はじめに
家作りにおいて換気方式の選択は難しい論点だと思います。高気密高断熱を重視する住宅会社は換気の損失を減らすために一種熱交換換気を採用する傾向にあります。
熱交換換気と熱交換なしではどちらが優れているかと言えば、冬季に給気口から侵入してくる冷気のことを考えると住み心地に関しては熱交換換気方式に軍配があがるでしょう。
換気方式の解説については一条工務店のHPにあるとおりで、一条工務店ではロスガードという一種全熱交換換気扇が設置されています。全熱交換とは温度と湿度を回収するという意味です。
しばしば、一種と三種を熱交換の有無の違いだと間違えて理解している人がいますが、一種は給排ともにファンを利用し、三種は排気のみファンを使う方式です。
三種換気の場合は家の気密性能が高いと玄関ドアを開けるのに力が必要です。一条工務店の施主の場合はキッチン換気扇を回した時に玄関ドアが幼児の力では開かない現象がまさにそれです。
温暖地において一種熱交換換気扇は省エネかと言われると換気扇自体の消費電力が大きいため年間を通して考えると元が取れるほど省エネではありません。
では、なぜ一種熱交換換気扇を設置する住宅会社が多いかと言えば、住宅性能のアピールと冬季の家の寒さに対するクレーム防止のためだと思います。
一条工務店のロスガードは熱交換率が90%と高いため室温を20℃に保っていれば給気される空気の温度は18℃ありますから、給気口からの寒さはほとんど感じないです。
一条ハウスの場合は玄関からの冷たさの方が気になると思いますので、玄関に床暖房ヘッダーボックスを設置したり、オプションの床暖房を設置するなど対策をされると良いでしょう。
一条工務店の換気装置
現在は標準のロスガードうるケアとオプションのさらぽか空調の2種類の換気装置があります。
Panasonicと共同開発した「ロスガード90うるケア」は水道管直結の自動お掃除機能がついた気化式無給水加湿機能が搭載されていて、月の電気代は300円という画期的な商品です。
さらに未確認ですが手動切り替えによる熱交換をしないバイパス換気機能が搭載されたという情報があります。初代のダイキン製ロスガードに搭載されていた機能が復活したようです。
(出典:一条工務店)
うるケア機能によって床暖房により室内が乾燥するという問題とバイパス換気機能によって春と秋といった中間期に窓から侵入する日射熱によって室内のオーバーヒートが改善されると思います。
バイパス換気機能の搭載によって中間期に窓を開けて換気しなくてもフィルターを通過した綺麗な空気が得られるため花粉症の方にはバイパス換気機能の搭載は朗報ではないでしょうか。
しかし、春のバイパス換気期間が梅雨まで続く家は窓の日射制御が不足しているということであり夏季の冷房の電気代を減らすためには設計において窓の日射制御に注意した方が良いでしょう。
一条工務店のうるケアには除湿を除く高気密高断熱住宅が要求するすべての機能が搭載されているため、うるケアを採用すればクレームが相当に減ると思います。
以下に一条工務店の換気装置および夏の除湿方法の比較についてまとめてみましたが、うるケア+エアコン全館冷房はさらぽか空調に勝るとも劣らない魅力があると思います。
除湿量 | 加湿量 | 冷房機能 | バイパス換気 | |
さらぽか空調 | ◎(電気代高い) | ○(電気代高い) | ○(床冷房) | × |
ロスガードうるケア | × | ◎(電気代安い) | × | ○ |
エアコン全館冷房 | ○(電気代安い) | ー | ○ | ー |
一種熱交換換気と三種換気のどちらが優れているの?
私がローコストに住宅を建てるのであれば三種換気を採用しますが、私がハウスメーカーの開発を担当する人間であれば住み心地に対するクレームが怖いため一種熱交換換気を採用します。
ダクトレスの三種換気は安価で掃除が簡単ですが一種熱交換換気と同等の快適さを求めるのであれば空調設計が難しいため高気密高断熱住宅が得意な設計者の協力が必要となるでしょう。
私の二軒目の家では一種熱交換換気と三種換気のどちらが優れているか両方とも設置して比較をしてみました。住み心地を改善するための電気工事士の資格を取得して色々と換気をいじりました。
また、網戸を設置して夏に窓を開ける生活と窓を閉めてエアコンで24時間除湿する生活を比較して、現在の家作りの結論に至ったわけです。
同様に三軒目のi-cubeではさらぽか空調とエアコン1台による全館冷房の比較、床暖房と床上エアコンを比較など色々と実験しています。
そして四軒目の家作りは標高の高い寒冷地であったため、温暖地における高気密高断熱住宅との設計の違いについて確認をしました。伊達に注文住宅を四軒建てている訳ではないのです。
空調は数値の計算ができない人には理解が難しく、さらに実際にやってみないと分からない点も多いことから、注文住宅での家作りのラスボス的な存在だと思います。
また、冬季に換気回数を減らす方法については、壁等の透湿抵抗比がギリギリの家では壁内結露の危険性が高まりますから自宅の構造を理解した上で行った方が良いでしょう。
室内でガスコンロや石油ストーブを利用している住宅に関しては十分な換気が必要になることから、オール電化住宅以外は換気回数を絞ることはリスクがあると思います。
換気回数を絞ることについては知識を身につけてから自己責任で行う必要があるでしょう。
三種換気の対応方法
私の二軒目の家で行ったダクトレスの三種換気の改良版をご紹介します。
排気を二階の居室やトイレから行う
一般的には三種換気の排気はトイレと脱衣所から行います。ただ、暖かい空気は上昇していきますから、実態としては二階の給気口が排気口になっている煙突効果が起きています。
二階の給気口を自然給気口からファンによる給気口に変えるハウスメーカーもあります。
この考えでは、外から二酸化炭素濃度の低い空気をダイレクトに居室に入れて、トイレや脱衣所から排気する考えですが、当然各部屋は寒くなります。
この反対意見として、一階のリビング等でまとめて集中給気をしてエアコン等で空調してから廊下を通じて二階の各居室や二階のトイレから排気すれば各部屋は寒くないという考え方があります。
私はローコストに家作りをするのであれば、冬は一階の一箇所で集中給気をしてエアコンで空調してから各部屋に供給される方が住み心地が良いと思いますし、夏は二階の全館冷房用のエアコンの下で集中給気すると良いでしょう。
一階リビングでの集中給気から二階の居室で排気する方法は、多少は室内で汚染された空気が居室に供給されますが、換気量を絞る方法よりはマシだと思います。まぁここは考え方次第です。
一階での集中給気
上記は私の二軒目の家では一階の集中給気用の主たる自然給気口の上に暖房用のエアコンを設置していました。これは高気密高断熱住宅が得意な工務店では良くやる手段です。
この配置により冬季の冷たい外気が給気されてもエアコンが冷気を温めてくれます。私はリビングの主たる給気口から給気して二階のトイレの換気扇を常時運転して排気していました。
それ以外にも室内空気の循環ファンが設置されていて各部屋の温度ムラを解消する作りになっていましたが、一条工務店のような全館床暖房がない場合はそれなりの工夫が必要です。
ちなみにこのダイキンのエアコンは再熱除湿が付いていた時代のもので、うるるとさららという加湿機能がついていましたが、加湿の消費電力が凄過ぎて加湿は使わななくなりました。
やはり、加湿をするなら気化式が良いと思います。
強風時の給気口への吹込み防止
上記の画像を見てあれ?と思いました?そうです、給気口が壁を貫通していないのです。
一般的な給気口は壁を貫通させて設置しますが強風の時に風が吹き込んでくるため、このように通気層から給気する方法やクローゼットの中に給気口を設置して吹込みを緩和する方法があります。
ただ、通気層からの給気については特に二階は煙突効果によって給気口が排気口になっている場合があり、寒冷地では通気層に排出された水蒸気によって外壁が凍害を受ける可能性があります。
よって、寒冷地ではクローゼットの中に壁を貫通させた給気口を設けると良いと思います。
自動開閉する給気口の採用
以下は樹脂のシリンダーが内蔵されている給気口で温度によって樹脂が伸縮するため、電気を用いずにシャッターは外気温が暖かいと開き、寒いと閉じるというフクビ社の製品です。
これは電気配線もなくドライバー1本で誰でも簡単に交換できるものであるため、三種換気で寒いと悩まれている方は検討してみてはいかがでしょうか。
このように発泡スチロールが内部に入っていて断熱性能を有しています。各居室の換気量を絞るにはこういった製品を採用するのも良いと思います。
考え方次第ですが換気不足の方が室内の加湿になりますし、断熱性能を抑えながら暖かい家にするためには冬季は換気量を絞った方がコストを抑えた家作りには合っているかも知れませんね。
最後に
一種熱交換換気と三種換気を単純比較しても意味がないということをお分かり頂けたと思います。住宅展示場で営業マンに解説されたことをそのまま鵜呑みにしてはいけないのです。
三種換気を検討するのであれば、そのデメリットを克服した改良版の三種換気と一種熱交換換気を比較すると良いでしょう。
そして、私の二軒目の家のように設計事務所では10年以上前から三種換気の改良に取り組んでいますから、住宅展示場で得られる家作りの知識は非常に古いということに気が付くと思います。
ただ、私はごく一部の人が手にすることができる高度な設計の三種換気の家より、多くの人が快適で健康的な生活を送るために一種熱交換換気が大量に普及して価格が下がる方が良いと考えます。
そういった意味ではせせらぎのようなダクトレスの一種熱交換換気装置の普及が良さそうですが、バイパス換気や無給水加湿といった機能面ではロスガード90うるケアが優位だと思います。
また、最近では室内の二酸化炭素の量を検知して必要な分だけ給気するデマンド型換気システムという発想が出てきていますが、まだ一般には浸透していません。
たしかに、暖房費用のかかる冬季に24時間ずっと0.5回の換気をすることは省エネに反するため、家族の人数や在宅度合いに合わせた換気が賢いと思います。
本日は以上でございます。