はじめに
エアコンの畳数表示については半世紀も前のQ値が10W程度の無断熱住宅が基準になっていますが、一条ハウスのQ値はその10分の1程度です。
以前から私は一条ハウスのエアコンサイズは以下であり台数は2台で良いと述べています。常識では有り得ないことですがエアコンサイズのダウンと台数削減は莫大なコストカットになります。
本日の記事は一条工務店の営業さんや設計士さんにも見て頂きたいと思って書いております。家作りは人生最大級の出費であるにも関わらず何故か噂話で判断をしている人が多いと感じます。
住宅の温熱環境に対して権威のある人の言葉についても間違って独り歩きすることもあるため、この問題に対して誰もが計算を出来る状態にすることで明確な決着をつけたいと思います。
と、いうことで家の性能に応じたエアコンのサイズを計算できるようにツールを作り直しました。もちろん、一条工務店以外で家を検討されている方もご利用頂けます。
もともと住宅の一次エネルギーを計算するためのシートの中にエアコンの容量計算を入れていましたが、この度「F式エアコン容量計算シート」として独立させ内容を見直しました。
計算ツールに入力の前の準備
気象庁のアメダスの過去データから瞬間最高気温と瞬間最低気温の日における、最高気温時間帯の気温と相対湿度と8月と1月の平均最高・最低外気温を調べてください。
ただし、◎(二重丸)で表示されている湿度まで計測している観測点は少ないためご自宅の近くの◎の観測点を選択してください。
調べるのはここ数年間の中で8月の瞬間最高気温が最も高い日と1月か2月の瞬間最低気温が低い日です。夏に7月ではなく8月を選択している理由は大気中の水蒸気の量は8月が最大だからです。
例えば東京の場合はアメダスを調べると以下のような条件となります。
最高気温日 | 最低気温日 | ||
2019年8月7日 | 2018年1月25日 | ||
瞬間最高気温 | 35.6℃ | ▲4℃ | |
最高・最低時間帯 | 最高・最低気温 | 34.7℃ | ▲3.6℃ |
相対湿度 | 61% | 50% | |
月平均 | 最高・最高気温 | 32.8 | 0.6℃ |
相対湿度 | 80% | 54% |
計算ツールへの入力方法
以下の黄色の部分を入力してください。
Q値についてはシートの左側にUA値との換算計算と換算表を用意していますので、住宅のUA値しか分からない人はQ値への換算計算や換算表からおおよそのQ値を入力してください。
一条ハウスの方で窓の日射制御(冬は日射を入れて、夏は日射を入れない)をしている方は、Q値と外皮面積と床面積だけ入力してください。
多めに見ても、i-seriesの方はQ値が1.0W、グランセゾンを含む軸組工法の方はQ値は1.4Wとで良いと思います。また、三種換気の方は熱交換率をゼロにしてください。
日射取得量を表す、ηA値はシート右側に想定数値がありますからそちらから選択してください。また、外皮面積が分からない時は近似値として床面積×天井高さで結構です。
事前に東京の数値が入力されていますから、6地域の方(名古屋、大阪、広島、福岡など)は温湿度の条件は変えなくても良いと思います。
夏は大阪の方が東京より暑いというのは間違いで気温と絶対湿度を含めたエンタルピーではヒートアイランド現象の深刻な東京の方が大阪より暑いです。これは計算すれば分かります。
計算結果の見方
ピンク色のセルが計算結果です。やはり、Q値が1.0W程度の一条ハウスでは100m2(30坪)の家では6畳用エアコンを2台(二階の夏用、一階の冬用)で足ります。
この計算では最大値で計算しているため、これ以上にエアコンの容量を上げる必要はありません。
そして、夏と冬でエアコンを選択する判断基準は違うと私は考えています。これは家全体の熱損失の計算だけでなく、空気の動きを実務上加味して考える必要があるということです。
区分 | 判断基準 | 理由 |
夏 | 月間平均最高気温 | 猛暑日にオーバーヒートしても1階に補助エアコンがあるから |
冬 | 瞬間最低気温 | 2階のエアコンの熱は1階に降下しないから |
夏季は猛暑日に2階のエアコン1台で冷房しきれないのであれば、1階にあるエアコンを補助冷房として運転すれば良いため、2階のエアコンは必要以上に大きい容量である必要はないでしょう。
夏季のエアコンの使い方は家中の除湿を担う2階のエアコンには負荷を掛けて熱交換器を冷やし、猛暑日などに必要な1階の補助冷房には除湿を重視せず室温調整を担わせます。
一方、1階のエアコンを全館暖房用として利用する場合、熱は上昇する特性があるため2階のエアコンは補助暖房にはあまりならないことから、1階のエアコンで全てを賄う必要があると考えます。
ただし、1階や床下に設置する暖房用のエアコンは1台である必要はないでしょう。エアコンは風量を増やすと除湿ができなくなりますが、冬季は風量を上げて台数を増やすと省エネになります。
もし、住宅の断熱性能からみて1台エアコンで足りない場合、冬季の関しては温度設定を下げて風量を上げて、複数台で負荷分散すれば省エネになります。冬と夏は考え方が違います。
最近の省エネエアコンは風量を増やして室温と設定温度の温度差を少なくする傾向にあり、これは暖房では正解ですが冷房では室内機の熱交換器が温まってしまうため除湿不足に陥ります。
これは空気が送れる熱量の式をみれば分かり、この式のどこにも湿度がないということがわかると思います。つまり除湿をするための式はこの反対で風量を絞って温度差は大きくということです。
空気が運べる温度 = 温度差 ✕ 風量 ✕ 0.35(空気の容量比熱)
そして、夏エアコンは人に冷気が当たらずに家中に冷気を落とせる場所に設置して、冬エアコンは玄関等から発生するコールドドラフトに対処できる位置にエアコンを設置する必要があります。
エアコンは容量の計算も重要ですが、エアコンをどこに設置するかも同じぐらい重要です。このあたりは机上の計算だけではなく、空調の経験値が必要な世界だと思います。
よって私は計算ができる理系の施主が机上の空調計算を公表しているケースについては慎重に見た方が良いと考えています。常識的に想像する空気の動きと実際の空気の動きは全く違うからです。
最後に
小屋裏エアコンを含めてエアコン1台での全館冷暖房を3軒実施したことがある私は、これまでの経験から、高気密高断熱住宅には小型エアコンが2台(一階と二階)があれば良いと断言します。
ただし、窓の日射遮蔽や館内通気がうまく行かない場合に備えて、保険として各部屋に予備のエアコン穴と専用コンセントを設置しておいてほしいところです。
エアコンメーカーは畳数表示が半世紀近く基準が変わっていないという点については触れずに、我々消費者に利益率の高い大型エアコンや各部屋に個別エアコンを設置させようとしています。
エアコンを各部屋に設置すればそれが継続的に収益を生み出す構造になりますから、小型なエアコンの採用や家中のエアコンの台数の削減などをエアコンメーカーが言うはずがありません。
たしかに、容量の小さいエアコンを購入した消費者の家が無断熱住宅の場合、小型エアコンでは家が温まらないというクレームになってしまうため、この基準が生き続けているのでしょう。
また、夏と冬の両方に使うエアコンは最上位機種にした方がコストメリットがありますが、夏か冬の片方しか主に利用しないエアコンは最上位機種にしても元が取れません。
さて、三種換気の家では一種換気の家よりも1.3~1.5倍のエアコンサイズが必要になってしまう反面、換気装置が廉価であるためエアコンと換気装置のコストのトレードオフが起きます。
消費電力の多い一種換気装置は温暖地では冬にしか省エネではないと言われてきましたが、夏に猛暑日が連発するような現状では夏にも省エネ効果が出てきていることが計算からわかります。
UA値になってから換気の熱損失が計算に含まれなくなっため、ローコスト系の住宅はこぞってコストの高い一種換気を止めた気がしますが、果たしてそれが正しかったのか疑問が残りますね。
本日は以上でございます。