はじめに
建築知識ビルダーズは工務店等の専門家向けの季刊誌ですが、今回発売された62号には青森県むつ市の宮大工を起源とした工務店である菊池組のご紹介で、F式全館冷房が掲載されました。
F式全館冷房は施主のための施主による空調ですので、工務店が取り上げるのはこれまでタブーではなかったかと思いますが、ついにF式がプロ向けの専門誌に掲載されました。
施主の間で流行っている空調方式などプロとして認めることができないと思う人もいると思いますが、既にSNSの家垢界隈では、F式は事実上のスタンダード空調であるとも言えます。
プロ向けの専門誌にF式が紹介されたことについては、情報発信においてラーメン愛と他社批評をしない謙虚な姿勢を貫いている菊池組の菊池洋壽さんであるからこそ出来たことだと思います。
普及しているF式簡易版の冷房はエアコン1台だけで特殊な装置も不要ですから、コスト面から考えると、どう考えてもF式全館冷房が今後さらに広まっていくと思います。
プロの方々はいつまでもF式を否定していても無駄だと思います。注文住宅だけでなく、建売住宅やマンション、築年数の古い家までF式は応用されています。
今回はF式はホールエアコンに限定で間取りが不自由とか、ドアを開けることでプライバシーが侵害されるといった定番の話への解説はしません。そのようなことの解決方法は沢山あります。
さて、ここからは建築知識ビルダーズ62号の内容についての感想を述べさせて頂きたいと思います。
P124 F式全館冷房
事前にご案内頂いておりましたが、F式の紹介ページには、F式の文字と考案者のフエッピー氏と記載があります。私のような頭のおかしい施主が紹介されるなんてお恥ずかしい限りです。
菊池さんの連載の中で取り上げて頂きましたが、他にも「床ちょっと上エアコン」など面白いものをご紹介されています。床断熱の場合、私のやってる床上エアコンも快適ですよ。
さて、当然に菊池さんほどの実務者はF式のことを正しく理解されていると感じます。一方でいまだにエアコンメーカーの実験や学者の論文などを信じている実務者の方もいます。
通常エアコンの実験は各部屋に設置されたエアコンを用いて「温度」に注目して、「湿度」に注目しません。なぜ、個室エアコンの実験データを全館冷房に当てはめて考えてしまうのか。
運転条件や消費電力を示さずに、ダイキンの実験を鵜呑みにしたような、エアコンの運転は風量多めが省エネとか効率的とか言われても理解に苦しみます。
エアコンはフィルター掃除をして風量を多くしたり、自動運転をすれば省エネになると思い込んでいる人が多いと思いますが、それは湿度のコントロールを無視した世界です。
暑さ指数(WBGT)の室内環境において大雑把にいうと、暑さの70%は湿度、30%は温度といった内容になっているため、湿度を重視した方が省エネになるという発想も必要だと思います。
これまで温度だけで省エネを考えて来た国や学者は除湿=増エネと思っているため、WBGTなどによる湿度の重要性を説明しても無視をして打ち水や水分補給が必要といってお茶を濁すでしょう。
エアコンメーカーは小型の壁掛けエアコン1~2台数で全館冷暖房されてしまうと、エアコンの売り上げが減りますから、壁掛けエアコンを使った全館空調や除湿など認める訳もないですね。
ただ、太陽光発電や蓄電池を採用しているユーザーからすれば、自家発電した電気を使って快適になって何が悪いのだと思いますよね。まぁ、そんなの全体の国民の一部なのでしょうけど。
学者を含めた住宅業界、エアコンメーカーによる除湿を無視させる情報操作は今後も続くと思いますが、今回の菊池さんのように実務者側からも声をあげて頂く必要があると思います。
P27 夏は内部発熱の影響大
省エネ基準プランと高性能プランの家の冷房負荷を比較して、高性能プランの優位性を説明しています。エアコンを連続運転する前提と記載されていますから、内容に違和感はありません。
ただ、冷房が連続運転でない場合、高性能プランがが有利かというと、冷房を間欠運転をしてしまう消費者の場合、計算すると家の性能が良い方が室温が上昇しやすくなります。
UA値0.87(Q値2.7) | UA値0.26(Q値1.1) | |
外気温からの熱伝導 (W) | 620 | 185 |
日射熱による影響 (W) | 2,053 | 733 |
内部発熱 (W) | 465 | 465 |
合計(W) | 3,138 | 1,384 |
室温上昇 | 11.6℃ | 12.5℃ |
冬に少ない暖房エネルギーで温かくなる家は、夏も人体や家電による内部発熱で室温が上昇しやすいため、この記事は高性能住宅ほど空調・冷房設計が重要であることを示唆しています。
P30 *桁下断熱がオススメ
家の天井面の断熱方法として、桁下の断熱をお勧めしている珍しい記事ですが、これは違和感あります。天井面への24ミリ合板の設置の危険性は過去から指摘されているからです。
以下のように若干条件が厳しめですが、室内が24℃60%で外気が▲6℃とした場合、この構成だと定常結露計算で結露判定がでます。
透湿抵抗の高い厚物合板を設置する際は、合板に穴をあけるなどの話題は過去からありましたので、今回の記事は建設地などの条件の記載があると良いなと思いました。

P34 夜間の排熱・通風の設計法
新住協の鎌田先生は、過去から夏の夜間のナイトパージ(夜間・早朝の外気導入)の推奨をされています。今回の記事では家の中を風が抜けるには窓の設置方法が重要であると説かれています。
ただ、雨も降りますから夜間に窓を開けたり閉めたりするのは面倒であることと、25℃を超える熱帯夜が常態化している現在ですから、もうナイトパージは取り下げて良いと思います。
全般的には家作りに多大な貢献をされた鎌田先生ですが、省エネを追求する学者の方はなるべくエアコンを使わない生活を良しとしているのでしょうけど、気温上昇によりそれも限界です。
まだ、ダイキンの実験によるエアコン運転などを未だに信じて疑わない人もいるようで、新住協の中ではメーカーや学者などの権威ある人の情報以外は利用されないのでしょうか。
ナイトパージ推しの影響なのか、新住協はエアコンの夏季の活用が他の流派に比べて遅れ、全館冷房の発展が遅れたと思いますし、いまもエアコンの使い方に試行錯誤している印象を受けます。
今回、菊池組がF式に対して言及されている点からも、新住協(パッシブハウスジャパンも)、床下エアコン以外の空調方式は、運転方法を含めて確立した状況ではないのかも知れません。
P38 エアコン全館冷房の設計方法
エアパスファンが紹介されていましたので、私から補足をさせて頂きます。エアパスファンは隙間の多い引き戸の近くに設置するとショートサーキットをして効果はあまり期待できません。
上記の画像は引き戸に見えますが、特別な処理をされているのかもしれません。部屋の入口にエアパスファンを設置するときは、気密性の観点からドアを採用されると良いでしょう。
引き戸を採用したい場合は、引き戸から極力離れた壁にエアパスファンを設置してください。そもそも天井断熱でなくハウスメーカーのような制約がないならシロッコファンの採用が良いです。
エアパスファンのようなパイプファンは空気を押す力が弱いため、ダクトへの接続はNGです。可能な限り空気を押す力の強いシロッコファンを採用してください。
部屋のドアを閉めてF式全館冷房をしたい場合、部屋の天井部分から空気を排気(温度差換気かシロッコファン)して、ドアのアンダーカットから廊下の冷気を引き込む形が理想的です。

P51 可変透湿気密シートで水蒸気を逃がす
20年ぐらい前から可変透湿気密シート(以下、調湿シート)の話がされていますが、いまだに最先端の家作りとして紹介されていることに違和感があります。メーカーは何をしているのかと。
メーカーは夏型結露を煽った不安商法をする前に、幅広く利用されている袋入りグラスウールに調湿シートを採用した製品を発売できるように努力する必要があると思います。
外気の絶対湿度が25g/m3以上が常態化してくると、一般的な防湿シートでは室温を25℃以上に保たないと内部結露の可能性が高まると結露計算は示唆しています。
防湿シートを採用して今後、F式を検討される方はエアコンを外壁ではなく内壁に設置するか、エアコンの冷風を外壁側に当たらないようにした方が良いと思います。
そして、あまり知られていないかも知れませんが、調湿シートや透湿系の面材を採用すると夏は水蒸気が室内に侵入する量が増えるため、除湿負荷が上昇するということになります。
調湿シート | 防湿シート | |
屋根・天井(合板) | 0.6ℓ/日 | 0.0ℓ/日 |
壁(ダイライト) | 8.3ℓ/日 | 0.3ℓ/日 |
合計 | 8.9ℓ/日 | 0.3ℓ/日 |
上記は外気33℃70%25g/m3、室内25℃60%と少し厳しめに計算していますが、侵入する水蒸気量は馬鹿にできない量です。透湿系の建材を採用するには工夫が必要だと思います。
最近になって断熱に目覚めた住宅会社が、透湿させておけば安心だと思って、夏に除湿不足になる高断熱住宅が散見されますが、透湿は換気や空調とセットで考える必要があると思います。
断熱気密性能が良くても透湿系の構成で三種換気の場合、エアコンで外気の給気をすぐに除湿処理する必要があるなど設計難易度が上がるので、一種全熱交換を採用した方が無難です。
ロストテクノロジーになりつつあるR2000住宅の内部結露対策として、断熱材の2/3の位置に防湿シートを設置する方法が示されていますので、内付加断熱を検討する手もあります。
防湿気密シートについて何が最適か意見が分かれると思いますが、私が一条工務店を選んだ理由は防湿シートのない工法ということも理由の1つです。
新住協などグラスウールの充填断熱を是としている場合、防湿シートは必要になりますが、外張り断熱や、グラスウールを利用しないボード系の断熱材の場合、防湿シートは不要となります。
今の主流の家作りの知識体系がグラスウールの利用を前提としているために、それ以外の工法の否定やそれ以外の知識体系への無関心が起きていると思います。
P62 現場発泡ウレタンの表面を削って結露
結露計算を示さずに100倍発泡のウレタンはスキンカットや防湿シートを設置しないと結露するというのは、ミスリードではないでしょうか。
100倍発泡の製品は、耐力面材を透湿系にすることによって、6地域の冬では結露しない計算になります。また、記載されている透湿比抵抗はJISの規格値で各製品の試験値ではありません。
上記表の一番右側の透湿抵抗値を見てみると、JISの規格値と各製品の数値がかなり違うことがわかりますので、もう少し踏み込んだ記事を書いて欲しいと思いました。
スキンカットをした場合の防湿性能の違いの件は少し前に話題になって日本アクアと松尾設計室がYoutubeやプレスリリースを出しています。
最後に
今回の建築知識ビルダーズについては、F式が紹介されるという画期的な一面がありました。一方でグラスウールメーカーや新住協への忖度を感じる記事が多いなと感じます。
新住協やパッシブハウスジャパンが現在の知識体系の主流だと思いますが、高気密高断熱住宅の知識体系はもっと流派があって、他の流派はロストテクノロジー化していっています。
ただ、その中には画期的な知識もあります。F式はそもそも、外断熱二重通気工法のという外張り断熱の系譜の中から誕生しており、充填断熱から発展した新住協とは系譜が異なります。
F式全館冷房は、過去の先輩施主たちが屋根断熱の小屋裏空間にエアコンを設置したことから始まり、私はその状態から家中の空気を温度差で動かすことに気が付き体系化しただけです。
主流の知識体系が家作りのすべてではありません。自分にとって新しい知識に出会った時、自分たちの方が上であるとマウントを取る人と、謙虚に良い部分を取り入れようとする人がいます。
NEXTスーパー工務店として、紹介されている鳥取県の「やまのすみか」の田上さんなども謙虚な姿勢を感じます(その前にやまのすみかは、もはやNEXTではないと思いますが、、)。
今回の菊池さんによるF式のご紹介は、過去から続く住宅業界における各流派の派閥争い・無関心によって起きる施主まで巻き込んだ対立に一石を投じるものになるかも知れません。
一方、施主は家作りのまとめサイトが増えて情報を得やすくなっており、プロ施主なる言葉も生まれプロと対等に話ができる施主もいますが、これは一時的な状況にすぎないと思います。
物理計算と機器による測定がプロに対抗する唯一の手段です。住宅業界のセールストークに飲み込まれないためには、温熱や結露の計算ができる施主がこれからの時代にも必要です。
みはりん坊Wやスイッチボットといった安価に絶対湿度が図れる機器が登場する前は、学者やメーカー、実務者が言うことを真実とするしかありませんでした。
物理計算や論文の精査などで施主やそのコミュニティが住宅業界をけん制ができる状態になければ、性能と意匠を両立するなどといった更に高位の次元の家作りにはたどり着けないでしょう。
私はハウスメーカーvs工務店といった話や他社批評の炎上商法は、消費者の対立を招き住宅業界の改善には繋がらないと思います。そして、住宅会社と施主が対立する構図も良くないと思います。
施主は施主で家作りをしっかり学び、自分が選んだプロを信頼して任せるべきことは任せる。プロは新しい知識に出会った時に謙虚に良いところがあれば取り入れ、他社否定をすべきではない。
そういったことを感じさせていただいた建築知識ビルダーズ62号でした。興味のある方はご購入して読んでみてください。