はじめに
省エネ基準にはUa値以外にηA(イータエー)値という基準があることをご存じでしょうか?
ηA値には「冷房期の平均日射熱取得率」(ηAC値)と、「暖房期の平均日射熱取得率」(ηAH値)の両方があって、今回は夏季のηAC値について述べます。
ηは日射取得熱のことでAはAvregeのA、CはCOOLのCです。要するに設計に違いによって夏に建物がどれだけ日射熱を受けるかという目安の基準です。
そこで、私が提供している計算ツールでηAC値とηAH値が計算できるようになりました!
これまで私の計算シートでは夏季の日射熱の計算はH11年基準のμ(ミュー)値でも空調計算で困らないためμ値で計算していましたが、現在の省エネ基準に合わせることにしました。
こちらのツールは一条工務店以外の方でもご利用いただけます。一条工務店の窓記号は尺を表すため窓のサイズを尺に変換するか窓の幅と高さを直打ちして、建材をマスタに追加してください。
一般的にはUa値やηA値の基準値を見て、検討する住宅がどこに分布しているかということを判断をしていると思いますが、何となく分かったような分からないような感じがしますよね。
例えば、省エネ基準のUa値0.87の半分のUa値の家だと言われても住宅の光熱費がおおよそいくらになるのか分からないじゃないかという素朴な疑問が湧きませんか?
できれば、UA値やηA値などの数値が、家の光熱費や室温にどれだけ影響するか、空調設備の容量がどれだけ必要になるか具体的に分かると良いですよね。
ηA値の基準値は?
ηAC値の基準値は以下のように温暖地しか設定がありません。東京や大阪などは6地域です。うーん、最近は札幌などの寒冷地でも夏は暑いため寒冷地も設定した方が良いと思いますが。。
地域区分 | |||||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
– | – | – | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 3.2 |
標準モデルの間取りを使って、私の計算ツールで東京を含む6地域の省エネ基準に沿った断熱材のR値になるように入力をしたら、想定通りすべての指標で省エネ基準をクリアしました。
省エネ基準 6地域基準値 | 計算結果 | (私の推奨値) | (参考)i-smartⅡ |
Q値2.7W | Q値2.63W | Q値1.6W以下 | Q値0.75W |
Ua値0.87W | Ua値0.83W | Ua値0.46W以下 | Ua値0.20W |
ηAC値2.8 | ηAC値2.70 | ηAC値1.6以下 | ηAC値0.81 |
ηA値はQ値の基準値に近い値なので、Q値に馴染んでいる人達にとっては目安として覚えやすい指標であると思いますので、私の推奨するηAC値は推奨Q値と同じ1.6以下としました。
当然、ηAC値は小さいほど日射遮蔽が出来ているということですが、冬季の日射取得量であるηAH値(基準値なし)を悪化させないように夏季の日射遮蔽をする必要があります。
詳細の計算内容は以下に置いてあります。14番です。
方位係数を知った上で窓を配置する
太陽熱は地面1m2あたり1kWh(3.6MJ)程度降り注ぎますが、建物の屋根を1(100%)とした場合、東西南北はそれぞれ太陽熱をどれだけ取得するかという「方位係数」が定められています。
(出典:建築研究所)
上記の表では東京などを含む6地域の南側から侵入する日射熱は43.4%ですが、東や西からの日射の方が多いため東西の窓を大きくすると痛い目に合いますし北側の窓も34.1%も日射が入ります。
北側の窓をうっかり大きくすると夏は建物の後ろ側から朝夕に日射が回り込んできますから、高気密高断熱住宅では朝陽や西日だけでなく北側の窓も要注意であることが分かると思います。
窓の外で日射遮蔽をする
今回、ηAC値の詳細内容をみて驚いたことは、窓の日除けの種類が減っていたことです。
平成11年基準では、内付ブラインドやレースカーテンも遮蔽物として認められていましたが、H28年基準からこれらは認められず、外付ブラインドと紙障子の2個になっていました。
これは室内側に設置する遮蔽物は気密性があるものしか効果を認めないということなのだと思いますが、断熱レールの付いているハニカムシェードは省エネ基準としては項目にありません。
さて、以下は窓のガラスと窓に遮蔽物を設置した場合の日射の侵入割合です。一条ハウスのトリプルサッシはLow-Eガラス2枚でハニカムシェードなので、和障子相当の0.34と判断しました。
窓の上部に日除けが設置されている前提で、6地域でハニカムシェードを掃出し窓3.43平米の大きの南側(方位係数0.434)の窓の日射取得熱を計算すると、以下のようになります。
日射取得率 | 日射取得熱 | |
遮熱Low-E2枚トリプルサッシ(ハニカムあり) | 0.34 | 140W |
遮熱Low-E2枚トリプルサッシ(日射遮蔽物なし) | 0.54 | 223W |
ペアサッシ(日射遮蔽物なし) | 0.79 | 326W |
単板ガラス(日射遮蔽物なし) | 0.88 | 363W |
(計算式)
日射取得熱 = (窓面積)3.43m2 × (方位係数)0.434 × (日射熱取得率) ÷ 3600秒(一時間) × 10^6(単位を換算)
ちなみに白熱電球は1個でおおよそ60Wの熱です。上記の窓から入る日射熱を屋根の軒や窓の庇、そしてシェード(スダレ・ヨシズ)などで家の中に入らないようにする家作りが重要です。
日射熱は地上の1平米に1時間あたり1kWh=3.6MJ降り注ぐと言われていますから、上記の式で合ってると思うのですが、詳しい方は検証してみてください。
日射取得熱の家全体への影響は?
家全体のηAC値(日射取得熱)の計算式は以下のようになっています。
窓の日射取得熱 = 窓面積 ✕ 方位係数 ✕ ガラスの日射取得率 ✕ 日射遮蔽物
窓以外の日射取得熱 = 各外皮面積 ✕ 方位係数 ✕ 熱貫流率 ✕ 0.034
ηAC値 = (窓+窓以外の日射取得熱)÷ 外皮面積 ✕ 100
今回の標準モデルでは1時間あたりに家が受ける日射熱が8.7MJでしたから、メガジュールをワットに換算すると、以下のように8畳用のエアコン(2.5kW)で暖房をしている状態です、
8.7MJ ÷ 3600秒(一時間) × 10^6(単位を換算)=2,416W
※ 8.7MJ ÷ 3.6 = 2.4kWでも同じ
省エネ基準レベルの家の場合、天気が良い時間帯は8畳用のエアコン暖房をずっと運転しているという程度の日射熱が住宅に侵入している計算になります。
これ以外に人や家電が発生する熱が561W(床面積120.8m2×4.65W)有りますし、外気温が35℃といった日は換気によって室内の熱が上昇してしまいます。
これに加えて夏は湿度が高いため除湿を必要とするため夏季の冷房エネルギーの計算は非常に難しいということが分かると思います。
さて、標準モデルの間取りで計算したi-smartの夏季の日射取得熱は2.586MJでしたから、718Wということになり、やはり断熱性能が良いと日射熱の影響を受けにくい状態です。
ただし、Q値が0.75W×120.8m2の場合、718Wで室温が7.9℃上昇しますから、断熱性能の良さは少しの熱で室温が上がるというデメリットがあります。
断熱性能が高い住宅ほど、少しの熱で家が温まり、少しの熱で家が冷えますから、冬は日射熱を窓から家の中に入れて、夏は窓から日射熱を入れないということが大事ですね。
最後に
夏に日射遮蔽をしていない窓はストーブだと思った方が良いと思います。
そして、ηAC値については興味がある方は勉強してみると良いと思いますが、難しくて良く分からないという方は、以下のような高気密高断熱住宅のセオリーを知っていれば良いでしょう。
項目 | 高気密高断熱住宅のセオリー | 理由 |
屋根の断熱 | 壁の断熱の倍にする | 屋根に当たる日射熱は壁の倍 |
南側の窓 | 冬季に日射が当たるなら大きくする | 暖房費用が下がる |
二階は軒を出し、一階は庇かシェードを設置 | 冷房費用が下がる | |
南側以外の窓 | 小さく少なく、採光のために高く設置する | 全ての窓の日射遮蔽が難しいため |
このセオリーを取り入れて高気密高断熱住宅を設計すると春はオーバーヒートせず、夏は少ない電気代でエアコンを運転することができます。
逆にいうと、このセオリーを100%とは言いませんが、しっかり守らないと温暖地の夏に小型のエアコン1台で家中を全館冷房をするなんていう芸当は難しいわけです。
本日は以上でございます。