はじめに
一条施主の冷房計画では、さらぽか空調が採用できない(もしくはしない)場合は各部屋にエアコンを設置するという二択の冷房計画になっていると思いますが、ちょっと待って下さい。
今回、私が言っている冷房計画とは全館冷房システムか各室エアコン冷房かという選択を考える前に、冷房計画について湿度重視なのか温度重視なのかを先に考えましょうという話です。
夏季にダニやカビに悩まされる生活や部屋干しで洗濯物が乾かない生活を送りたくなければ、家中の湿度を60%以下に抑える必要があります。
そして、エアコンによる冷房病を回避するには間取り作りの最後にエアコンの配置を考えるのではなく、間取りを作りながらエアコンの配置を考える必要があるでしょう。
以下のように計算をすると、27℃・60%の家と26℃・70%の家では不快指数や体感温度はほぼ同じです。扇風機を1mの距離で使った場合の体感温度についても計算してみました。
冷房計画 | 温度 | 相対湿度 | 不快指数 | 風速 | 体感温度 ℃ | ||
℃ | % | 指数 | 判定 | m/s | 風あり | 風なし | |
湿度重視 | 27.0 | 55 | 75.0 | (やや暑い) | 小1.3 | 22.3 | 24.9 |
中2.5 | 21.3 | ||||||
大3.5 | 20.8 | ||||||
温度重視 | 26.0 | 70 | 75.4 | (やや暑い) | 小1.3 | 22.1 | 25.2 |
中2.5 | 21.0 | ||||||
大3.5 | 20.4 |
温度重視の26℃・70%の状態はカビやダニが発生する状態です。ただ、不快指数や体感温度がほぼ同じであるならカビやダニの発生し難い湿度重視の冷房計画の方がメリットがあると思います。
冷房計画の優先順位を考える
各室にエアコンを設置して冷房すれば、高気密高断熱住宅では部屋が冷え過ぎないように設定温度を27℃などの高い状態にすることになりますが、それでは除湿不足になってしまいます。
これにたいして住宅会社側は部屋が蒸したり暑ければ窓を開けましょうといってお茶を濁すと思いますが、住宅会社にとっては入居してからの温湿度は保証の対象ではないからです。
家を建てるにあたり、湿度の高いカビやダニが発生しやすい住宅を建てたいと思う人はいないと思いますから、冷房計画を温度という涼しさだけで考えない方が良いでしょう。
以下のように冷房計画は温度と湿度を家全体で考えるか各室で考えるか、あるいはその両方まで完璧に求めるかによって変わりますが、最低でも家全体の湿度は下げた方が良いでしょう。
番号 | 冷房計画の分類 | 家全体 | 各室 | ||
温度 | 湿度 | 温度 | 湿度 | ||
1 | 全館冷房が完璧な状態 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
2 | 全館冷房が完璧ではないが湿度が低い状態 | △ | 〇 | △ | 〇 |
3 | 各室エアコンを実施している状態 | ✕ | ✕ | △ | ✕ |
良くある話は、1番の完璧な全冷房ができない場合は3番の各室エアコンという判断ですが、高気密高断熱住宅における各室エアコン冷房だけは避けたいところです。各室エアコンは寒いです。
2番については、二階建てなら階段ホールや吹き抜けに再熱除湿機能の付いた小型エアコンを設置する方式ですが、各部屋まで冷気が分配できない場合であっても家中の湿度は下げられます。
家中を除湿するには24時間連続で弱くエアコンを運転し続ける必要がありますが、帰宅するとカラッとした涼しさを感じるくらい快適な空間になります。
そして、不在時にドアをあけておけば二階の廊下に流したエアコンの冷気は各部屋の中まで広がっていきますから、室温調整が完璧にできなくても少なくとも家中のカビやダニは抑制できます。
室温が高くても家中の湿度が低い状態ではエアパスファンがなくても各室ではドアのアンダーカットから冷気が少し入るため扇風機を使えば何とか過ごせるという人もいます(個人差あり)。
そして、設計時に各室にエアコンの予備穴と専用コンセントを設けておけば各室にエアコンを付けるかどうかは将来考えれば良いことだと言えます。
冷房計画は二択で考えてはいけない
一条工務店の施主においては、i-seriesには「さらぽか空調」という全館冷房システムがありますが、それが採用できない場合は各室壁掛けエアコン冷房という二択になっていると思います。
一条ハウスはエアコン1台で全館冷房ができると聞いても、プライバシーの観点から各室のドアを閉めたら各室は暑くなるから、そんな空調方式は現実的ではないと考える人もいるでしょう。
ただ、さらぽか空調かエアコン1台全館冷房を諦めて、各室エアコンを選択した時点で家の中の相対湿度は60%以下に保てなくなるという事実を知って欲しいと思います。
二階の使用していない部屋にエアコンを設置して全館冷房が可能なケースはありますが、その部屋が寒くて利用できなくなるため、エアコンは廊下やホールに設置すると良いでしょう。
冷房計画は各室まで完璧にやろうと思うと簡単に前に進めなくなりますが、家全体の湿度を下げることと、各室を完璧に空調することは分けて考えても良いと思います。
どうしても冷房と除湿は混同されて考えられてしまいますが、冷房計画と除湿計画を分離して考えても良いぐらいで、全館冷房は除湿が主目的で冷房は結果的に実現してしまう形です。
相対湿度が60%以下に維持できない場合、カビやダニとお付き合いする生活になるのであれば、各室までの完璧な空調を求める前に第一優先は家中の除湿だという判断基準もあって良いはずです。
真夏の各室の空調の完成度は置いておいたとしても梅雨に家の中の湿度を60%以下に保ちたいのであれば、さらぽか空調かエアコン1台全館冷房は必要です。
以下のように、エアコン1台全館冷房においても完成度があって、エアパスファンまでつかった各室空調ができなくても、家の全体の湿度を下げることが最優先だと思います。
冷房計画 | 備考 | 快適性 | コスト |
全館冷房システム | 各部屋へはダクトを利用して空調 | ★★★★★ | ★★★★★ |
エアコン1台全館冷房(優) | エアパスファンを使った各室空調 | ★★★★ | ★★ |
エアコン1台全館冷房(並) | 各室の温湿度調整が完璧ではない状態 | ★★★ | ★ |
各室壁掛けエアコン冷房 | 除湿不足、冷房病、カビの発生 | ★ | ★★★ |
最後に
なぜ、建築時に各室にエアコンを設置しなければならないのでしょう。最初はリビングと二階の階段ホールや吹き抜けにエアコンを設置するだけで良いと思います。
一方、作り手側が発信する家作りの情報では最初から全館空調システムか各室エアコンかを選ぶといった話が多いと思いますが、私はそれは施主の選択肢を狭めてしまうと思います。
住宅会社からはクレームにならない冷房計画しか提案できないと思いますが、それなら施主の自己責任で実施する全館冷房方式を公開している私のブログを紹介して欲しいところです。
私は三軒の家でエアコン1台で全館冷房を実施した実績がありますが、小屋裏エアコンと違って階段ホールや吹き抜けエアコンは難易度が低いため誰でもできると考えています。
全館空調か各室エアコンかという二択の状況がもっとも施主にとっては良くない状態で、完璧でなくても自己責任でも良いから家中の湿度を下げる手段があると気が付いて欲しいところです。
それが、二階の階段ホールや吹き抜けに小型エアコンを1台設置して、一階にはどの道エアコンを設置する人が多いでしょうから猛暑日には補助冷房として一階のエアコンを運転する方式です。
ただ、これはハウスメーカーが保証するものではありませんから、施主の自己責任で実施する必要がありますが、保険として各室にエアコンの予備穴と専用コンセントを用意しましょう。
もしエアコン1台での全館冷房が成功しなかった場合、失うものは小型エアコン1台だけです。そして、うまくいけば各室のエアコンの設置台数が削減できますから物凄いお得な話です。
エアコン1台で全館冷房ができるわけがないとか、自分は間取り優先だからと思って各室エアコンを最初から選択してしまうとチャレンジしなかったことを将来後悔すると思います。
24時間エアコンを運転すれば電気代が高額になると懸念されると思いますが、窓から入る日射を家の外側で軒やシェードなどを使って遮蔽すれば、月に4~5千円程度しかかかりません。
くれぐれも、各室に冷気の分配ができないからとか各室のドアをプライバシーの観点から開けておけないから、各室にエアコンを設置するという二択の発想をしないことを願っています。
大事なのは各室の完璧な空調よりも家全体を低湿度に保つことでカビとダニを抑制することあり、各室ごとにエアコンを設置する冷房方式は最後の手段だと考えた方が良いと思います。
本日は以上でございます。