はじめに
品確法において住宅の外皮断熱性能を表すUA値については、これまで1999年の省エネ基準に基づいたUA値0.87Wが等級4として最高でしたが、一気に等級7まで上位等級が制定されるようです。
HEAT20では5地域の基準が厳しいかったため、今回緩和されたことはよかったと思いますが、東京や大阪などを含む6地域を整理すると以下のようになります。
断熱等性能基準 | UA値 | 備考 |
等級4 | 0.87W | 現在の最高等級。2025年義務化予定。 |
等級5 | 0.60W | ZEH基準。長期優良住宅に適用予定。 |
等級6 | 0.46W | HEAT20のG2(5地域は緩和)。 |
等級7 | 0.26W | HEAT20のG3(5地域は緩和)。 |
ただし、今回の上位等級の制定は品確法の住宅性能表示の話であり、省エネ基準(建築物省エネ法)の話ではないため、義務化後の省エネ基準は等級4が基準ということになると思います。
そうなると、「当社の家は断熱等性能基準の最高等級です」というお馴染みのセールストークは「当社は厳格な省エネ基準を達成」というセールストークに代わるだけだと困るなと思いました。
よって、今回の話は玉虫色の内容ではないかと感じますが、上位等級への誘導方法については、国や自治体の補助金という手段よりも住宅金融支援機構が鍵を握っていると思います。
フラット35でお馴染みの住宅金融支援機構ではより性能の高い住宅に対して低金利のフラット35Sという商品を用意していますが、融資条件に等級6を組み込めるかどうかが肝だと思います。
今回の上位等級は省エネ基準ではないため下手をすれば骨抜きになってしまうと危惧しますが、フラット35は品確法の等級を採用しているため、住宅金融支援機構の英断を期待したいと思います。
断熱性能等級偽装への懸念
UA値はQ値のように家の形による熱損失を計算していないため、UA値が良くても実際には熱損失が大きい家になってしまうことがあり、特に平屋は外壁量が多いため熱損失が増えます。
住宅会社のホームページでしばしば見られるUA値の性能偽装とは、ZEHやG1の性能の家に対して窓を小さくしたり窓が少ない平屋として計算することでカタログ値をG2に見せているものです。
消費者がG2の家だと思って契約したら二階建ての場合はG2にならないということになってしまうため、UA値の計算は省エネ基準で利用している標準モデルを各社は利用すべきであると思います。
もちろん、住宅会社は性能以外にも色々な価値観で家作りを提案することは良いことですが、数値で表せる情報を歪めてしまうと消費者と現場の従業員の間で不毛な会話が起きてしまうでしょう。
高気密高断熱住宅は窓が小さくなるという都市伝説は、この性能偽装を行う住宅会社が誤解を招いていると感じますし、温熱性能に自信のない住宅会社ほど高気密高断熱住宅を理解していません。
また、窓を小さくしなくてもG1の家の窓を樹脂サッシに変更すれば正しくG2の性能の家になりますし、既に一部の地域ではアルミ樹脂複合サッシより樹脂サッシの方が安くなっているようです。
樹脂サッシの人気による量産化により価格低下が起きているため、準防火地域などを除いて、コスト的には樹脂サッシを採用しない理由がなくなってきています。
コスト的な制約がなければどの住宅会社においても、高性能なサッシを採用した正しいG2化が進むと考えますが、樹脂サッシは大開口が作れないという誤解があります。
我が家は大きな開口が作れないと言われる、ツーバイフォー工法で樹脂サッシですが幅3.6メートルの大きな窓がありますからネット等で流れる都市伝説は全部ウソだと思った方がよいでしょう。
また、窓を小さくして等級を偽装するという手段が等級7のG3の家でできるかといえば不可能です。なぜならG3はトリプルサッシだけでなく「付加断熱が必須」となるからです。
G2.5は偽装できるか?
G2(0.46W)とG3(0.26W)の間が離れすぎているため、UA値0.36W前後のG2.5があれば良いのにと私も思います。一条工務店の人気商品であるグランセゾンがまさにG2.5の性能です。
標準的なアルミ樹脂複合サッシのG1の断熱性能の家を樹脂窓を採用せずに住宅会社がG2に見せかけてセールスしている場合、その家とは実際は相当に窓が小さい家ということになります。
では、以下の画像のようなG1の性能の家をG2に見せかける際に利用される窓の極端に少ない間取りにおいて、付加断熱をせずにG2.5を達成できるか計算してみます。
3.5寸柱(105mm)の住宅が多いためグラスウールの場合は105mmの倍数としています。
A | B(G2) | C | D | E | F | |
UA値 | 0.47W | 0.46W | 0.45W | 0.40W | 0.37W | 0.36W |
天井 | HGW16K 210mm |
HGW24K 210mm |
HGW28K 210mm |
HGW28K 210mm |
HGW28K 315mm | HGW28K 315mm |
壁 | HGW16K 105mm |
HGW24K 105mm |
HGW28K 105mm |
HGW28K 105mm |
HGW28K 105mm | HGW28K 105mm |
床 | HGW16K 105mm |
HGW24K 105mm |
HGW28K 105mm |
HGW28K 105mm |
HGW28K 105mm |
ネオマ 100mm |
窓 | 複合 2.33W |
複合 2.33W |
複合 2.33W |
樹脂 1.31W |
樹脂 0.90W |
樹脂 0.90W |
まず、AからCを見るとグラスウールの性能をH16KからH28Kまで上げてもあまり家のUA値には影響がないという結果となり、やはりグラスウールは性能より厚みが重要だと分かります。
住宅会社から「当社の家は高性能な24Kのグラスウールを採用しています」と言われるとインパクトがあるような気がしますが、UA値でみるとH16Kのグラスウールとほぼ性能差はありません。
Cに対して、Dは樹脂のペアサッシで、Eは天井の断熱を強化してトリプルサッシを採用しています。さらにFは床をネオマフォームに変えてようやく0.36Wになります。
つまり、窓を極端に小さくした間取りであれば壁に付加断熱をしなくても天井と床の断熱強化とトリプルサッシを用いればG2.5に見せかけることは可能です。
最後に
本日は省エネ基準が追加される度に起きる性能偽装問題から生まれる「省エネ住宅は窓が極端に小さい」という誤った情報について記載しましたが、実際には窓が大きい家が多いと思います。
大手ハウスメーカーを含めて最も標準的な木造住宅である、3.5寸柱を利用して、天井210・壁105・床105のグラスウール充填断熱+アルミ樹脂複合サッシの家が温暖地でのG1の性能です。
温暖地ではG1の住宅の窓を樹脂のペアサッシに変えるだけでG2ですが、樹脂サッシの価格が一部地域ではアルミ樹脂複合より安くなっているようですから、等級6のクリアは簡単でしょう。
さらにG2.5(UA値0.36W前後)は丁度よいと個人的には思いますが、G2の家の窓を小さくしてトリプルサッシと天井と床を少し断熱強化すればカタログ値の偽装が出来てしまいます。
どの住宅会社も省エネ計算で示されている窓の大きいフェアな間取りので性能を表示して、高気密高断熱住宅の窓は小さいと誤解させる独自モデルプランでの計算は避けて欲しいところです。
私は温暖地では冬の日当たり良い家であればZEHやG1も良いと思っていますが、日当たりが悪い都市部の家やより寒い地域はG2以上が良いと思っていますし、G3は趣味だと思っています。
さて、今回の断熱等級の追加設定については、消費者がどのグレード選ぶかによってサッシ等の建材の量産効果による住宅の性能の変化が生まれていくと思います。
根拠が正しいかどうかは置いておいて国際政治は脱炭素の方向に舵を切っていますから、フラット35の融資条件の変更がされればビジネス面においても省エネな住宅投資へと誘導されるでしょう。
もちろん、省エネには家の外皮性能だけでなく、家の形や日射制御、換気に空調、給湯と家電などがありますが、私はエネルギーを購入した量で家の性能を判断すべきではないかと思っています。
脱炭素というのであれば、一次エネルギーの消費量よりも、家の製造時の消費エネルギーを勘案した上でですが、ネットゼロではなく電気や灯油を買わない家が脱炭素住宅ではないでしょうか。
そうなってくると、外皮性能は極端に上げなくても太陽光発電と蓄電池の重要性が高まっていきますが、壁の表面温度など住み心地まで考えると外皮性能は疎かにしてはいけないと思います。