、自信がない方は避けたほうが良いでしょう。

ただし、電気代の高い再熱除湿を常時使わずに、冷房運転でも再熱除湿のような快適さを得られるエアコンの設置が前述の梅プランです。盛夏における風量を絞ったエアコンの冷房運転は弱冷房除湿の原理と同じです。

除湿量/消費電力 室温 サーモオフ
弱冷房 中/小 低下する する
疑似再熱(マイコンドライ) 中/中 多少低下する する
再熱除湿(室温がさがらない方式) 大/大 低下しにくい しにくい

再熱除湿機能を搭載しているエアコンのカタログを見ると「日本冷凍空調工業会による室温がさがらない再熱方式」という記載があります。

一条工務店の床暖房に付属しているRAYエアコンは2018年の新型から再熱除湿機能がなくなりました。現状では日立、三菱、富士通ゼネラル、コロナの一部のエアコンに再熱機能除湿機能があります。

一条工務店のオプションとして設定品としてはダイキンと三菱が用意されていますが、私が設計をしていた時期では再熱除湿付きのエアコンは設定がなく見積での対応でした。今後においても再熱除湿が搭載されているエアコンであるかは入念に確認して選択してください。

また、私はダイキンのプレミアム冷房を使ってみましたが、室温が下がるとデシクル制御という機能が働いて中途半端な除湿量を維持します。風量を最弱にして設定温度を下げても消費電力が全然上がらず、エアコン1台で全館冷房をするに必要な大きな除湿量を確保する運転が非常に難しいです。

どのエアコンを使うかは好みがありますが、最近流行りの省エネモデルは気流制御を盛んに謡っている理由は、湿度より温度を下げるほうにエネルギーを振り向けているというタイプのエアコンです。

全館冷房をせずに、狭い部屋の中でドアを閉めてエアコンを運転する場合は室温のさがらない再熱除湿がないと室温が下がりサーモオフが起きてしまい、低温高湿度な空間になってしまいます。この場合は窓を開けて温度調整するしか手段がないため網戸が必要になってきます。

最近は各社の疑似再熱除湿方式は消費電力が少なくなっているようですが、やはり梅雨の時期はサーモオフが起きやすいため二階のエアコンには再熱除湿が付いていると安心です。

最近のエアコンが除湿が苦手な理由

2011年の東日本大震災以降、原発の停止に伴い、エアコンには省エネ性能の追求が求められました。その結果、エアコンのエネルギーを除湿ではなく温度を下げる方向に多く振り向けているエアコンが増えています。

家庭用の壁掛けエアコンは室内機の内部にある熱交換器(アルミフィン)の温度を下げて、空気中の水蒸気を結露させることで除湿と温度の低下を実現します。

しかし、最近のエアコンは少ない消費電力で室温を適温にすることに力点を置いていて、アルミフィンの温度をあまり下げずに、風を大量に通過せさて、室温を下げようとする仕様が多いため、除湿量が減ってしまっています。

これはエアコンの性能を表す、APF(通年エネルギー消費効率)の計算に湿度がないことから温度だけを重視したセッティングのエアコンが増えているためです。

世間で言うところのエアコンの効率性とか省エネという言葉の意味は、少ない消費電力で室温を下げることであって、湿度を下げることを含んでいないのです。全館冷房ではいかに消費電力を少なく除湿するかが重要なので困ったものです。

エアコンメーカーの省エネ競争は熾烈を極めておりますが、消費者にはわからないとことで、湿度管理については悪い方向に進んでしまっているようです。

一方で建物の高気密高断熱化が進んでいるため、除湿をしようとしてエアコンを連続運転すれば室温が下がりすぎるという、ねじれた状態に向かってしまっています。

エアコンは「爆風モード」と言われる大風量によって省エネ性を偽装した事件がありましたが、要するにアルミフィンの温度が冷えないと温度は満足しても、温度だけ下がって除湿がされないと相対湿度はむしろ上昇して、低温高湿になってしまうため、エアコンの運転モードは「自動」や「おまかせ」にせず、自分で温度設定して管理した方が良いです。

冷房運転において、風量は「最弱」にして、アルミフィンの温度を冷やす事が除湿量を増加させます。この場合、少量ですが冷たい空気がエアコンから発生するため、これが気になる場所にエアコンが設置されている場合は、サーキュレーターや扇風機を用いて、人に冷気が到達する前に撹拌すると良いでしょう。

ただ、エアコンの室内機の吹き出し口に直接サーキュレーターで風を当てると、エアコンがサーモオフを起こすと思いますから、エアコンの風量は「最弱」、風向きは基本的に「真下」にして、冷気を床に落として流すとサーモオフし難くなります。

風向きについては、各家庭の間取りによって、エアコンの回りが冷えなければどのような風向きでも良いのですが、エアコンの周辺に温度計を設置して、エアコンの設定温度に達しているか確認するとよいでしょう。

エアコン1台での全館冷房の基本思想は温度差換気です。自然に冷たい空気は下がり暖かい空気は上昇しますから、床を流れる冷気をかき混ぜると、家の中に温度差がなくなって、エアコンに暖気が届かず、逆にエアコンからの冷気が家中に流れなくなります。

床を流れる冷気を嫌ってサーキュレーターを使って空気を撹拌するという手段もありますが、掻き混ぜすぎるとエアコンの周囲が冷えてサーモオフしてしまうことと、温度差がないと空気が循環しません。

全館冷房を初めておこなった際に、最初は一階が全然涼しくならないと感じると思いますが、しばらくすると室内の暖かい空気とエアコンからの冷たい空気が上下にセパレートして温度差で空気がクルクルと循環し始めます。

全館冷房の正体は家の中の温度差による空気の循環とも言えるため、この仕組みを理解できれば吹き抜けにシーリングファンが不要であることがわかるでしょう。シーリングファンは風圧も弱いため、私はインテリアだと考えています。

空気の温度差で自然に家の中の空気を循環させる方法とサーキュレーターを使って強制的に空気を循環させる方法がありますが、それぞれのお宅のエアコンからの冷気の動きに応じて実施してください。

サーモオフは高気密高断熱住宅で起きやすい

エアコンの冷房運転は周囲の空気が設定温度に達すると運転を止めて送風になる単純な機械です。サーモオフとは部屋の温度が設定温度に達した場合、室外機が停止して部屋を冷やす(除湿も)動作をストップする事です。室外機が停止していても室内機のファンが回り風が出ているため見た目では室外機が止まっていると気が付かない人も多いと思います。

高気密高断熱住宅に大型のエアコンは不要です。しかし、夏にエアコンを動かしているにも関わらず暑いと思う方がいますが、それは窓が大きくて日射熱が多いか、エアコンの温度設定が高いためエアコンがサーモオフを起こしていると考えられます。室温が上昇するまでサーモオフになっている状態では除湿がされなくなり室内が蒸し暑くなります。

エアコンを運転している間は常に室内機・室外機ともに動作している訳ではなく、室外機は部屋の温度によって発停を繰り返しています。温度センサーの位置によりますが、一般的には部屋の温度はエアコンが吸い込んだ空気の温度で判断しています。

サーモオフは高性能な家の狭い部屋ほどエアコンを運転するとすぐに起きます。冷房がすぐに効く高性能な家ほど室温がすぐに下がって設定温度に達したとエアコンが判断して室外機を停止してしまいます。ここに、外気から換気による高湿度な空気が入ってくると部屋の空気で冷やされてさらに相対湿度が高くなります。

リビングに冷房用のエアコンを設置した場合、エアコンからの冷風が不快であるため、一般的には設定温度を27~28℃にされると思いますが、その場合はすぐに室温が設定温度になってしまうため、エアコンのコンプレッサーが止まり送風状態になります。

しかし、送風はされているため見た目からエアコンが動いているにも関わらず除湿が進まない状況を見て、エアコンのサイズが小さいのだと誤解して大型のエアコンを設置しようとする方がいますが、それではサーモオフは解消しません。

さらに、ここで除湿しようとして設定温度を下げると、サーモオフ ⇒ 設定温度を下げる ⇒ サーモオフの繰り返しになり低温高湿度な空間になってしまいます。24時間全館冷房の成功条件とはサーモオフが起こらない環境作りと言えます。

除湿を24時間継続するためには、再熱除湿運転をするか、冷房運転であってもサーモオフが起こらない場所にエアコンを設置する必要があります。冷房運転にてサーモオフを抑制するには、エアコンを弱く運転して室温を下げ過ぎないようにすることと、エアコンを熱が常時集まる場所に設置する必要があります。

特に室温の低い梅雨時期はサーモオフが起きやすいため、二階の夏用エアコンは再熱除湿機能付きにしておいた方が良いと思います。ただ、我が家では窓のカーテンを開けて日射を取り入れる事で、梅雨でも再熱除湿は何とか使わずに済んでます。

良くないエアコンの設置方法

上記は典型的な冷房病になるエアコンの設置方法で、人が長時間滞在するソファーやベッドに向かってエアコンを設置してしまっています。住んでからエアコンの位置が良くないことに気が付いた方も多いでしょう。

エアコン嫌い、冷房病だという人ならこんな間取りを作るわけがないと思うのですが、間取り作りの最後にエアコンの場所を考えてしまうため、意外とこのようなエアコンの設置場所の間取りが多いです。

しかし、このようなエアコンの設置になっている方がかなり多いというのには理由があります。

これまでの日本家屋の間取りは採光や風通しのために窓を大きく取ることが良しとされていることから壁が減ってしまい、少ない壁に沿ってエアコンやソファーやベッドが配置されてしまうことから、高い確率で冷房病になってしまうようなエアコンの設置場所になっている間取りが出現します。

全館冷房による除湿を行えば窓を開けた風通しは不要(むしろ良くないこと)ですから、全部の窓を大きくするのはやめて、メリハリをつけた窓の採用とエアコンの設置に適した壁を用意しましょう。

エアコンは通路に向けて設置し、冷気が早くその場所から抜けるように設置すべきです。そうしないと高気密高断熱住宅ではエアコンのある部屋の室温が下がり過ぎてしまいます。

各部屋のエアコンについては、同様にドアに向けてエアコンを設置することをお勧めします。小さな部屋の中でエアコンを運転すれば高性能な家では寒くてたまらないため、冷気がすぐに室外に出る位置にエアコンを設置すべきでしょう。

上記のようなエアコンの利用方法や設置方法は一般的な省エネとか効率的なエアコンの使い方と矛盾するように感じると思いますが、それは今までの常識的な家作りや省エネの方法に捉われているからなのです。

風通しを重視した間取りから、発想をガラッと変えて除湿を重視した家作りに取り組めば、高気密高断熱住宅は本当の実力を発揮して、これまでの日本家屋の問題点をすべて解消することができるでしょう。

良いエアコンの設置方法

エアコンがサーモオフしないようにエアコン周辺の温度を下がらない場所に設置する必要があります。そして、家の温度を下げ過ぎるとサーモオフが発生するため、エアコンを弱く運転すると24時間の連続運転が可能となります。

冷たい空気は簡単に昇らないため一階のエアコンを冷房運転しても二階に冷気は届きません。一階にしかエアコンがない家は、階段を昇ると一階と二階の間にクッキリと温度の線ができます。ということはエアコンの設置場所は二階の開けた空間という事になります。

以下は我が家の二階の階段ホールに設置されたエアコンは2.2kW(6畳用)のエアコンです。二階のエアコンは再熱除湿と左右の風向き変更ができる機種を選択することをお勧めします。

サーモオフ防止ために階段下から上がってくる熱気を受け止められる位置に設置されています。冷気は下にさがり熱気が上にあがるという単純な原理が24時間冷房運転の仕組です。

一階からエアコンを見上げると半分二階の床からはみ出ています。一階と二階に均等に冷気を送るためです。ただし、上位機種では左右の風向きを変えられる機種がありますので、その場合は飛び出ない方がメンテナンスしやすいです。下から暖気が上がってくる場所にエアコンを設置すればサーモオフが回避できます。

  • 良い設置方法
    • 階段を登り切った場所の二階と一階に均等に冷気を落とせる場所(冷気は上の階には登らない)
    • サーモオフが起きない広い場所(エアコンの前に最低1.5マスは空間があること)
    • 人にエアコンからの冷気が直撃しない場所
    • 各部屋に冷気を送るためにエアコンは廊下や通路側に向けて設置する
    • 全館冷房用のメインのエアコンには再熱除湿機能付きのエアコンとする
    • エアコン設置場所がリビングから離れすぎていないこと(遠いとリビングが温湿度的に不満になる)
    • 平屋の場合はリビング等の中に上記の要件を満たした場所を設計時から用意する
  • 良くない設置方法(サーモオフが起きる場所)
    • 狭い押入れの中、ロフト空間の奥(サーモオフが起きる)
    • リビングから遠い場所(二階の廊下の突き当たりなど)
    • 二階にエアコンを設置しても、一階に全部冷気が落ちてしまう場所(二階は暑い)

1台のエアコンで全館を冷房除湿するのであれば、エアコンの設定温度は23℃前後、風量は「最弱」にすると吹き出し口からの空気は15℃前後と低温になる事を考慮する必要があります。エアコンからの冷気が人の居住する場所を直撃するような位置にエアコンを設置すると冷房運転では寒くてたまりません。

例えば二階のリビングの奥にエアコンを設置した場合、二階リビングの居住空間を冷気が通過してから階段経由で一階に冷気が落ちるため、二階のリビングは冷えます。ここで設定温度を上げると逆に一階の温度が下がらずに物足りない状態になります。

一階にエアコンを設置して、吹抜けにシーリングファンを設置しても全館冷房はできません。シーリングファンではサーキュレーターのような風圧は得られず、冷たい空気は簡単に二階に昇らないため、エアコンは二階に取り付ける必要があります。

1台のエアコンで全館冷房するには、二階の居室空間は寒くて一階は暑いというアンバランスな現象が起きないように、二階の階段や吹き抜けに近い位置にエアコンを設置すると共に、一階リビングとの距離が遠くなりすぎない位置にエアコンを設置する必要があります

エアコン1台での全館冷房は設計の上手さをアピールするパフォーマンスだと思って頂いても結構です。もし、二階のエアコンが一階リビングから遠いのであれば、冬の補助暖房を兼ねて最初から一階にもエアコンを設置して補助冷房として利用してください。

目的は1台のエアコンで全館冷房することではありません。冷房病にならず、ダニやカビの発生を抑制するために家中の相対湿度を60%以下にすることです。エアコンの台数を増やしたら電気代が倍になる訳ではありません。

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