Air断について考察します!

考察

はじめに

低コストで完成度の高い高気密高断熱住宅を建てることは難易度が高いと思います。また「木造住宅を高気密高断熱化するから内部結露によって家が腐るのだ」と考える人は多いでしょう。

世の中には高気密高断熱住宅+計画換気とは異なる方法で住環境を快適にしようという家作りは昔からあります。そこで、本日はホームリサーチ社の「Air断」工法について考察します。

1980年代から外断熱二重通気工法と称したカネカのソーラーサーキットの家を代表として、フクビのエアサイクル住宅など「換気」によって家の快適性を得る工法は存在します。

Air断は計画換気の20倍もの空気をファンを使って排気し続け、家の外周部にエアカーテンを発生させ断熱することで、冬に温かく夏に涼しく空気のよどまない家を実現するそうです。

空気で断熱するため気密性能も断熱性能も不要であるといった説明や空気を大量に循環させるため湿気が籠らず建物が傷まないことから外壁などは安いもので良いといった説明がされています。

Air断の5つの特徴として「≫結露がゼロに ≫生活臭がゼロに≫コストが下がる ≫ホコリがゼロに≫冷暖房費が下がる」と謳われています。

Air断側のホームページや動画の説明には違和感を感じる部分は多いものの、Air断は性能を発揮しきれていない高気密高気密住宅の問題点をかなり解消しているのではないかと推測します。

Air断工法とは

外気温がマイナスでも、床下、壁を通り抜けると23℃まで上昇するAir断の仕組み

家の中に20個近くの排気ファン(三種換気やトイレの個別排気で利用する汎用品)を設置して、家の外壁通気層の中に大量の空気を送り込みエアカーテンを作って断熱しています。

動画ではエアコン1台で全館の室温を冬は22℃前後にしていますが、室内の相対湿度は20%を切っています。Air断の特徴は湿度コントロールをしない(できない)ことにあるようです。

これまでも強風地域において給気口については外壁を貫通させずに通気層から給気する方法はありましたが室内の水蒸気を含む排気は冬季に通気層内で結露や凍害を起こすと言われてきました。

Air断では冬に通気層の中で結露や凍害を起こさないために、室内に冬の乾燥した外気をたくさん取り入れて排気してしまえば良いという逆転の発想のようです。

また、夏は大量の空気の循環により揮発性化学物質によるシックハウスの予防を行い、カビの発生しにくい環境を作ると共に空気の動きにより涼しさを得られるということだと思います。

Air断のシステム価格の約200万円は高性能断熱材から最低限の断熱材へのダウングレードで150万円、壁内結露を防止して5年ごとのシロアリ防虫剤の再塗布120万円で賄なえるそうです。

このコスト計算には違和感があるものの、スーパーにある蓋や扉のない冷蔵庫のように断熱材がなくてもエアカーテンで家全体を外気の温度から断熱する発想はすごいと思います。

しかし、この工法は停電の時にどうするのかな?ということと、排気のファンがこれだけ付いていて稼働するとファンの音が気になる人もいるのではないかと思います。

Air断熱工法の室温について

Air断では床断熱の床下に給気した空気を基礎コンクリートの地熱で暖め、家の中央にある給気壁といわれるダクトから室内に取り入れることで0℃の外気が14℃までになるとのことです。

そして、給気壁から取り入れた外気は一階リビングのエアコンに吸わせて加熱して、その空気を家中に循環させた後に通気層へ排出して通気層の中にエアカーテンを作り断熱するという説明です。

リビングのエアコン1台で全館の室温を22℃にできているようですが、地熱だけで給気が14℃まで温まっているのではなく通気層から排出された空気が再度床下に循環している気がします。

何故かというと床断熱で外気を床下に通した場合、どうやっても一階床の温度は下がると思いますが、そうはなっていないため床下にもエアカーテンが実際はあると想定します。

また、仮に外皮に作ったエアカーテンだけで断熱できると想定しても、室温を1℃を上昇させるための熱量は840W必要になります。

床面積100m2×天井高さ2.4m×0.5回×20倍×空気比熱0.35=0.84kW

外気が0℃で室内が22℃の場合、エアコンのCOPが4であれば4.62kWのエアコンの能力が必要と計算されますから、地熱による加熱を加えると14畳(4.0kW)のエアコンで可能な気がします。

(22℃-0℃)×0.84kW÷COP4=4.62kW

寒冷地で床断熱の我が家では、確かに外気温がマイナスの時でも床下の基礎の中央は12℃ぐらいはありますし、一条の北海道仕様ではアースチューブ付きのロスガードが採用されています。

Air断工法は温度的にはあり得る話かも知れないと思いましたが、大量に外気を取り入れて循環させるため湿度はコントロールできないようです。

Air断熱工法の湿度について

ここまでの説明ではAir断工法は夢のような工法だと言えますが、Air断工法は湿度に関してはコントロールしていない(できない)と記載されています。

(出典:Air断マガジン

やはり、計画換気の20倍もの空気を取り入れているためAir断側は湿度コントロールは出来ないと正直に言っています。これはこれで考え方の問題だと思います。

以下のように冬は室内が5.7g/m3と過乾燥になるようです。ここまで室内の絶対湿度が低いと窓は結露しないでしょうね。

(出典:YouTube

Air断側の説明では湿度20%程度でも屋外より室内の方が絶対湿度が高いため過乾燥とは言えないとのことですが、これは家の中では生活排湿が発生している事象を述べているだけです。

乾燥は人によって感じ方が違いますから一概には言えませんが、相対湿度が常時20%台だとドライノーズになって鼻が痛くなる人も出ると思います。

一方、夏はAir断の家でもエアコンを利用するそうですが、湿度はコントロールできないため設定温度高くエアコンを複数台利用して冷風扇のようにエアコンを利用するとお見受けしました。

空気が大量に動いているため、揮発性化学物質によるシックハウスを予防し、涼しく感じると共にカビが生えにくくなるようですから、エアコン嫌いの冷房病の人にも魅力的に映ると思います。

ただ、これは室内で滞留している湿気を「排湿」しているだけであり「除湿」ではありませんから、相対湿度を60%以下にキープしてダニの繁殖を予防することはできないでしょう。

シックスハウスについては現状では化学物質よりもダニアレルギーが大半の原因となっており、ダニが予防できずにAir断がシックハウス対策に有効という説明は片手落ちな感じがします。

高気密住宅の説明間違い

Air断のホームページ等では商売敵?となる高気密高断熱住宅を批評していますが、最新の高気密高断熱住宅の情報とは異なり過ぎていて、むしろAir断工法自体の信憑性を下げている気がします。

動画のシャカシャカとペットボトルを振る姿が一生懸命過ぎです。ただ、高気密住宅では気密性能が高い家の方がしっかり換気できるためこの動画の説明は間違っています。

高気密のデメリット(気密が高い状態と低い状態を可視化)

そして、最新の高気密住宅では夏に1台のエアコンを上手に利用することで温度差による空気の移動と湿度コントロールにより抜本的なダニ対策ができることを知らないのかもしれません。

ただ、エアコンをあまり利用しないことを良しとする生活の場合、高気密高断熱住宅は熱が籠ってしまうため、Air断が述べていることが完全に間違いだといえないでしょう。

高気密高断熱住宅は過去に多数の失敗をしています。壁内結露だけでなく温暖地に進出した際に窓の日射遮蔽をせずに飛んでもなくオーバーヒートする住宅を作った事例もあります。

私は日射制御や湿度コントロールが考慮されていない高気密高断熱住宅は不満が起きやすいと思っています。それらと比較するとAir断のほうが温熱的に快適という主張は理解ができます。

ただ、高気密住宅は気密性能が高くてシックハウスになると述べていますが、化学物質による問題とダンプネス(高湿度による細菌、カビ、ダニの繁殖)の問題が混同されていると思います。

現在の住宅はF4☆の建材が普通でホルムアルデヒドなどは低濃度です。私は海外製のVocsモニターを複数持っていますが、一条ハウスの化学物質は低濃度で空気質は良好な状態です。

一方でヒバなどの無垢材をふんだんに利用するとシックハウスになる人がいます。これは天然由来の材料だからといって揮発性の化学物質を多量に含むものがあるということです。

構造用合板や新建材=シックハウスという構図は過去の話であり、現在では湿度をコントロールできないダニが繁殖する家=シックハウスという構図が大半のケースに当てはまると思います。

最後に

Air断について簡単にいうと、冬季と夏季の湿度コントロールを手放すことで住宅の断熱気密によって起きる問題の解決と断熱気密化による建物価格の上昇を抑える工法と言えるでしょう。

また、Air断工法が説明する高気密高断熱住宅のデメリットの解説はほぼ誤解だと言えます。ただ、だからといってAir断工法のすべてがウソやオカルトであるということではないでしょう。

確かに、高気密高断熱住宅を自称しているものの気流止めがしっかりとなされていない住宅が多い現状を踏まえるとAir断側の高気密高断熱住宅の説明もあながち間違いとは言い切れません。

しかし、断熱気密・換気・日射制御から空調まで完成された高高住宅と比較すると、Air断はダニの発生を抑制する湿度コントロールができないため私にとっては最善な工法ではないと感じます。

ただ、高気密高断熱住宅はどんなに家の完成度が高くてもコストが高くなるほどに多くの国民に提供できず、脱炭素と国民の健康に貢献できないという矛盾を抱えています。

完成度の高い高気密高断熱住宅は四季すべての温湿度が快適ですが、完成度の高い高気密高断熱住宅を建てることが至難の業であるのならば、Air断工法の狙いは理解することはできます。

タイトルとURLをコピーしました