在宅勤務の冷暖房費は誰が負担するのか?

考察

はじめに

本日は在宅勤務を実施している企業に勤務されている方にとって深刻な問題を取り上げます。

コロナウィルスの影響を受けて在宅勤務を実施した企業は緊急事態宣言が解除されたいま、二つの方向に進んでいると思います。

6月以降、それまでガラガラであった通勤電車がかなりの混雑率になっています。これは無理やり在宅勤務をしていた会社の社員が出社するようになったからだと思います。

無理やり自宅待機とも言える在宅勤務を行っていた企業はコロナウィルスの第二波・第三波に備えて在宅勤務環境の早期構築が必要でしょう。

一方でテレワーク環境が整っていた会社において、今回のコロナウィルスの影響でほぼ完全な在宅勤務をしてみたら、ほとんど問題なく業務が回ってしまった会社もあると思います。

在宅勤務でほとんどの業務が回ってしまった会社でいま起きている現象は、在宅勤務の継続による定期代支給の廃止および事務所スペースの最小化というコスト削減の検討です。

6か月定期の平均割引率はJRで60%、私鉄で45%程度です。1年は365日ですから定期券は何日分の通勤費(切符代)に相当するか計算すると以下のようになります。

鉄道区分 6か月定期の平均割引率 年間切符代 月間切符代
JR 60% 146日分 12.1日分
私鉄 45% 201日分 16.7日分

JRを利用している人は月の出社日数が12.1日を下回れば切符代の方がコストは安く、私鉄の人においては16.7日以下の出勤であれば切符代の方がコストが安い計算になります。

JRについては国鉄法の時代に割引率が60%以上と制定されていたなごりを受けて高い割引率になっていますが、私鉄は割引率が低いため月に3回程度の在宅勤務で切符代と定期代は同程度です。

つまり、定期券は安いと思い込んでいたけど休日のあるサラリーマンにとっては実はたいして安くなかったという事実がコロナウィルスによる在宅勤務の増加で露呈してしまった結果となります。

私鉄を利用している人は在宅勤務の有無に関わらず、実は定期券を支給するメリットはコロナウィルスの前からほとんど無かったのですが、当たり前に定期券を購入していたということです。

もちろん、定期券を利用すれば交通費の都度精算という手間が省けますが、月1で交通費を経費精算するなど工夫をすれば定期券に拘る必要はないと思います。

在宅勤務のコストは誰が負担するのか

在宅勤務をするにあたり自宅に光回線などの高速通信を引き込んでいる人にとってはコストは変わりませんが、新たにWIFI環境を整える人やにとってはコスト増加が問題となります。

また、自宅に長時間いることから冷暖房費を中心とした光熱費が増加するという問題が発生します。このことについて企業が費用を負担すべきであると意見は多いと思います。

ただ、これまで当たり前に自分で負担していたスーツ代などはスーツの消耗が減るため出費が減ることから、在宅勤務は従業員にとってコスト削減になる面もあります。

項目 企業のメリット 従業員のメリット
定期券支給の廃止
通勤時間の削減
事務所スペース最小化
自宅の通信費の増加
自宅の冷暖房費の増加
スーツ代、靴代、化粧代の低下

在宅勤務の増加はこれまで常識的に自己負担してきたスーツ代や靴代などの負担が減って、通信費が増加するというコストのトレードオフが発生します。

ただ、一般的な家の場合は冷暖房費の増加がかなりの金額になることから、今後においてはここが一番の問題になると思います。また、書斎などがないと在宅勤務は難しい面があります。

企業は通信費の一部負担には踏み切るかもしれませんが冷暖房費まで負担はしないでしょう。在宅勤務が嫌なら出社しろと言われてしまうと従業員は在宅勤務のメリットを享受できなくなります。

家の断熱気密性能が低い場合や、省エネな全館冷暖房が実現できていない住宅については在宅勤務が増えるほどの光熱費が増えてしまうことになるでしょう。

そして、夏季においては窓の日除けを考慮せずに大きな窓を沢山設置してしまった人は在宅勤務の増加によって冷房費の増加に悩まされることでしょう。

これまで、必要な時に必要な分だけ冷暖房を使うことがコストパフォーマンスが良い住宅だと考えてきた人にとって、長時間の冷暖房運転を求められることは想定外だったと言えます。

ただ、今後は間違いなく断熱気密性能および窓の日射制御(取得と遮蔽)を重視した家作りをした方が在宅勤務の冷暖房費について悩まなくて済むと思います。

省エネ住宅の概念が変わる

これまでの省エネ住宅の概念はUA値がHEAT20のG1やG2がであるとかC値はいくつかといった議論でしたが、在宅勤務の増加によって今後の省エネ住宅の概念は変わると思います。

暖房についてはある程度の断熱気密性能があれば一階のリビングのエアコンを運転するだけで家中が暖かくなりますが、難しいのは冷房計画の方です。

不在時に冷房を切ることを前提に断熱性能のコストパフォーマンスを計算した住宅については、在宅勤務やリモート教育の増加によってコストパフォーマンスが大きく悪化するでしょう。

今後は在宅勤務を行っても冷暖房費が変わらない家が省エネ住宅であると認識されていくと思います。そして、太陽光パネルを設置して自家消費を増やした方がメリットが多くなるでしょう。

G3グレードの高性能な家は60年以上住まないと投資回収できないと言われてきましたが、在宅勤務やリモート教育の増加による冷暖房時間の増加により投資回収期間が短縮されるでしょう。

私の自宅のようにもともと24時間全館冷暖房をしている住宅では、在宅勤務が増えても冷暖房費が変わらないため、会社が光熱費の増加を支援してくれなくても全く問題ありません。

そもそも夏はカビやダニが発生しないように除湿のために小型エアコン1台による24時間の全館冷房を行っているため、結果として在宅勤務に適している住宅と言えます。

コロナウィルスの影響によって在宅勤務が増えたことによって、私のブログのタイトルでもある「家、は空調。」という概念がより重要になってくることでしょう。

そして、もし会社が在宅勤務の光熱費の一部を負担してくれるようであれば、その分は住宅ローン返済に充当できますから、在宅勤務をしても冷暖房費が変わらない家のメリットは大きいです。

さて、HEAT20では4地域以南は主寝室や子供部屋は平日は3時間の暖房という設定ですから、在宅勤務が加速すればG1グレードよりも性能が上げた方が良いという判断になると思います。

また、G2グレードの断熱性能がある家についても、各居室のエアコンをドアを閉めて冷房運転を行えば冷房病を招くため、空調方式の検討が重要になってきます。

夏に窓を開けて通風する家作りは日中は人が不在でエアコンを切っていることが前提条件ですから、在宅勤務の増加によって窓を開けて通風という家作りは成立しなくなってしまいます。

真夏の昼間は窓をあけても熱風しか入ってこないため、通風する設計や各個室にエアコンを設置した場合は在宅勤務の増加によって冷房費用の増加は悩ましいところです。

従前はエアコンは間欠運転と連続運転のどちらがお得かという比較議論がありましたが、今後は在宅勤務が増加すれば、冷房は連続運転かつ全館冷房が当たり前になって行くでしょう。

全館冷房については技術力のある工務店ですら対応が難しい現状ですが私はこれまで三軒の住宅で実践してきたノウハウをブログで公開していますのでよろしければご覧ください。

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最後に

在宅勤務の増加によって家作りはコスパの観点からより性能と空調が重要視されます。各部屋にエアコンを設置する方式から少ない台数のエアコンで家中を冷房する方式が評価されるでしょう。

まずは書斎などのスペースが必要であるということ。そして、断熱性能がHEAT20のG1だG2だという論点だけでなく、全館冷暖房が省エネに実現できることが重要になるでしょう。

気密性能についてもC値が0.2と良かったとしても全館冷房が実現できていないなら、高気密高断熱住宅として省エネ性に改善の余地があります。

鉄骨系住宅については構造自体が熱伝導率が高い鉄という関係から冷暖房費がかかり過ぎるため、在宅勤務が浸透していくと今後は衰退していくのではないかと思います。

在宅勤務の増加によって、一条工務店を含めた全棟気密測定をしている高気密高断熱住宅はますますその存在感を示すことになると思います。

私は既にエアコン1台で24時間全館冷暖房を実施しているため、在宅勤務が増えようが冷暖房費はまったく増加しません(細かく言うと内部発熱の増加はあります)。

24時間の冷房とは高速道路を低回転で車を運転しているような状態であり、エアコンを必要な時だけ運転する方法は車の街乗り運転のように燃費が悪い運転になってしまいます。

また、二階建てでは一階にあるエアコンでは全館冷房は難しいことから、二階の階段ホールや吹き抜けにエアコンがないとこのような低燃費のエアコンの運転が難しいことになります。

今後の家作りについてはUA値やC値といった論点だけでなく、省エネに全館冷暖房ができる在宅勤務に適した家かどうかということはとても重要な家作りの論点になることでしょう。

 

本日は以上でございます。

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